そっくりさん探し1

「あのっ、すみません」
 電車を降りたところで声を掛けられ、ついでに逃さないとでも言うように服の裾を掴まれてしまったので、無視できなくて振り向いた。
 そこにはなんだか思い詰めた表情の青年が立っていて、一人の男の名前を告げる。
「御本人、もしくはご家族の方、ですか?」
「いや全く知らない」
 本当に聞いたこともない名前だったのに。
「本当ですか?」
「本当に」
 そう肯定してもまだ疑り深く見つめてくるし、服も掴まれたままだ。
「その男が俺に似てるとして、なんで探してるのか聞いてもいい?」
 単純な好奇心だった。あとまぁ暇だった、というのもある。むしろ後者の方が比率はでかい。
「その、本当に探してるのは妹で」
 多分消えた原因がその男、ということらしい。見せられた写真に写っていた男は、確かに自分に似ている。かもしれない。
 いや正直そこまで似てるともいい難いような……?
 まぁいいか。
「本気で探したいなら興信所とかは?」
「使った結果知ったのが、この写真と男の名前。あと前に住んでたって住所くらいで」
 追加で調べてもらうには金が足りなかったらしい。本当に知りたいのは妹の居場所で、本当に繋がってるのかもわからない男の情報に大金を掛けられない、という面もあるのかも知れない。
「で、俺に声かけたのは、たまたま見かけたとかそんな理由?」
「そ、です」
「じゃ、一応連絡先交換するか」
「えっ!?」
 人違いだったのになんで、という顔をされた。もちろんただの好奇心とは言わない。
「友人知人に俺のそっくりさん知らないかって聞いてみようと思って。もし何かわかった時に、あんたの連絡先が必要だろ」
「いいんですか!?」
「いいけど、そんな期待されるのは困るな」
 思い詰めた暗い表情をしていたのに、一転してキラキラの目で見つめられてさすがに焦る。
「わかってます。大丈夫です。よろしくお願いします」
 本当にわかってんのか? と言いたくなる勢いで連絡先交換を済ませたあと、相手は引き止めたお詫びと協力の御礼にと言って、自販機で飲み物を1本買ってくれてから帰っていった。
 5分にも満たない邂逅だったその男とは、多分きっとそれっきり。そう、思っていたのに。
 ちょっとそのそっくりさんに自分自身が会ってみたい気もして、幅広く友人知人にそっくりさん知らない? と声を掛けまくっていたら、とうとう知ってるという相手と出会ってしまった。
 どうやらそいつも、似てるなとは思ってたらしい。名前を確認すればドンピシャだった。
 その男と直接会えないか、場を設けて貰えないかとお願いしつつ、あの出会いからおよそ1年ぶりに初めてのメッセージを送る。
 こちらの都合で日程を組むので一緒に行くのは無理かもしれないが、だったら妹さんの名前を聞いておきたい。
 そんな内容に、絶対予定を空けると返ってきたので、そっくりさんの知り合いだという相手には、参加者が一人増える旨を伝えてその日を待った。
 当日、初めて会ったそっくりさんとは、並ぶと結構違うけど確かに似てる気もすると言い合って笑った。そしてその後、なんでそっくりさんを探すことになったかという経緯を軽く説明して、最後に、本当に君を探してたのはこの人だと言って、そわそわとこの時を待っていた男のことを紹介した。
 そっくりさんはすぐに事情を理解した様子で、呼びますと言って電話をかけ始める。電話はすぐに繋がって、どうやら目的の妹さんが今からこの場へ来てくれるらしい。
 展開が早い。
 30分足らずで現れた女性の腕には赤ん坊が抱かれていて、まぁ予想通りという気はした。男が原因で姿を消したなら、まず最初に疑うのが結婚を反対されての駆け落ちだ。
 この先は多分込み入った話になるのだろうと思って、一旦お開きと言うか、紹介者と共にその場から離脱する。
 落ち着いたらでいいから奢ってと言っておいたから、そのうち連絡が貰えるだろう。その時に、じっくり話を聞けばいい。

続きました→

 
 
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