理解できない36

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 今はまだ気持ちを育てている段階で、きっと同じ好きが育つまで抱いてはくれない。抱いてくれとねだったり迫っても、なんだかんだと理由をつけて躱されるだろうと予測はついていた。
「俺に同じ好きが育つまで、待ちたいんでしょ?」
「そうしたい気持ちはあるけど、お前の気持ちを蔑ろにしたいわけでもないよ」
 交際を開始したら随分と消極的になってしまって心配なんだと言われた。必要だったにしろ、やや強引に家を出てしまったことを、どうやら気にしてもいるらしい。
「こう、って決めたことは貫いちゃうの知ってるから、何言ったって、どう誘ったって無駄。って思ってる部分は確かにあるかなぁ」
「うん、だから、そう思わせるくらい頑なだったことは認めるけど、高校生のお前相手にはどうしても必要だったからで、高校卒業して恋人って関係になった今、今までのせいでしたいことも言えない関係になってるってなら、それは改善していきたいと思ってる」
 早くもう一度抱いて欲しいって気持ちはもちろんあるけれど、困らせたいわけではなかったし、とりあえず恋人の座を手にしたことで焦る気持ちもなかった。彼がそう決めているのなら、自分の欲求を満たすために誘いをかけてもあしらわれるのは目に見えていたし、だったら今は自分の気持ちを育てる方に集中しておけばいいと思っていた。というだけなんだけれど。
 高校時代、めげずに彼を誘い続けて、高校卒業したらするという言葉をもぎ取り安心するような真似が当たり前だったからか、今の自分の態度が、彼からすると不可解なようだ。
 いやでもちょっと待って欲しい。それを気持ちを試す行為だと指摘し、気持ちを疑われて試されるのは不快だったかもと思い至らせたのは彼だ。
「つまり、俺の気持ちを試す必要は感じてない?」
「そう、だね。というか恋人として、十分構って貰ってるし」
 なんせ今だって、彼に背中から抱きしめらたままでいる。どれくらい先かはわからないけど、この関係が育った先に、セックスはあると疑っていない。
「まぁ、気持ちが充分育ったはずなのに、いつまでも二回目がなかったら、いつになったら抱いてくれんのって言い出したりするかもしれないけど」
「なるほど。じゃあ、どうせ俺が頷かないから諦めきってて、抱いてくれって言えないわけじゃない?」
「抱かれたくて仕方ないのを我慢してる、ってわけではないかな」
 でも今すぐ抱いてくれるならそれはそれで嬉しい。とも付け加えたけれど、相手はせっかくだから楽しみに待つよと言った。楽しみにと言いながらも、ほんのりと落胆を混ぜたような声だと思った。
「もしかして、しつこく抱いて欲しいって繰り返しねだられたかったりする?」
「そういうわけではないけど、きっとお前が考えてるよりずっと、俺はお前を、早くもう一度抱きたい、って思ってるよ」
「ぇひぁっ!?」
 ええっ!? と驚きの声を上げるはずが、うなじにチュッと落ちた唇がそのまま肌を吸い上げていくのに更に驚いて、結果、妙な声を上げてしまった。
「あー……」
 明らかに不満の声まじりな大きいため息を首元で吐かれて、ちょっとわけがわからない。
「え、ちょっ、いったい何?」
「このままもうちょっと手ぇ出したい気持ちと、それやったらお前に今すぐ抱いてくれるんじゃって期待させそうな躊躇いと、うっかりその期待に応えそうな恐怖。との葛藤」
「このまま手ぇ出しやすいように、誘惑してあげようか」
「嫌だ。お前の気持ちが育つのを楽しみ待つんだ」
 はっきりきっぱり言い切られて、一旦彼の腕の中から開放されてしまったけれど、こんなことをされたら尚更、気持ちを試す必要なんて全然ないよなと思う。早くもう一度抱かれたい気持ちは間違いなくあるけれど、じっくり気持ちを育てて、いっそ我慢できないくらい彼を欲しくなってからでもいいような気がしてしまった。
 高校時代散々焦らされたのだから、今度は自分が焦らしてやりたい、みたいな気持ちが湧いてしまったことは認める。

続きました→

 
 
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