バレたら終わりと思ってた2

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 仮初でまがい物でも、とりあえずのお試しでも、遠くから見てるだけだった想い人との「恋人」という関係が嬉しくないはずがない。でも同時に、後ろめたさやら罪悪感やらを盛大に抱える羽目にもなった。
 どうせすぐにバレて終わるから、少しくらいは報われてもいいだろう。なんて、とことん自分に甘くて考えが浅い真似をしたせいで、デートを重ねるたびに少しずつ苦しくなっていく。
 だって見ず知らずの男の子を痴漢から救ってくれるような人だ。そこに惹かれて好きになっているのだ。
 会話をするようになって、相手のことを知るようになって、相手の優しさや思いやりに触れて、想いはあっという間に膨れ上がっていく。
 女装バレを避けたくてけっこう不自然な避け方をしてしまうこともあるのに、不機嫌になることもなく、相手から率先して二人きりを避けてもくれる。おかげで、あっさりバレて終わるはずだった関係は、思いの外続いてしまっている。
 いつか終わるとわかっているから、会える時間を出来るだけ大切に。なるべく楽しい思い出を作ろう。
 そんな努力のかいあって、表向きは多分間違いなくかなり良好だ。
 相手の好意だってちゃんと伝わってくるし、関係を進展させたい欲も間違いなくあるようなのに、でもそれ以上に恋人として大事にされていると感じる。
 実情を知らない、全く気づく気配のない相手は、どうやらすっかり長期戦の構えで、ゆっくりと関係を深めていけばいいと思っているようだった。
 嬉しくて、ありがたくて、でも同時に、あまりにもいたたまれない。申し訳ない気持ちが膨らんでしまう。
 相手の好みに合わせて作った外見なんだから、相手の中に好意や男としての欲が湧くのは当然だと思う気持ちの中に、虚しさやいたたまれなさや申し訳無さを感じるのは、もしもこの体が男ではなく女なら、今すぐにでもその求めに応じたいと思っているせいもあるんだろう。
 でもどんなに申し訳なさを感じても、膨らむ想いが苦しくても、自らバラして関係を終えようとは考えなかった。むしろ少しでも長く続いて欲しいと願っていた。
 いつかバレる日を恐れながら、いつか終わってしまうその後に、自らを慰めるための思い出を貪欲に欲している。
 そんな日々の中、転機はあっさり訪れた。
 デート帰りの電車が途中駅で運悪く酷く混雑したせいで、ずっと密着を避けていた相手と正面から抱き合う形で過ごす羽目になり、結果、男であることがバレてしまった。
 いつかはバレるとわかっていたが、想定よりだいぶ酷い状況に絶望しかない。だって、満員電車の中で相手に抱きしめられたまま、股間を刺激されてはしたなく射精してしまったのだ。
