「そういや好きって言わされたり言われたりしないセックスしてるんだっけ。じゃあ、いつか俺とする時には、そういうセックスをしようか」
一瞬気まずそうな顔をしたけれど、すぐに良い案を思いついたとでも言いたげな笑顔でそんなことを言い出す。彼に聞かせるために口に出したのは明白だ。
「あー……じゃあ、そのときは、よろしくお願いします」
少し迷って、結局そう返した。振られた後の話なんだから、はっきりと優しく甘やかすセックスをしてくれるって言うなら、それに甘えてもいいような気がしたし、この人が本当は誰を好きだって別にいいかと思ってしまった。
「おい、何の話だ?」
「浮気したくないし3人でする気はなくても、お前と別れた後ならいいってさ。だからいつか振られちゃったら、俺が目一杯優しいセックスして慰めてあげるね。っていう予約? 宣言? かな」
「恋人になれもしないのに?」
「なれないから、俺とするのは1回だけって言われてるよ」
「は? なのに好きだの言うのか? てか恋人になれない男からなら、口説かれても嫌じゃないわけ?」
「口説かれるのは嫌ですけど」
最後のはこちらへ向かっての問いだったので、当然否定を返しておく。
「じゃあ、よろしくお願いします、ってのはなんだよ」
「だって口説かれないと思ってるんで」
「好きだよ可愛いよ愛してるよって、いっぱい言うって言ってたが?」
「俺が喜ぶように、安心して抱かれていられるように、そういう言葉を惜しまないって言ってくれてるだけですよね?」
「って言われても、お前ピンとこないだろ?」
それとも多少は理解するようになったのかなぁ、と続けた後。
「お前この子抱きながら、可愛い愛しい好きだ、みたいな気持ち、湧いてきたりする?」
「好きだの愛してるだのは言ったことがないからわらないが、可愛い、と言うと嬉しそうにするのは知ってるし、そこそこの頻度で言ってると思う」
「それは喜ばせてあげたい気持ちなら湧いてるって意味なの?」
「さぁ、そう言われると難しいな。嫌がられたり怒られたりしないから多用してるだけという気もする」
やってる最中に相手を口説かないセックスなんてこいつ以外に経験がなくて、と続いた言葉に、本当に恋人とただイチャつくようなセックスは知らないんだと諦めに似た気持ちが湧いた。
「お前、ほんっと、感謝しろよ」
怒気を孕んだ低い声が隣から響いてビックリする。最後告げられた知らない名前が、多分、この人の旦那で彼の叔父の名前なんだろう。
「なんだよ突然」
「俺に新しい恋人だのパートナーだの作る気があったら、この子を絶対お前から奪ってやるのに、って意味だよ!」
「何言い出してんだ、ほんと」
「ってかこいつ見限って俺にしない? って割とマジに思い始めてるんだけど。でも大事にはできても幸せにできる気がしないんだよなぁ〜」
ごめんねと謝られて、慌てて首を横に振った。
さっさと死なれたこと以外は最高の旦那で、嫁扱いで側に居られた日々はめちゃくちゃ幸せだった。と盛大に惚気けられたのを思い出して、やっぱり少し羨ましい。
ちなみに、羨ましくてたまらないって気持ちにならないのは、彼らがどんなセックスを好んでいたかまで知っているせいだ。でも、とんでもセックスを片側だけが求めるのではなく、ちゃんと双方合意で楽しめていたからこその、最高のパートナーだったのかなとも思う。
「あの、気持ちだけありがたく頂いておきます。幸せにできるかまで考えてくれて、無理だからって引いてくれるのも、ありがとうございます」
「ああ、もう、ほんっといい子。てか身元はっきりしててゴム使うの嫌がらないで病気とかにも気を使う男がいいんだよね? あ、あと、プレイっぽいセックスじゃなくてラブラブ恋人セックスが出来る男か。いっそ俺が次の男探してきてあげよっか?」
「おいこら。さすがに怒るぞ」
何別れさせようとしてんだと語気を強める相手に、だって別れたほうがいいと思ってと返す男は、全く悪びれた様子がない。
続きます
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