まるで呪いのような8

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 どうしていいかわからないまま固まっていたら、すぐに背を撫でる手が止まって、それからそっと彼の熱が離れていった。思わず顔を上げてしまえば、眉間にしわを寄せた渋面でこちらを見つめていた相手と視線が絡む。
 すっと寄せられた相手の顔は不満そうなものから不思議そうなものに変わっていて、何かを探るみたいにジロジロと見てくるから、困るというかなんだか焦る。目を合わせるのを躊躇って、視線があちこちさまよってしまう。
「もしかして、あのまま触ってても、良かった?」
 嫌なんだと思ったと言うから、嫌じゃないと慌てて否定した。
「やじゃない。やじゃないけど、でも、」
「でも、何?」
「その、急だったから、どうしていいか、わかんなくて」
「それは嫌なのと違うわけ?」
「違うよ」
 そうなんだと呟いた相手は、やっぱりまた眉間にしわを寄せて、難しいなとぼやいている。
「それで、泣き止んだっぽいけど、お前の話ってもう出来るの? ビックリして涙止まっただけで、落ち着くまでもっと待てってなら、その間俺はまたお前に触っててもいいの? それとも、嫌じゃなくてもどうしていいかわからなくなるから触らないでとか思うの? その判断を俺に察しろってのは、正直かなりキツイんだけど」
「あのさ、なんで、俺に触ろうって、思ったの」
「さっき、俺に触られたいって言ってたし、そう思ってるなら、泣いてる時は抱きしめて慰めたら嬉しいと思うのかと、思って」
 ああ、やっぱり結局、こちらが嫌じゃないか、嬉しいと思うかどうかが、彼の行動の判断基準なのか。泣いているこちらに胸が騒いで、抱きしめ慰めたいと思ってくれたわけじゃない。諦めにも似た気持ちが胸の中にじわりと湧いていく。
「でもさっき泣いた時、お前、触ってこなかったじゃん」
 指摘すればすぐに、迷ってたんだと返された。頼んで触って貰うのは惨めだなんて言われた直後に触ったんじゃ、結局頼まれて触ってるのと同じになりそうで、惨めだって泣いてるこちらを余計惨めに思わせそうだったと言われて、確かにそれはありそうだと思ってしまった。ただ、触ったほうが良さそうだから抱きしめて慰めたって言ってしまったら、結局同じだってところまでは気が回らないらしい。
「そうだね。多分、凄く惨めになって、きっともっと泣いちゃってたよね」
 自嘲気味に認めれば、相手はなんだか気まずそうだ。でもこんなの、自嘲せずにいられない。
「お前がさ、好きって言ってくれたり、キスしてくれたり、キスさせてくれたり、今みたいに泣いたら抱きしめて背を撫でてくれようとするの、全部、俺を満足させるためだよね。恋人なんだからセックスしようって言ったら、お前、応じるんだろ。俺相手に抱かれる想像はしたことなさそうだったけど、俺がなにがなんでも抱く側がいいって主張したら、きっと折れて俺に抱かれてくれるんだろ?」
「でもお前は、それじゃダメ、って話なんだろ」
「そうだね」
「お前が欲しがるもの渡してもお前が満足しないらしいのは、わかってる。でもお前が本当に欲しがってるものを、俺は持ってない。渡せない」
「うん。それは、知らなかった。お前はちゃんと持ってて気付いてないだけだって思ってたから、それは、欲しがって困らせて、ゴメン」
「なんでそうすぐ謝るかな。俺のが絶対酷いこと言ってるし、しようとしてるのに」
 相手はまた困った様子で泣きそうな顔になっているから、何かが引っかかって、その引っ掛かりを引きずりながら口を開いた。
「そういやお前、俺に謝りたくないって思ってる? ぽいな?」
 思考より先に言葉が吐き出されて、自分の吐き出す言葉で確信する。
「それってお前の執着を育てたのが俺だから? 俺の自業自得で、自分は悪くないって思ってんの?」
「違っっ!」
「謝るようなことしてないって主張じゃないなら、なんなの?」
「それ、は……」
 この質問は彼をかなり動揺させたらしい。謝りたくないと思っている事に、気づかれたくなかったのかもしれない。
「俺の場合は、謝って、許してもらうような、ものじゃない、と思う、から?」
 何度も言葉をつまらせた挙句、語尾が上がって疑問形になっている。もちろん、どういう意味かと聞き返した。

続きました→

 
 
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