 バレた時には今までのことを説明して、謝罪して、少しの間だけでも恋人として過ごせたことを感謝して……なんて考えていたことは全て吹っ飛んで、すぐにでもその場から立ち去りたい気持ちばかりが頭の中を占めて、その衝動のまま逃げ帰ろうとした。けれどそれを引き止められ、別れる気はないという驚きの言葉を告げられて、交際継続が決まってしまった。
 正直意味がわからない。というかこんな展開、全くついていけない。
 だって驚きの連続だった。
 男とバレたなら二人きりを避ける必要もないので、駅のホームなんかで話す内容じゃないからもっと落ち着いた場所に移動したいという相手を自宅に招いて、女装をすべて解いて男の姿で相手の前に座ったら、なんと相手は自分のことを覚えていた。痴漢されてた男の子でしょと言い当てられたときの衝撃は忘れられない。
 次にあった時には間違いなくスルーされたし、というか何度も男のまま同じ電車に乗っていたけれど、相手にこちらを認識してる様子はなかったのに。でも相手が言うには、不躾にならないように注意しながら気にしていた、らしい。
 つまりはこちらを気遣った結果の無反応で、意図的な無視に近いけれど、こちらの想像とは全然違う理由だった。
 男に痴漢されるような子とこれ以上関わりたくないとか、礼も言わずに逃げ出した相手には関わりたくないとか、そんなタイプじゃなさそうなのはお付き合いで相手を知ればわかることだったけれど、だからこそ、相手の記憶に自分が残っているなんて考えていなかった。
 女装までしてのストーカー行為に関しても、相手はあまり深刻には捉えなかった。こちらの執着というか執念と言うか、女装までして相手に近づきたかった想いに、ドン引くどころかなんだか感心した様子で、そんなに好きなのと聞かれて正直に好きですと返せば、あっさり、男のままの君と新しく恋人関係を始めようなどと言い出した。
 嬉しくて、でも当然すぐには信じられなくて、男の姿の自分にキスをねだった相手に、本当に男でいいのか気持ち悪くないのかと問う。ずっと騙してたのに怒った様子が全然ないのだって、不思議で仕方がなかった。
 だってもう好きだって思っちゃった後だから、なんて言われて、更には、異性愛者の相手に女装という形で近づくのはいい手だったと思う、なんて懐が深いにもほどがあるようなことまで言われたら、信じて頷く以外の道はない。
 堪えきれずにほろりと溢れた涙に、優しい笑顔と力強い腕が伸びてきて、近づく顔に慌てて腰を浮かせばそっと唇が塞がれる。
 バレたら終わりと思っていた女装は、こうして相手の驚き満載な返答の数々により、バレても終わらずに済んでしまった。
 でも、相手が好きになったのは女装した自分であって、素のままの、男の自分とは違う。仮の姿だからと大胆になれていた部分ははっきり自覚していたし、相手の前での振る舞いは、幸せで楽しい思い出づくりのために、必死に頑張っていた部分もかなりある。男の自分がどこまで同じように頑張れるのかは、いまいち自信がなかった。
 素の部分がバレてしまったら、きっと今度こそ終わりになるんだろう。
 でも延期された別れの日まで、もうしばらくは頑張ろうと思った。

