前世の記憶なんて無いけど3(終)

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 眼下にしっとりとして膨らみの半減した尻尾が、戸惑うように震えている。付け根から毛並みに沿うように撫でてやれば、気持ち良さげな吐息をこぼしながら、後孔をきゅうきゅうと締め付けてくる。
「ぁ、ぁ、ぁあ」
「気持ちよさそ。そろそろ尻尾でイケんじゃない?」
 勝手にお尻振っちゃダメだよと言いながら、腰は動かしてやらずに、尻尾だけを何度も撫でた。
「や、ぁ、むり、むり、ですっ」
「そう言わずに、もーちょい頑張ろうよ。ねっ」
 しつこく尻尾を撫でながら、尾の先を持ち上げそこにペロリと舌を這わせた。
「ひっ、ぁっ、だめだめだめ」
 怯えた声音のダメを無視して、尻尾の先を咥えてちゅうちゅう吸ってやれば、びくびくと体を震わせてとうとう絶頂してしまう。
「ほら、できた。お前は本当に可愛いね」
「ぁ、……ぁぁ……」
 いいこいいこと褒めるように更に尻尾を数度撫でてやってから、ようやく尻尾を開放して相手の腰を両手で掴んだ。
「じゃ、尻尾でもイケるようになったご褒美タイムといこうか」
 好きなだけイッていいからねと告げて、ぐっと引いた腰を勢いよく叩きつける。
「ぁあああっ」
 相手の体が仰け反って痙攣し、敏感になっている体は、その一撃だけで軽く達してしまったらしかった。しかしもちろん、手を緩めてやるようなことはしない。
 そのまま激しく腰を振って追い詰めていく。
 相手の体のことは知り尽くしている。彼の性感帯を一から全て開発し、慣らし、躾けてきたのは、前世の自分と今の自分だからだ。一途な彼は、生まれ変わりを待つ間も、その体を誰にも触れさせずに来たらしい。本当に、どこまでも可愛い男だった。
 さて今日はあとどれくらい、人型を保てていられるだろうか。性も根も尽き果てて、人のカタチすら保てず晒すケモノの姿が、酷く愛しくてたまらなかった。
 なんせ、初めてその姿を晒させた時、それが引き金になって前世の記憶を取り戻したくらいだ。
 前世の記憶が戻ったせいで、その後しばらくあれこれと揉めたけれど、結果だけ言えば、恋人にはなれた。というか恋人どころか、指輪を与えて便宜上嫁にした。前世からの主従関係が生きている以上、相手はこちらに逆らえないのだから当然の結果だ。
 むりやり得た関係が虚しくはないのかと思うかもしれないが、そんなことは欠片も思っていない。
 記憶は戻ったが、自分たちの関係まで丸っと全て過去に戻ったわけじゃない。記憶が戻ったので、全くなんの力もないただの人の子、よりは多少マシではあるけれど、それでも、知識があるだけの大した力も持たないただの人の子だ。
 そこには以前あった柵はなく、あるのは、彼が延々と待ち続けてむりやり繋いだ二人だけの縁なのに。
 自分たちがツガイとなったところで、誰も咎めはしないだろう。事実、記憶が戻って、彼とツガイとなってからも、なんの干渉も起きていない。まぁ、様子見、という可能性も高そうだけれど。
「あぁ……ァぁ…………ハァ、ハァ……」
 布団の上に伏した体がとうとう狐の姿となり、目は閉じられ、開いた口から荒い息だけを漏らしている。覆いかぶさるように、しっとりと濡れた毛皮をギュッと抱きしめ、最後の一発を注いでやってからそっと繋がりを解いた。
 ホッとしたように息を吐いて、そのまま寝落ちてしまった体を、なんども優しく撫でてやる。
 いつの間にやら外はすっかり明るくなっていて、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。毛皮を撫でるのにあわせ、差し込んだ朝日の下でキラと相手の毛皮が光ったように見えたが、正確には光ったのは毛皮ではなく、毛皮に埋もれているチェーンのネックレスだ。
 こうして、人型が保てない程に抱いてしまう時があるから、指に通すことが出来ないだけで、そのチェーンには与えた指輪が通されている。毛皮の中からツツッとその指輪を引き出してやれば、まるで輝かしい未来を指し示してでも居るように、銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。

 
 
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