片想いが捨てられない二人の話1

 叶う見込みなんて欠片ほどもないような片想いを、もうずいぶん長く続けている。相手は面倒見がやたら良くて生徒との距離もかなり近い教師で、高校1年時の担任だった男だ。
 入学早々事故って入院というアクシデントに見舞われた自分の病室に、結構な頻度で見舞いに来てくれたその人は、退院後も何かと気にかけてくれたから。こちらも一人出遅れてしまった不安から頼りまくってしまったし、わかりやすく懐いてもいた。
 ただ、自分だけが突出して頼りまくったり懐きまくっていたわけではない。だって面倒見が良くて生徒との距離も近い教師が、人気がないはずがない。
 そんな相手に、どうやらガチ恋しているらしいと気づいたのはいつだっただろうか。始まりはわからないけれど、この想いを初めて伝えた日のことは覚えている。
 一生徒として扱われるのではなく、もっと特別な存在になりたい欲求を持て余して、突撃掛けて華麗に躱されたのは3年に上がった春だった。高校卒業まで1年を切ってしまった、という事実に焦ったんだと思う。それに実のところ、勝算ありって、信じていた。
 彼を慕う生徒は大勢いるが、積極的に絡みに行く生徒はそこまで多くはなかったし、その中でもかなり構って貰っている方だという自負があったのと、交際相手の性別にこだわりはないらしい情報を得ていたせいだ。
 長いこと彼を慕って周りをうろついていたせいで、本気っぽかった女生徒がいつの間にやら離脱している現象を数件把握してもいた。でも男の自分は変わらずに構って貰えているのだから、交際相手の性別にこだわりはなくても、どちらかといえばゲイよりなのだと思っていたのもある。
 大きな勘違いをしていた。本気っぽかった女生徒たちが離れていったのは、自分よりも先に彼に告白していただけだ。告白した結果、無理を悟って去っただけに過ぎない。
 そうして引いていった彼女たちは聡明だと思う。少なくとも自分のように、嫌われたり軽蔑されたりはしなかったのだから。
 思春期の若者が寄り添ってくれる身近な大人に惹かれてしまうことそのものは、ある程度仕方がないこととして彼も受け入れているようではあったから、告白時に応じる可能性が一切ないことを説明された段階で大人しく引いていれば、慕ってくれた生徒の一人として彼の記憶に残れたかもしれない。
 でも自分には失恋を認めて引くなんてことは出来なくて、最初の告白を丁寧にお断りされて以降もしつこく手を変え品を変えアプローチし続けた。相手が頑なになればなるほどこちらも躍起になって、段々と派手に迫るようになったせいで、夏が終わる頃には同学年どころか下級生の一部にまでも認識されていたようだった。
 一種の娯楽化だ。最終的に先生が落ちるかどうか、というのを興味津々に見守られていた。
 いい加減に諦めろと諭す声もあったが、応援してくれる声も多くて、自分自身、だんだんと卒業式を期限としたゲーム感覚になっていたのかもしれない。
 卒業式を間近に控えたあの日、数人の協力者を得て、先生とともに生徒指導室に閉じ込められた。狭めの空間に二人きりで、最後のチャンスとばかりに自身の服に手をかけた時の、軽蔑と落胆と、憎悪すら感じるあの目を、忘れられない。
 その目を前に怯んでしまった。何も、出来なかった。
 丁寧にお断りされた最初から叶う見込みなんてない想いだった。それをしつこく迫り続けて、嫌われるまでしたのに。卒業して、彼とは会うこともなくなったのに。
 未だに想いが欠片も風化する気配がなくて、カレンダーを前に泣きそうだと思った。
 明日、自分は二十歳になる。酒が飲める年齢になる。
 あれは恋なんてするずっと前の入院中の雑談で、彼が覚えているとはとても思えないけど。覚えてたとしても、そんなの無効って言われそうだけど。
 でも、間違いなく、いつか酒が飲めるようになったら一緒に飲みに行きましょう、という約束をした。
 病院食が口に合わなくてつらいって話から、好物の話になって、日本酒が好きだと教えてもらって、まだ飲めないのにって拗ねて、じゃあいつか飲めるようになったらって……
 スマホを持つ手も、画面に触れる指先も、かすかに震えている。我ながらバカみたいだと思っているし、そもそも連絡がつくのかも怪しいのに、どうやら試さずには居られないらしい。

