彼の言いたいことは多分わかってる。好きな相手、というのを、彼が酷く純粋に捉えているのもわかっている。
好きな相手とはセックスしたいものだと言ったけれど、性欲を発散する目的でだってセックスするし、どちらかと言えばここ数年はそんなセックスしかしていなかった。キスをして、好きだとか可愛いとか魅力的だとか囁いて、互いの興奮を煽る真似を楽しむことはしても、好きな相手と肌を触れ合わせて体を繋ぐ喜びなんてものとは久しく縁がない。
気の合う仲間とパーティーを組んではいたが、その中に恋人と呼ぶような存在は居なかったし、一つの街に拠点をおいての活動でもなかったから、夜を共にしてくれる相手はそのつど探していた。
そう思うと、決まった一人の相手と長期に渡って何度も繰り返すセックスなんて本当に久々で、だから妙な情が湧いているだけなのかもしれない。この酷く狭い世界に繋がる、数少ない相手を必死で引き留めようとしているだけで、相手を選び放題の環境なら、世話係の彼も食事担当の彼も全く魅力的には思えないのかもしれない。
そんなことはないと思うけれど、胸を張って言い切れないのは、そうじゃない場合を実際には経験できないからだ。
こんな体でなければ、こんな幽閉生活でなければ……
でも、そんなたられば話は意味がない。今現在この体は彼らの唾液や精液を美味いと感じてしまうし、モルモットとしては間違いなく高待遇だが、彼らとしか関われない生活を強いられている事実も変わらない。
「好きの意味、違ったらダメなのか?」
「え?」
「意味違ったって、お前のことを好きは好き。お前と過ごす時間が長いから、お前のことが好き。お前が繁殖期に入って発情したら、抱いてくれないかなって思うくらいには好き」
俺を抱くのは無理かと聞いたら、それには迷うこと無く首を振られて否定されたから、それだけで酷く安心した。
「なら、お前の繁殖期に、俺がまだ生きてここに居たら、その時は抱いてくれ」
「約束安心するなら、約束する、出来る。でも約束する、あまり良くない、思う」
「なんで?」
「お前、俺好き、思われる」
「好きだよ?」
「それ違う、好き。でも俺、お前に話す、出来ない」
好きの意味の違いをはっきり説明できないということかと思ったら、彼らの繁殖に関わる話だから、これ以上詳しく話せないということらしい。人である自分が、どのように扱われるかも彼には全くわからないから、これ以上は食事担当の彼に聞いてみて欲しいと言われたけれど、その彼と次にいつ会えるのかがさっぱりわからない。
しかも彼が来るのは食事のためだし、前回の妙な誤解を考えると、世話係の彼が繁殖期になった時に抱いてもらう約束をしてはいけない理由なんてかなり聞きにくい。それに彼を好きと思われるのが問題みたいな感じだったけれど、既に食事担当の彼にはそう思われている。もちろん、正しい意味の方の好きで。
「そういやさっき、飯係のアイツの代わりにとか言ってたけど、俺の、お前の言う違ってない方の好きな相手、アイツって思ってる? ちなみに、アイツは俺の本命がお前って思ってて、俺が本当に食べたいと思ってるのも、好きって言われたいのも、言いたいのも、世話係のお前のほうって言われてんだけど」
言ってみたら珍しく少し怒ったような顔をして、それから大きくため息を吐き出した。
「お前、一人寂しい。俺言う。でもわかってない多い。お前、俺を好き思う、仕方ない。あの人を好きになる、当たり前」
食事担当の彼を好きになるのも当たり前だと断言されて、また少しホッとしたような気がする。
「お前からすると、お前を好きって気持ちとアイツを好きって気持ちにそう差はない感じ? 寂しいから、セックスして好きって思っちゃうみたいなさ」
しかし肯定してくれるのかと思ったら、そこは首を振られてしまった。
「食事内容、俺、あまり知らない。好きになる当たり前。でも、どの好きか、俺、わからない。ただ、お前もっと来て欲しい思う、知ってる。食事だけ寂しい、知ってる」
さすが毎日のように顔を合わせている相手は違う。もちろん、彼の観察眼が鋭いというのもあるのだろうけれど。
「お前が俺の世話係で、良かったなって、思うよ」
「俺、同じ。お前の世話係、なった、良かった」
彼には触れずに布団の上に落としていた手をスルスルと滑らせて、彼の手をそっと握ってみた。一瞬ピクリと跳ねたけれど、いつもみたいに酷い緊張は伝わってこない。
緩く握り返される感触に安堵しつつ目を閉じれば、あっさり意識が眠りに落ちた。
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