意気地なしの大人と厄介な子供2

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※ 視点変更しています。

 古今東西、酔っぱらいは面倒くさい。わかっているのにセーブさせずに飲ませたのは、学生でいるうちに、酔った時の状態や自身の許容量を知っておくべきだと思っているからだ。
 まぁ、酔ったところが見てみたい下心が皆無だったわけでもないけれど。結果、こいつが泥酔姿を見せる最初の相手に選ばれたであろうことに、かなり安堵しても居るけれど。
「抱っこぉ」
 タクシーで隣り合って座っているときからずっとしなだれかかっていた体を引きずり出し、グデグデになって力の入っていない体をどうにか支えてやれば、甘えた声が耳をくすぐる。内容から察するに、タクシーを降りた、という認識はあるんだろう。
「無茶言うんじゃねぇよ。あとちょっとだから頑張って歩け」
「ケチぃ。なんのためのジム通いだよぉ」
「健康維持のためだよ。おっさん舐めんな。てかほら、足出せ足」
 えー、と不満げな相手を励ましつつどうにか自宅まで連れ帰るが、歩いているうちに多少酔いが冷めたのかも知れない。
 寝室に放り込んで終わりかと思いきや、水が飲みたいだの歯を磨きたいだのシャワーを浴びたいだの寝間着に着替えたいだの、やたらと注文が多い。しかも酔いがさめたとはいっても、依然として体に力は入らない様子で、気を抜くとすぐに座り込んでしまう。
「歯ぁ磨き終わったのか?」
 ちょっと目を離した隙に洗面台の前で崩れていた相手に声をかければ、うつむいていた頭がゆっくりと持ち上がり、酔ってとろりと濁った目が見つめてくる。
「終わった?」
 再度繰り返し問えば、やっと、「うん」と短な肯定が返った。その手にも口にも歯ブラシは無いので、どちらかというと、どのていど意識があるかの確認だ。
「お前、さすがにシャワーは無理だろ、これじゃ」
 隣にしゃがみこんで、諦めて着替えなと手の中の部屋着を押し付ける。
「歯ブラシと違って新品予備とかねぇけど、洗濯はしてあるから」
「いれてよ」
「なんだって?」
「しゃわー、浴びたい」
 どうやらこの、まともに自立もままならない酔っぱらいを、風呂場に連れ込んであれこれ洗えと言っているらしい。
「だぁから、無理だっつうの。明日の朝でいいだろ」
「やだ」
「やだじゃない」
 こんな場所で酔っ払い相手に問答を続けても無駄だ。もう充分すぎるほどに譲歩している。
「さっさと着替えろ。でもって寝ろ」
「じゃ、きがえ」
「そこにあるだろ」
「ちがう」
 脱がせて、と続いた言葉に、今更やっと気づく。ああこれ、もしかしなくても誘われてるのか。
 そういう欲求、あったんだな。という若干失礼な驚きもある。
 ただまぁ、気付いたところで、その誘いに乗れるわけがないんだけども。
「お前ね、友達と飲んで酔っ払って、こんなワガママ放題できると思うなよ」
 諦めのため息をわかりやすく吐き出してから、相手の服に手をかけた。