続きました→

 
 
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HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

酔った勢いで兄に乗ってしまった話

※ 兄×弟です。乗った=騎乗位。

 食欲をそそるいい香りに意識が浮上する。なんで自室じゃなくリビングで寝てたんだと思いながら体を起こせば、ローテーブルの向こう側、味噌汁椀と箸とを手にした兄とバッチリ目があい、一瞬で昨夜何があったかを思い出す。
「ぅ、あっ、痛っ」
 声を詰まらせながらも慌てて立ち上がろうとして、でも叶わなかった。腰に響いた痛みに呻いて眉を寄せる。
 腰というか、腿というか、尻の穴と言うか、つまりは昨夜のヤラカシの影響が思いっきり体に残っていた。
「大丈夫か?」
 心配そうに声をかけてくる兄の声はいつも通りだ。
 まさか、こちらと違って昨夜の記憶がないのだろうか。昨夜は兄も相当飲んでたはずだから、可能性はゼロじゃないけど。
 だったら、痛いのは頭で、二日酔いが酷くて、辺りで誤魔化せるだろうか。なんて思ったのもつかの間。
「お前、昨日結構むちゃしてたし、あんま無理すんなよ。で、切れてはなさそうだったけど、痛いのはやっぱ尻の穴なの?」
「むちゃ、って、てか、切れてない、とか、えっ、なんで」
 尻の穴、なんて単語が出た以上、兄にも昨夜の記憶はばっちり残っているようだけれど、言われた言葉が理解できない。というよりは多分、したくない。
「昨日、終わった後一応確認した。お前、爆睡してて起きなかったけど」
「な、なんでっ、そんなこと」
「いやだってお前、けっこう強引にねじ込んだろう?」
 痛いって泣いたじゃんと言われて、そうだっけ? と思う。どうやら自身の記憶のほうが一部飛んでいる。
「もしかして、覚えてない? てかどこまで覚えてる?」
 言われて昨夜に記憶を馳せる。はっきりと思い出せるのは、自分の下で色っぽく喘ぐ、兄の可愛い顔ばかりだった。それと、ずっと焦がれていた兄のちんぽが、ちゃんと勃起して自分の体の中にあるという充足感。
 尻穴で兄のちんぽを擦り立てるのに必死で、自分の動きに合わせて兄がアンアン気持ちよさそうにするのが嬉しくて、その瞬間に自分の体が痛かったかなんてのは全然覚えてなかった。
「まさか、俺に乗っかって腰振ったことも記憶にないの?」
「それはさすがに……てか、言い方ぁ」
 見た目だけの話で言えば、童顔かわいい系の兄のが断然女役にふさわしい、はずだ。兄弟だからそこまで顔のつくりに大きな差はないんだけど、なんせ、こちらは長年体育会系に所属してガッツリ作り込んだ筋肉をまとっているので。背だって5センチは兄より高いので。
 でも乗ったは乗ったでも騎乗位で、可愛い兄のことをずっと性的に見ていたのは事実でも、抱きたいのではなく抱かれたい側だった。強引にだろうと初めての体に兄のちんぽを受け入れられたのだって、兄に抱かれる妄想で、尻穴をいじるオナニーをしていたせいだ。
「まぁ突っ込んでたのはこっちだけど、でも、そうとしか言えないだろ。てか一応言っとくと、俺、怒ってないわけじゃないからな?」
「それは、ごめんなさい」
 お前が寝落ちた後大変だったんだぞと、多大な呆れを含んだ声で言われて、そこは素直に謝った。
