雷が怖いので29

1話戻る→   目次へ→

 あまりの痛みに、飲み込みきれない悲鳴を上げる。体は反射的に逃げようとするが、相手にガッチリと押さえ込まれていて、身動きすらままならない。
 肌へと食い込んでくる相手の歯の感触と、ただただ痛いだけのその行為に、初めて怖いと思った。
 プレイの中で、おしおきという単語を使われた事は何度かあったけれど、痛みだけを与えられたことなんてなかった。しかも痛いのだって、気持ちいいと隣り合わせの軽いものばかりだったし、どちらかと言えば与えられる罰というのは、強烈な羞恥か強すぎる快感が主なものだった。
 相手はいつだって余裕の顔を見せていて、おしおきだって単にプレイの一環で、追い詰められはしてもそれらの行為を心底怖いなんて思ったことは一度もない。彼を怖いと思ったこともだ。
 怖い。怖い。痛い。
 このまま彼に肩の肉を食いちぎられるのかと思うと、お湯の中にいてさえ恐怖で寒気がする。
 嫌だ。やめて。食べないで。
 そう叫び出したい気持ちを必死にこらえてしまうのはどうしてだろう?
 そんなことを口にしたら、もっとひどい目に合うかもしれない恐怖か。そうされるだけの事をしたという納得か。経験的に知る、耐えて受け入れる事で与えられるだろうご褒美への期待か。彼に食べられて彼の血肉になるのならいいじゃないかという、倒錯的な喜びか。もしくは、別の何かか。
 ぬるりと口の中に入り込んだ血の味に、飛びかけた意識が引き戻される。肩は痛いままだけれど、もう、噛まれてはいないらしい。与えられるキスにようやくそう思い至って、そっと差し出された舌に自らの舌を絡めていった。
 自分の流したものだろう血の味はすぐに互いの唾液にまみれて消えてしまったが、宥めるように優しいキスは暫く続いた。気持ちよさにうっとりと身を任せそうになったところで、ようやく唇が離れていく。
「落ち着いたか?」
 痛みと恐怖から物理的に逃げられない代わりに、思考へ逃げて意識を閉じようとしていたのをわかっているんだろう。こちらを安心させるためか、もう、随分と優しい顔をしている。
「こわ、くて……」
「痛いだけ、ってのは初めてだったもんな。しかもそれを、気持ちの準備をさせずに始めたからな」
 ちゃんと最後まで受け入れられていい子だったと、湯で濡れた暖かな手に頬を撫でられて、涙が浮かび始めてしまう。ずっと気を張りすぎていたのか、あんなに痛くて怖かったのに、涙は流れていなかった。
「あの、どれくらい、俺を、食べたの?」
「どれくらい?」
 目元に貯まる涙を指先で払いながら、不思議そうに聞かれて、噛みちぎった量はどれくらいかと聞き直す。
「ああ、少し血が出た程度だよ」
「それだけ?」
「そう。それだけ」
「痕、残る?」
「そりゃキスマークなんかに比べりゃ治りは遅いだろ」
