親切なお隣さん24

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*前回ラストを少し書き換えました(全部玄関先でのやり取りとなるように変更)

 お茶を淹れて部屋に戻れば、神妙な顔をしてコタツで待っていたお隣さんが、ぱっと顔を上げてありがとうと笑った。
「こっちこそ、さっきはホント、ありがとうございました」
「うん。というか、俺の行動は間違ってなかった……んだよね?」
 兄弟での話し合いに思いっきり割り込んだ形になったともうんだけど、と心配されて、間違ってなかったですよと肯定する。
「もう話し合いとか言える状況じゃなかったすから」
「一応聞くけど、殴り合いみたいなことにはなってないよね?」
 普通に動けてるみたいだけど見えないところにも怪我してないよね? と確かめられて、大丈夫だと返す。
「ならいい。安心した」
 今度こそ本気で安心したのか、お隣さんから緊張が抜けていく。そこまで心配させていたのかと、なんだか少し申し訳ない。
「ちょっと派手に音鳴ってたし、その直前に怒鳴り合ってるみたいな雰囲気もあったから」
 弟の下から逃れようと、バタバタと足を振り回して藻掻いていたせいだろうか。
「何が起きてるのか心配してたんだけど、その、聞いてもいいんだよね?」
 そう促されて、こちらも覚悟を決めつつ口を開く。
「あー……その、ちょっと言いにくいんすけど、弟に襲われかけてて」
「は? えっ!? 襲っ? えっ!?」
 多分お隣さんが欠片も想定してなかった話だろう。
「な、なんでそんなことに? え、やっぱ弟くんって……」
 最後言葉を濁されたけど、聞きたいことはわかった。
「俺を好きでってのは多分ないっす」
「え? ええっ」
「けど、自分を好きでいろ、みたいな気持ちはあったのかも?」
「自分を好きでいろ……?」
 お隣さんの混乱が伝わってきて、こんなときなのになんだか少し笑えてくる。
「俺がアンタを好きで、アンタのためにって色々尽くしてるのが気に入らない。って言ったらわかります?」
「それは、まぁ。でもそれは結局、君のことが好きだからそうなるわけじゃなく?」
「いや、なんていうか、家族は自分に尽くすのが当たり前、みたいな生活してる奴なんで。というかちょっと特殊な環境で育ってると言うか」
「ああ、うん。なるほど」
 そこだけ随分あっさり納得するんだな、と思ったそばから、弟のやってる競技の名前が相手の口から漏れてきて盛大に驚く。ついでに、かなり小さな頃から大会とかで成績残してるらしいね、と経歴まで指摘されて更に驚いた。
「え、ええっ、なんで知って? てかアイツが自分で言いました?」
「ごめん。名前は聞いたから検索かけた。本名でやってるSNSとか何か引っかかるかなって思ったけど、想定外の情報が引っかかっちゃった」
 本名でやってるSNSもあったよと言われて、知ってますと返しながら、そういう知られ方もあるのかとぼんやり思う。ほんのりと胸が痛いのは、知られた結果、相手の弟への評価がどう変わるのかを考えてしまうからだろう。
「もしかして知られたくなかった?」
「あ、いや……あー……」
「ごめん。家族の話避けてるのわかってるのに、勝手に探るようなことしちゃって。ホント、ごめん」
「いやいやいや。謝らないでください。俺としては、今日見せてたアレが弟の本性っていうか、もし万が一、アンタ相手に愛想振りまきだしても、それは俺との仲を壊したいからだって知ってて貰えれば。てかその、俺よりアイツがいいとか言わないでくれれば。というか知っててそれでも俺を助けに来てくれたってだけでもう充分っていうか」
「待って待って待って」
 落ち着いて。一度口を閉じて。と促されて口を閉じれば、出口をなくした何かが胸の底からせり上がってきて、じわりと視界が霞んでいく。
 そんな滲んだ視界の中、お隣さんが慌てた様子で立ち上がるのが見える。そんなに慌てなくても、と笑ってやりたいのに、開いた口からは掠れた息しか漏れなかった。
「ゴメン。大丈夫。おれが好きになったのは君で、弟くんはなんの関係もないよ。だから大丈夫。君の凄いところも素敵なところも可愛いところもちゃんと知ってる。俺が結婚なんて単語を使ってまでずっと一緒に居たいと思った相手は君だけだし、それは今も変わってない」
 君のことが大好きだよ、と囁いてくれる腕の中は暖かくて、しがみつくみたいに抱き返してその胸に顔を押し付けた。

続きました→

 
 
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