リバップル/向き不向き

 たっぷりと垂らしたローションの滑りを借りて、揃えた指先をゆっくりとねじ込んだ。
「ぁっ……」
 既にかなり慣らした後だが、さすがに3本はきついらしい。こらえきれなかった様子で吐き出す息に小さな音が混じった。
「痛い?」
「へ、…ぃき」
 だよな。とは言わずに埋めた指をソロリソロリと少しずつ引き抜いていけば、溢れる声を押さえるように、ギッと歯を食いしばるのがわかる。
「痛かったら言えよー。後、キモチイイも遠慮せず言って?」
 ゆっくりとした速度を変えず、それでも指の根元まで埋めては、指が抜けないギリギリまで引き抜く動作を続けていく。
 自分がこんなことをされたら焦れてたまらなくなって、もっと激しく動かしてくれとすぐにでもねだってしまうのに。想像するだけで尻の奥がキュウと窄まりうずく気さえする。
 もっと激しくなどと自分からねだれない相手は、熱い息を荒く吐き出すばかりだ。もちろん、眉を寄せるその表情が、必死で快楽をこらえているのだということは知っている。
「きもちぃからもっとして、っておねだりしてみ?」
「できる、かっ」
「こんなゆっくりじゃ焦れるばっかだろ?」
「おまぇが、な」
「まぁそれもあるけど。でもたまには俺もおねだりされたいし?」
 ハッと吐き出された息は笑いだ。ムッとして埋め込んだ指をグリグリとねじってやれば、やはり最初だけ音のある声が漏れて、けれどすぐにその口は閉ざされてしまう。
 おねだりできるまで挿れてやらないとか、動いてやらないとか、イかせないとか。そういった根比べは経験的に負けがわかっているし、こちらが抱かれる側になった時にやり返されるのもこれまた経験的に知っている。こちらが焦らした以上に焦らされ続けるのだからたまらない。
 いま出た笑いだって、また泣くまで焦らされたいのか、とでも思われたんだろう。
 泣いてねだっても直接的な刺激を与えてもらえず焦らされ続けた後の、頭のなかが真っ白になるような絶頂を思い出すと、尻の穴どころか腹の奥までキュウキュウと蠢くような気がした。
 肉体的な快楽を追求するなら、正直、抱かれる方があっているようにも思う。いま目の前に体を投げ出しているこの男に、すっかり開発されきったと言ってもいい。
 それでもやはり、自分が抱く側になりたい日もある。自分が男だということを確認したいのかもしれない。
 なし崩し的に受け入れてしまった関係だけれど、元来自分は異性愛者だ。この男が例外なだけで、性愛の対象はずっと女性だった。
 抱かれて感じてこの関係に慣れていく自分の体が怖くなって、女性を買って抱いていたこともある。それを知られた時、色々と話し合って、結局今の形に落ち着いた。
 すなわち、たまに今みたいに互いの立場を入れ替える。自分が抱く側になる。
 本当は自分も相手を前後不覚になるくらい感じさせてみたいのだけれど、自分も、そしてもちろん彼も、あまりそういうプレイは向かないらしい。逆だとあんなにしっくり嵌るのが悔しいけれど。
「おねだりしなくていいからさ、好きって言って?」
「好きだ」
 それはすぐに返された。荒い息に乗せて、言葉は途切れ途切れに続いていく。
「お前じゃなきゃ、こんなこと、させない」
「うん知ってる。ありがとう」
 言いながら指を引き抜いて、まずはキスを一つ。それからようやく、柔らかくほぐれて準備の整った彼の中に自身の性器を埋めていった。
「俺も、大好き。すごく好き。めちゃくちゃ愛してる」
 腰を揺すりながらそんな言葉を繰り返す。快楽の追求は彼に任せて、自分は愛を追求しようと思っていた。
 それに返る言葉はないけれど、声をかけるたびに頬の赤みが少しづつ増していく。恥ずかしさと嬉しさが混ざった様子の、少し困ったような顔にこちらの興奮も増していた。
 先程快楽をこらえていた時も眉を寄せた顔をしていたが、それよりずっとずっと可愛い顔だった。

 
 
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