 兄をイカセて満足した後、後始末もなにもないまま寝落ちただろうことはわかる。だって片付けをした記憶が全くないし、でも満たされて目を閉じた方の記憶はちゃんとある。
「お前しばらく酒禁止な。まぁ、俺だけ飲んだりもしないけど」
「はい」
「あと、体治ったらでいいから、もっかいちゃんと抱かせて」
「は、えっ!? なんで???」
 素直にハイと言いかけて、慌てて飲み込み疑問の声をあげた。
「てかさ、お前がさ、俺追っかけて同じ大学に来た辺りから、お前の気持ちにはなんとなく気付いてたんだよね」
「えっ」
「あと、お前が同じ大学通うなら借りる部屋一箇所にしたら出費抑えられる、って、お前の合格聞いたときに、実は俺も親にそれ提案したんだよね。お前が既に、そういう方向で親説済みだったけど」
「え、と、それは、どういう……?」
「最初は、俺が一緒だったら家事とか押し付けられて楽できそう。みたいな下心かと思ってたけど、でもお前、けっこう家事もしっかりやるし、重たい物欲しい時の買い出しとかは率先してやってくれるから、むしろ俺のが得してるし。とか考えると、わざわざ兄貴と一緒にくらしたい理由って何よと思ってさ。だってお前、親の金の心配するようなタイプじゃないだろ。たださ、」
 そこで一回口を閉じた兄の視線が、頭から腹のあたりまでを上から下へ向かって降りていく。
「ただ、なに?」
「お前が抱かれたい側、ってのは、考えてなかった」
 いつか押し倒される可能性は考えてたけど、酒の勢いで突っ込まされるとは思ってなかった、らしい。
「だろうね」
「けどまぁ、考えてなかっただけで、違和感はないんだよな」
「なにそれ」
「お前けっこう甘ったれなとこあるし、体はデカくなっても、2個しか違わないおにーちゃんにすごいなーとか、えらいなーとか、ありがとーって、頭ヨシヨシされて素直に喜んじゃうタイプだし。だから、実は俺に抱かれたいって言われても、あんまり違和感はないなって」
 そこまであからさまに甘えてたつもりは無いし、本音を言えば、もっともっと構われたいくらいなんだけど。だって、そんな甘えたな自分を前にして、兄が嫌な顔をする事が殆どない。呆れたような顔をする事はあるけど、でもそれも、形だけって感じだし。
「それ言ったら兄貴は2個しか違わない弟相手に、ニコニコしながらヨシヨシすんじゃん」
「それな。だからさ、お前が俺の上で必死に腰振って、すげー苦しそうなのに、俺が気持ちぃって喘ぐたびに満たされてますみたいな顔してんの見たらさ、お前のこと、気持ちぃって喘がせながら抱いてやりたいな、って」
 思っちゃったんだよね、と兄が優しい顔で笑いかけてくる。
「あんまり甘やかすのはお前のためにならないかと思って自制してたけど、でも抱く相手、ってことなら、セックス中なら、もっとデロデロに甘やかしても許されそう」
 そんな事を言われてしまったら、今すぐにでも抱いてくれないかなって思ってしまう。まぁ、思うだけでなく口から出ちゃったんだけど。
「それはダメ。体が治ってからだって言ってるだろ」
「はーい」
 でしょうね、と思いながら、そこは素直に頷いておいたけど。でも、体が治れば。多分、そう遠くないうちに。
 兄に思いっきり甘やかされつつ抱いて貰えるのだと思うと、その日が楽しみで仕方がない。

