知り合いと恋人なパラレルワールド7

1話戻る→   目次→

 今回は寝ている間に入れ替わったので、鍵も携帯もそのままだった。
 先輩は本当にただのガラクタとなった古い方の携帯をあっさり解約し、こちらに来ていた先輩が新しく契約した方の携帯を躊躇いなく使っている。
 預かっていた合鍵はまだ自分の手元にある。返そうとしたら、もしまた万が一入れ替わる可能性を示唆され、そのまま持っててくれと頼まれたからだ。
 しかし、合鍵を持ったままでいいと言われた時、嬉しさで少々舞い上がり、つい、俺らも付き合いませんかなどと口にしたのはどうやら失敗だった。戻ってきた先輩にそんな気がないことは、確かめなくたってわかっていた。
 避けられるわけではないが、態度がやはりよそよそしい。というよりも、元々の関係に戻ろうとされている。
 先輩と付き合っていた向こうの自分と、ただのサークル後輩でしかなかったこちらの自分は別人、という考えなのはわかっているし先輩らしいと思う。
 先輩はやっぱり先輩だ。そう思うことはちょくちょくあって、けれどそう思うたび、こちらの先輩に対する気持ちが育ってしまうから厄介だった。
「せっかく戻れたんだから、元の状態に戻した方がいいだろ。お前が好きになったのは俺じゃなくて向こうの俺。そこ間違うなよ」
「間違ってませんよ」
「それ、俺に向こうの俺を重ねて好きな気になってるだけだろ。そんなんで俺と付き合ったって、後で幻滅するか後悔するぞ」
 先輩はやっぱり先輩だとか、きっと元々自分たちは惹かれ合う素質があるはずだとか、向こうの俺を好きになったなら先輩だってきっと自分を好きになるはずだとか、言いたいことは色々あったけれど、どれを口にしたところで先輩の気が変わるわけではないことはわかっていた。それどころか一つ一つ否定してくるだろう事まで予測がついてしまう。
 あの日向こうの先輩が触れてくれたのは、メールが繋がらなくなって精神的に相当参っていたからこそなのだ。戻ってきた先輩に、そんな風に付け入る隙なんてあるわけがなかった。
「でも、元の状態になんて戻れるわけ……」
「まぁ、色々とあったのは事実だしな」
 せめてもの抵抗でささやかに抗議したら、こちらを拒絶するようなピリッとした空気を和ませながら苦笑する。
「けど、近くにいたらいつまでたっても勘違いしたままになるだろ。鍵は預けるけど、お前との距離は少し置きたい」
 先輩を包む空気は和んだのに、吐き出されてきた言葉は結局こちらを拒絶するものだった。
「嫌です!」
 咄嗟に叫んでしまったものの、決定事項だと突き放される。
 俺らも付き合いませんか、なんて口にしたことを盛大に悔やんだが後の祭りだった。
 その後、有言実行であからさまにますます素っ気ない態度となった先輩と、それに比例して落ち込みまくる自分に、サークルメンバーは思いの外優しい。少し前、いきなり懐いてどうしたと驚かれたばかりだが、どうやら、一方的に懐いた結果ウザがられて落ち込んでいる、という風に映っているようだ。
 先輩の言葉もわからなくはない。けれど、自分の中にある想いを否定する気にはなれなかったし、冷たい態度を取られてさえ先輩を諦める気にはどうしてもなれなかった。
 詳細をあれこれ聞いたわけではないけれど、向こうの世界だって自分の方が積極的だったらしいし、誘いまくって先輩をその気にさせたみたいだし、その結果先輩が向こうの自分を本気で好きになったという経緯らしいことを知っている。
 それは希望だ。
 サークルで仲の良い同期数人には、先輩を好きになったけど振られたと話してみた。入れ替わってどうこうの事情はさすがに省いたけれど嘘は一切言っていない。
 普段一緒になって、彼女欲しいだとか合コンしてみたいだとか言い合っていた同期は相当ビックリしていたが、諦めたくないのだと言ったら応援するとは言い難いけど頑張れと言ってくれた。
 実はこれも、先輩と恋人として付き合っている向こうの世界でも、変わらず友人で居てくれているらしい相手を選んで話した。
 そう多くを語ってくれたわけではないけれど、向こうの世界の話は興味深かったし印象的だったから、結構色々と覚えていると思う。
 何か出来ることや、向こうの自分との違いを探すように思い返す会話。
 そんな時どうしても引っかかってしまうのが、高校時代から色んな男に抱かれまくっていたという、向こうの自分に関する情報だ。
 自分もどこかで男に抱かれる経験を積んだほうが良いのだろうか。そうしてから、先輩に対しても抱いてくれと迫るべきなのか。
 さすがに先輩を好きだと思ってしまった後では、他の誰かで経験をという気にはなれそうにない。けれどそれでは先輩を落とせないのではと、そこで思考がグルグルめぐって行き詰まる。

続きました→

お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

「知り合いと恋人なパラレルワールド7」への2件のフィードバック

  1. こんばんは。
    お久しぶりです。
    コメントは久しぶりですが、いつも拝見させて頂いています。
    スパム困りますよね。
    落ち着くと良いですね。

    先輩とはどうなっていくのか、ドキドキしながら拝見させて頂いています。
    更新を楽しみにしています。

  2. お久しぶりのコメントありがとうございます。嬉しいです(*^_^*)
    スパムってこんなに来るんだという驚きはありましたが、慣れもあってなんかもう諦め気味で、最近はブログ上に表示されなきゃまぁいいかと思うようになってきました。

    先輩とはぜひ恋人になって貰って、ハッピーエンドで終えたい気持ちがかなり強くなってます。
    もう少しで終われそうと思いますので、ぜひ最後までお付き合いよろしくお願いします。
    いつも見て下さって本当に嬉しいです。ありがとうございます!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です