「しないし」
「そう思ってても、若いうちはうっかり飲みすぎて醜態晒すもんなんだって」
「相手くらい、えらんでる」
「今後もぜひ、そうしてくれ」
 ためらいなく次々相手の服を剥ぎ取って、持ってきた部屋着を着せていく。相手の思惑が見えてしまったら、妙に気持ちが凪いでいた。
「もちょっとやさしく、できないの」
 雑だといいたげな不満が漏れたが、贅沢言ってんじゃないよ、という気持ちしかわかないことにどこか安堵しても居る。
「する気がないの」
「なんで?」
「お前が誤解しちゃうから」
「ごかい、じゃない」
 好きなくせにと続いた言葉に、今度は、気づかれてたのか、と思う。まぁ一回りも年齢が違う独り身のおっさんが、いくら友人の甥っ子とは言え、大した用もないのにわざわざ声を掛けて引っ張り回していたら、気づかれても当然かも知れないが。
「ねぇ、だっこ」
 着替えを終えさせ、さあ立てと促す前に、またしてもそんな要求が投げられる。たださっきよりは甘えた気配が少なくて、どことなく、試されているような気配がある。
 再度、大きく諦めのため息を吐き出して、相手の体の下に手を差し込んだ。顔が近づくその先で、相手が驚いたように目を瞠るのが見えた。
「落とされたくなきゃしっかり捕まって」
 促せば、おずおずと肩に添えられていた手が、ぎゅっと首に巻き付いてくる。
「ん、ふふっ、姫抱き」
 驚いた顔を見せていたくせに、抱き上げて歩き出せば、腕の中で楽しげな声が揺れた。随分酔いは醒めて見えたが、それでもやっぱりまだしっかり酔ってんだよなぁ、と思ってしまうくらいには、普段の彼からは全く想像できない振る舞いだった。
「ほら、着いたぞ。余計なこと考えずに大人しく寝ろよ。って、おい?」
 寝室までの短な距離を移動して、ベッドの上に抱えた荷物を下ろすが、腕に抱えていた体が離れていかない。首に巻き付いたままの腕に、引き止めるための力が込められているからだ。
「しないの」
「何をだよ」
 言ってから、しまった、と思ったがもう遅い。
「エロい、こと」
 とうとう、決定的な単語を引き出して、誘わせてしまった。気づかないふりで応じないのと違って、これに断りを入れるのは少々心苦しいものがある。
「しません」
「据え膳、だよ?」
「酔っぱらいの戯言は据え膳にゃならねぇよ」
「いくじなし」
「意気地の問題じゃなくて、こういうのは大人のけじめっつうんだよ」
 ほら放せと再度促すが、更に腕に力がこもる。
「叔父さんの代わり、でもいい、けど」
 ためらいがちに囁かれた言葉には、さすがに驚きが強すぎた。どこまで知ってるんだ、という疑惑が頭をよぎったけれど、あいつが自ら教えたとは思いにくいし、教えたなら教えたで連絡くらい来るだろう。
「やっぱただの意気地なし、だよ」
 首に回っていた腕がするっと外れて、相手はさっさと布団の中に潜り込むと、こちらに背を向けてしまう。突然の拒絶に小さな諦めの息を吐きだして、そっと寝室を抜け出した。