リクエストは「弟を構いたいけどお互いいい年なので自制している童顔な兄×めちゃくちゃお兄ちゃんに甘えたいけど素直になれないガチムチ系弟の二人が酒に酔ってやらかす話」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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大事な話は車の中で

 ちょっとツラ貸せ、などという不穏な誘い文句で連れ出された先にあったのは見慣れぬ車で、助手席側のドアをわざわざ彼の手で開かれた後は「乗って」と促される。
「何この車」
「レンタカー借りた」
 そんなのは見りゃわかるし、当然、聞きたいのはそんなことじゃない。
「なんのために?」
「お前とドライブ行きたくなって」
「やだよ」
 絶対嘘じゃん。と思うと同時に、口からは拒否の言葉が飛び出ていた。
「つれねぇな。お前と、ちょっと大事な話がしたい」
 いいから乗れよと再度促す声は固い。
「俺、お前とは距離置きたいって、言ったと思うんだけど。乗らないし、話し合いに応じる気もないよ」
「あんな一方的な友達やめる宣言、納得できねぇって言ってんだよ」
 まぁそうだろうね、とは思う。思うけれど、話し合ってどうにかなるようなものでもないのに、という気持ちが断然大きいのも事実だ。
「理由、ちゃんと話したじゃん」
 大学で出来た友人の1人である彼とはなんだかめちゃくちゃ気が合って、同じバイト先を選んだり、長期休暇中にレンタカーを借りて一緒に遠出してみたりと、かなりべったりした付き合いをしてきた。
 これはちょっとマズいかも、と思ったのは結構前なのに、それからもズルズルと1年位はそんな関係を続けて、いよいよヤバいと思ってからは、不審に思われない程度にゆっくり距離を開けてきた。つもりだった。
 けれどそれを察した相手は黙って疎遠になってはくれなかったし、離れた分の距離をグイグイ詰めようとしてくるし、それを上手く躱せる何かをこちらは所持していなかった。
 だから先日、これ以上友人関係を続けられない理由をはっきりしっかり告げたのに。恋愛的な意味で好きになったことも、友人として近い距離で過ごすのがもういい加減キツイってことも、全部ぶっちゃけて、もう友人として一緒に過ごすことはしないと宣言したのに。
「友達とドライブ行きたいなら、俺じゃない別の友だち誘いなよ」
「んなこと言ってねぇだろ。お前以外と行ってどうする」
「だぁから、そういうの、ほんと、もう無理なんだって」
 どうしたって期待したくなるけど、彼の中に自分と同じ想いがないことははっきりしている。異性愛者だってことも、今現在狙ってる女の子がいることも、その子の名前と顔と血液型と好物まで知ってる。だって先日まで、めちゃくちゃ気が合う一番の友人、って立場に居たんだから。
「んじゃ俺とデートして。っつったら、大人しくこれに乗るわけ?」
「は?」
「お前が、期待するから乗れないとか言うなら、期待していいから乗れよって言ってる」
「はぁ? はぁあ? 意味分かんないんだけど」
「それを説明するから乗れっつーの。てかお前と大事な話がしたいっつってんだろ。一方的な友達やめる宣言が納得行かない、ってのも、もう言った」
 わかったら乗れとしつこく促す声に、けれど足は動かない。だって混乱は増すばかりだ。
 全く動こうとしない、そんなこちらの様子に焦れたのか、相手が大げさにため息を吐いた。
「だいたい、お前がもし本気で俺と話すのも嫌だって思ってんなら、ツラ貸せにだって付いてこないだろ」
「まぁ、それは……」
 確かにそうだ。一方的な友達やめる宣言が気に食わないのは多分わかってて、だから、ちょっとくらいはその不満を聞くべきかなとは思っていた。ただ、ドライブに誘われるなんてかなり想定外だし、気持ちをさらけ出してしまった今、車という密室に二人きりになるのなんて絶対嫌だ。
「ねぇ、なんで車なの。話がしたいってだけなら別の場所でも良くない?」
「逆に聞くけど、お前、俺のこと自室に入れる気ある? 話あるから部屋来いって言ったら来るわけ?」
「いや、無理」
 即座に否定したら、ほら見ろって顔をされてしまった。
「話の内容考えたら、誰にも話聞かれないような場所がいいだろ。って思ったのと、まぁ、これはお前次第だけど、そのままラブホ直行とかも有りか無しかで言えば有り、って思って」
「は? なんて?」
「だから、」
「あ、いや、繰り返さなくていい」
 最後の方は若干声を落とされていたけれど、聞こえなかったわけではない。聞き返したのは、その内容を理解したくない拒否反応ってだけだ。
 だから再度ラブホと言いかけた相手の言葉を慌てて遮った。
「あー、だから、それくらいの覚悟決めて誘ってっから、とりあえず大人しくここ乗ってくんね?」
 頼むから、と続いた言葉にふさわしい、懇願するような目で見つめられて、ぐらりと気持ちが揺れる。乗れよの命令には逆らえるのに、頼まれてしまうと途端に弱い。だって、好きな相手のお願いだ。
 ああ、でも。できれば、ラブホなんて単語が出る前に、覚悟が決まればよかった。
 顔が熱くて仕方ないし、それは絶対相手にも伝わっている。だってこちらが車に乗る気になったのを察して安堵の表情を見せている。
 悔しいなと思うのに、でももう、足は車に向かって一歩を踏み出してしまった。

頂いたお題は「急なドライブに誘われて動揺する受け」でした。リクエストありがとうございました〜

 
 
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意気地なしの大人と厄介な子供5(終)