続きました→

 
 
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バレたら終わりと思ってた1

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 男なのに痴漢されている、という現実に、何もかも投げ出して実家に逃げ帰りたいと泣きそうになっていた時に、サクッとその痴漢を捉えて駅のホームに引きずり出した男のことが、その後の生活において心の拠り所的なものになってしまったのは多分仕方がない。
 だって大学に受かった喜びなんてあっさり霧散した、狭いアパートでの一人暮らしと混雑がひどい電車での通学に、既に心が折れ掛かっていたところだった。助けてもらったのにお礼も言わずに逃げ出してしまったことも、気持ちが落ち着いてからめちゃくちゃ気がかりだった。
 なのに次にその男を見かけた時、チラと目があっても相手は特になんの反応も示さなかった。
 自分にとっては救世主とも言えたその人にとって、自分はただのモブでしかない。そういや助けてくれたときも、相手の言葉は痴漢してきた加害者にのみ向かっていたような気がする。
 助けた相手になんて興味がなくて、全く覚えてないのかも知れない。いやでも、それならまだいい。
 痴漢行為に対する怒りを前面にだして罵る勢いで非難していた相手から、自分が掛けられた言葉は「悪いけど次の駅で一緒に降りて」くらいだったし、しかも一緒に降りるまではしたけど、痴漢男に告げる警察という単語にビビって逃げ出したわけだから、男に痴漢されるような男に嫌悪感があるとか、恩知らずにも逃げ出した自分なんかとこれ以上関わりたくないという、意思表示を兼ねたスルーかも知れない。
 そう思うと胸の奥が酷く傷んで、でもなぜか、その電車の利用を止めるという判断にはならなかった。それどころか、サラリーマンで毎朝同じ電車の同じ車両を利用しているらしい相手を、わざわざ見かけるためだけに電車に乗るようにまでなってしまった。
 相手が忘れてようと、意図的に無視してようと、どうにか機会を伺って礼を言いたい。
 そんな気持ちがただの詭弁で言い訳でしかないことを、頭の片隅ではちゃんとわかっていたけれど、自分の中の衝動と行動とをとめることが出来なかった。
 相手と対峙し、嫌悪されたり非難されるのは怖くて仕方がないから声が掛けられないのに、相手が降りる駅を突き止め、そのまま相手の背を追い続けてみたい衝動。勤め先が知りたいとか、帰宅時にも同じ電車に乗りたいとか、思考がどんどんおかしな方向に走り出して、なんだかストーカーっぽいと思ったところで、やっと相手への恋情を自覚した。
 痴漢から気まぐれに助けてくれた相手に、一方的に惚れてしまった。それは間違いなく見込みなんてないはずの恋心なのに、既に暴走気味だった思考はあっさりその先にも踏み込んだ。
 男にしては小柄な体型と母親似の女顔だったから、自身の中の悪魔のささやきに乗って、女装に手を出してしまったのだ。
 これのせいで痴漢にあったのかもと、うっすら恨んですらいたのに。背の低さは元々それなりにコンプレックスだったのに。
 それすら良かったとポジティブに捉えられるようになったのも相手に惚れたおかげだと、ますます相手への気持ちを募らせていたのだから始末が悪い。
 でも、そうやって相手に熱中できていたから、新しい生活に馴染めずに鬱々とした日々から気持ちをそらすことが出来ていたのも、紛れもない事実だった。本当は、目を背けたくて相手に熱中した、が正しいのかも知れないけれど。
 自覚したのが夏休み直前だったのもあって、夏休み中にひたすらバイトと女装の知識を仕入れ、ある程度資金が溜まった夏休み明けから実行した。
 本来の自分ではない姿に気が大きくなって、安々と相手の勤め先もおよその帰宅時間も把握し、更には相手の嗜好などへも興味の対象を広げていく。相手の視線の先を追って、女性の好みなども把握し、自身の女装へ反映させていく。
 そんな風に相手を一方的に追いかけるような日々ではあるが、なんせ相手を追えるのは朝と夜だけなので、大学にはちゃんと通っていたし、女装資金のためのバイトだってしないわけにはいかない。
 真面目に大学やバイト先に通い続ければ、新しい生活にだっていずれは馴染んでいく。ひとりきりのアパートで、泣きながら布団をかぶる夜はなくなったし、友人だって出来たし、痴漢に怯んで泣きかけるようなこともなくなった。
 まぁ、男の姿で痴漢されたのはあの1回だけだし、女装時の痴漢は自分であって自分ではないようなものなので、そこまで精神的にキツくないのが大きいけれど。あと、女装とバレてエスカレートするタイプの痴漢には、幸い遭遇してないのも多分大きい。ついでに言うなら、気づいてなさそうなら、それは自信につながる。
 女装までして、ストーカーじみたヤバいことをしている。という自覚はあったので、いい加減止めなければと思っていた。
 思っていたけれど、女装への自信がそこそこついてもいたから、これで最後とばかりに勇気を振り絞ってバレンタインに直撃した。といっても、ホームで呼び止めて手紙を添えたチョコを渡しただけだけど。
 ホワイトデーまで待って何もなければ、それできっぱりおしまい。
 そういう覚悟で渡したチョコは、今まで無反応だった相手から認識されるというちょっとだけご褒美みたいな1ヶ月を得て、当初の予定通り終わるはずだった。だって手紙に添えた連絡先に、相手からのメッセージが届くことはなかったから。
 なのにホワイトデー前日に相手から連絡があって、そのままお試し交際が開始してしまった。

続きました→

 
 
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エイプリルフールの攻防(目次)

