他はと聞かれて得にはと返せば、じゃあどれ見る? とテレビ画面を指されて、そういや映画をレンタルするって流れだったと思い出す。
とりあえず聞いたことのあるタイトルを選んで流し始める傍ら、彼がクローゼットから新たにいくつか出してきたクッションを積んで画面を見やすい体勢を作る。
「あの、くっつきすぎじゃ……?」
「暑い? ならエアコンの温度下げとくか」
「そういう話じゃ」
「じゃあ嫌だって話?」
せっかくのお家デートなのに? と至近距離で顔を覗き込むようにして言われて、うっと言葉に詰まってしまう。
「なんならお前抱っこしながら見るのもありなくらいだと思ってるけど」
「ムリムリムリ。てか映画どころじゃなくなるでしょそんなの」
そうなるのが目的なんだけどとおかしそうに笑ったあと、抱っこはしないであげるからとりあえず映画を見ようかと促されてしまった。そう。既に映画は始まっている。
それでも結局、ピタリと寄り添う相手に手を握られたり腿をさすられたり肩や腰を抱かれたりで散々気が散らされたあと、全然集中できないからもう少し大人しくしててって怒り気味にお願いして、なぜか相手に膝を貸す羽目になっている。いわゆる膝枕というやつだ。
しかもエンドロールが流れる頃には、すっかり寝入っている。多分。
「終わりましたよ」
軽く肩を揺すればすぐに身を起こしてくれたけれど、どこかぼんやりとした顔は寝起きそのものだろう。
お泊りした翌朝は大概自分のほうが後に起きるので、珍しいものを見ている、とは思う。
「寝落ちたのか」
どうやら本人にもごまかす気はないらしい。
「横になんかなるから」
「膝枕、お家デートの醍醐味みたいなもんだろ。気持ちよかったよ」
ありがとうなの一言で絆されていいのかと思いつつも、まぁ悪い気はしない。
「最後まで一緒に見てなかったのは悪かった」
「別にいいですけどね」
もともと適当に選んだ映画で、それなりに面白かったとは思うが、真剣に見入るほどの面白さではなかったのも確かだし。
「さて、俺の目論見はどこまで成功したんだろうね?」
「目論見、ですか?」
「お家デート、映画のレンタルっていう選択は失敗だった気もしてる」
あんな適当に選んだ作品を、まさかしっかり見始めるとは思ってなかった、だそうで。
つまりちょっかいかけてくる相手を気が散ると邪険にしないで、そのままエッチになだれ込むのが正解だった。ぽい、のか?
聞いてみたら、最初の段階でその展開はなさそうってわかってた、と返された。確かに、抱っこしようかって提案を、映画どころじゃなくなるってけっこうはっきり拒否った記憶はある。
「え、じゃあ俺はどうすれば良かったんですか?」
「べつにどうもしなくていいよ。それにちゃんと膝枕してくれたし。ただ、俺はそこそこ満足してるけど、お前的にはどうだったかなと。無駄な数時間をただ過ごしただけ、ってほど不満そうには見えないけど」
お家デート楽しかったとは言ってもらえそうにないというので、お家デート難易度高すぎませんかと返してしまった。
「まぁ初めてだしな。こういうの」
「ですよ」
「でも、もう付き合いきれないから帰るっていい出す雰囲気じゃないから、大失敗ってわけでもないよな?」
おいでと言われて広げられた腕に、少し躊躇ってから結局収まりに行けば、んふふと抑えた笑いが聞こえてくる。機嫌が良さそうだし、このままセックスに移行するんだろうか、というくらいには甘い気配が漂っている気がしたんだけど。
「じゃあお前は一通り見終えたわけだから、俺が寝落ちたあたりから見直そうか」
もう気が散ってもいいもんなと言われながら、後ろから抱きかかえられるような体勢に変えられて驚く。
「えっ?」
「さっきは譲ったけど、テレビ見ながらエロいことされるのもお家デートの醍醐味みたいなもんだろ」
「そんなの知らなっ」
「まぁ見てるふりでいいから」
どうせ2回目だしねと言われて、少し前に見ていた場面がまたテレビに流れ出す。
彼が寝落ちてた時間は思ったよりも短かったようで、もうかなり終盤に近かったから、そう長いこと遊ばれたわけじゃないのだけが救いだった気もするし、相手もそれがわかってたからこその加減のない煽りだった気もする。
つまり2回目のエンドロールが流れる頃には、まんまと、早くちゃんと抱いて欲しいって気持ちにさせられていた。
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