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「お前、昨日のこと、どこまで覚えてる?」
「俺がエロいことしていいよって誘ったから、一緒にベッド使えなくなった?」
「記憶、あんのか」
「あるね。で、叔父さんはなんて言ってた? 俺に酒飲ますの禁止とか言われた?」
「は?」
「電話してたのは知ってる」
 相手が誰かまでははっきり知らないけど。でもギリギリ嘘はついてない。
「起きてたのかよ。つか聞こえてたのかよ」
 否定されなかったってことは、相手は叔父さんで間違いないらしい。チョロい。
「何話してたかまでは聞こえてないよ。でも、俺が酔っ払ってエロいことしよーって誘った話、したのかな、って」
 これを肯定されたら、それはそれでちょっとショックって気もする。この人があれこれ誘ってくれるのは、母か祖母あたりに頼まれた叔父経由での様子見、という面があるだろう予想はあったけれど、こんなことまで伝えているって言うなら、どこまで報告されているんだろう。
 まさか、叔父さんの代わりでいい、と言ったことまで教えたのだろうか。そもそも叔父は、どこまでこの人の想いを知っているんだろう。
「なぁ」
 静かな声に呼びかけられて、嫌な想像に俯きかけた頭を起こした。
「お前、俺のこと好きだったりすんの?」
 恋愛的な意味で、と大真面目な顔で聞かれてしまって言葉に詰まる。言われて気付いたが、それは考えたことがなかった。
「あいつは、お前の叔父さんは、お前が俺を誘うのは俺に惚れたから、って見解だったけど、俺はどうにもお前に惚れられたなんて思えないんだよな」
「え、叔父さんと電話してたのって、そういう相談? 俺がどんな理由で誘ったと思う? とかを、わざわざ叔父さんに聞いてたの?」
「あー……いや、まぁ、話の流れでそうなったっつうか」
「怪しい」
 どんな話の流れだ。というか内心焦っているっぽいのが見て取れるから、叔父と何を話していたのか気になってしまう。
「そこはあんま突っ込むなって。お前が、叔父さんの代わりでもいい、とか言うから、あいつが何か変なことお前に吹き込んでないか確かめたかっただけっつーか」
 突っ込むなよといいつつも、そこで口を閉じて黙秘するのではなく、ゴニョゴニョと言い訳するみたいに教えてはくれる。
 こういうとこ、いいな、とは思う。けれどそれを恋愛感情かと言われると、正直よくわからない。
「変なことって?」
「俺が昔あいつに惚れてた話、とか」
「え、叔父さん知ってんの!?」
 言えば、しまった、という顔をされてしまった。ちょっと迂闊すぎないか。知ってたけど。
 けれどすぐに諦めたらしい。というか若干ヤケクソ気味に、昔告白して振られたよ、と教えてくれた。
 こういう迂闊さも、諦めの速さも、この人の好ましい部分だと思っているけど。でもやっぱり、これらを恋愛感情とは呼ばない気がする。
「マジ、で……」
「マジも大マジ。で、言ってないからお前が自分で気づいたんだろってさ」
 お前のその反応的にもマジなんだなぁと言った後、相手は話は終わりとばかりに食事の続きに戻ってしまう。
「えー……」
「なんだよその不満そうな声」
「いやだって、俺に恋愛感情あるかとか、なんで誘ったのとか、気になってるわけじゃないの? 俺まだそこ、何も答えてないんだけど」
