数歩さがって距離を置くと、彼はポケットから携帯を取り出し何かを操作した後、こちらに画面を向けてくる。時計のような03:00の表示を見て、タイマー機能なのだとすぐにわかった。
「きっちり3分。じゃあスタートするよ」
画面タッチでカウントが1つずつ下がっていく。携帯画面が気になって自分の視線は携帯に向いてしまうが、彼の視線がしっかりこちらを捉えているのはわかっていた。下がって距離を置いたのは、こちらの全身を見るためだったようだ。
じっと見られる恥ずかしさの中、残された時間はどんどんと減っていく。迷っている時間などなくて、二重留め式なコートのボタンをまずはすべて外した。
丈の長いベンチコートなので、下の方は軽く持ち上げながら外したが、裾から入り込む冷えた空気にゾワリと肌が粟立っていく。中が素肌だということを否応なく思い出させる冷たさに、続いてファスナーに伸ばした手は、やはり躊躇い止まってしまう。
チラリと見返す彼は黙ってこちらを見つめるままで、きっとそのタイマーが鳴るまでは口を開く気がない。決めるのはこちらなのだと突きつけられている。
どうせならお仕置きよりはご褒美が欲しいと思う。良く出来ましたと笑って欲しい。
なのにそう思う気持ちと裏腹に、体の動きは緩慢だ。指先が震えてしまって、ファスナーを何度も取り落とす。
携帯が3分経過を告げて小さく鳴ったのは、ファスナーを腹の辺りまで下ろした時だった。どうしてもその先には進めずに、時間切れになってしまった。
間に合わなかったと泣きたいような気持ちと、時間切れをホッとする気持ちとが混ざり合う。ファスナーを摘んだまま立ち尽くしていたら、携帯をしまった彼が数歩の距離を詰めてくる。
「時間切れだけど、まずは頑張ったご褒美を少しだけ」
言いながら伸びてきた手が頭に触れて、また撫でられるのかと思ったら引き寄せられてキスされた。
ただ触れて、最後にチュッと軽く吸われただけなのに、じわりと広がるシビレのようなもの。自分自身の性癖を確かめるためと、同性に惹かれる性癖を隠すために、何度か女の子と付き合ったこともあるから、キス程度は経験済みだけれど、キスだけで感じるなんてことはもちろん初めての経験だ。
驚きで呆然としていたら、またしても可愛いねと笑われた。
「残りのご褒美はホテル戻ってから。でもってこっからのは出来なかった分のお仕置き」
「えっ……」
「そう。ここで」
まさかこの場所で何かされるのかという焦りの気持ちは伝わったようで、言葉にはしなかったのに肯定の言葉が返されてしまった。
「お仕置きだから、動かずじっとしてなさい」
少し厳しく響いた声音に、緊張と戸惑いが走る。
「返事は?」
「は、はいっ」
「うん、いい子」
きつく問われて慌てて返事をすれば、そう言って柔らかに笑ってみせる。先ほどの雰囲気に戻って少しだけホッとする。
「まずはファスナー下ろすよ」
こちらの返事は待たず、残りのファスナーが腿の辺りまで下ろされてしまった。
「下着、ちゃんと着けずに来たんだね」
「はい」
「見せれなかったのは、勃っちゃってるのが恥ずかしかった?」
「……はい」
「じゃあ、触れてもないのにおっきくなっちゃったココに、お仕置きをあげようね」
「なに、を……」
さすがに不安すぎて逃げたくなる。股間に伸ばされた手に思わず腰を引いてしまったけれど、躊躇いの混じる抵抗などなんの意味もなく、ペニスは彼の手に掴まれてしまった。
「ううっ……」
触れられても感じるなんて余裕はまるでなく、ただひたすら恐怖で呻く。何も言わずに見つめてくる彼が怖くて、けれど彼の手を振りきってこの場から逃げ出すような真似はできっこない。
「お仕置きが怖いんだね」
ふふっと笑ったのは、彼の手の中のペニスがあからさまに固さを失くしてしまったからだろう。
「だっ、て……」
「怯える君も可愛いけど、そろそろホテルにも戻りたいし、手早く済ませちゃおう」
これを付けるだけだからと、ペニスを掴むのとは逆の手に握ったものを見せてくる。短めのゴム紐を輪にしたようなそれが何かわからずにいたら、ペニスリングの一種だよと教えてくれた。
コックタイと呼ぶようで、留め具で強さを調節できるのが特徴らしい。
「別に痛いようなものじゃないから大丈夫」
言いながら輪になった部分に玉袋と竿部分とを通して、根本をキュッと締められた。そうしてから、ファスナーを首まで上げて、丁寧にボタンも全部留めてくれる。
「さて、じゃあ行こうか。人も居ないし、手、つなぐ?」
恋人っぽくと笑われて頷けば、暖かな手が繋がれた。ギュッと握ってくる手の力に、股間の違和感は拭えないものの、なんだか少し安心した。
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