キュッと唇を引き結べば、ふーんの声と共に、ジロジロと見られる視線を感じる。ドキドキが加速していくのは、もちろん期待や興奮ではなくて、きっと緊張だとか焦りに違いない。
未だ視線を逸らしているせいか、彼の顔がグッと寄せられてくる。無理矢理にでも目を合わせようとしているのかと思って、咄嗟に目を閉じてしまえば、そのまま口を塞がれた。
キスをされるような雰囲気ではなかったと思う。しかも、口を開けと言わんばかりに閉じた唇の隙間を相手の舌が舐め突いてくるから、迎え入れるように口を開きながらも、何が起きているんだと脳内は結構混乱していた。
スキンシップが増えるのに合わせて、キスをすることだって増えたけれど、スキンシップの延長だからか、唇が触れ合うだけみたいなキスも多かった。たまに悪戯するみたいに舌が触れ合うこともあったけれど、相手の欲を感じるほどの深さになったことはない。
そのことに不満を感じたことはない。高校時代は彼の唇が自分の体のどこかに触れるってこと自体がほぼなかったのだから、その彼と唇同士触れ合わせるキスをしてるってだけでも充分に特別を感じられたし、自分たちが恋人だということを意識できた。
つまり、完全に二人きり同様に、こんなキスもあのラブホ以来だった。でもあの時みたいに、体の力を抜いて彼に体を預けられない。気持ちよくなることに集中できない。
なのに相手はお構いなしに口の中を好き勝手弄ってくるし、服の裾を捲るようにして、彼の手が入り込んでもくる。素肌に彼の手が触れる。
驚いて体が跳ねた。ますます混乱して、焦って、どうしていいかわからない。
「なぁ、嫌なら少しくらいは抵抗してくれ」
やがて相手の顔が離れていき、やっとキスから開放されたとホッとする間もなく、どこか困った様子の声が掛けられ目を開けた。声だけじゃなく、顔も心配と困惑を混ぜたみたいな表情をしている。
「別に、やだったわけじゃ……」
「でも全く乗り気じゃないのは事実だろ?」
積極的に触れに行っても、全く喜ぶ様子がなかった。という指摘に、そんなことないよと言える態度じゃなかったのは認めるしか無い。
「だってどうすればいいのかわかんなくて……」
「うん。だからそれ、お前が何か変なこと企んでるせいだろ?」
その指摘にも当然、違うとは言えなかった。
「どうしても言いたくないなら、もう暫く聞かずに居てやってもいいけどさ。でも幾つか確認させてくれ」
「確認?」
「そう。俺と恋人になったのを後悔してるとか、恋人やめたいとか、思ってない?」
「思ってない! 思ってるはずないっ!」
慌てて否定する声は思っていたよりずっと大きかったのか、驚いた相手が体を反らす。そうして離れた距離を縮めるように、今度はこちらから身を寄せてギュッと抱きついた。
「恋人やめるとか、言わないで」
「そんなこと言ってないし、言う気もないし、思ってもないって」
呆れたような声は同時に笑いも含んでいて、優しく背中を撫でられる。
「というか、どっちかというと、それは俺が言うはずだったんだけど」
恋人やめるとか言うなよと耳元で甘く囁かれて、同じように、そんなこと言う気もないし思ってもないと返してやった。
「良かった。でさ、乗り気じゃないってなら待つのは全然構わないんだけど、」
「え、全然構わないの?」
がばっと相手から身を離して、その顔をまじまじと見つめてしまう。相手はこちらの勢いに驚きの表情を見せてはいるが、吐き出す声は至って平静だった。
「構わないよ。てかそこに引っかかんの?」
相変わらず気にする所が想定外と言われてしまったけれど、待たされても全然平気とか言われているに等しいそれを、気にせずにはいられない。
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