続きました→

 
 
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意気地なしの大人と厄介な子供1

 酒が飲めるようになったから誕プレでどっかいい店奢ってよとねだったら、相手の最寄り駅から徒歩数分の個室居酒屋に連れてこられて、これは多分、酔い潰れたらお持ち帰りも考慮された店選びなんだろう。まぁ、お持ち帰られたところで、何かされるわけでもないのはほぼほぼ決定で、せいぜい酔っ払いとして世話を焼かれるだけだろうけど。
 好きなくせに意気地なし。と内心思わなくもないけれど、お持ち帰りを考えてくれたことで良しとする。それに、酔って迫ったらワンチャンあるかも知れないし。
「誕生祝いだし、好きに頼んでいいぞ。あ、でも、先に飲むものは決めて。まずはビール、ってタイプじゃなさそうだもんな、お前」
 差し出されたメニューを受け取りながら、叔父さんはビール苦手だったっけと、ここにはいない親戚の男を脳内に思い浮かべた。
 血の繋がりがあるのと、中学を卒業するくらいまでかなり近所に住んでいたから当然かも知れないが、叔父とはそれなりに見た目も食の好みも似ている。もっと言うなら、思考パターンなんかも多分似ている。だって、幼い自分から見ても、憧れるには充分な人だったから。
 小さな個室の中、目の前に座っている男は叔父の学生時代の友人で、今現在通っている大学の事務職員だ。
 自宅から通学するにはちょっと遠い大学への入学が決まったあと、すでに近所とは言えない場所に住んでいた叔父がわざわざ電話をかけてきて、引越し後に一度会いに行くと言われた時は意味が分からなかったけれど。でもこの男と引き合わされて、お前の通う大学の職員だから何か困ったら頼れよと紹介されて、どうやらただの親切心とお節介だった。
 ネットで調べりゃ大概のことが出てくる現在で、日々の生活に困るようなこともなければ、大学でのあれこれだってちゃんと説明を聞いていれば問題なく過ごせるようになっている。そもそもこの人は職員は職員でも情報システム系だというから、紹介はされたが、頼ることはないだろうと思っていた。それはつまり、叔父抜きで会うことはないだろう、という意味だ。
 なのにお酒が飲めるようになるまでの1年とちょっと、誕プレでいい店連れてってなんて言えるような関係にまでなったのは、相手からちょくちょくと声をかけてきたからに他ならない。
 最初は叔父に頼まれての様子見だった可能性は高い。正確には、母か祖母あたりに頼まれた叔父経由の様子見、なんだろうけど。
 でもまぁ、食事に誘わるのは正直言ってありがたい。なんせ一回りも年上ということで、会計は全て相手持ちだからだ。
 さすがに叔父から資金が出てるわけではないらしいので、多少は出すべきかも、と思ったことはある。思うだけでなく、口に出しても聞いてみた。けれどその結果、一銭も支払うことなく現在まで来ている。
 いわく、金に余裕がある時にしか誘わないし、独り身だから誰かと食べる食事が嬉しいし、こんなおっさんの相手してくれるだけでありがたいから。だそうだけど、それ以外の理由も多分あると気づくのは早かった。
 口に出して確かめたことはないが、多分この人の性的指向はゲイまたはゲイ寄りのバイで、叔父に対しても何らかの感情を抱いていた過去がある、はずだ。
 叔父は既に既婚者で、さすがにもう気持ちの整理なりはついているんだろうけれど、結構本気で好きだったんじゃないかなと思ったりもしている。ちょっと似たところのある甥っ子を、度々食事に誘ってしまうくらいには。
 つまりは、自分を通して、叔父を見られているような気持ちを味わうことがある。でもその頻度は食事をするたびに下がっていって、最近は自分自身を見られている、と感じることが随分と増えた。
 元々叔父が好みなら、自分だってそりゃ相手の好みの範囲だろう。という納得と、ちょっとした期待。なんせ自分の性的指向がゲイだという自覚があるので。目の前のこの男を、悪くないなとも思っているので。
 でもそんなこちらの気持ちは、多分相手に伝わっていない。伝わっていてなおこの状況なら、相手の忍耐力というか自制心に疑問が湧くレベルだと思う。
「決まったか?」
「んー、じゃあ、カルーアミルク」
 言ったら少し驚かれたので、似合わないものを頼んだ自覚はある。
「初心者でも飲みやすいって聞いたから、とりあえずそれで」
 正確には、初心者がうっかり飲みすぎてヤバいことになる酒のランキング1位だったのがこれだ。なんて事は当然言わない。
「ああ、なるほど。けどもし、料理に合わせてみてイマイチと思ったら別の頼めよ。別に残しても構わないから」
 わかったと頷けば、じゃあ店員呼ぶから食べたいものも幾つか決めとけと言って、相手の手がテーブルの上に乗ったボタンを押した。

続きました→

 
 
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君の口から「好き」って聞きたい2(終)