キャラ名ありません。
本編4話+エンド後H13話+翌年小ネタ1話の全18話。
エイプリルフールを仕掛ける方×仕掛けられる方(視点の主)。

小学時代から仲が悪い同級生がエイプリルフールにだけ好きだと言ってくるようになり、嘘の好きだとわかっているのに何年も繰り返されて好きになってしまった視点の主が、好きになっちゃったからもうエイプリルフール終わりにしてってお願いしたら、実は両想いだったことが判明する話。
本編は大学時代の4年間のエイプリルフールをざっくりと追って、両想いが判明するまで。
続編のエンド後Hは両想いが判明した2人が恋人になって初Hする話。
オマケ小ネタは翌年のエイプリルフールを2人がどう過ごすのか。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的描写が多目な話のタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 大学1年4月1日
2話 大学4年4月1日
3話 全ての本当
4話 大学4年4月2日
エンド後
1話 早く早くと急く気持ち
2話 こちらからも触れる(R-18)
3話 準備済み
4話 チョロくて不安
5話 ローションとゴム
6話 変な顔と八つ当たり
7話 初めて同士(R-18)
8話 本番はこれから
9話 今すぐ恋人に
10話 怖くはないけど(R-18)
11話 セックス、してる(R-18)
12話 一緒にイこう(R-18)
13話 泊まっていいよ
1年後
エイプリルフール禁止

 
 
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クロさんへ(お返事)

感想メッセージどうもありがとうございました。
本編直後Hも楽しく読んでもらえてよかったです☺️

攻めくんは思った以上に受けくんに一途でしたね。というかやっぱりかなり拗らせてましたね。
受けくんがちらっと回想してましたけど、決してモテなくないのに、他の誰かとお付き合いをしてみる気にはならなかったみたいです。
攻めくんは自分の中の拗らせ感情を理解してるっぽいのに、本人目の前にすると制御できないんですよね〜
自覚はあるみたいなので、恋人という関係になれて気持ちに余裕ができた今後は改善頑張って貰いたいものです。
1年後エイプリルフールもまだ若干言葉足らずに一人で先走りすぎてましたけど、今回エイプリルフール当日には会わない代わりに2日に会う約束が出来たので、そうやって少しずつ、勝手に行動しちゃう前にまず希望を伝えて相談、というのも出来るようになるんじゃないかなと思います。

今回続きを書いてみて、受けくんが意外とあれこれ抜けてるところがある子だと判明したので、同じ学校に通ってた頃はなんだかんだ攻めくんに助けられた経験が結構な回数あって、それが攻めくんを好きになる素養になってたりするのかもって思いました。
攻めくんは若干ストーカー気味に受けくん気にしてるので、困ってる場面に遭遇しやすい上にそんなの見たら助けずに居られなかったと思うんですけど、絶対素直に助けてないというか、「嫌いな俺に助けられて悔しそうに礼言うお前見るのが楽しい」的なことを言ってそうだし、受けくんもそれを言葉通り素直に受け取って、ほんと性格悪いなこいつ、って思ってたりしそうだなと。
しかも攻めくん、受けくん以外にも気づけば(それも視野広いから多分そこそこの頻度で)人の手助けしてて、受けくん以外には愛想いいから、受けくんはやっぱ自分だけ嫌われてんだな〜って思い込まされてきてんですよ。
受けくんがわりと誰に対しても甘チョロで優しいのを、心配&嫉妬しまくりなくせに。と思うと酷い男なんですけど、なんとも思ってない相手には愛想振りまけても、好きな子相手にだけは積み重ねた拗らせ発動しちゃって変な態度になっちゃうので、ちょっと可哀想でもあります。いやまぁ、結局自業自得なんですけども。

以前、本編の感想コメントで、攻め側の気持ちが気になる〜という話をしたものの、視点を変えないまま書いたので結局そちらにはあまり触れられませんでしたが、リクエストにこの話を選んでくださるほどに気に入って貰えていて、本当に嬉しいです。
リクエスト、どうもありがとうございました!

