理解できない17

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 キスをした最初に、ちっとも下手じゃないなと思ったけれど、慣らされてる間も、体を繋げてから先も、同じことを何度も思った。同じ事をどころか、上手いなとすら思っていた。しかもそんな男が、気持ちよくしてやりたいって思いながら、好きだと繰り返しながら、触れてくるのだ。
 久々で不安だったはずのセックスは、びっくりするほど気持ちが良かった。こんなに気持ちよくなってしまったのは初めてだ、ってくらいに。
 ずっとおあずけを食らって、早く抱かれたいって思いを何年も抱えていた相手だからだろうか。必要がないと言われているところを、自分から望んで抱かれているという意識があったせいだろうか。自分の中にはっきりと、相手へ返したい感謝の気持ちがあったからだろうか。
 そもそも、嫌だという気持ちを飲み込んで、仕方なく、全く気乗りがしない中で抱かれるのだって、それなりに気持ち良くなれてしまうような体なのだから、初めてそういった感情を持たずに抱かれた結果と考えたら、めちゃくちゃ気持ちが良かったのも当然といえば当然なのかも知れないけれど。
 もちろん自分ばっかり気持ちよくなって終わったわけじゃない。フェラでイカせた分も含めたら合計三回イッた相手だってちゃんと楽しんでくれてたと思うし、もっと続けてもいいよって誘いを充分満足したからと言って断ったのだから、その言葉を信じるなら満足してくれたはずだ。
 なのに。
「ねえ、もしかして俺のこと、避けてる?」
「は? 避けてたら今お前の目の前に居ないだろ」
「そう、だけど。でも、随分放ったらかされてる。よね?」
 週末家に居ないことが増えたし、お土産だの差し入れだの言いながら部屋に入り込んでくる事も減った。というか、こんな風に部屋で向かい合ってお菓子をつつくのなんて、二ヶ月ぶりくらいじゃないかと思う。
 こっちも学生じゃなくなって、ガラリと変わった環境に何かと忙しかったのもあって、あまり気にしないようにしてたけど。でも、なんだか少しずつ距離を置かれている気がするし、何より二回目の誘いが一向に掛からない。
「放ったらかしっていうか、お前の保護者卒業したんだから、あんまり構うのもどうかと思って。もちろん、保護者やら家族やら卒業したって、何か困ったこと起きてるなら相談にはのるけど」
 何かあったかと聞かれて首を振って否定したけれど、急に不安が胸の中に大きく広がってしまったから、相手は何もないとは信じられなかったらしい。
「何があった?」
「何も、ない。本当に」
「顔色悪いぞ?」
「だ、って、保護者卒業したから構うのやめる、なんて聞いてない」
「あー……それは、悪かったよ。ただ、お前だっていつまでも俺にあれこれ干渉されたくないだろうと思ったし、金銭的にだって随分余裕出来ただろうから、俺が差し入れなくたって、いくらでも自分で好きなもの買って食べれるだろ?」
「お金貯めたいし、余裕なんて、全然ないよ」
 何か欲しいものでもあるのかと聞かれて、なるべく早く家を出たいのだと告げた。実親から最低限の生活費が払われるのは高校卒業までってことも、早く自立したいと思っていることも知っているはずの相手は、そんなに急がなくていいよと言う。
「俺が出てくから、お前はゆっくり独立資金をためたらいい」
「は? 俺の自立とそっちが家を出ることに何の関係があるの? というか、出てくってどういうこと?」
 聞いてないと言えば、迷ってたからと返ってくる。迷ってるってことすら、欠片も聞いてない。胸の中は既に不安でいっぱいなのに、これ以上不安を増やさないで欲しかった。

続きました→

 
 
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