今更嫌いになれないこと知ってるくせに25

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 焦って思わず立ち上がったものの、泣いている甥っ子を抱きしめ慰めるなどという行為が、果たして自分に許されるのか。ベッドに腰掛ける甥の傍らにまで近寄ったものの、触れることが出来ないまま立ち尽くした。
 甥っ子の涙はボロボロと流れ落ち、時折苦しげにしゃくりあげている。
「悪い、また、傷つけた。本当に、ごめん」
 何がここまで甥っ子を泣かすことになったのか、正直いまひとつわかっていなかった。けれどどうしていいかわからなくて、オロオロと謝罪を繰り返す。
 そんな中、嗚咽と共に甥っ子が、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。しゃくりあげながらの言葉は聞き取りにくく、腰を落として膝立ちになり、やや下方から覗き込む形で甥っ子の口元に耳を寄せた。
 いわく、仕返しなど考えておらず、ただ好きだから抱かれたい。両想いでするセックスに期待して何が悪い。ということらしい。
「いやだって、お前、こんな俺のこといい加減嫌になってるだろ?」
 あまりにビックリして問いかければ、真っ赤な目で睨まれた。
「嫌いだって繰り返し言えば嫌いになれるなら、こんなに苦しんでない。にーちゃんだって父さんのこと引きずりまくってたくせに。気持ち受け入れてもらえないからって、今更嫌いになんてなれないこと、にーちゃんだって知ってるだろ」
 やはり途切れ途切れに、必死に絞りだすようにしてそう告げると、その後は耐え切れないと言った様子でわんわんと声を上げて泣き出してしまう。
 こんな風に泣かれるのは二度目だ。あの夜は嫌いだと言われまくってそれなりに凹んで居て気づかなかったのか、それとも下から見上げるこの体勢のせいなのか。泣きじゃくる顔に、幼いころの面影がかなり色濃く見えている。昔も泣きじゃくって居る時には、視線を合わせるために屈んで、俯く相手を下から覗き込んで相手をしていた。
 昔はどうやって慰めていただろう?
 思い出しながら伸ばした手で頭を撫でる。触れた瞬間だけビクリと肩が跳ねたけれど、前回同様、その手を拒まれることはないようだ。
 そのまま若干引き寄せるように抱きしめて、トントンと背中を叩いて宥めながら、マイッタなと思う。考えてみたら、昔甥っ子が泣きじゃくっていた時の理由には、自分の非がほとんどない。いたずらをして叱られたとか、ワガママを通そうとして叱られたとか、要するに、甥っ子がごめんなさいと言って泣くことがほとんどだった。
 今回ごめんなさいをしているのは自分のほうで、昔とは真逆の立場に必死で掛ける言葉を探す。残念ながら過去はまったく参考にならなかった。
 しかし現状、何を言っても傷つけてばかりの結果しか出ておらず、その事実を認識しただけで気持ちが沈む。臆病になる。
 なのに腕の中の甥っ子は、やはりこの前の夜と同じように、おずおずと擦り寄って肩口に額を押し当ててくる。今回は嫌いだという言葉はなく、聞こえてくるのはただしゃくりあげる時の苦しげな呼気だけだった。
「好きだよ。お前が好きだ」
 ふと、これが今の彼に出来る精一杯の甘えなのかと思ったら、なんだか酷くいじらしくて、言葉はするりとこぼれ落ちた。しかも短いながらも、俺も、などと泣き声に混じって返されれば、愛しさがあふれてたまらなくなる。
「うん。泣かせてばっかりでとっくに嫌われてる、現在進行形でもっと嫌いになってるだろう、って思ってたけど、そう思い込むことが既に俺の独りよがりだったよな」
 ごめんなと言ったら、肩口に置かれた頭がフルフルと振られて、小さな謝罪が耳に届いた。
「いっぱい嫌いって言ったの、俺の方だから……」
 どうやらこちらが嫌われたと思うのは仕方がないという事らしい。
「それ言ったら、お前にあれ言わせたのだって俺だろうが」
 辛いことをたくさん言わせたことを謝れば、甥っ子が小さく笑う気配がして、部屋の空気がふわりと和んだ。
「にーちゃんずっと謝りっぱなし」
「あー……まぁ、謝って済む話でもないってのはわかってるけど、それ以外どうしていいかわかんないんだって」
「じゃあもっといっぱい好きって言ってよ。ごめんって言われるより、今はそっちが嬉しいよ?」
「好きだよ。凄く、好きだ。あーもう、お前ほんっと可愛いんだけどっ」
 言いながらギュウギュウに抱きしめてやったら、腕の中で楽しげな笑いが起こる。やっと顔を上げた甥っ子は、目元も鼻の頭も真っ赤なままだったから、衝動的にそこへ何度も口付けた。

続きました→

あなたは『「今更嫌いになれないこと知ってるくせに」って泣き崩れる』誰かを幸せにしてあげてください。
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