何も覚えてない、ってことにしたかった2(終)

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 がん、とやや強い音を立てて空のジョッキを机に置いた相手が、嘘ですよね、と唸るみたいに聞いてくる。
「嘘じゃない」
「いや、絶対ウソですって。だって俺、前に、酔って記憶なくしたこと無いって、言ってたの覚えてますよ」
「あ、そっち?」
「今後は俺に冷たくするってのも、嘘だって思ってますけど。でも先にそっちです」
「本当に何も覚えてない」
 言えば探るようにジッと見つめられて、大きくため息を吐いた。
「ってことにして、なかったことにしたい。ってのは本当」
「やです」
 一瞬、ほらみろと安堵しかけた相手が、慌ててそれは嫌だと言い募る。
「というか、お前の方こそ、どうせたいして覚えちゃいないだろう?」
 何もなかったはずだ、という主張だけは、最初にあっさり否定されていた。彼にこちらを抱いた記憶がばっちり残っていたせいだ。責任とってお付き合いさせて下さい、というのが相手側の主張だったが、もちろんそんなものを受け入れられるはずがない。めちゃくちゃ逃げ回っていたのは、相手の主張がそれだったせいもある。
 ただ、抱いた記憶があったって、そこまで鮮明に覚えているとは思えない。それくらい、あの日の彼はグダグダに酔っていた。
「あまり覚えてないからこそ、ですって。俺と付き合うのがダメなら、せめてもっかい、抱かせてくださいよ」
「ぜってーやだ」
「なんでですか。俺を好きなんですよね?」
「好きじゃない」
「ほらまた嘘つく。ところどころしか記憶なくても、はっきり抱いたってわかる程度にはちゃんとあるって言ってんでしょ。俺にまたがって、好き好き言ってたの、覚えてるんで」
 それこそ嘘だろう、と思う。嘘だと思いはするけれど、実のところ、言った記憶が確かにあるから、嘘の妄言だとは言い切れないのがなんだか悔しい。
「だとしても、好きって言ったほうが興奮する、程度の言葉遊び的な、」
「はいはいウソウソ。それも嘘。あんな顔して好き好き言っといて、興奮するための言葉遊びとか無いでしょ」
「あんな顔ってどんな顔だ。あ、いや、いい。知りたくない」
「ね、それ、どんな顔してたか、ある程度自覚あるってことじゃないんすか?」
 墓穴をほったらしい。大きく息を吐きだして、もう一度抱かせれば諦めるのかと聞いた。
「いや。諦めませんけど」
「なら、さっきの、せめてもっかい、てのはなんだったんだ」
「え、もっかい抱いてる間に、落とせるかなって思って?」
「わかった。二度とお前に抱かれないし、お前とはこのまま距離をおく」
「酷っ、俺の気持ち、弄んで楽しいですか?」
「どっちかというと、お前が、俺を弄んでる気がするが」
「どこがですか。思わせぶりな態度で逃げまくって、必死に俺が追いかけるの、楽しんでるんでしょ」
「そもそもなんでそう必死に追いかけてくるんだ、って話なんだが」
 一夜の過ちで流せないにしても、酔ってホテルに連れ込まれた挙げ句にむりやり男を抱かされた、という方向で非難されるならまだわかるし、謝罪しろと言うならするつもりはあるのだけれど、相手の訴えが付き合えだのもう一度抱かせろだのだから、正直どうしていいのかわからない。
「そんなの、ずっと好きだったからに決まってるでしょ。何言ってんですか、いまさら」
 ふん、っと開き直った様子で告げられ呆気にとられてしまったが、あまりに呆然と見つめてしまったせいで、相手が少し焦りだす。
「え、まさか、俺の好き、本気にされてない?」
「というか、初耳」
「はぁあああああ!!??」
 とっさに声がでかいとたしなめたものの、さて、この予想外の展開を、ホント、どうすればいいんだろう。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1077577605635698689

 
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