前世の記憶なんてないけど2

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 こんなはずじゃなかった、と思いながら、先程から飛び出している獣の耳に舌を這わす。
「ぁ、あっ、あっ」
 泣いているような声を上げていやいやと首を振るものの、おとなしく脚を開いて後孔を指で解されている相手は、こちらに脅迫されて仕方なく体を差し出している。
「ねぇ、耳、気持ちいいんじゃないの?」
 後ろキュッと締まったよと告げながら、もう一度耳へと顔を寄せた。逃げんな、と囁いてやってから、再度舌を這わせて、ちゅっとしゃぶりついて、はむと甘噛んでやる。
「ひ、ぁ、ぁ、ぁぁ」
 ふるふると体を震わせて、腸内に入り込んでいる二本の指をぎゅうぎゅうと締め付けて、細い悲鳴を上げながらも、こちらの命じた通り、相手は頭を振ることなく耳を嬲られ続けている。
 脅迫して相手の抵抗を奪ったのはこちらだけれど、肉体的な拘束など一切与えていない。なのに言葉一つでここまで従順な相手に、理不尽な怒りを感じてもいた。
 理不尽だと思える程度には理性があって、怒りの原因が嫉妬だということも理解できている。
 彼がこちらの言葉に従うのは、彼が前世の自分を崇拝レベルで愛しているせいだ。前世なんて未だ欠片も思い出せないし、彼の勘違いとか思い込みという可能性すらあるのに、間違えるはずがないと言ってそこは彼も譲らない。
 それならせめて、今の自分のことも、過去の自分と同じように愛してくれればいいのに。求めてくれればいいのに。
 はっきり明言されてはいないが、彼の話しぶりから、間違いなく、前世の自分とは体を繋ぐような仲だったはずだ。
 もう一度出会えた喜びと、尽くすのが嬉しくて仕方がない様子と、なにより自分に向かって真っ直ぐに突きつけられる好意に、勘違いしていた。今の自分のことも、好いていてくれるのだと、思っていた。自分とも体を繋いで想いを交わせるような仲になりたいのだろうと、思っていた。
 でもどうやら、違ったらしい。
 確かに、彼に直接そう望まれたことはなかった。記憶を思い出して欲しそうな様子はあったけれど、それすらさっさと思い出せなどと言われたことはないのだ。
 記憶がなくても傍に置いて貰えるだけで、少しでもお役に立てればそれだけで嬉しくて仕方がないと言われ続けていたし、恋仲になりたいとも、抱かれたいとも、一度だって言われていない。要するに、勝手に勘違いしていただけだった。
 せめてその勘違いに、もっと早く気付けていればよかった。いくら尽くしてくれると言っても、前世ではそういう仲だったとしても、男だし、人じゃないし、と迷っている内に気づいていれば、むしろ安堵しつつ、なんだそうかとあっさり引き返していただろう。
 つまりは、彼の好意と執着とに報いてやりたくて、彼を好きになる努力をしてしまったし、いろいろな覚悟まで決めてしまった。なのにいざその覚悟を示して関係を進展させようとしたら、そんなつもりはなかったと拒否されて、更には申し訳ないことをしたと頭を下げられ恐縮されて、今まで通りただ傍にいて世話を焼いていたいだけだなんて言われても、わかったなんて言ってやれるはずがない。
 結果、傍にいて役に立ちたいと言うなら、性欲処理にだって付き合うべきだと言ってしまった。

続きました→

 
 
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