 突っ込まれて聞かれても、返せる答えがあるわけじゃないけど。でも叔父には聞くのに、本人からの回答は必要ないって態度はどうかと思う。
「答えてないけど、俺に惚れてる態度じゃないのは見りゃわかる」
「なんで誘ったかの方は?」
「お前、俺が乗らなかったから次は別の男誘ってみよう、とか考えてる?」
「は?」
 なんで突然、「別の男」なんていう、対象さえはっきりしてない存在が出てくるのかわからない。呆気にとられてしまえば、そんなつもりが一切ないことは、さすがに相手にも伝わっただろう。
「思ってないなら別にいい」
「え、何がいいの」
「お前が俺を誘った理由、むしろ知らないほうがいいかなって」
「ああ、理由聞いて、うっかり説得されると困るから?」
「そう。酔ってないお前に計算づくで口説かれんのはちょっとなぁ」
「つまり、素面で誘ったらちゃんと据え膳になる?」
 酒を飲み慣れてない若者が酔って誘ったのではダメ、ということだろうか。だとしたら、「大人のけじめ」なんて単語が出てきたのも頷ける気がする。なんて思ったのもつかの間。
「一回りも下の子供なんか食わねぇよ」
「ちょっ、年齢差はどうしようもないじゃん。てか酒飲める年齢を子供扱いおかしくない?」
「いやお前、こんなおっさん誘ってないで、初めてはちゃんと好きになった相手と経験したほうがいいって、マジに」
 セックス興味出てきたってならまずは好きな相手作れよと言われて、そういや、こちらの恋愛経験値がほとんどといっていいほど無いことを知られているんだっけと思う。
「あ、もしかして、俺が惚れたら手ぇ出す気になるって話だった?」
「そんな話はしてねぇよ」
「あれ? 違うのか。てかもし俺が惚れたらどうなるの?」
「どうしても経験してみたい時の安牌くらいには思ってていいけど、それ以上は勘弁してくれ」
「あんぱい?」
「安全牌。要するに、お前にとっては危険が少なくて誘っても問題なさそうな相手」
 自分に好意を持っていて、通う大学の職員だとか、叔父の友人という立場もあるから、そう酷い扱いはされないだろう。的な打算は間違いなくあって誘ったから、相手への恋愛感情のなさ以前に、そういうのも伝わっているのかも知れない。
「どうしても経験したいってお願いしたら、安牌として抱いてくれるってこと?」
「まぁそうなるな」
「やっぱ俺のこと抱けるんじゃん」
「だぁから、出来るからって、それを俺に選ばせんなって言ってんだよ」
 再度、ちゃんと好きなやつ作れと繰り返されて、なるほど、と理解と納得を示すような言葉を返しながらも、相手に惚れた場合にどうなるかの明言を避けられたことが引っかかっている。わかりやすくて隠し事が苦手そうな人が、ここまで濁すことの意味を考えてしまう。
 勘弁してくれと告げた時の相手はどうだっただろう。心底嫌がっている感じではなかったと思うけれど、でもはっきり迷惑そうな顔だった気もする。
 惚れたって言われたら結局絆されるってわかってるから、という想像がどこまで当たっているかの自信がない。そこに自身の期待が混ざっている自覚があるせいだ。
 本気で惚れた結果、本気で嫌がられるのは嫌だなぁ。と思う気持ちと、でも、惚れなきゃ進展もないんだろうなという理解もあって、胸の内でだけこっそりため息を吐いた。

