理解できない26

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 しかしこちらの予想と違って、彼は困り顔というよりはいささかムッとした様子の、不愉快そうな顔を見せる。
「俺が家を出たって、一人じゃどうにも出来ない困りごとが起きたら、今まで通り頼っていいって言ったろ。寂しいから構えとか、遊べとか、どっか連れてけとか、言えばいい。お前からすりゃいきなり俺が家を出てったのは事実だし、気持ちの準備期間が足りなかったって言われりゃ納得だってするし、協力だってする」
「保護者も家族も卒業したって言った相手に、そんな風に甘えて困らせたくない、って話なんだけど」
「別に困りはしないけど」
 ムッとした様子はなくなって、今度は平然と言い募る。
「なんで? 俺が段階を踏んで自立できるように、まずは一番頼りにしていたあなたが物理的に距離を置く、ってことだと思ってたんだけど」
 なのに頼って甘えてしまったら意味がないでしょと言えば、当たってるけど急ぎ過ぎだと返された。
「段階を踏んで、ってところには、俺が家を出て距離が離れたって、お前が困ったら今まで通り助けるって分も含まれてんの。ついでに言うなら、俺が居なくて寂しいって理由はともかく、お前が俺に相談できなくて調子狂う日が来るだろうってのは、実のところ想定内でもある」
「は?」
「お前が自分から頼ってこれないのわかってるから、お前の様子があまりにおかしけりゃ、今回みたいに親から俺に連絡入るようになってんだよ」
「は?」
 なにそれ意味がわからない。呆然とするこちらに、相手は肩を竦めて見せる。
「俺から離れるのにだってそれなりに段階を踏む必要があるだろ。ってのは想定内だから、寂しいから構えってのも、特別困るようなお願いじゃないよって話」
「なにそれ。なんだそれ。そんなの聞いてないし、保護者も家族も卒業って言ったくせに」
「まぁそうは言ったけども、保護者や家族を卒業したって形をとったのはお前を抱くため、って意味合いが一番強いんだよ。三年以上同じ家に住んで面倒見てきた相手を、卒業って言葉とともに放り出す気なんてもともと無いし、俺が居なくなって寂しいって思って貰えるくらい、お前に慕われてた事を嬉しいとも思ってるよ」
 本気で嬉しげに笑われて、なのにこちらに湧くのは怒りと混乱だ。また泣いてしまいそうで、でも再度抱きしめられてあやされるのはもちろん嫌で、ギッと奥歯を噛みしめる。相手のことを睨みつける。
 相手は今度こそ、少しばかり困った顔を見せた。
「寂しいならいくらでも構ってやるよってのは、お前が期待するような返答とは違ったか?」
「わか、ない」
「わかんないってなんだよ」
「どう返されたら満足なのかなんて、考えたことないし」
 ふとした瞬間に、日々のあれこれを聞いて欲しいだとか、彼が一緒ならもっと楽しいだろうとか、そう考えて寂しくなることは多々あった。だから彼の返答はちゃんと的を得ていると言えるだろう。でも、寂しいならいくらでも構ってやると言われても、ちっとも嬉しくなかった。
 どう返されたかったんだろう。どう返されたら満足が行くんだろう。嬉しいと、思ったんだろう。
 けれどそれをじっくり考える時間はない。
「望むような反応が返らないから相談できない、って言ってただろ。てことは、俺に望む反応がはっきりあるって事じゃないのか?」
「それは……」
「そういや、困らせるような相談そのいち、とか言ってたか」
 相談そのには何だと問われたけれど、もちろん、もう一つ抱えている大きな問題を、このまま彼に相談するなんて真似は出来っこなかった。

続きました→

 
 
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