プリンスメーカー2話 1年目 冬

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 ビリーを引き取ってから半年以上が経ち、季節はすっかり冬になっていた。幸い雪深い地方ではないが、それでもクリスマスを迎える今の時期から2ヶ月ほどは、雪が世界を白く染める。
 ビリーが手伝ってくれたお陰で、冬支度も大分整い、金銭的な貯えも僅かながらできた。
 市の立つ日に出荷できる野菜が、少なくとも1.5倍に増えたのが大きな要因だろう。あの日の言葉通り、家事も畑仕事も、嫌な顔ひとつせずにこなしてくれた。
「よう、今日も二人揃って楽しそうだな」
 何度もビリーを連れて出入りしているので、市場の店員ともすっかり顔馴染みだ。
「ガイんとこのおやっさんとおふくろさん、仲良く二人一緒に逝っちまった時はどうなるかと思ったけど、ガイは変わらず美味い野菜を届けてくれるし、こうしてちっさいながらも家族が出来て、ホント、俺はホッとしてるんだぜ」
 既に何回聞かされたかわからないお馴染みの言葉を吐き出しながら、店の親父は二人の運んできた野菜を確認する。
 ガイは受け取った売り上げから、銅貨を数枚ビリーへと手渡した。仕事量に比べたら本当にわずかな額でしかないが、ガイからビリーへの精一杯の報酬を、ビリーは文句も言わずに受け取り、ありがとうと笑う。
「今日は買いたい物、あるんやろ?」
 大事に溜め込んでいた今までの報酬を、腰から下げた革袋に入れて来ているのを知っている。
「ガイは?」
「ワイはワイで、日用品の買い出ししとる」
「手伝わなくていいのか?」
「ええよ。買い物終わったら広場で待っとき」
「わかった。じゃあ、また後で!」
 ビリーは勢い良くクルリとガイへ背を向けて、足早にその場を去っていく。小さな身体はすぐに人の波の中へと消えてしまった。
「いい子じゃないか、なぁ」
 これまた何度目になるかわからない、引き取ったからにはしっかり面倒見てやれよという言葉に頷いて、ガイもその場を後にした。
 買い物を終えたガイが広場へ着いた時、ビリーは熱心に掲示板を見上げていた。
 どこで覚えたかなどの記憶はなくても、ビリーは一通りの読み書きと簡単な計算はできる。その頭の中にはもっとたくさんの知識が詰まっているのだろうけれど、それを計れるほどの知識がガイ自身にない。
 本来なら畑仕事などをするような家柄の人間ではないのだろう。できることなら、せめて冬の間だけでも、学校へ通わせてやりたい。
 そう思う気持ちはあるものの、やはり金銭的に心許ない。というのが、近頃のガイの悩みの大半を占めていた。
「面白い広告、出とるか?」
「いや、特に目新しい情報はないかな。それより、俺が見てたのはこっち」
 指さされた先にあるのは求人情報。
「冬の間はそんなに農作業は出来ないんだって、この前言ってただろ?」
「せやけど、他に働きに出て欲しいなんてことまでは思てへんよ」
「でも、仕事が手伝えないんじゃ、ただの厄介者だろ。自分の食い扶持くらいはどっかで稼がないとと思ってさ」
「ビリー食べさすくらいは、ワイ一人でもどうにかなるんや」
 冬の間は農作業の時間が減る分、木を削って食器類や野生動物などの置物を作る。細かな細工を得意とするガイの作る、臨場感溢れる置物は、そこそこの値がつけられる事も多い。
 親はそっちの道へ進むことも勧めてくれたが、結局野菜を作る道を選んだことを、後悔したことはない。
「ただな、さすがに授業料まで捻出できるかが問題で……」
「授業料?」
「冬の間は暇になるやろ。せやから、学校、行かしたろ思てん」
「何言ってんだよガイ。そんな余裕、ないくせに」
「せやけど、少し切り詰めればなんとか……」
「ムリだって。ムチャして身体壊したら元も子もないだろ。ガイこそ、冬の間に少しゆっくりしたらいいよ。俺が、ガイの分まで稼いでやるから」
 胸を張るビリーに、ガイは小さく笑った。
「ガキが何言うとんの」
「大丈夫。いくつか、俺でも出来そうなバイトあったからさ。な、働きに出てもいいだろ?」
 こういうとき、ビリーには、ダメだと言わせない何かがあるとガイは思う。あの時、振り返ってビリーの手を取ってしまったように、自分の要求を押し切る強さのようなもの。
 それでも押し切られてしまうのは悔しくて、ガイは妥協案を提出することにした。
「学校にも通うて言うんやったら、ええよ」
「えっ?」
「そうやな。足りない分の授業料、自分で稼いでや。余った分は小遣いでええし」
「ちょっと待てよ。そんなことに金使ってる場合じゃないだろ?」
「せやから、食べるに困らんくらいの生活はできるて言うとるやろ。ワイは野菜しか作れん男とちゃうで?」
「炊事、洗濯、掃除、ガイより俺のが断然上手いと思うんだけど……」
「それはまた別!」
 学校へ行くならバイトを許可しても良いという点を譲らないガイに、結局ビリーも頷いた。
「ところで、欲しい物は買えたんか?」
「買えたよ」
「何買うたん?」
「それは明後日の夜までナイショ」
「それって……」
「ガイが、クローゼットの隅に、俺のためのクリスマスプレゼント隠してるの、知ってんだ」
 見ちゃってゴメンと謝りつつも、ビリーは楽しそうに笑った。

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