22時追記:
頂いたリクエストは「大学生くらいの受けと一回り以上年上の攻めで、いい歳してこんな年下の子に手を出すのは流石に…と葛藤している攻めと、大人って大変だな…とそんなモダモダしてる攻めを観察してる受け」だったんですが、年齢部分くらいしかクリアできてないですよね。
書いてるうちにモダモダするタイプの攻めじゃなくなってしまったというか、攻め視点入れたのが多分失敗でした。

攻めが葛藤するのはこの後で、恋愛初心者タチ悪ぃ〜って思いながら振り回される未来がきっと待ってる。あと受けは、大人って大変ってよりは、恋愛経験積んだ大人(=失恋とかを経験した上で30過ぎても独り身な大人)って面倒くさいな、とか思いそうです。
で、まぁ、リクエスト完了した! という気持ちにイマイチなれてないので、これはまた後ほど、他のリクエストを書いた後で再チャレンジしたいつもりでいます。
もっとモダモダした攻めをちゃんと書きたい。

 
 
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意気地なしの大人と厄介な子供4

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※ 視点変更しています。

 意識の浮上とともに頭の痛みを認識して、深い溜め息をこぼす。これが噂の二日酔いってやつだろうか。
 初心者が飲みやすさに釣られて飲み過ぎる、というカクテル類をあえて選んで飲んでいたのだから、狙い通りと言えなくもないのだけれど。でもどうせなら、昨夜の記憶を全抹消するくらい派手に酔ってしまえばよかった。いやでも、それはそれで、酔った自分が何を言って何をしたかわからないのは怖すぎる。
「はぁ〜……」
 再度大きなため息を吐きながら、昨夜のアレコレに思いを馳せた。
 予想通りに酔っぱらいとして世話を焼かれたけれど、予想以上に甲斐甲斐しかったのは、こちらが盛大に甘えまくったせいだろう。酔って気が大きくなったと言うか、普段の自分らしくない真似だって、全部酔ったせいに出来ると思ってしまったと言うか。
(イケるかと思ったんだけどな……)
 好きなくせに、という指摘には否定がなかった。その上、無茶振り抱っこの要求まで叶えてくれた。
 だから、酔って迫ってワンチャンきたこれ、って思ったのに。しかし物事はそこまで狙い通りには進まなかった。据え膳だよは否定されて、大人のけじめとやらで、結局手は出されずに終わってしまった。
 叔父の代わりにしてもいい、とまで言ったのに。
 叔父、という単語を出した直後、腕の中で硬直した体には気付いたから、きっと、バレてないと思ってたんだろう。あの後の沈黙が、代わりにしていいという誘惑への逡巡だったのかはわからないけど、その沈黙を前に、もしも「じゃあする」って言われたらヤダなと思ってしまって、自分で誘ったくせに、自分で放り出してしまった。
 部屋を出ていった彼が、その後、叔父本人に連絡を入れただろうことまではわかっている。いやまぁ、相手が本当に叔父かはわからないのだが、誰かと電話で話しているようではあった。
 さすがにベッドから抜け出して聞き耳を立てる気力もなく、いつの間にか寝落ちていたようで、気付いたらこうして朝なわけだけど。
(てかあの人どこで寝たんだろ?)
 自分が寝てる間に隣に潜り込んで、目覚める前に起きだした。という可能性はあるだろうか?
 深く寝入っていて全く気づかなかった、という可能性もありそうな気がするけど。なんせ大人のけじめとやらで手を出さなかった人だ。と思うと、隣で寝たりはしなかった、という可能性のが高そうな気がする。
 もっと年齢差が少なかったら、こちらが学生ではなく社会人だったら。あれは、そう期待しそうになる断り文句だと思う。
 つまりは、それなりに効いていたってことじゃないのか?
 だったらいいな、と思いながら、ようやく身を起こしてベッドを降りた。閉じた扉の先で人の動く気配がしているから、相手はとっくに目覚めている。
「おはよ、ございます」
 人の動く気配がはっきりとしていたのは、相手がキッチンで動き回っていたせいだ。どうやら朝食を準備中らしい。
「はよ。よく眠れたか? 体調どうだ?」
「ちょっと頭痛いくらい」
「朝飯食えそう?」
「食べる」
「りょーかい」
 タイミングよく起きてきたなと言われながら、あっという間に出来上がった朝食を一緒に食べる。
「昨日、どこで寝たの?」
「ソファ」
 あっさり返された答えに、やっぱり、と思う。やっぱり、とは思うものの、マジで、という気持ちもあれば、申し訳ないことをしたような罪悪感もある。
「小さすぎない?」
「ベッドお前に貸したんだからしょーがねぇだろ」
「ベッド、一緒に使えばよかったじゃん」
 言えば相手の動きが止まった。

続きます

 
 
