弟は何かを企んでいる10

1話戻る→   目次へ→

 今までのデートは駅周辺ばかりだったし、親にもご近所にもバレたくなくて、自宅近辺を一緒に歩くことすら避け気味だったから、人の少ない住宅街を並んで歩くだけでも新鮮だった。
 更に言うなら、出かける時はまだ明るかったけれど、夕飯を食べて買い物をした帰りはしっかり暗くなっていたから、人気が全く無かった道では手を繋いだりもした。だけじゃなく、触れるだけだったけれどキスまでした。
 ねぇ、と甘やかに呼ばれた次の瞬間には荷物を持たない方の手を取られていて、どうしたと振り向いた時には相手の顔が寄っていた。弟は、いつかこういうのもやりたかったんだよねと満足そうに笑いながら、掴んだ手を恋人繋ぎに変えて歩き出すから、俺も、と短く応えてその手を握り返した。
 いくら弟が人目を殆ど気にしないとは言っても、外でここまではっきり恋人として触れられたことはない。弟ほどには気にせずにいられない、こちらを気遣ってくれていたんだろう。
 まぁ、ふとした瞬間に耳元に口を寄せてきて、可愛いだとか好きだよとか囁いてくることはあったし、一緒に食事をするだけでもその後を期待して気持ちを昂らせてしまうのだから、傍から見たら充分すぎるくらい男同士でイチャついて見えるのかもだけど。でも、ここまであからさまに触れ合うことは、なかった。
 そんなデートをして、期待しないわけがない。しかも玄関エッチが確定していて、出かける前に準備までしているのだ。下着を汚さないようにローションはかなり控えたけど、お腹の中を洗って、けっこうしっかり解してある。
 もっと言うなら、事前に準備をして出かけるデートは初めてなのに、今のこの状況で、弟が黙ってこちらに準備を任せてくれるはずがない。つまり、弟に指を突っ込まれたら気持ちよくして貰えるって覚えてしまった体が、実質お預け状態でもあった。
 出かける前の準備でしかないんだから、今回は自分でするし、したいし、お前にされたら感じちゃうからヤダって言ったのに。感じるとこ弄ったりしないからの言葉に押し切られたのを、少しばかり後悔している。
 めちゃくちゃ興奮してんね、と嬉しそうに指摘されたのは、マンションに戻ってきた直後のことだ。明るさがグッと増したせいで、帰路の途中で相当気持ちを昂らせたことに、気づいたんだろう。
「ここで言うな、バカっ」
 ここはまだエントランスを抜けただけの共用廊下なのに。さすがにもう手は放していたが、辺りに人の気配がないせいかそこそこの声量だったから、小声でそう罵って足早に部屋へと向かった。
 照れ隠しと早く触れ合いたい焦燥がメインで、本気で機嫌を悪くしたわけじゃないとわかっているんだろう。弟は慌てることなく、むしろ笑いを噛み殺す気配を滲ませながら、それでも遅れることなく着いてきた。
 鍵を開けている最中から肩を抱かれて、ドアを開くと同時に玄関に雪崩れこんで、触れるだけじゃないキスをする。
 口の中のキモチイイところを舌先で擽られて、絡めた舌を吸われて、あっさり腰が砕けて座り込みそうになるのを、弟の逞しい腕が支えてくれる。けれど力の抜けた手からは持っていた買い物袋が落ちてしまって、その音でお互いちょっと冷静になった。
「ごめ、落とした」
「そっち割れ物入ってないから平気。でもとりあえず、靴、脱ごっか」
 うん、と頷いて、モタモタと靴を脱いでいる間に、弟がささっと落とした荷物を拾って、自分の荷物と合わせて廊下の端に置いてくれる。そのあとカチャリと小さな音が響いて、どうやら今になってやっと鍵を締めたらしい。
「もしかして、お前も結構、余裕ない?」
 聞けば、当たり前だろと、呆れと憤慨の滲む声が返された。
「兄貴がデート楽しんでくれて、エロいこともすげぇ期待してて、こんな可愛いことになってんのに、余裕なんかあるわけない」
 嬉しいな、と思ったままを口に出せば、兄貴ってそういうとこあるよねと苦笑される。
「俺が余裕なくしてがっつくの見るの、好き?」
「お前、言うほど余裕なくしてがっついたことってないと思うけど。ただ、情熱的に求められるのは、好きだよ。余裕持って、じっくりトロトロに愛されるのも、好きだけど」
 知ってる、と嬉しさがあふれるみたいな笑みを零しながら、弟の手が靴箱の上に用意していたローションボトルへと伸びて行く。
「じゃあ、急かして悪いけど、余裕ないし自分でズボン脱いでくれる?」
 わかったと頷いて下着ごと脱ぎ去るその間に、弟はローションを手のひらに垂らして捏ねている。
「上は?」
「そのままでいーよ」
 そっちのが玄関で盛ってるって感じで興奮する、という意見には賛成だ。
「わかった」
「あ、ちょっと待って」
 立ってするときはいつも、慣らす段階から壁に手をついて相手に背を向けるのに、ストップがかかって動きを止めた。
「今日は前からしたい」
「えっ?」
「風呂場だと裸だし、万が一滑ったりで危ないかなって思ってたとこあるけど、服着てれば背中壁に押し付けても擦れて痛くなったり防げそうだし、向かい合ってしてみよ」
 やったことない体位に戸惑うとこも、キモチクなっても玄関だからって必死に声噛む顔も、全部見たい。らしい。
「風呂場で声我慢して貰った時も凄ぇいい反応してたし、あのとき、顔見れないの残念だなって思ってたんだよな」
 こんなに早く次の機会があって嬉しいと言われて、初日の風呂場で口を塞がれながら抱かれたことを思い出す。中がめちゃくちゃうねって弟のペニスに絡みついたことを、覚えている。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です