「俺が相談したら、困らせたり、呆れられたり、その、きっと嫌な気持ちにさせる、から……」
何が怖いのと促す声が穏やかで優しかったから、釣られるように躊躇う理由を話してしまえば、やっぱり優しい声に、構わないよと返された。
困らせても、呆れさせても、嫌な気持ちにさせてもいい。だから聞かせてと促す声に、けれど首を横に振る。
「俺が、嫌なの」
「不快になっても絶対に怒ったりしない、って約束しても?」
「だって嫌なのは怒られることじゃないし……」
「つまり、俺を困らせたり、呆れさせたり、嫌な気持ちにさせることそのものが、怖くて嫌だって話?」
「話しても、俺が望むような反応、返ってこないのわかってるからヤダって話」
なるほどと言って、相手は口を閉ざして何かを考えている。でも考えたからって、喜べないだろうことをむりやり喜んで欲しいってわけではないし、どうにもならないと思う。
「あのさ、俺絡みの悩みで、俺に相談したくないってとこから、今からでも一緒に住みたいとか、もう一度抱いて欲しいとか、そういうお願い混じりの相談なんだろうって想像はついてるから言うけど、お前の話次第でそれも検討はする。って言ったら?」
やがて告げられた言葉に、こんどはこちらがなるほどと思う。さすがに口には出さなかったけれども。
なるほど。家を出た彼について行きたいとか、もう一度抱いてくれとか、一度はっきり断られた事を諦められていない、と思われていたのか。
「残念だけど、それハズレ」
「ハズレ?」
「そんなとこまで到達してない。出ていかれて寂しい気持ちをどうしたらいいのか、とは思うけど、どうしたら一緒に住めるかを考えたりはしなかった。俺を抱くのは苦しいばっかりだって言われたのに、どうしたらもう一度抱いて貰えるかと考えたりもしてない」
もう一緒に住めないことも、もう抱いて貰えないことも、納得は出来ている。新しい住所だって知っているけど、納得できているからこそ、一度も押しかけずに済んでいたのだと言えば、相手は眉を寄せて少し険しい顔になる。
「なら他に、お前が俺を困らせると思うような、何かってなんだ」
それはこちらへの質問というよりは、自身へ問いかける呟きだった。険しい顔も、予想が外れて、他に思い当たる何かを必至で探しているせいらしい。
「ねぇ、出ていかれて寂しい気持ち、どうしたらいい?」
「えっ?」
「困らせるような相談そのいちだよ」
さきほど既に口に出してしまったから、気づかないなら気づかせてやれと思った。
「そのうち慣れるかなって思ったけど、全然慣れないし、むしろどんどん寂しさが増してる気がするんだけど。俺は、どうしたらこの寂しさから開放されると思う?」
「それは、」
「ちなみに、打ち込める趣味を見つけるとか、寂しさを埋めてくれる誰かを見つけるとか、そういう助言は要らないから。てか既に試したから」
「試したのか!?」
「まぁ一般論として、そういう方法が有効らしいから。でもすぐ無理ってわかったし。というよりも、無理だってことを確かめるために試した感じだし」
何をしたって、誰と過ごしたって、彼のことがついてまわる。楽しかったことがあれば彼に話して聞かせたいと思ってしまうし、彼と一緒ならもっと楽しめるだろうとも思ってしまう。それに彼が望む想いをどうにか育てよう、なんて思っている身で、寂しさを埋めてくれる他の誰かなんて求められるはずもない。求めたいとも思わない。
この寂しさを埋められるのは彼しか居ない、と思い知るばかりで、それは寂しさが増していく結果ともなった。でも彼にこの寂しさを埋めてくれと頼む真似は出来ないし、どうすればいいのと相談したら困らせるのだってわかりきっていた。
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