繁殖期が近いから今日は忙しいことと、今夜からこの部屋で過ごす事を告げれば、ニンゲンは思った通りに喜んで、その後ずっと興奮を隠しきれない様子で、こちらが運び込む大量の物資に興味津々だった。
やっと一通りの準備を済ませて一息吐けば、待ってたとばかりにニンゲンがベットの上からこちらを誘う。
「俺、ベッドまだダメ」
ベッドからそこそこ距離を離した位置に椅子を置いてそこに腰掛ければ、起き上がってベッドの縁に腰掛け直したニンゲンが、「まだダメ」の意味を聞いてくる。
「繁殖期始まる、俺、困る」
ベッドに乗ったら手を伸ばされるのは明白で、スリット辺りを撫でられでもしたら間違いなく繁殖期に突入してしまう。
もやっとした胸の重さや体の怠さが付きまとうから、兆候が出たら可能な限りさっさと始めるほうがいいけれど、逆に言うとある程度は先延ばしもできる。子を成したい気持ちが強い雄は、発情の開始を引き伸ばして見合い回数を増やすと聞いたことがある。
「んん? 繁殖期始まったからここ泊まるって話だったろ?」
「これから始まる。あの人帰ってくる前、始まったらダメ」
「えっ?」
驚かれて首を傾げる。
ニンゲンは運び込んだあれこれを積み上げた辺りに視線を送って、あれはもしかして二人分かと聞いて来た。
指差す先には水の入った大きな瓶が2つと、エネルギーバーが詰まった中サイズの箱がやはり2つ置かれている。
見合い中に提供される食事は当然こんな簡素なものではなかったし、リストに乗った携帯食だってある程度食事を楽しむ要素を持ったものが並んでいたけれど、それをエネルギーバーに変更したのはこのニンゲンのためだった。
ここへ連れてきた最初、彼は人間界から取り寄せた好物だったという果物にすら拒否反応を示していたのだけれど、その際によく「臭い」と口にしていたのを覚えている。
雇い主の寝室がここになってから先も、この部屋の中で雇い主が自身の食事をしたことはなかったはずだ。
こちらの食事の匂いで彼を不快にしたくはなかったし、発情期間をやりすごすためのエネルギー摂取ができればいいだけだし、だったら匂いの少ないエネルギーバーのほうが妥当な気がした。
「そう。あの人、俺の3倍、食べる」
「あれって何日分?」
「用意、6日した。少し多い、安心」
「そんなもんなのか。てか繁殖期って何日くらい続くものなんだ?」
「俺、始まったらだいたい4日」
「へぇ。俺は、ってことは個人差けっこうある?」
「体大きい、長い。代わり発情頻度、少ない」
あいつは? と聞かれて前回どうだったかと記憶を探る。
「10日はない、くらい?」
繁殖期休暇を取ると聞いてから次に顔を合わせるまで、多分10日くらいだったはずだ。だからそれよりは短いのだろうけれど、開始と終了のタイミングまでは把握していないので正確な日数は知らない。
「てことは、あの薬って本来の繁殖期に比べたら全然効果薄いんだな。一晩しか持たないで、相手満足できるもんなの?」
あいつで10日ならメインで使ってる奴らの繁殖期ってもっと長いんじゃないのと聞かれたけれど、それに対する答えは持っていない。知ってても教えて良いのかは迷う内容だから、知らないで良かったとすら思ってしまうけど。
「俺それ知らない」
「あーお前とは無縁の話ではあるか」
「そう」
まぁ子を成すために使われる薬という話だから、一晩相手できれば問題がない可能性は高い。もしくは、薬を使って子を成す必要がある階級の者たちなら、ある程度連続使用が可能なのかもしれない。
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