「じゃなくて」
 あなたの肌に残っている傷痕みたいに、とは言えなくて、代わりにそっと、相手の胸に残る目の前の傷を一つ撫でてみた。
「あー……うっすらは残るかもな。でも、そう大きな傷にはならないから」
 刻んだのは本当に少しだけだよと言われて、あんなに痛い思いをしてもその程度しか残らないのかと思うと、なんだか酷く残念な気がした。それと同時に、あれだけの傷を残す相手の体は、どれほどの痛みを受けたのだろうと思って、なんだか悲しくなる。
 同じだけ痛い思いをしたら、もっと彼に近づけるだろうか。過去に何があったのか、何をされたのか、どうしたらあんな傷が出来るのか。好きだから相手を知りたいという単なる興味と好奇心で聞いていいような内容ではないとわかっていても、もっと知りたい近づきたい理解したいという思いは強かった。
 先程与えられた痛みを思い出すと震えそうになるのに、それ以上の痛みを伴うだろう傷を、彼と同じ傷を、欲しいだなんてどうかしている。それによって彼を知り、近づき、理解できる確証もないのに。
「なんでそんな顔なんだよ」
「俺、どんな顔、してますか」
「もっとでっかい傷を欲しがる顔」
 わかりやすいと言われてはいるけれど、それすらも顔に出ているらしい。
「だって……」
「お前、痛いの喜ぶ系の性癖無いだろ?」
「あなたにも、痛いのを喜ぶ性癖があるようには思えないですけど」
「俺とお前じゃ立場が違う。俺の飼い主は結構イカれたえげつない変態だったが、俺はお前を所有してるつもりもないし、相手の体に消えない傷を残して喜ぶ趣味もない。と言いながら、血が出るほど噛み付いといて言うのもおかしな話だけど」
「それは、俺が、それだけあなたを怒らせたから……」
「怒ってるは少し違うけど。むりやり言わされたわけでもないのに、何でもするなんて、簡単に口にして欲しくないってのはあるな」
 やっぱり何がしかの深い理由がありそうだ。もしかして、むりやり言わされた結果、こんなに傷だらけにされたのだろうか。もちろんそれを、尋ねることなんて出来ないけれど。
「軽々しく言ったつもりは、なかったけど。でも、ごめんなさい」
「知ってる。けど、頼むから、俺以外に何でもするなんて、口が裂けても言うなよ。お前、普段の生活も色々迂闊そうだからな」
「言うわけない。というか、あなたになら、また言っても、いいの?」
「本気で俺を動かしたくて、お前が差し出せるものがその体だけだってなら、言えばいい。結果、何されてもいいだけの覚悟があるんだろ?」
「はい」
「そういうとこが、相変わらず迂闊すぎて、お前はホント可愛いよ」
 本気で頷いたのに、そんなことを言われて苦笑される意味がまったくわからなかった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

