親切なお隣さん28

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 帰る間際に触れるだけのキスしかしてこなかったから、部屋の中でするのも、キスで一旦お別れにならないのも初めてだし、確かめるみたいに何度も繰り返し触れてくるキスも初めてだった。
 ただ、口をゆるく解いて待っても舌が伸びてくることはなかったから、焦れてこちらから舌を差し出す。弟相手には必死で拒んだけれど、この人とならもっと深くで触れ合いたい。
 舌で相手の唇に触れれば、最初は戸惑う気配があったけれど、でもキスは終わりにならなかったし、伸ばした舌は相手の口内に迎え入れられた。
 チュッと吸われるのも、甘く噛まれるのも。腰の辺りがゾワッとするくらいに気持ちがいい。でもそうやって舌を差し出し続けると、息をするのが少し難しい。
「んっ、んっ」
 甘く鼻が鳴ってしまって、相手が笑う気配がしたかと思うと、今度はこちらの舌に沿って相手の舌が口の中に入ってくる。舌先ではなく舌の根元や歯列やら上顎やらを相手の舌で撫でられるのは、さっき以上に腰が痺れた。
「んぁっ、ぁ、ん、んっ」
 気持ちが良くて、興奮して、その先を期待したくなる。ねだるみたいに鼻を鳴らしてしまう。
 やっぱり抱かれてみたいし、無理ならせめて、手で触れてくれないだろうか。そんな気持ちで、相手の股間に手を伸ばした。
 当然、相手も同じように興奮しているのか確かめたかったのもある。相手だって既にかなりラフな部屋着だから、触れた先の熱はわかりやすかった。
 触れることで刺激されて、相手もその先を望んでくれないだろうか。という下心ももちろんあったから、確かめるみたいにその形をなぞってみた。
 なのに、結果は自分が望むものとは真逆になった。つまりは、キスが終わってしまった。
「っはぁ、ここまでに、しようか」
 相手がこぼす息だって、充分に熱を帯びているのに。
「やだ」
「さっき君だって、ここじゃやれないって言ったのに?」
「抱いてくれるまではしなくて、いい」
「うーん……」
 それくらいなら応じてくれるかと思ったのに、相手はやはり乗り気ではなかった。
「それもダメ?」
「だって君、あー……いや」
「なんすか。気になる」
 言って良いのかを躊躇う気配に先を促せば、相手は小さな溜め息を一つ吐いてから口を開く。
「その、君、ひとりエッチの時、そこそこ声でちゃうタイプでしょ」
「……えっ?」
「こっちも寝るつもりで静かにしてるとさ、わかっちゃうこと、あるんだよね」
 そっちの壁押入れとかないから余計に聞こえちゃうんだろう、とか。でもさっきは揉めてるのがわかりやすくて助かった、とか。
 なんか言い訳っぽい言葉が続いていたけど。
「え……?」
 相手の顔をまじまじと見つめてしまえば、気まずそうに視線を逸らされてしまった。
「まじ、で?」
「うん、まぁ、マジで」
 視線は逸らしたままだけど、すぐにはっきり肯定されてしまう。
 マジなんだ、と思ったら、いっきに顔が熱くなる気がした。
「う……あ……ど、どこまで……?」
「いやさすがに気配でわかるってだけだけど。それ聞くってことは、おれの名前でも呼んでくれてた?」
 完全にやぶ蛇だった。
「うああ……」
「嬉しいから大丈夫。それに」
 声を潜めて耳元で。
「君がオナニーしてるの想像して、おれも興奮したことがあるよ」
 だからそんなに恥ずかしがらなくていいし困らないでって言われたけど、恥ずかしすぎるとか知られててどうしようとかの他に、気になっていることが一つある。というか確信していることが一つある。
 言うかどうか迷って、でもさっき、男同士の知識がどこまであってどこまで想定してるかわからないからダメって言われたのを思い出して、思い切って口を開いた。
「あの、聞こえてた頻度って、どれくらい、すか?」
「え、頻度?」
「週に何回くらい、みたいな」
「いやそこまで頻繁には。初めて気づいた頃からは増えてるけど、でもほら、おれが慣れて察知しやすくなっただけって可能性もあるし」
「それ多分、聞こえてたっての、アナニーしてた時っす」
「え?」
「手で抜くだけのオナニーならもっと頻繁に、というか1週間も禁欲とか無理なんで」
「え、えっ?」
「なんで、抱かれるまでしなければ、エロいことしてるってバレるほど声、ださないと思います」
「待って待って待って」
「あんたに抱いて欲しくて、自分でお尻、弄ってんすよ。アイツにはそれを知られたから、抱いてやるって話になった。って言ったら、信じます?」
「待ってって言ってるのに〜」
 ビックリしすぎて処理しきれないよと嘆かれたので、そこで一度口を閉じた。

続きました→

 
 
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