両想いを確認してセックスする仲になってから、やり取りするメッセージには少しだけ甘い言葉が増えてやり取りする頻度があがって、声が聞きたいなんていう理由で時々通話するようになって、デート先もまた少し変わった。
存分にイチャつきたいから人が少なそうな隠れた観光スポット巡りが多いのは変わらないけど、帰りがけにラブホ利用ではなく最初から宿をとることがあったり、観光地巡りではなく互いの家に訪れたりのお家デートなんかもするようになって、お付き合いは順調に進んでいると思う。
そんな中、相手が少し興奮気味に、妹夫婦に紹介したいと言い出した。
先日甥っ子に会いに行った際、妹旦那のそっくりさんと深い仲になったことが、とうとうバレてしまったらしい。
相手の休日スケジュールは当然把握してるので、妹夫婦とはそう頻繁に会ってないことはわかっている。つまり、バレるまでにそこそこ時間がかかったったのは、単に会ってなかったからというだけの理由で、とうとうバレたってよりはあっさりバレたが正しい。まぁそんな指摘をわざわざしたりはしなかったけれど。
その前段階で、とりあえず恋人みたいな曖昧な関係だったことにも気づかれていて、別れようかと迷っていたあたりでしっかり心配されていたようだ。まぁそれも、きっと相当わかりやすかったんだろう。
良かったと言われてホッとしたと喜んでいたから、こちらも良かったなと返したし、紹介されるのだってもちろん構わないと返した。
こちらとしても、例のそっくりさんともう一度会えるのはちょっと楽しみでもあった。なんせ軽く挨拶して事情を説明したあとさっさと退席してしまったから、せっかくそっくりさんと会ったのに、本人同士はあまり会話が出来ていない。
ただ、小さな子が居るからと呼ばれた先の相手の家で、待っていたのは妹さんだけだった。旦那であるそっくりさんは息子を近くの実家に預けに行っているらしく、もうすぐ帰ってくるとは言われたものの、明らかに、まずは3人でお話しましょうという雰囲気というか、つまりは思いっきり、兄の恋人として現れた男を品定めする気満々のようだ。
「本当に男同士で恋人してるんですか? 結婚も出来ないし子どもも作れないのに?」
テーブルに向かい合わせに座って、簡単な挨拶を済ませたあとの開口一番のセリフとしては、内容にしろ声音にしろなかなかに棘がある。
「おいっ」
思ったより歓迎の雰囲気がないのは相手もとっくに察していて、戸惑いつつもなんだか不安そうにしていたのだけれど、妹からの攻撃的なセリフに黙っていられなかったらしい。
「待って待って。大丈夫だから落ち着いて」
「でも」
「本当に大丈夫だから座って」
声を荒げてガタッと椅子から立ち上がるのを宥めて座らせたあとで、妹さんに向き直る。
「本気で恋人してるし、それを後ろめたいとも思ってないし、誰に恥じる気持ちもないな。結婚はそのうち出来るようになるかもしれないし、必要ならパートナーシップ制度の利用を考えたっていいと思ってる」
「ええっ!?」
驚きの声は隣から上がった。基本、今をどう楽しむかばかりに重点を置いた付き合いだったし、今後二人の関係をどうしていくつもりか、どうしたいか、なんて話は殆どしてなかったので当然だ。もちろん、パートナーシップ制度なんて単語が、今まで二人の間で出たことはない。
「って驚かれる程度には、まだ結婚やらを考えるには早い付き合いなのは確かだけどね。あとは子どもか」
隣を向いて、自分の子供欲しい? と尋ねれば、大慌てて首をブンブンと横に振って否定してみせるから、可愛いなと思いながらくすっと笑って、俺も要らないと返す。
「てわけで、子どもに関しては、現状望んでないよ、としか言えないけど。少なくとも、自分の子が欲しくなったからって理由で放り出すような真似をする気はないよ」
言ったところで信じられるかはわからないけど、と言えば、隣からは信じられるよと柔らかな声が響いて、妹さんは少し悔しそうな顔をした。
「でも、男同士で付き合ってるなんて、知られただけで何か言われたりするかもでしょ? 世間体とか、あるでしょ? お兄ちゃんがそうなんだって知られたら、私だって何か言われるかもしれないでしょ?」
「世間体って話をするなら、そっちだってかなり問題あるよね?」
