親切なお隣さん15

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 しかもなぜか、お隣さんは弟に取り込まれていない。お隣さんだって、弟に会ったら弟の味方になるんだろうって思ってたのに。
 信じられない気持ちもあるが、弟が不機嫌な声と態度で、お隣さんをあからさまに邪険にしていたのも事実だ。だからきっと、嫌われたと言ったお隣さんの言葉も嘘じゃない。
 いったい二人の間で、何があったんだろう?
 知りたいけれど、知らないままで居たい気もする。
「無理に引き止める気はないんだけど、一緒に食べていくのはどう?」
 弟と睨み合う中、緊迫感のない声を挟んできたのはもちろんお隣さんだった。
「お正月でちょっと奮発して色々買い込んだし、食材足りないってことはないよね?」
 足りないどころか、実はちょっと持て余し気味にある。
 家でも持ち帰った仕事をしてることが多いお隣さんだけど、さすがに年末年始くらいはちゃんと休むつもりだと言って、ここ数回の買い出しに付いてきていたせいだ。
 行き先はスーパーだけど、わざわざバイト帰りに待ち合わせているのと、お隣さんがやけに楽しげにするせいで、まるでデートでもしてるみたいな錯覚を覚えたのが少しばかり恥ずかしい。
 もしかしたら、欲求不満が溜まって、そんな錯覚を起こしているのかも知れない。お隣さんに抱いて欲しい気持ちはあるものの、結局、お隣さんに向かってはっきり口に出せてはいなかった。
 何度か口に出し掛けてるけれど、最後の最後で飲み込んでしまう。だって困らせるかやんわり断られる想像しか出来ない。抱いて貰える未来が見えなくて怖気づいてしまう。
「まぁ、金払ってるのアンタだし、アンタがこいつにも振る舞えってなら」
 手間はたいして変わらない、と返しながら、一旦お隣さんに向けていた視線を弟に戻せば、弟はますます嫌そうに顔をしかめている。
「どうすんの? 一緒に食ってく?」
「ここで作るのは許可してやるけど、食うのは兄貴の部屋で二人でがいい」
「却下」
「なんでだよ。飯代浮かすために飯炊きやってるだけなら、ここで食う必要なんてないだろ」
「アホかよ。飯代浮かすためだけでこんなの続けてるわけないだろ」
「じゃあなんだっつうの?」
 まず第一に、お隣さんの部屋のが圧倒的に居心地がいい。既に部屋の中は空調が効いて暖かいし、コタツもあるし加湿器だって大きめのが稼働してる。まだ兄の部屋の実態を知らない弟にはわかるはずもないが、快適さが段違いだ。
 次に、作ったものを幸せそうに食べてくれること。美味しいとかありがとうとか、たくさん言葉にしてくれること。相手の役に立てている実感も、相手から伝わってくる好意も、既にたくさん貰ってるけど、足りないってわけじゃないんだけど、でも、いくらだって欲しいと思ってしまう。だから貰える機会を自ら逃す気なんかない。
「俺がここでお隣さんと一緒に飯食いたいから」
「は?」
 意味がわからないという顔をされて、そりゃお前にはわからないよな、と思ったら、なんだかもう色々と面倒になってしまった。
「だいたい、お前と一緒に飯食って何が楽しいの?」
「なんだって?」
 聞き捨てならないと言いたげにまた睨まれたけれど、やっぱり気持ちは落ち着いている。
 実家にいた頃、どんな気持ちで家族の分まで食事を用意してたか、どんな気持ちで一人きりな食事をしてたか。ついお隣さんと比べてしまって苦しい思いをしたこともあったけれど、毎日幸せな食卓を囲んでいるうちに、そんな過去はすっかり忘れ去っていた。
 もう、思い出すことなんて殆どなかったのに。今またそれを苦々しく思い出してしまうのは、弟と一緒に食卓を囲む想像をしてしまったせいなんだろう。
 よくまぁ二人で食べたいなんて言えたもんだ。
「この人と一緒に食べるほうが絶対楽しいし、正直言って、お前、おじゃま虫なんだよ。そうだ。飯出来たら運んでやるから、お前、俺の部屋で一人で食えよ」
 ポケットを探って自宅の鍵を取り出し、弟に向かって放ってやる。けれどそれは受け止められることなく、弟の腹あたりに当たってから床に落ちた。

続きました→

 
 
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