友人だと思ってた新郎が最低野郎だった件

 大学で同じサークルだった友人の結婚式には、当然、サークル仲間が何人も招待されていた。2つのテーブルに分けて座ったその席に、なぜか、知らない男が一人混ざり込んでいる。
 席次表を確認すると、どうやら高校時代の友人らしく、他に高校からの友人は参列していないようだ。
 ちょうど隣の席に座ったその男は随分と居心地が悪そうにしていたので、軽い気持ちで声をかけてみたのだが、ひどく動揺された上にしどろもどろに狼狽えた反応をされて、早々に会話を諦めた。
 少し青ざめてすらいる姿に、可哀想だなと思ってしまうのは、その外見にも多少は影響されているかも知れない。細身で頼りなさ気な雰囲気を纏っていて、本当にアイツの友人なのか? と疑いたくなるくらい、周りの友人達からしても異質な気がする。
 こんなおどおどした雰囲気を纏ったヤツ、むしろ嫌いそうなんだけど。
 せめて高校時代の友人を他にも呼んでやれば良かったのに。知った顔が全然居ない場だから、余計に挙動がおかしくなっているのかも知れないし。
 なんてことをあれこれ考えていたら、友人スピーチでその男が呼ばれて驚く。いやでも、この場でただ一人の高校時代からの友人なわけだし、当然と言えば当然なんだろうか。
 アイツが選ぶ友人のイメージと違う、なんていうのはこちらの勝手な想像でしかないわけだし。

 スピーチの内容は無難で、というかなぜ彼が一人だけここに呼ばれたのかがわかるような内容だった。
 高校時代にイジメにあっていたその彼を、助けたのが新郎らしい。元々は彼をいじめていた連中と親しくしていた新郎は、その件があってばっさりイジメをしていた友人らを切ったそうだ。
 この場にいる高校時代の友人が彼一人で、新郎が好んでつるむ友人とはどこか毛色が違うタイプ、というのにも納得は行った。
 ただ、スピーチを終えたその男は、席に戻ってきてからあからさまに具合が悪そうだ。というか居心地が悪いとか以前に、体調が悪いのに無理をして参加していたのかも知れない。
 だってなんか律儀そうだし、スピーチ頼まれてるのにドタキャンなんて出来るわけ無いとか、そんな風に考えそう。いやまぁ、見た目の雰囲気だけでそう思ってるだけで、実際どうかは知らないけど。
 会話を諦めたと言っても、やはり隣で具合が悪そうにしていたら気になるのは仕方がない。
 スタッフさんを呼びましょうかと声を掛けたら、すごい勢いで首を横に振られてしまったので、じゃあ自分が付き添うからとりあえず一度外へ出ないかと誘ってみる。
 しきりに新郎を気にしているので、仕方なく自分も新郎へ視線を投げたら、そんなこちらに気づいたらしく、軽く頷くのが見えた。
 大事な友人をよろしく。という意味だったかはわからいないが、ほらアイツも良いって言ってるとかなんとか言いくるめて、ようやく会場の外へ引きずり出す。
 吐き気はないとのことで、とりあえずで目についたソファに腰掛けさせれば、大きなため息と共に体を弛緩させるのがわかった。
「すみません。少し休めば回復するので」
 どうぞ戻ってくださいと言われても、わかったと放置して戻るのはさすがに気が引ける。
「いや俺もちょっと休憩で」
 どかっと横に座ってしまえば、相手もそれ以上強く戻れとは言わなかった。
「こんな早く結婚するとか思ってなくて、俺、今日のが結婚式初参加なんすよ」
 経験あります? と聞いたら、ボクも初めてですと返されて、会場内に居たときよりも幾分会話がスムーズだ。
「初めてなのに他に知り合いも居ない上に、スピーチまで頼まれてたんすから、めちゃくちゃ緊張すんの、仕方ないっすよね。スピーチ無事終わって良かったけど、緊張が切れてどっと疲れたとかなんすかね」
 熱があるとかではないんですよね、と言葉で確認しつつ額に手を伸ばしてしまったのは、少々迂闊だったかも知れない。
 ビクッと肩を震わせて怯えさせてしまったので、慌てて伸ばしかけた手を引っ込めた。
「す、すみません。馴れ馴れしくて」
「い、いえ」
「おい、大丈夫か?」
 その時、少し離れたところから新郎の声が響いてくる。
「あれ? お前、式は?」
「これからお色直し。てわけで、あんま時間ないんだよな」
 言いながら足早に近づいてきた新郎は、これやるよと何かを投げてよこす。
「なんだよいきなり」
「まぁまぁ。それより、そいつのこと、ヨロシクな」
 意味深に笑うと、新郎はまた足早に去っていく。
「なんだあれ? って、大丈夫すか!?」
 隣では口元を抑えて俯いた男が、体を縮こまらせて小さく震えている。
「え、え、どうすれば。あ、スタッフ」
 慌ててスタッフを探しに立とうとするが、阻止するように服の裾を掴まれてしまった。
「誰か呼んできますから、これ、離して」
「お、お願い、はやく、とめて」
「は?」
「スイッチ、それ、アイツが投げた」
 必死に何かを訴えるその内容的に、どうやら新郎が投げてよこしたのは小型のリモコンらしい。っていうかつまりそれって……

 泣き出してしまった男をトイレの個室に連れ込んで、どういうことだと問い詰める。
「ごめんなさい、ごめんなさい。誰にも言わないで」
「いや、ゴメンはいいから。俺が知りたいのは、なんでこんなことになってるかってことで」
 めちゃくちゃ渋られつつも根気よく説得して聞き出した話によると、高校時代にイジメがあったのは事実で、それを新郎が助けたのも、その結果新郎が他の友人を切ったのも事実で、ただその後、友人になったという部分が嘘だった。
 助けられて新郎を好きになってしまったというこの男を、優しい言葉で受け入れたと見せつつ、都合の良い性欲解消道具的に使っていたようだ。それに気づいて別れようとするこの男を、動画やらで脅しつつ関係を強要していた新郎は、この結婚式で玩具を仕込んだスピーチをすることで開放すると約束したらしい。
 今まで脅しに使っていた動画類を破棄して、金輪際関わらないと言ったらしい。
「で、でも、あなたに知られたから、約束、守ってくれるか……」
「あー……さすがにそれは守る、っつうか守らせるけど」
「え?」
「ようるすにアイツが持ってるあんたの動画とかそういうの諸々消させればいいんだろ?」
「ど、どうやって?」
「いやだって、アイツが俺を脅せる材料ゼロじゃん。なのにこんな話聞かされたら、むしろ俺がアイツを脅せる立場じゃん」
「そ、ですかね?」
「つかこれ投げてきたのアイツ自身だし、俺に知られたらどうなるかくらいは考えた上で知らせてんだろ。だから多分ごねたりしない」
「そ、ですか、ね?」
 疑問符をつけつつも、酷くホッとした様子に、さてどうしたもんかと思う。
 だってリモコンを投げてきた時、アイツは、「そいつをヨロシク」と言っていたのだ。ついでに言うと、アイツにはゲイだと知られても居る。アイツがバイ、というか男も抱けるなんて話は今初めて知ったけど。
 この男が許容範囲か否かで言えば、範囲内。ってところも悔しいというか、アイツの思い通りになるのは癪過ぎる。
 ただ、この男のことを今後も放っておけないんだろう予感はしていた。

こちら(https://twitter.com/BLsommelier_801/status/1876569717999354107)の1月10日 ”友人の結婚式で” ”おもちゃ” を使わせてもらいました。

 
 
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