君の行動のせいで多分この人も色々言われたと思うんだけどと指摘すれば、不安そうな顔になって隣の男を見つめるから、どうやら自覚はあるらしい。
「何か、言われた?」
「あー……まぁ、そりゃ。でもお前が今幸せだってなら、いいよ、別に」
過ぎたことだよと言い切るから、なぜかこちらまでホッとする。初めて会ったときの思い詰めた表情も、再会したときのやつれた様子も忘れていないせいだ。
「お兄ちゃんは今幸せ? その人のお陰で?」
「っ……それは、そりゃ、……そうだよ」
言葉を詰まらせながらも肯定する相手は、多分相当照れている。チラッと横を向いて赤くなった耳の先を見れば、やはりくすっと笑いが漏れてしまう。
「可愛いな」
思わず漏れた声に相手が反応して、ビクッと肩が揺れた。
「ちょ、今は、そういうのは」
すっかり「好きだよ」に変換されるようになっているのは相手だけで、妹さんにはそこまで意味のある言葉として伝わっては居ないはずだけど。
「ああ、うん、ごめん。つい。俺と居るのが幸せだって認めて貰えて、嬉しくて」
「なんか、凄く変な感じ」
私が知ってるお兄ちゃんじゃないと言い出した妹さんは、随分と複雑そうな顔をしている。
「俺がお兄さんの恋人なのは不満?」
聞いたら、不満じゃないのが不満だと返ってきて、笑いをこらえるのが大変だった。
「他に聞きたいことは? 俺の年収とか聞いとく? それともお兄さんを俺にくださいって頭下げようか?」
「えっ、えっ、ちょ、何言って?」
「いやだってこれ、どう考えても、親に交際やら結婚やらの許可貰う疑似体験だよね?」
「えっ、えっ!?」
親が居ないから妹さん相手になってるだけでしょと指摘すれば、相手はますます混乱した様子を見せたけれど、妹さんの方は諦めに似た溜息を吐き出している。そしてこちらと目が会えば、すっと背を伸ばしてから深々と頭を下げた。
「兄を、よろしくお願いします」
「これからも幸せだって言い続けてもらえるように、頑張ります」
同じように頭を深く下げて告げれば、やっぱり隣からは戸惑いの声が漏れてくるから、顔を上げて妹さんと目があった後は二人して笑ってしまった。
その後は、妹さんが旦那さんに連絡を入れて息子さん共々呼び戻して、一緒に食事をしながら和やかに過ごした。
そっくりさんは妹さんから先程のやり取りを聞いて、だから言ったろと自信満々で、こんなにそっくりなんだからやっぱいい男なんだよと、若干自画自賛めいた言葉を続けて妹さんの頬を膨らませていたけれど。でもそのあとこっそり、兄である彼が会うたびに落ち着いていき、穏やかで幸せそうな顔を見せるようになったのが根拠だと教えてくれた。
そっくりさんがアレコレ手を回して兄妹の繋がりを一度切ってしまったことを、悔やんでいるらしい。妹さんの話を一方的に信じて動いたことを申し訳なかったと言っていた。
そっくりさんからも、彼のことをよろしくお願いしますと頭を下げられたから、先ほど妹さんに告げたのと同じ言葉を伝えてこちらも頭を下げる。
「え、ちょ、何してんの?」
「そりゃ、疑似お義父さんへのご挨拶的な?」
「ちょ、またそれ!?」
頭を下げ合っていたから気になったらしい彼が声を掛けてきたので、何をしていたのか教えれば、相手はやはり驚きながらも戸惑っている。
「お義兄さんだって俺に妹をよろしくって頭下げてくれたんだから、そりゃあ俺だって、お義兄さんをよろしくって頭下げますよ」
そうしていい相手なんでしょう? と言われて、困りながらもそうだけどと認める相手を見つめながら、愛しさが込み上げる。
恋人として紹介されるだけのつもりで来たはずが、結婚の許可を貰うような場になってしまったのは驚いたけれど、でもまぁそんな疑似体験もなかなかに楽しかったし、もちろん告げた言葉に嘘はない。順番が逆になったけれど、あとでちゃんとプロポーズ的なこともしようと、愛しさとワクワクで胸を満たしながら考えた。
<終>
最後までお付き合いありがとうございました。1回分早いかなって思ったけど、キリが良いのでここで一旦お休みして、再開は4月30日(水)からを予定しています。
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