 
 
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エイプリルフールの攻防・エンド直後13(終)

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 簡単に後始末を済ませたあと、二人して寝落ちしたのは当然だと思う。なんせお互い間違いなく寝不足だ。
 こっちは電話を切ったあとも結局あれこれ考えてしまってほとんど眠れていないし、相手が昨夜電話を切ったあとすぐに眠れたのか知らないけど、なんせ片道3時間超えの遠距離から始発でやってきてるので、即眠れてたとしても3時間眠れてるかどうか怪しいと思う。
 起きたら部屋の中は薄暗くなり始めていて、つまりは夕方だった。しかも隣に横たわる彼は、未だ健やかな寝息を立てている。
 相手の方に体を向けて、気持ちよさげに眠る相手の顔を遠慮なく眺め見る。
 小学生の頃から面識があったけれど仲が良かったとは言い難く、大学に入ってからは年に1回数時間しか会わない関係だったこの男と、恋人になってセックスまでした。という事実がなんとも不思議だった。
 過去を振り返ったら、どうしたって苦い記憶ばかりなのに。自分の中の好きに気付いたあとは、なんで好きになんかなったんだろって、思ってたのに。エイプリルフールに嘘の好きを交換したあと、虚しくて、苦しくて、何度も泣いたのだって事実なのに。
 ほんと無駄に遠回りした。って思う気持ちはどうしたって残っているけど、でもまぁいいか、と思える程度には今が幸せだった。
 チョロい、って幻聴が聞こえた気がして思わず眉をしかめたけれど、でもそれすら、チョロくて可愛いって言ってると言いはった相手のお陰で、そこまで不快な記憶にはなっていないようだ。そこが好き、の言葉も多分嘘ではないんだろうし。
 何度も繰り返された、好きだとか可愛いとか愛しいとかって言葉が、耳の奥にまだ残っている。そこそこ長時間に及んだ初セックスは、思い返すと色々と恥ずかしい出来事も満載だったけど、間違いなく気持ちが良くて幸せだった。
 気持ちだけの話で言えば、今すぐまたしたっていいくらいに。と思ったところで、小さくお腹が鳴ってしまって苦笑する。
 気持ち的にはOKでも、体はそんなに都合良く出来てはいない。しかもそちらに意識が向かったら、ますます空腹感が増してしまった。
 ここのところエイプリルフールを意識しすぎてちょっと食欲が落ちていたのだけれど、無事にセックスできたどころか、両想いが判明して恋人にまでなった安心感で、食欲がかなり戻ってきたっぽい。
 とりあえず米くらいは炊いておこうか。
 あんまり食材がないから、買い出しにも行ったほうが良さそうなんだけど。でも眠る相手を置いて家を出るのは躊躇われるし、この穏やかで幸せそうな寝顔を見ていると、叩き起こすのも気が引ける。
 そんなことを考えながら、そっとベッドを抜け出しキッチンへと向かったのだけれど、どうやらその動きで相手を起こしてしまったらしい。
「何してんだ?」
 少しして、部屋へと続くドアが開いて相手が顔をのぞかせる。