雷が怖いので28

1話戻る→   目次へ→

 性感を煽ってこない、ただただ荒々しく貪られるようなキスは初めてで、けれどキュウと締め付けられる胸の痛みはいつもよりずっと甘い。
 間違いなく、嬉しかった。喜んでいた。
 知られたくなかっただろう傷を半ばむりやり暴いて、その結果、彼から随分と余裕を奪ったらしい事を、申し訳なく思う気持ちはある。嫌な過去を思い出させただろうかと心配する気持ちもある。けれど胸の中を圧倒的に占める感情は、多分、愛しさだった。
「すき……」
 キスの合間にほろりと気持ちを零せば、ハッとしたように唇が離れていく。少し残念だったけれど、もっととねだって良さそうな雰囲気ではない。むしろ一瞬、どことなく気まずい沈黙が流れた。
「取り敢えず、風呂に浸かって体を温めるか。このままだと本気でお互い風邪をひく」
 沈黙を振り払うように告げられた言葉に頷いて、促されるまま移動し、たっぷりの温かな湯に身を沈めた。
 浴槽はそこそこ大きく、二人同時に入ってもまったく窮屈さはない。広さがあるから、長辺に沿って向かい合う形で座ると、その距離が突き放されているような気もして少しだけ寂しい。
「そんな顔をするなよ」
 寂しさが顔に出てしまったのか、苦笑された。
「俺も流石に、この状況には戸惑ってる。プレイでもなく肌を晒すのも、誰かと風呂に入るのも、始めてなんだよ」
「風呂場でのプレイとかも、することあるの? もし俺が、風呂場エッチに興奮する性癖持ちだったら、してくれてた?」
「昔、俺がある人の所有物だった時は、しろって言われた事はなんだってやったよ。でもお前との関係は全く別だから。お前にこの体を見せるつもりは一切なかったし、だから風呂場プレイなんてのは最初から欠片も候補に入ってない」
「なら、体を見ちゃった後の、今は?」
「なんだ、されたいのか?」
 にやりと笑ったよく知った顔に、酷くホッとしながら肯定を返す。風呂場でのプレイに興味があると言うよりも、裸の彼に触れてもらえるならなんだっていい、みたいな気分だった。
「じゃあこっちおいで」
 呼ばれていそいそと近づけば、嬉しそうな顔しちゃってと、からかい混じりに指摘されてさすがに恥ずかしい。けれど既に開き直っている部分は、嬉しいのなんて当然だろと憤ってもいた。でも、好きなんだから嬉しいのは当たり前、とは口に出来なかった。言ったらきっとまた、戸惑わせるか困らせるかして、一瞬拭いようもなく気まずくなってしまう。
「さっきあんなにいっぱい気持ちよくイッたのに、自分からもっとしたがるなんて随分といやらしい子に、どんなことをしてあげようか?」
 伸ばされた彼の腿の上に足を開いて乗り上げる形で向かい合い、何をされたいかを問われた。問われたところで、どんなことが出来るのかわからない。
 今まで見てきたアダルトな動画の中、風呂場のシーンってどんなことをしてたっけ? なんて思考を巡らせていたら、ススッと顔が寄せられて、耳元にとろりとしたイヤラシイ声が吹き込まれた。
「ご褒美と、おしおき、お前が今欲しいのは、どっち?」
「んぁあっっ」
 声だけでもたまらないのに、オマケとばかりに耳朶を食まれて、ゾクゾクとした快感に身を震わせる。
「ああ、お前の可愛い声が響くのは、悪くないな」
 そう言って、こちらの返事など待つことなく、そのまま耳を舐られ肌の上を手が這った。
「ぁ、ぁっ、ぁあっ」
「ほら、早く決めないと、俺が勝手に決めちまうぞ?」
 意地悪なのに、でもホッとするし嬉しい。逃げ出しても、傷を暴いても、以前と変わらぬプレイをしてくれるなら、もうそれで良いのかも知れない。
 そう思ったら、逃げて傷を暴いた罰を、受け取らなければという気になった。
「おしおき、が、いい」
「何をした罰か、自分で言えるか?」
「あなたから逃げて、あなたの傷を暴いた」
「そうだな。それにさっき、何でもするから、服を脱いでとお願いした」
「はい」
 こうして一緒に風呂に入ってくれているのだから、もちろんその言葉通り、なんだってするつもりでいた。でもそれを言ったときも眉を寄せていたし、自分の首を絞めると注意もされた。そう言えばこのバイトに誘われた最初、バカ丸出しで何されてもいいと言えるなら、月一回抱かれるだけで八万入手も可能だけれど、それはそんなことを軽々しく言うなと言う警告だとも言っていた。
 軽々しく言ったつもりはないけれど、それでもやはり、これは口にしてはいけない言葉だったのかもしれない。
「何でもする、なんて言葉を自分から差し出す危険を、少しだけその体に刻んでも?」
 それは痕が残るような何かをするという事だろうか。彼が残してくれるものなら、むしろ嬉しい気がするのだけれど、はたしてそれは罰になるのだろうか。
 そう思いながらもハイと言って頷けば、肩に強い痛みが走った。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

