促されて仕方なくを装いながらベッドの中に入れば、待ってましたとばかりに兄の体が擦り寄ってくる。慌てて背中を向けながら、ベッドヘッドの棚に置いてあるはずの、照明器具のリモコンを手探りで探す。
「はいこれ。てかお前、なんでそう頑なに俺に背中向けるかな」
「兄弟で、男同士で、向き合って抱き合って眠るとか、なにその拷問。キモいんだけど」
リモコンを背中越しに渡してくれながらの兄の言葉に、思ってもない言葉が口からこぼれ落ちる。いやでも、ある意味拷問には違いないか。
「俺は別にキモくないけど。嫌がってるの無理矢理一緒に寝てもらってるんだから仕方ないのかもだけど、でもやっぱちょっと寂しい」
バカじゃないのと返しながら明かりを消せば、酷いと言いながら背中にグリグリと額を押し付けてくる。しかも胸の前に腕が回され、ぎゅっとしがみつかれた。
「ちょっ、と。何してんの」
「昔はもっと可愛かったのにー。ぬくぬくのちっちゃな手で俺の手握ってくれて、足だってお前っから絡めるようにして温めてくれてさ。ちょっと体が大っきくなってベッド狭くなったからって、体は温かいままなのに態度が冷たくなりすぎ」
むしろ昔以上にひっつけばベッドの狭さだって気にならなくなるんじゃないのなどと言って、更にぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまって焦る。クスクスと笑っているから、明らかに兄はふざけているだけなのに。自分だけが兄を意識していると突きつけられるようで苦しい。
「いい加減にしろよっ!」
思わず上げた声は思いの外大きく響いてしまって、背後でギクリと兄が固まる気配がした。
「その、……ごめん」
小さな呟きの後、体に回されていた腕が解かれて、もぞもぞと兄が離れていく。さすがに気まず過ぎる。
今度はそっと小さなため息を吐き出して、くるりと寝返りをうち兄へと体と顔を向けた。暗いので兄の表情はわからないし、こちらの表情だってきっと兄に見えてはいない。けれどこちらは至って真剣な顔をしているし、きっとそれは気配から伝わっているはずだ。
「まずは、怒鳴ってごめん」
静かな謝罪に、兄が小さく息を呑む気配がした。いつもと違うこちらの気配に、やはり戸惑っているだろうか。
「でも頼むから、あんまり余計なことしないで。本気で俺に、ベッドから追い出されたくないなら。俺をこの先もまだ、人間カイロとして冬の間は重宝したいって思ってるなら」
お願いだからと本気で頼み込めば、掠れた声でどうしてと聞いてくる。出来ればそれすらも、聞かずに居て欲しかった。
「弟だって思って油断して、ベタベタ甘えてくるのはそっちの勝手だけど、その結果、俺に襲われても知らないよ。……って言ったらわかってくれんの?」
「えっ?」
「気持ち悪いって思ったなら、寒いの我慢して一人で寝て。てかホント、キモい弟でゴメンな」
「キモくないよっ!」
今度は兄の声が大きく響いた。
「えっと、それって俺を好きって、そういう意味と思っていいの?」
そっと伸びてきた兄の手がこちらの手を探り当てて、だらりと伸ばしていた指先を、冷たい指がキュッと握り込む。まるで縋られているみたいな気分になって落ち着かない。
「だったら、嬉しい」
いいとも悪いとも返さず黙っていたら、まるで肯定とみなした様子で喜ばれてしまった。ちょっと意味がわからない。
「喜ぶなよ。兄弟の好きとは明らかに違う好きだって、アンタほんとに理解してんの?」
「してるよ。理解してるから、喜んでるんだろ」
「なんでだよ」
「そんなの、俺も、お前を好きだからに決まってる」
「えっ……」
耳に届いた言葉を理解できずに固まってしまえば、一旦は離れた距離を兄がまたもぞもぞ動いて詰めてくる。
「キスとかしたい。って意味の好きなんだけど」
暗さに目が慣れたのとかなり近づいた距離に、兄の酷く真剣な顔が見えてしまった。
「ほん、き……?」
「冗談言ってないのわかるだろ」
「兄弟だぞ」
「うん」
「許されるわけない」
「誰が許さなくたって、俺が許すよ」
ああ、うん。この兄は昔からこういう人だった。
それでもまだ、一緒になって喜ぶ気にはなれずに抵抗してしまう。
「兄貴ってのは弟が道踏み外そうとしてたら、正してやるもんじゃないのかよ」
「たった一年先に生まれただけで、そんなの期待されても困っちゃう。むしろ弟ってのは兄の巻き添え食らうもんなんじゃないの」
「で、いつから好きだったわけ?」
「それ聞いてどうすんの」
「俺より先に好きだったなら、確かに巻き添えくらいまくった結果なのかと思って」
「実の兄貴を好きにならせちゃってゴメンね?」
つまりは相当昔から好きだったという意味だろうか。こうなってくると、この歳で寒くて寝れないと弟のベッドに潜り込むのも、どこまで純粋に寒さからの行動なのかわからないなと思った。
「まぁ、でももう、どーでもいいや。で、ホントにキスしていいの?」
したら兄弟には戻れないよと脅しても、あっさりいいよと返ってくる。
「多分だけど、お前より俺のが先にお前好きになってるし、兄弟だからとか男同士だとか、そういうのいっぱい考えてきてるんだよね。だから安心してって言ったら変だけど、お前より絶対俺のが覚悟済みだからさ」
「じゃ遠慮なく」
言って兄の体を自分から引き寄せ、そっとその唇を塞ぐ。覚悟済みなんて言っておきながらも、唇はかすかに震えているようだった。
口の中に舌を突っ込んで舐め回したい欲求はもちろんあったが、震える唇を割って入り込むなんて真似は出来そうにない。
「唇震えてんだけど、ホントに覚悟できてんの?」
「出来てるってば。てかお前と違ってこっちは正真正銘ファーストキスなんだから、慣れてないのは仕方ないだろ」
「ちょっ……」
とんでもない理由に絶句しながらも、胸の中には嬉しさと愛しさが湧き上がっていた。
有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。https://shindanmaker.com/19329
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寒いから、一緒に入れてほすい♪
ペロッ、ペロッて舐めてあげる(腐猫)
いやぁ~、さすが!お話にのめり込みます。
るるさん、のめり込んで読んで下さってありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ
ネコと一緒に寝たらもっとあったかいよって言ってみたいですね。
腐猫でも腐とバレなければ問題ない!