「ご飯炊こうと思ってお米といでただけ」
「なるほど。そういや腹減ったな」
 俺の分もあるのかと聞かれたので、あるよと返す。
「といっても食材はあんまりないから買い出し行かないとなんだけど」
「俺的には塩にぎりとかで充分なんだけど」
「え、なんで?」
「買い出し行ってる時間がもったいないっていうか、さすがに外でイチャイチャって難しいだろ」
「え、ええ……」
「あ、引いた?」
「引くっていうか、えっと、し足りないとかそういう……?」
 自分だって寝起きに、気持ち的には今すぐまたしたいくらい、と思ったのだから、相手だって同じように思ったのかも知れない。だったら嬉しいし、丁寧な前戯のおかげか体もそこまでダメージがある感じではないから、食後にもう一度も無理ではなさそう、という下心もあった。
「出来るならしたいくらいだけど、まぁそれは時間的に無理そうだし。せめてキスしたりハグしたり、好きって言ったり可愛いって言ったり、まあとにかく、時間許す限りお前と恋人っぽいこと目一杯しておきたくて」
 お前が嫌じゃなきゃ、と言われて、嫌なわけ無いと思ったけれど、口からは別の言葉が出ていた。だって言われるまで、残り時間がないってことに気付いてなかった。
「てか今日って何時に帰るつもり?」
「終電で。っつってもここ出る終電じゃ途中までしか帰れないから、家にたどり着けるギリギリ最後の電車でって意味だけど」
「えっと、その、明日の予定は?」
「明日?」
「予定ないなら泊まってけばいいのに、って思って」
「はぁっ!?」
「や、別に、無理に」
「いいのか!?」
 無理にとは言わないけど、と最後まで言う前に食い気味に問われてしまって、泊まりの許可が出る想定がなかったから驚いただけで、喜んでいるらしいとわかった。
「うん。いいよ。てか出来れば泊まって欲しいって思って言ってるよ」
 これから遠距離恋愛が開始するのがわかっているのだから、恋人っぽことを目一杯しておきたいのはお互い様だ。
「外でイチャイチャはしないけど、一緒に買い出しもしたいし、お前の好物とか聞いてみたいし、それが作れるかはともかく、せっかくだからお前に俺の手料理的なもの食わせてみたい気持ちもある」
 3年一人暮らしした実力ってやつを見せてやるよと笑えば、相手は大きく目を見張る。
「え、まじで?」
「でもってイチャイチャは夜な。ちゅーしたりぎゅってしたり、好き好き大好き言い合いながら、もっかいセックスも全然有り。てかしたい」
「マジ……ってかお前、体どうなんだよ。どっか痛いとか。っつうか、お尻の穴の違和感が凄いとかどうとか言ってたのは?」
 そういや繋がりを解いた直後に、そんなことを言ったような記憶はある。だってやっぱり指で解し広げるのメインで弄っていたのとは、終えたあとの感覚が全然違った。
「違和感全くないわけじゃないけど、痛いとかはないし多分平気」
「本気にするぞ?」
「うん。気持ちよくて最高に幸せだったから、早くお前ともっかいしたい」
「おっ前、だから、そういうとこ!」
 好きなんだろ? と聞けば、やけくそ気味に、そうだよ好きだよ、と帰ってきたから笑ってしまった。