夜の橋/髪を撫でる/ゲームの続き

1話戻る→

 数歩さがって距離を置くと、彼はポケットから携帯を取り出し何かを操作した後、こちらに画面を向けてくる。時計のような03:00の表示を見て、タイマー機能なのだとすぐにわかった。
「きっちり3分。じゃあスタートするよ」
 画面タッチでカウントが1つずつ下がっていく。携帯画面が気になって自分の視線は携帯に向いてしまうが、彼の視線がしっかりこちらを捉えているのはわかっていた。下がって距離を置いたのは、こちらの全身を見るためだったようだ。
 じっと見られる恥ずかしさの中、残された時間はどんどんと減っていく。迷っている時間などなくて、二重留め式なコートのボタンをまずはすべて外した。
 丈の長いベンチコートなので、下の方は軽く持ち上げながら外したが、裾から入り込む冷えた空気にゾワリと肌が粟立っていく。中が素肌だということを否応なく思い出させる冷たさに、続いてファスナーに伸ばした手は、やはり躊躇い止まってしまう。
 チラリと見返す彼は黙ってこちらを見つめるままで、きっとそのタイマーが鳴るまでは口を開く気がない。決めるのはこちらなのだと突きつけられている。
 どうせならお仕置きよりはご褒美が欲しいと思う。良く出来ましたと笑って欲しい。
 なのにそう思う気持ちと裏腹に、体の動きは緩慢だ。指先が震えてしまって、ファスナーを何度も取り落とす。
 携帯が3分経過を告げて小さく鳴ったのは、ファスナーを腹の辺りまで下ろした時だった。どうしてもその先には進めずに、時間切れになってしまった。
 間に合わなかったと泣きたいような気持ちと、時間切れをホッとする気持ちとが混ざり合う。ファスナーを摘んだまま立ち尽くしていたら、携帯をしまった彼が数歩の距離を詰めてくる。
「時間切れだけど、まずは頑張ったご褒美を少しだけ」
 言いながら伸びてきた手が頭に触れて、また撫でられるのかと思ったら引き寄せられてキスされた。
 ただ触れて、最後にチュッと軽く吸われただけなのに、じわりと広がるシビレのようなもの。自分自身の性癖を確かめるためと、同性に惹かれる性癖を隠すために、何度か女の子と付き合ったこともあるから、キス程度は経験済みだけれど、キスだけで感じるなんてことはもちろん初めての経験だ。
 驚きで呆然としていたら、またしても可愛いねと笑われた。
「残りのご褒美はホテル戻ってから。でもってこっからのは出来なかった分のお仕置き」
「えっ……」
「そう。ここで」
 まさかこの場所で何かされるのかという焦りの気持ちは伝わったようで、言葉にはしなかったのに肯定の言葉が返されてしまった。
「お仕置きだから、動かずじっとしてなさい」
 少し厳しく響いた声音に、緊張と戸惑いが走る。
「返事は?」
「は、はいっ」
「うん、いい子」
 きつく問われて慌てて返事をすれば、そう言って柔らかに笑ってみせる。先ほどの雰囲気に戻って少しだけホッとする。
「まずはファスナー下ろすよ」
 こちらの返事は待たず、残りのファスナーが腿の辺りまで下ろされてしまった。
「下着、ちゃんと着けずに来たんだね」
「はい」
「見せれなかったのは、勃っちゃってるのが恥ずかしかった?」
「……はい」
「じゃあ、触れてもないのにおっきくなっちゃったココに、お仕置きをあげようね」
「なに、を……」
 さすがに不安すぎて逃げたくなる。股間に伸ばされた手に思わず腰を引いてしまったけれど、躊躇いの混じる抵抗などなんの意味もなく、ペニスは彼の手に掴まれてしまった。
「ううっ……」
 触れられても感じるなんて余裕はまるでなく、ただひたすら恐怖で呻く。何も言わずに見つめてくる彼が怖くて、けれど彼の手を振りきってこの場から逃げ出すような真似はできっこない。
「お仕置きが怖いんだね」
 ふふっと笑ったのは、彼の手の中のペニスがあからさまに固さを失くしてしまったからだろう。
「だっ、て……」
「怯える君も可愛いけど、そろそろホテルにも戻りたいし、手早く済ませちゃおう」
 これを付けるだけだからと、ペニスを掴むのとは逆の手に握ったものを見せてくる。短めのゴム紐を輪にしたようなそれが何かわからずにいたら、ペニスリングの一種だよと教えてくれた。
 コックタイと呼ぶようで、留め具で強さを調節できるのが特徴らしい。
「別に痛いようなものじゃないから大丈夫」
 言いながら輪になった部分に玉袋と竿部分とを通して、根本をキュッと締められた。そうしてから、ファスナーを首まで上げて、丁寧にボタンも全部留めてくれる。
「さて、じゃあ行こうか。人も居ないし、手、つなぐ?」
 恋人っぽくと笑われて頷けば、暖かな手が繋がれた。ギュッと握ってくる手の力に、股間の違和感は拭えないものの、なんだか少し安心した。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

