話したくないなら話さなくてもいいという態度を見せずに、本音を晒せと食い下がるこちらに、相手もいい加減観念はしているのかもしれない。誤魔化されてもやらないし、適当な言い分を信じて逃してやる気もないのだと、さすがにもう伝わっているんだろう。
ただ、どうしてそんなに、とは思うらしい。困惑と諦観を混ぜたようなため息を吐いて、相手は口を開く。
「大概しつこい。あんなにあっさり兄との別れを受け入れたんだから、俺のことも、あっさり諦めてくれるものだとばかり」
「じゃあもういいよ。って言えないとこまで踏み込んじゃった自覚あるから、諦めてやるのは無理だなぁ」
ここまで来て、そんなに嫌ならもういいやと、差し出した手を引っ込める真似なんて出来るわけがない。素気もなく拒否られ続けているならまだしも、相手の気持ちは揺れまくっているし、押してもダメなら引いてみろという言葉はあるが、引くより押しまくって、取り敢えず恋人という立場を手に入れてしまう方が良さそうな気がしている。
「もし、どうしても言いたくない、俺には教えたくない、これ以上むりやり聞かないで欲しいってなら、そこは取り敢えず諦めてもいいけどな。でも恋人にはなって」
もっと時間を掛けて、ゆっくり引き出して欲しいならそうしてもいい。
「あと、諦めるのは取り敢えずだし、お前が話してもいいって気持ちになるのを待つってだけの意味だから。それは覚えといて」
お前相手になぁなぁな付き合いする気はないからと言えば、唖然としてから、やはり不満げな顔になる。
「兄の本命も知らないまま、恋人やってた人のセリフと思えないんですけど」
「半分契約みたいな恋人という名のセックスパートナーと、初の両想いの恋人になる予定のお前とじゃ、扱い違うのは当然だろ。というか、俺が勘違いの思い込み激しいって言ったのお前でしょ。勘違いや思い込みで振り回されたくなかったら、お前だってもうちょっと俺に正直になるべきなんだよ」
どんな恥ずかしい理由でも、しょうもない理由でも、もし本当にドMだったとしたって、ちゃんと受け止めてあげるよと笑えば、どう考えても茶化してるのはそっちという指摘が入った。ついさっき、お願いだから茶化さないで教えてくれと言ったけれど、確かにあれだって、先にドMという単語を口にしたのはこちらだった。
「ああ、ゴメン。色々雰囲気変えてみて、お前が話しやすいように持って行きたかっただけだったんだけど、お前がそれに乗っかって誤魔化そうとするのは許さない、ってのはオカシイよな。ただ、どんな理由でも、お前のことをちゃんと知りたいって思ってるのは本当だから。俺の方こそ、茶化すみたいな言い方して悪かった」
言えば、仕方ないですねと言いたげに小さく息を吐く。そうしてから、おもむろに語りだす。
「抱かれることであなたを好きになったとしても、同時に失恋も出来るはずだったんです。あなたのことは兄から話を聞いていただけの頃からなんとなく気になってましたけど、兄の恋人なんて恋愛対象外もいいとこだし、そもそも、あの兄を見て育ってるので、恋愛とかセックスとか割と避けて生きてきたんですよね」
それなのに、と彼の言葉は続いていく。口をはさむ気にはなれず、黙って耳を傾ける。
「気付いたらあなたのことばっかり考えるようになってて焦りました。初めて会った時、話に聞いてたより随分とクズな男だと思ったんですよ。でもあんな酷い誘われ方したら、逆にこれってチャンスかなと思っちゃって」
チャンスってどういう事だと思いながらも続きを待てば、どうやら、恋愛もセックスも避けてきた人生の中で、あれが初めての直接的な誘いだったということらしい。
「突き詰めて考えるのを避けてましたけど、多分自分も兄と同じ側の人間だろうとは思ってて、だからあなたで試したんですよ。こいつクズだなとは思いましたけど、あの兄を変えた恋人ってことで、一方的にそれなりには信頼してましたし、抱かれるって言ったら焦ってたから、やっぱり思ったほどクズでもないのかなって思ったし。後、本気で嫌になったらいつでも逃げれるって思ったのもあったんですけど、とにかくそんな感じで試したら、あなたは俺を抱く気なんてサラサラないまま俺に合わせて構ってくれただけだったし、しかも兄とはあっさり別れてくれて兄の恋の応援までしてるから、だからまぁ、兄があなたに甘えまくってた理由にも納得はしたんですけど」
兄の恋人相手に試すようなことしたから、きっとバチが当たったんですよと、ふにゃっと顔を歪ませる。また、泣きそうになっている。
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