<終>

オマケの1年後 →

リクエストは「エイプリルフールの攻防」のエンド直後の初エッチと1年後のエイプリルフールをどう過ごすのか気になる、でした。
1年後はオマケな感じの小ネタでしたが、初エッチは本編以上の文字数でガッツリ目に書いてしまいました。誰とも経験したことない童貞同士の初エッチ、久々で楽しかったです。
リクエストどうもありがとうございました〜

1ヶ月ほどお休みして、残りのリクエストを5月31日(金)から更新再開予定です。
次に書くのは「彼女が出来たつもりでいた」の女装バレ後デートです。
残りのリクエスト詳細はこちら→

 
 
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エイプリルフールの攻防・エンド直後12

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 呼応するように相手もふわっと柔らかに笑って、でも同時にお腹の中のペニスがゆっくりと引き抜かれていくから、相手の笑顔にときめく余裕がない。いやまぁ間違いなく鼓動は跳ねてドキドキしてるけど。
 でも意識の大半はやっぱり相手の顔よりも、自身のお腹の中や相手と繋がる穴やそこから発生するゾワッとした何かに向かっているから、このドキドキはこの先への期待と不安なんだろう。ゾワッとした何かが快感の芽だってことはもう、わかっている。
「んっ……」
 鼻から漏れていく息が、自分でもわかってしまうくらいに甘えを含んでいて恥ずかしい。
「気持ちよさそ。良かった」
 ホッとした様子を滲ませながらも、いつの間にやら笑顔を引っ込めた相手の顔は、真剣そのものだ。さっき散々、お腹の中を探られながら見た顔でもある。
 中の感じる場所を探されている。そう思ったら、前立腺を捏ねられて喘ぎまくった記憶とその感覚が蘇って、お腹の中がキュンと疼く気がした。というかお腹の中の相手のペニスをギュッと締め付けてしまった。
「ぁっっ」
 締め付けたことで、相手のペニスに前立腺が強く擦れたらしい。
 小さく体を震わせながら、相手の肩を掴む手に力を込めてしまう。相手をこちらに引き寄せようと、その体に縋ってしまう。
「っは、締め付け、やばいな」
「んぁっ」
 抗うことなく体を寄せてくれたから、相手がこぼす熱い声が耳元を掠めてゾワゾワする。
「ふ、かぁいい声。好きだよ」
「お、ひぅっっ」
 そんな囁きのあと、ぴちゃと濡れた音が耳の中に響いて、俺もと返す間もなくまたしても体を震わせた。しかも耳を舐めながら同時に小さく腰を揺すられる。
 今、相手のペニスが前立腺に当たっていることを、相手もしっかり把握済みらしい。
「ぁ、ぁっ、ひっ、ぁ、あんっっ」
「はぁ、好き」
「ぁ、おっ」
「お前がかわいいし、めちゃくちゃ愛しいよ」
「おれ、あっ、もぉ、んぁっ」
 宣言通り、合間に何度も好きだとか可愛いとか愛しいとか繰り返されたけれど、まともに言葉が返せない。あちこちからゾワゾワが押し寄せて、ぎゅうぎゅうとお腹の中を締め付けてしまうから、相手の動きはそう激しくないのに、いつまで経っても全然落ち着けなかった。
 そのゾワゾワは間違いなく快感だけど、さっきと違ってこちらのペニスは放置されているから、こちらがイッて一旦終わりになりそうにもない。お尻も気持ちよくなってしまったけど、さすがにペニスへの刺激無しでイケるほどじゃない。
「ぁ、あっ、も、ゃ、やぁあっ」
 喘ぎすぎているのか、だんだん息が苦しくなって音を上げた。
「どっちが?」
「わ、わかんな、ぁあっ」
「どっちも気持ちよさそ、だけど」
 本当に嫌なの? と聞かれて、でもそれじゃイケない、と正直に答えてしまえば、相手の片手が腹の間に潜り込んでくる。ペニスを握ってくれる。
「はぁあん」
「っくぅ、やっ、ばぃ」
 持ってかれそ、などと言いながらも相手が達してしまうことはなく、けれど明らかに腰の動きが早くなった。
「っはぁ、好き。好きだ」
「あっ、あんっ、おれ、おれもっ、すきぃ」
 耳を舐めたり食まれたりする代わりに、耳元で何度も好きだと言われ、喘ぎながらも必死で好きだと繰り返す。
「も、いき、そ。イッていい? 一緒にイケるか?」
「ん、うん、いい、いいから」
 ペニスは握られているものの、扱くような動きはほぼされてないので、そんな都合よく一緒にイケるとは思えなかったけれど、それでも必死に頷いた。
「んっ、でるっ」
 そんな宣言とともに相手がグッと腰を押し付けてくる。けれど相手のペニスがお腹の中で射精しているのかどうかは正直良くわからなかった。というかそれを感じるどころじゃなかった。
「ぁ、ああっ、ちょ、あっ」
 握られたペニスがしっかりと扱かれだして、あっという間にこちらも上り詰めていく。
「イケよ。一緒にイこって言ったろ」
「ん、うん、い、いくいく、イッちゃう」
 相手の甘い声に促されて、本日3度目の吐精を果たした。

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