別れた男の弟が気になって仕方がない32

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 ついつい勢い任せに疑問符を並べ立ててしまったことを反省しながら深呼吸を一つ。ここで自分まで相手の苛立ちに巻き込まれて、なぜ理由を話してくれないと苛立つわけには行かない。
 だから何と、なるべく柔らかな響きになるよう気をつけつつ続きを促せば、一瞬ムッとした様子で口を噤んだものの、それからすぐに、拗ねたみたいにまた少し唇を尖らせる。
「恋人になれって言われるとか、まったく想定してなかったんですって」
 はああと吐き出されてきたため息は重い。
「それは俺も同じだよ。恋人になって、なんて言うことになるとは思ってなかった」
「何言っても忘れてくれるって言ったくせに」
「いやそれはっ」
 想定外にもほどが有りすぎる名前が飛び出したからだと言いかけたけれど、でも言ったことを守ってやれてないのは事実なので、確かに自分が悪かった。
「あー、その、あれは、ゴメン。でもそれでお前が俺を好きって事に気づけたから、俺からしたら結果オーライでもある、かな」
 もう一度ゴメンねと言えば、やっぱり深い溜め息で返される。
「結果オーライじゃないですよ、もう。あなたの好きって絶対、俺が可哀想になっただけのものですよね」
「疑うねぇ。好きだって言葉だけなら気持ち盛り上げるために口にだすことは確かにあるけど、少なくともお前と恋人として付き合いたいってのは、こいつ可哀想ってだけで簡単に出てくる言葉じゃないんだけど。しかもお前、元々付き合ってた相手の弟だよ? どっちかって言ったら避けたい相手だよ?」
「だったら、あなたが抱いたりせずに、別の男紹介するか放っといてくれたら良かったんですよ。そしたらあなたを好きだなんて、思わなくて済んだのに」
「てことは、抱かれてその気になった、ってのは事実なのか。お前ほんっと危ないな。キモチイイに流されて相手好きになるなら、セックスする相手はマジでしっかり選べよ」
 言えば嫌そうに眉を寄せて、どこまでも保護者と吐き捨てられた。余計なことを言ったとは思ったが、もう口に出してしまった。
「でもまぁお前には不本意でも、俺にとってはやっぱりそれも結果オーライ、かな。お前の初めての相手が俺になって、本当に良かったと思ってるよ」
「俺は思いっきり失敗したって思ってますけどね」
「かわいそうに」
「それ絶対本気で言ってない」
「そりゃあね。だってもうお前の初めては俺になっちゃったし、お前は俺を好きって言っちゃったし、俺がお前を恋人にしたいと思っちゃった現実は変わらないし、それがお前にとってどうダメなのか未だにさっぱりわからない」
「いやだから、ダメっていうか、あなたと恋人になる予定がなくてどうしていいかわからないだけですって」
「それだとまるで、俺を好きになる予定はあったみたいだけど」
 抱かれてその気になっちゃったんじゃなかったのかと、からかうような気持ちで口に出しただけだったから、あっさりありましたけどと肯定されてびっくりした。
「は? えっ? 抱かれてキモチヨクなっちゃって、うっかり好きって思っちゃった、って話じゃないの? あれ?」
 また何か、盛大な勘違いと思い込みをしているらしい。またなのか、まだなのかは微妙な所ではあるが。
「うっかり好きになったりはしてないですね」
「え、でも、抱かれてその気になったのは? それは事実?」
「事実ですけど、あなたに抱かれたらきっとあなたを好きになるんだろうって、最初っから思ってはいました」
 そう思っていたなら、なぜあんなにあっさり抱かれることを了承したのかますますわからない。恋人になる予定はなかったというなら、好きになったって辛い思いをするばかりじゃないのか。
「ドMかな?」
「そういう自覚はないですが、やったこと考えたら違うとも言い切れないかもですね」
「いやゴメン。そんな冷静に返さないで。というか、それ、片想いになること前提で抱かれたって意味だよね? なんでそんなことしたの」
「ドMだから?」
「ゴメンナサイ。お願い茶化さないで教えて」
 きっと言いたくなくて誤魔化してしまいたい部類の話なのだというのはわかるけれど、少しずつでもどうにか彼の隠しつづける部分を引っ張り出したくて頼み込んだ。相手が言いたくないならと踏み込まず、相手から話してくれるのを待ってあげられる余裕はなかった。

続きました→

 
 
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