彼の腕の中で、好きだ好きだと繰り返す。そのたびに頷かれて、同じ数だけ好きだと返されて、嬉しさでボロボロと泣いてしまうのをさすがに少し心配されたけれど、これが嬉し泣きだってことは多分ちゃんと伝えられたと思う。
この一年近く、自分ひとりの片想いが辛くて辛くて仕方がなかった。自分が想うのと同じくらい、彼にも想われたかった。でももうわかった。こうして抱かれることで思い知った。
自分たちはやっぱりちゃんと両想いなんだって事を、もう疑ったりするのはやめようって思った。こうしてちゃんと、欲しがられているのがわかったから。こちらがして欲しいからではなく、彼自身の気持ちから、どうしても抱きたいんだって言ってくれたから。恋人としての触れ合いなんか無くても、自分が彼から離れていくことさえなければ、彼は満足なのかなって思っていた部分はたしかにあったと思う。でも今日、恋人になったからこそ欲しいと思ってしまう触れ合いを求めているのは、自分だけじゃないってはっきりわかった。
彼の執着がドロドロのキモくて怖いものだとしたって、そこまで恐れる必要なんてないんだってことも、わかったと思う。だって彼は、彼の中の化物がこちらに牙を剥かないようにと、かなり必死に、もの凄く気をつけてくれているみたいだ。彼が自分にと向けてくれる優しさは、間違いなく本物だった。
こちらをギュッと抱きしめて、何度も好きだと繰り返してくれる彼の息が、乱れている。本当に、優しい。
「いつまでもグズグズ泣いててゴメン。辛くて泣いてるわけじゃないから。大丈夫だから、続き、して」
お前のほうがずっと辛そうだよと、うっすら笑って告げれば、相手もどこか気まずそうに笑いながら、実は結構限界ギリギリでヤバかったなんてことを言う。
「ありがと。ホント、大好き。だから、……ぁ、……ぁあっ」
動いてって口に出す前に、ゆっくりと体を揺すられた。とはいえ様子を見るようにゆるやかに揺らされていたのは僅かな時間だけで、ゴメンもう無理って宣言の後は、けっこうガツガツ貪られてしまったのだけれど。でもそんな時でさえ、酷い声で泣き喘がされながらも、間違いなく幸せだった。
トロトロとした幸せな微睡みから目覚めたのは夕方近くで、部屋の中からでも、外が薄っすらと暮れかけているのがわかる。慌てて体を起こそうとして、体に走った痛みにあっさり撃沈した。やはりさっきの行為で、体にはかなりの負担が掛かっていたようだ。
「おい、大丈夫か?」
こちらの呻き声に反応して、すぐさま飛んできた声の主は当然彼なのだけれど、その声が発せられたのは自分の隣からではなく、勉強机が置かれた辺りからだった。というか、机の椅子に腰掛けて、勝手に漫画を読んでたらしい。
「なんで、隣に、いないの?」
「え?」
「けっこう寝ちゃってたみたいだから、暇持て余したんだろうし、帰らなかっただけマシかもだし、マンガ読むなとは言わないけど。でも初めて抱き合った後だよ? 目が覚めた時に、すぐに触れるくらい、もっと近くに居てほしかったんだけど」
「あー……それは、先に言ってて欲しかった」
「いやゴメン。変なこと言って」
幸せを引きずって酷く甘ったれた気持ちのまま、ついつい口に出してしまったという自覚はあった。
「そうじゃなくて」
椅子から立ち上がって短な距離を歩いてきた相手が、そのまま布団の中に潜ってくる。
「言っててくれたら、ガッカリさせなくてすんだのにってだけ。で、やっぱ体痛いか?」
布団に潜ってきながらも相手から触ってこないのは、どうやらさっきあからさまに呻いたせいらしい。
「ゆっくり動けばそうでもない。と、思う」
「触っていいのか?」
「いいよ。というか、撫でられたいしギュッてされたい」
言いながら、なんか随分恥ずかしいことをあっさり口に出してないかと、ふと我に返ってしまって顔が熱くなっていく。
「照れんな」
「無理です」
「なんで敬語」
「恥ずかしいから」
「今の会話の、どこが恥ずかしかったのか、全くわかんねぇんだけど」
そりゃあね。あれだけ泣き顔晒しながらガッツリ抱かれたくせに、撫でてとか抱きしめてとか言うのが恥ずかしいなんて気持ち、わからなくても仕方ないけど。
「ただまぁ、俺は嬉しい、かな」
「え、何が?」
「お前が俺に触ってって、自分から言ってくれるのが」
「そういうもん?」
「この前、頼んで触ってもらうのなんて惨めだとか言われたから」
「あー……うん、それはもう、ないと思う。けど、自分からしてってお願いするの、普通にかなり恥ずかしいよ?」
「そういうもん?」
「そういうもんです」
ふーんと納得してるのかしてないのかわからない様子を見せながら、それでも優しく髪を梳くように頭を撫でられて、うっとりと目を閉じる。
「寝るなよ?」
またウトウトと微睡みに落ちていこうとしたら、優しい手つきで眠りを誘っている本人から、そんな忠告を受けてしまった。
「というかそろそろ起きないと、おばさん帰ってきそうなんだけど」
「あっ……」
そうだったと思って慌てて重い瞼を押し上げる。さっき慌てて体を起こそうとしてしまったのも、今が何時か確かめるためだった。
「何時?」
「まだ一時間弱はあるから慌てる必要ない。けど、もっかい寝るのはマズい。多分」
「だな。てか考えたら、昼食いそびれて腹減ってる」
母が用意していった昼飯が、手付かずでそのまま残ってるってのも、色々マズい気配しかない。この時間を手放すのはかなり惜しいけれど、でももう本当に起きないと。
そう思いながらも名残を惜しむみたいに、あともう五分だけって思いながら、ギュッと相手の体に抱きついた。
<終>
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