恋人になった元教え子にまた抱かれる日々の幸せ

取引先に元教え子が就職してましたの続きです。最初から読む場合はこちら→

 普通の抱かれ方じゃどうせ満足できっこないから、昔みたいにして欲しい。苗字なんてもってのほかで、けれど名前でもなく、出来ればやはりセンセイと呼んで欲しい。
 晴れて恋人となった元教え子に、正直にこちらの欲望を突きつけたら、彼は少し困った様子で、けれど楽しそうに、センセイがそれでいいならと言った。願ったりかなったりだとも付け加えて。
 結局あんな関係が長いこと続いていたのは、当時はまだ無自覚だったり未開発だったにしろ、互いの性癖がうまいこと合致していた結果だったんだろう。
 そうして再開した関係は順調だった。
 今日もまた彼の目の前で、獣のように四つ這いになって腰を高くあげ、添えた左手の人差指と中指で左右にぐいと伸ばしひろげて見せながら、先細りの円錐形アナルバイブを自ら突き刺し前後させている。振動はさせていないが、それでも慣れた体はすでに充分昂ぶっている。
「あ、あアっ、イイっ、ぁあん、んっ」
 声を噛まずにこぼれさせるよう言われているので、開かれた口からはひっきりなしに音がもれていた。安アパートで行為を重ねた昔と違って、音が漏れる心配があまりないためだ。昔みたいにとは言っても、そんな風に変化したことも多々あった。
「イイ、イッちゃう、おしりだけでイッちゃうっ」
「トロトロだねセンセイ。でもまだイッたらダメだよ。イくのは我慢しないとね」
 これも変化したことの一つだろう。昔はイくのを耐えろと言われることはほぼなく、ひたすら何度もイかされ続けることが多かった。
 昔は言われるまでもなく耐えていた、というのもあるかもしれない。恋人となった甘えから、彼の前に快楽を晒す抵抗が薄くなったのを、的確に見ぬかれた結果かもしれない。
 背後からかかる声に荒い息を吐きながらどうにかイッてしまうのを耐える。なのに、続く声は容赦がない。
「だからって手を止めていいとも言ってないよ?」
「あああぁっんんっ」
 ほらちゃんと動かして。という言葉に、恐る恐る埋まっているバイブを引き出すが、背筋を抜ける快感にやはり途中で動きを止めてしまった。動かし続けたらすぐさまイッてしまいそうだった。
「むりっイッちゃう、イッちゃうから」
「じゃあ少し休憩しようか」
 その言葉にホッと出来たのは一瞬で、休憩中はバイブスイッチを入れるよう命じられる。
「弱でいいよ。それで5分我慢できたら、後はいっぱいイかせてあげる」
 いっぱいイカせてあげるという言葉だけで、期待に腸壁が蠢き中のバイブを締め付ける。しかしこの状態で振動なんてさせたら、動かさなくたって充分にキツイ。5分も耐えられる自信はなかった。
「自分で入れられない?」
 躊躇えば、俺がスイッチ入れようかと優しい声が響く。けれどその場合、ただスイッチだけが入れられるのみ、なんてことは絶対にないのがわかりきっている。
「でき、る。やる、から」
 覚悟を決めてスイッチへ指先を当てた。
「ふぁぁあんあ゛あ゛ぁぁ」
 始まる振動に、背を大きく逸らして吠える。弱とはいえ機械の振動に容赦なく追い詰められていく。
 結局半泣きで耐えられたのは何分だったのだろうか。
「だめっダメッ、あ、イッちゃぅんんっっっ痛っっ!!」
 上り詰めてしまった瞬間、尻に熱い痛みが走った。
「い、った、あっ、あっ、ごめん、痛っあぁんっ」
 無言のまま10回ほど尻を叩かれたが、これは始めから言われていたことだ。我慢できずに勝手にイッたら、そのたびにお尻を10回叩くお仕置きをするよと。
「センセイはお尻を叩かれても感じちゃうの?」
 叩かれ熱を持つ尻を優しく撫でながらふふっと笑われ、カッと顔も熱くなる。その言葉を否定しきれない自覚があるくせに、口は否定を音にする。
「ち、違っ」
「本当に?」
 先程よりもずっと軽く尻を叩かれ、こぼれ落ちた声は自分でもわかる程に甘い響きをしていた。
「はぁあん」
「次はおしり叩かれながらイッてみる?」
 言葉に詰まってしまったら、やはり小さく笑われた後、バイブを握られるのがわかった。バイブはもちろん、未だ小さな振動を続けている。
「はあぁぁ、あああ…んんっっ、んっ、ああっ」
「ほら、やっぱり気持ちいいんだ」
「いいっ、ああぁイイっ」
  バイブを抜き差しされながら軽く尻を叩かれ続け、未知の快感に体も心も喜び震えた。
 これだ、という満ち足りた思い。優しく追い詰められながら、自分一人ではたどり着けない、快楽の新しい扉を開いて行くような感覚。与えてくれたのは彼だけだった。
 しかもそこには今、紛れもなく愛があるのだ。この体を使ってただ遊ばれているわけじゃない。
 このままイッてごらんと囁く甘やかな言葉に導かれて、幸せを噛み締めながら上り詰めた。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