いただきますと告げたあとはなぜか二人とも黙々と食べ始めるから驚く。というか、ただただ無言で食事を摂る空間はなんとも居心地が悪い。
「あの、何かしゃべって欲しいんですけど。というか二人ともどうしちゃったんですか?」
「ああ、ゴメン。気持ちが急いちゃって」
はやく君の話を聞きたくてと言われても意味がわからず首を傾げるしかなかった。
「そんだけ泣いた理由聞いたら、また泣きたくなっちゃうかもしれないでしょ。そうするとご飯どころじゃなくなるなぁって思って」
「なるほど」
あなたもですかと口には出さないまま隣を伺いみたけれど、そちらは黙々と食事を続けていて、こちらに視線をくれさえしない。
聞こえてきたため息は、斜め前に座るお兄さんのものだった。
「そいつの不機嫌は俺のせいだから気にしなくていいよ」
「そ、なんですね」
「そうそう。だからご飯はしっかり食べて」
夕飯食べ損ねてるでしょと言われて初めて気付く。確かに、初めてのお家デートでレンタル映画を見た流れでセックスして、そのあと夕飯を食べた記憶はない。
いつもの朝よりお腹が減ってるのは、久々に相手が2度もイクようなセックスをしたせいかと思っていたけど、単純に夕飯を食べそこねてるせいだったらしい。
思わず見てしまった時計も思っていたより早かった。いつもならもう2時間くらいは寝ていたと思う。
それなのに朝食は既にテーブルに並んでいたから、もしかしたらもっと早くに起きてくる予定だったのかもしれない。起き出してまっすぐリビングに行くことはなくて、トイレに寄ったり顔を洗ったりしてる間に用意されるご飯や味噌汁はしっかり温かいのだけど、思えばおかず類は確かに冷めている。
思いのほか早く目覚めてしまった朝は、まだ準備中ってこともあったから、この時間でこの冷めっぷりだと、やはりもっと早くに起きてくる想定だったんだろう。
「無言で食べるの気まずくて何かお喋りしたいなら、話題は何が良いだろうね」
「や、大丈夫です。俺も食事に集中します」
「そお? しばらく晴れた暑い日が続きそうだけど、日傘とかって使ったりする?」
「いや俺は使ったことないですね」
結局あれこれと振られる話に応じながら食事を続ける中、隣の彼はずっと無言だったから、別の気まずさはずっと付きまとっていたんだけど。でも不機嫌なのはお兄さんのせいらしいので、あまり気にしないようにして食事とお兄さんの振ってくる話に集中する。
「さて、じゃあそろそろ本題に入ろうか」
ごちそうさまを告げて食器を下げたあと、戻ったテーブルの席には3人ともが揃っていた。
「えと、この場所で、ですか?」
場所というよりは、彼も一緒の状態で? という気持ちが強い。
「俺と二人きりで話したい?」
「出来れば」
「却下だ」
ずっと無言だった彼の発した言葉は、短いけれど随分と語気が強かった。
「まぁ俺にあれこれ伝言されるのは気分良くない、ってのもわかるし、君の前で俺にメッてされる覚悟で同席するならいいんじゃない。とは思うんだけど、君の気持ちを優先するから、どうしても二人きりが良ければ場所移動してもいいしこいつ追い出してもいいよ」
どっちがいいかと聞かれて、同席してくださいと返す。だって昨夜のアレコレを蒸し返して話し合ったほうがいいかも、とは自分も思っていた。話し合いなんてしたくない気持ちも間違いなくあるけれど、お兄さんが同席してくれる状態で話せるなら、その機会は逃さないほうがいいだろう。
「じゃあ一番最初に確かめたいんだけど、それだけ泣かされても、まだ別れる気にはなってない?」
「ああ、はい。俺から別れてって言うつもりはないです。でも昨日みたいなセックス繰り返されたらさすがに耐えられないかも、みたいにはちょっと思ってて」
「なんでだ」
「え、えと、なんでって」
「いやいやいや。あんな顔させといて、まだ別れるって言われないことのが奇跡じゃない?」
そんな酷い顔をしてたかなと思ったけれど、鏡を見ながら酷い顔だと思ったのも事実だ。
「いっぱい泣いたけど、まぁ、自業自得なとこもあるんで」
「どんなとこが自業自得って思ったの? てかやっぱ、好きって言った結果そうなったってことだよね?」
「えと、はい」
「ゴメン。どうなるかわからないとは言ったけど、思った以上に酷い結果になったっぽいよね」
「いや、わかってて試したのは俺なんで」
「待て、一体なんの話をしてるんだ」
お兄さんとだけ通じる話をしてたせいか、ますます不機嫌そうな声で問われてしまった。
「あの、好きなのはバレてるし好きって言っても振られないはずだから、隠さずちゃんと好きって言ってみたら、っていう助言を頂いてまして。でもその結果があれだったんで、もう言いませんし、あなたも俺に好きって言わせたり、俺を好きって言ったりするのは止めてもらえたらなぁと」
毎回あんなの言わされたり言われたりするセックスされたらさすがに続けられないと言ったら、相手はひどく驚いた様子で目を見張る。
「は? まさか好きって言い合うのが嫌だったとか言ってるのか?」
「そ、ですね」
「意味がわからない」
好きだの可愛いだの愛してるだの言われまくるセックスがしたかったんじゃないのかと言われて、そういや前回そんな話も出たような気がしなくもない。ただ、プレイとして言われたいわけじゃない、という部分がすっぽ抜けている。
きっとそこは彼には理解できない部分だろうから、結果スルーされた可能性も高そうだけど。
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