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意気地なしの大人と厄介な子供3

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 電話はすぐに繋がった。まぁまぁ遅い時間ではあるので、今良いかと一応確認した後、あの子に変なこと教えてないよなと尋ねてみる。
『変なことって?』
「俺が昔、お前に告って振られ済み、とか」
『言ってない』
 最後に彼と会話したのがそもそも正月に集まった時で、簡単自炊飯を教わったと楽しそうに話していた、らしい。そういや、独り身が長いなら安くて簡単なレシピを教えて欲しいと言われて、初めて自宅に招いたのが昨年末辺りだったかと思い出す。
 一回りも違うおっさんの誘いに乗って食事に付き合ってくれるんだから気にするなとは言ったが、どうにも奢られっぱなしが気になるようで、その後も2回ほど、何が食べたいと聞いた際に簡単レシピを教えてという体で、手料理を振る舞うようねだられたことがある。
『ただ、お前があいつに構うのは俺に似てるから、とは考えてたみたいだな』
 お前の言動から気付いたんじゃないか、と言われた後で、何があったと逆に聞かれてしまう。チラッと寝室に視線を泳がせた後、さすがに寝てるかと口を開く。
「酔っ払ったあの子に、お前の代わりでいいからエロいことしよう、って誘われて」
『で? 代わりじゃなくてお前が好きだ、くらいのことは当然言ってやってから、抱いたんだろうな?』
「手ぇだしてねぇよ!」
 トーンが落ちて冷ややかな声に、慌てて否定の声を上げた。けれど相手はその返答も気に入らなかったようで、電話越しにもかかわらず、更に機嫌が悪くなったのがはっきりと伝わってくる。
『なんでだ。家に呼んで手料理振る舞ってやるほど、なんだかんだ気に入ってんだろ?』
「一回りも年下の子供は対象外だっつったろ。好みだってのと、恋人にしたいかは別だっつうの。だいたいあいつ、別に俺が好きってわけじゃねぇんだし」
『あいつから誘ったなら、お前を好きになったってことじゃないのか?』
「ちげぇよ。あんなの、試してみたい好奇心か、もしくは更にそれ以前の、俺が男相手にヤれるかの確認、くらいの意味しかねぇよ」
 そう頻繁に誘いをかけている訳では無いが、1年半以上をかけて、何度も食事を共にしているような相手だ。さすがに、自分に気があって誘ったのかどうかくらいはわかる。
『つまり、お前が男相手にヤレル、ということすら教えてない仲ってことか』
「俺は今日の今日まで、あいつはAセクか、性対象は女でも恋愛はタイパ・コスパが悪いから忌避、ってタイプだと思ってたよ」
 彼と初めて会ったあの日、彼と別れた後で、なんでわざわざ紹介したと問い詰めたことを思い出す。友人関係は壊れることなく継続しているが、告白されたという過去を持ちながら、大事な甥っ子を、しかも今後親元を離れて一人暮らしという状況になる子供を、ゲイとわかっている男に託したいと考えるその意味がわからなかったからだ。
 その時に、彼がゲイである可能性があるから、という話は聞いた。ただし、恋愛やらにまだ興味がないだけという可能性も高い、とも。
 今後一人暮らしになって、自由を得た彼がどう行動するのか、少しだけ気にかけてやって欲しい。もしゲイだった場合、相談に乗ってやって欲しい。彼の恋愛対象が男にしろ女にしろ、万が一、出会い系などにハマってヤバいことになってそうなら、止めて欲しい。手に負えないと思ったら連絡して欲しい。
 あたりが、この友人からの頼み事だった。過保護すぎないかとは思ったが、問題の子供と過ごす時間が増えるほどに、二人が似ていると感じるほどに、友人の心配もわからなくないなと思うようになった。なぜなら、この友人の大学時代のやんちゃを知っているからだ。
 そんなわけで、彼の恋愛事情を探るような会話を混ぜ込むことはあったし、そのせいで、こちらの性的指向やらがバレた可能性も高いとは思う。自身の恋愛話ゼロで、相手の恋愛事情に踏み込むのはさすがに無理だ。
 結果、セックスや恋愛に興味がないか、女子との恋愛をあえて拒否しているか、のどちらかだと思っていた。つまりは、男性が恋愛対象でためらっている、というような気配は感じたことがなかった。
『じゃあなおさら、今後暫くは今まで以上にちょっと気をつけて見てやって欲しいかな。そういうことに興味が湧いて、お前が誘いに乗らなかった。って考えると、次どういう行動に出るかわからないから』
「あー……」
 なるほど。妙な行動力で、とりあえず経験してみようと突っ走る可能性はありそうだ。
『てか本当に、あいつ自身を知った今も、年が離れすぎってだけの理由で恋愛は出来ないのか?』
「お前ね、前も言ったけど、なんで大事な甥っ子を俺なんかに勧めてんだよ」
 多分お前の好みだと思うから、もしあいつが男を恋愛対象にするなら、いっそお前が恋人になってくれるんでもいい。なんてことを言われて、年下過ぎて対象外と言い切った過去がある。
 過去の交際相手で、一番年齢差があったときでさえ5歳差だったのに、一回りも年齢差がある恋人なんて絶対自身の手に余る。しかも恋愛経験ゼロらしいまっさらの子供だ。手に余ると手放す可能性をわかっていて、そんな子に手を出すのは、どう考えたって無責任だ。
『あの時も言ったが、お前のことを信用してるから、だな』
 だから俺なんかなんて言うなよ、と言った後。
『もし俺が女だったらお前との結婚もありだった、くらいには、お前をいい男だと思ってるんだから、もっと自信を持ってくれ』
「なんっだ、そりゃ。初耳なんだけど」
『言う必要がなかったからな』
「ならそれを今言う必要が?」
『出来た。あいつがもしゲイなら、お前に惚れる可能性は充分にあると思ってんだよ。で、お前を誘ったって事実が出来たなら、お前を好きになったって方に、俺は賭けたい』
 本当にただ興味が湧いて、身近に居たお前をとりあえずで試しただけなのか。と再度聞かれて、少しばかり自信が揺らぐ。
 いやいやいや。恋愛感情なんて絶対向けられてない、はずだ。

続きました→

 
 
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