今更嫌いになれないこと知ってるくせに26

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 口もして、という可愛いおねだりに否を返すわけもなく、その唇を塞ぎながらとうとうベッドに押し倒す。軽いキスを繰り返しながらもさすがにこれ以上はと自制していたのに、相手からぺろりと唇を舐められ誘われ、結局最後は深く口付けてしまった。とは言ってもなるべく相手の性感を煽るような真似はせず、深く触れ合うことが目的だった。
 けっこうな長さで繰り返すキスの合間に様子をうかがう相手が、少しづつ満たされて表情が緩んでとろけていくのが可愛らしい。やがて呆けたようにぼんやりとして、触れ合う舌の反応が随分と鈍くなったところで、もっと続けるかと問いかける。
 言葉は出ないようだったが緩く首を振って否定されので、頷いてその隣に寝転んだ。それを視線で追ってくる甥っ子は、首だけこちらを向いて見つめてくる。
 なので仰向けにはならずに横向きになって、顔だけは向かい合うようにした。肩を引き起こし甥っ子も横向きに変えてしまっても良かったが、触れたらまた抱きしめてしまいそうだったからだ。
「なん、か……」
「どうした?」
 舌っ足らずに吐き出されてくる声に、優しく先を促した。
「嘘、みたいで。夢、じゃないよね?」
 恋人になれたって思っていいのと不安げに尋ねられて苦笑する。
「お前に、覚悟が出来るなら。と言っても多分、お前はとっくに覚悟決めてそうだけど」
「覚悟って?」
「親に、というかお前の立場でだと両親と祖父母か。もし知られた場合、どうなると思ってる?」
 最悪お前も俺も家族捨てる事になるぞと続けたら、びっくりしたように目を瞠るから、こちもびっくりしてしまう。
「そういう事、全然考えたことなかった?」
「えっと……じーちゃんとばーちゃんに関してなら大丈夫。じゃないかなぁ……」
 躊躇いがちではあるが、その発言から不安はほとんど感じられなかった。彼にはなんらかの確信があるようだ。
「なんで?」
「いやだって、俺がにーちゃん大好きなの知ってるもん。てか応援してくれてたし」
「は? いやいやいや、ちょっと待てよ。応援? んなバカな話信じられるか」
「え、だってにーちゃんとこの側の大学なら生活費援助してくれるとか、めちゃくちゃ応援されてない?」
「いやいや、それ恋愛的な好きってわかってないだろ。俺たちが恋人として付き合う事になった、なんて言っても生活費援助の話がそのままとは限らないぞ」
 ちゃんとわかってると思うけどと、やはり躊躇いがちに返されて、再度なんでそう思うのかと問いかける。
「それはさ、俺、ばーちゃんに、にーちゃんのお嫁さんになりたいって言った事あるから?」
「いつ!?」
「にーちゃんが大学生の頃」
「なんだ。あんま脅かすなよ。小学生の話なんてそこまで本気にしてないだろ。お前が俺に懐きまくってたのは事実だし、俺が居なくなって寂しいんだくらいにしか思わなかったんじゃないか?」
「あー、うん、それ言ったとき、もう中学生なってた。あと、料理習うとき、押しかけ花嫁する気なのって笑われたから、そのつもりって言っちゃった」
「ちょっ、……」
 予想外の話に若干気持ちが付いていけずに言葉が詰まった。その時の母の返答について尋ねる声は、若干震えていたかもしれない。
「で、母さんはなんて?」
「じゃあしっかり覚えなさいって言って簡単なの色々教えてくれたよ。実際にーちゃんも、食べてすぐわかるレベルの作れてたろ?」
 確かにそうだ。しかしそれは本当に応援と思ってしまって良いのだろうか?
 そう思ったところで、先ほどの義兄との会話も、そういえばやけにスムーズに進んだ事を思い出す。
 どこまで知ってるか尋ねた時に、大好きな君に振られたようだと言っていたセリフを、聞いた瞬間は懐いていた叔父にキツく拒絶された的な意味で言っているのだろうと思っていた。けれどその後の流れを考えたら、あれはやはり恋愛的な意味で使われたものだったんだろう。
 義兄を嫌ってないと必死に言い募ったくらいで、義兄を恋愛的意味合いで好いていたと気づかれたのも、自分と甥との問題が恋愛的なものという認識があったからだと思った方が納得がいく。
 更に言うなら、甥っ子と逃げずに向き合うための、最後の勇気を与えてくれたのも義兄だった。好きだから逃げたのではなく、好きになってしまわないよう突き放して逃げた。その結果が今なのだと言って、少しばかり泣いてしまった後の事だ。
 出来たらそれ教えてあげてと、義兄は酷く優しい声で言った。親子二代で苦しめてごめんとも、もう一人で背負わなくていいからとも言われた。
 きっちり全部見せて話し合ったら、二人共が幸せになれる道も見つかるかもしれないよと言った義兄は、その後親馬鹿なんだけどと前置いて、うちの息子は結構いい男に育ってると思うんだよねと笑った。
 まだまだ子供に思えるかもしれないけど、君の不安や葛藤を受け止められるくらいの度量はあるんじゃないかな、なんてことを誇らしげに言われてなければ、冷たい視線の甥っ子とここまでしっかり対峙できなかったかもしれない。

続きました→

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