生きる喜びおすそ分け30

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 眠る相手の体を軽く揺すって、意識が浮上した所で一緒に日の出を見ませんかと告げれば、相手の目がゆるりと開かれていく。部屋は薄暗いが、どこか眩しそうに目を細めている。眩しそうと言うよりは、眠そう、かも知れない。
「日の出?」
「です」
 ぼんやりと聞き返されて肯定した後、思い出してと言うように言葉を続ける。
「昨日、女将が言ってたじゃないですか。晴れたら部屋から日の出が見れますよって」
 部屋から見れるということは、当然、デッキにある風呂からだって、その先の庭にある風呂からだって、日の出が拝めるということだ。
「ああ、うん、聞いたね」
「そろそろ薄明るくなって来てるんで、どうですか。それとももっと眠らせてよって言います?」
「いや、大丈夫。いいよ。一緒に日の出を拝もうか」
 だんだんとはっきりとした口調になった相手が、のそりと身を起こしてベッドから降りてくる。
 あっさり起きて貰えて良かったと思いながら、若干急かし気味に寝室を出て、部屋の窓を開けてデッキに降りた。気持ちが急くのは、どうせなら繋がった状態で日の出が見たい、なんてアホなことを考えているせいだ。
「庭の方、行っていいですか」
「ダメじゃないけど、デッキからのが景色はいいよ?」
 庭の風呂へはデッキから階段を降りていかねばならないし、そもそも庭園を堪能して貰う作りになっているから、その言葉通り、景色を見るならデッキに設えられている風呂に浸かるほうがいい。でも庭の風呂からでも一応は海が見えたので、きっと日の出も問題なく見れるだろう。
「おっきなお風呂でのんびりしたい」
 周りに草木が植わっている方が青姦っぽさが出て良さそう。なんて思ってることは、さすがに言えなかった。
 じゃあ庭でと言われてホッとしながら、置かれたサンダルを履いてデッキ端の階段へと向う。
「慌てなくてもまだ大丈夫でしょ。というか気をつけてよ」
「ぅっ、はい。わかってます」
 繋がって日の出が見たいんですよ、とはやっぱり言えないので、はいと返して、階段を降りきった所で一度深呼吸した。焦っちゃダメだ。
「そんなに楽しみ?」
「ええ、まぁ。日の出なんて、なかなか見る機会もないですし。特別な朝、ですし」
「ん、ふふっ、特別な朝、かぁ」
 笑いをこらえるみたいな、どこかふわりとした声音に、何を特別扱いしてると思っているのかなと思う。
「だって特別な朝、ですよね?」
「そうだね。初めての旅行だし、昨日までとは確実に関係も変わってるからね」
「わかってるじゃないですか」
「うん。言われれば、なるほどって思うようにはなったかな。君に色々と鍛えられてる感じがする」
 君がたくさんの特別を教えてくれるから、色んな特別を意識できるようになってきてると続けられた言葉に、胸の中がほわんと暖かい。誇らしいような気持ちで、嬉しかった。
「特別な思い出、まだまだ増やしますよ」
「うん。日の出、楽しみだねぇ」
「だけ、ではないんですけどね」
「だけじゃないって?」
 庭の風呂の横に立てられた、簡易な脱衣所に入って着ていた浴衣を脱ぎついでに、浴衣の袂に忍ばせていたコンドームのパッケージを取り出し差し出す。
「えっ?」
「あなたに抱かれながら、日の出が見たい、です」
「えっ、ちょっ、えぇ……」
 困惑しきっている相手に、さすがに無茶ぶり過ぎたかなと思いながら、ダメですかと聞いてみる。
「ダメっていうか、これだけ渡されても」
 ローションは? って聞かれるってことは、露天風呂で突っ込む、という行為そのものはNGってわけではないらしい。

続きました→

 
 
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