ときめく呪い

 あれなんかおかしいぞ、という事に気づいたのは、ダンジョンの中腹あたりだったろうか。少数精鋭が行き過ぎて二人パーティーになってから数ヶ月経つが、それなりの人数で動いていた頃も含めて、彼の隣に居てこんなわけがわからない気持ちになったことなんて無い。
 少ない食料を分け合うことも、同じ水筒から水を飲むことも、ダンジョン攻略中なら当たり前だし、モンスターは当然一緒に倒すし、そこらに張り巡らされている罠だって、お互い協力しあって躱していくのが基本だ。じゃなければなんのための組んでいるのかわからない。
 なのに、彼の一挙手一投足に意識が引っ張られるような気がして、彼が自分に向かって話しかけてくれるだけでも、胸がざわついて切なくなるような不思議な気持ちになる。
「うーん……」
 人の額にでかい手を押し当てながら相手が唸る。こちらは彼の手が額に触れているというそれだけで、ドクンと鼓動が跳ねて、元々いささかぼんやりしていた頭に、更に血がのぼる感覚を自覚していた。
「顔赤い割に、熱ありそうって感じではねぇんだなぁ」
 よくわからんと言いながら額の手が外れて、長身の体が屈んで相手の顔が近づいてくる。
「ひょぇっ」
 おでこ同士がぶつかって、慌てて一歩を下がろうとしてよろめけば、おっとあぶねの呟きと共に背を支えられてしまう。それを、抱きとめられたと認識するあたり、やっぱり何かがオカシイと思うし、抱きとめられたからなんだってんだと頭では思えるのに、胸がきゅうきゅうと締め付けられる気がする。
「んー……で、お前の実感としてどうなんだよ。体調悪ぃの?」
「いやだから、最初っから体調は別に悪くないんだって。ただ、なんつーか、お前に、必要以上にひたすらトキメク」
「なんかの罠に引っかかった記憶、ねえよな?」
「うん、ないね。得体の知れないアイテムも拾ってない」
「でも症状的に魔法か呪いかってとこじゃねぇの?」
「んな症状の魔法も呪いも聞いたこと無いんだけど」
「世の中にはまだまだ俺らの知らんことはいっぱいあるだろ。あと、新しく作られたものって可能性もあるし。とすると、得体の知れない症状放置しとくのもマズいよな」
 面倒だけど一回帰るかという提案に待ったをかける。
「俺がお前にトキメイてたら気が散って戦えない、ってなら諦めるけど、そうじゃないならもーちょい進んじまおうぜ」
「お前こそ、いちいち俺にトキメイてたらきつくねぇの?」
「違和感はめちゃくちゃあるけど、まぁ別に大丈夫だとは思う」
 街に戻ってなんらかの対処をしてもう一度ここまで戻ってくる、ということを考えた時の時間的ロスも金銭的ロスもそれなりにでかい。利益重視の少数精鋭二人旅なのだから、引き時を間違ってはいけない。命の危険はなさそうだし、この症状の様子見かねてもう少し先へ進んでみたいと思った。
 症状の軽さというかアホらしさに、油断していたのだと思う。結局、その後も些細なことでトキメキまくった結果、相手の方がさすがにもう耐えきれないと言い出して、そのダンジョンを出ることになった。
 どうやら呪いだったそれは、街へ戻って解呪屋に駆け込めばあっという間に払ってもらえたけれど、問題はその後だ。
「お前、もっかいあの呪いに掛かるか、俺に惚れるかしろよ」
「バカジャネーノ」
 呪いのせいで意識されまくっていた相手が、彼にトキメキまくっていた時の姿に、どうやら相当絆されてしまったらしい。
 呪いでトキメキまくってたから、ダンジョンの中という劣悪環境で手を出されてもあの時は普通に嬉しかったんだけれど、呪いが解けた今となっては、なんてバカなことをしたんだろうの一言に尽きる。
 相手側まで引っ張るような強力な呪いではなかったから、こちらだけ気持ちが冷めたのは正直かわいそうだと思わなくもないけれど。
「バカで結構。頼むからもっかいヤラせて。すげー良かったんだって、お前の体」
 いや、かわいそうとか全然嘘だった。
「お前が、もう耐えきれないっつって戻ってきたんだろ。今更だ今更」
 こんなことを言い出すのなら、あのままトキメカせて置けばよかったのに。
「しょーがねぇだろーが。お前が掛かった何かに引きずられてお前が可愛いのか、あの時は俺自身の感情に全く自信持てなかったんだよ。あの呪いが俺の感情にまで左右してないのはわかったから、俺に惚れるの無理ならもっかい呪われろ」
 でもって可愛がらせろと本気な顔で言われて、トクンと心臓が跳ねてしまったことを、いつまで隠し通せるだろうか。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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