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 うじうじと後ろ向きな思考に囚われる中、相手から週末の誘いがかかった。場所はめちゃ混みの学食で、今日は向かい合っての席が取れなかったから、横並びで食べている。
「明日って、なんか用事入ってるか?」
「いや、特にはないけど」
「じゃあちょっと付き合って欲しいとこあるんだけど」
「いいよ。買い物? カラオケとか映画とか?」
 これがデートのお誘いならいいのに。でもここは学食だし、恋人になる前のやり取りと何ら変わらないし、きっと期待するだけ無駄だ。そう、思ったのに。
「いや、俺んち」
「は?」
「俺の家、お前、来る気ある?」
「え、え、なんで?」
「なんではこっちのセリフだわ」
 言ってからぐっと顔を寄せてくるから、どうしたってドキドキしてしまう。
「お前、俺と付き合ってる自覚、やっぱないんじゃねぇの」
 耳元でそっと囁かれた言葉に、ああ俺たちってちゃんと付き合ってるんだと、それだけでかなり嬉しくなる。いやまぁ、恋人ごっこ疑惑はまったく晴れてないんだけども。
「それはこっちのセリフですぅ。てかいきなり家に誘うとかある? え、体目当て?」
 相手の顔は寄せられたままなので、こちらも小声で囁き返した。
 だって恋人っぽいやり取りなにもないのに、いきなりセックスとかハードル高すぎない?
「おまっ、ばか、何言ってんだ」
「何言ってるも何も、恋人の家に誘われるってそういうことじゃないの。てかお友達としてはお邪魔したことないんだから、余計に、そういうの意識して当然じゃない?」
 学校を挟んで逆方向にそれなりの距離を通学しているせいで、仲が良い友人でしかなかった時に、互いの家を訪れたことはない。
「あー、一応ちゃんと、意識はしてくれてんのか」
 じゃあ別の場所でもいいかとあっさり翻された上、話は終わりとばかりに相手の顔が離れていくから、慌てて待ったをかけた。
「待って待って」
「なんだよ」
 待ったはかけたが相手の顔は戻ってこなくて、挫けそうになる気持ちと戦いながらも口を開く。
「お前んち、行きたい」
 行ったことがなくて、見たことがない相手の部屋に、興味のある無しで言えばそりゃあるに決まってる。
「おいこらっ」
 呆れるような声だけど、でも怒ってはいない。苦笑するみたいな顔は優しいから、経験的に、このまま押せばOKされるとわかってしまう。
「だってお前の部屋、興味あるもん。ただ、いきなり、……はハードル高いってだけで」
 顔が離れてしまったし、学食でセックスと言葉に出すのもさすがに躊躇われてしまったけれど、相手にはちゃんと通じたようだ。
「そんなんこっちも一緒だっつーの。だいたい、どっちがどっちとかも決まってねぇし」
「どっちがどっちって?」
「だぁからぁ……や、いいわ。続きは明日な」
「え、なに、めっちゃ気になる」
 食い下がったけれど教えては貰えなくて、再度、本当に俺んちでいいのかと聞かれたから、いいよと返した。
 いきなりセックスって展開はないらしいから、そう警戒する必要もないんだろうし。と思うと、逆になんだか残念な気がしてしまうあたり、我ながら我儘なことを考えている自覚はあるんだけど。
 ああ、でも、恋人の部屋で2人きり、って状況になったら、少しは関係が進展したりするのかも?
 その可能性に気づいたのは、昼休憩なんてとっくに終わった後どころか、帰宅した自室でだった。


 相手の家の近くの飲食店で待ち合わせて、昼飯を食べた後で相手の家を目指す。食事中からもう結構色々ダメダメで、というよりも、やっと関係が進展するのかもという期待と不安とで相手を意識しすぎていた。
 グダグダのこちらに、今日は相手からのツッコミもなくて、ただただ楽しそうに眺められている。楽しそうだから、ツッコミ無いのかよというツッコミもしづらくて、結果、グダグダなまま相手の家の前にまで到着してしまった。
「どうぞ」
「あ、うん、オジャマシマス」
 たどたどしく応えて靴を脱ぎ、促されるまま相手の部屋に向かいながら、随分静かだなと思う。うちの親なら、息子の友人見たさに絶対顔を出している。
「ねぇ、家の人は?」
「みんな出かけてる」
「えっ……」
 思わず足を止めたこちらに、相手も立ち止まって体ごと振り向いてきた。だけじゃなくて、伸びてきた手に腕を掴まれてしまった。
「逃げんなよ?」
「え、や、だって、セックス目当てとかじゃない、って……」
「いきなりセックスはこっちもハードル高いけど、下心皆無とまでは言ってねぇよ?」
「え、ええ〜……」
 確かに。確かに言ってはなかったけども。こっちだって、進展するかもって期待はあったけど。
 何をされるんだろう。セックスじゃないにしても、どこまで、されちゃうんだろう。
 不安になって見上げてしまう先で、相手がどうやら笑いをこらえている。
「ちょ!?」
 気づいた瞬間に、腕を掴む相手の手は離れていった。逃げても良い、ってわけじゃなくて、逃げる必要なんて無いと、こちらが理解したことを、多分察している。
「ん、ごめん。お前が俺を意識しまくってんの、嬉しくって」
「嬉しい? 面白いとか楽しいじゃなくて?」
「家に誘っただけでここまで意識されてたら、そりゃ、嬉しいだろ。まぁ、学校ではますます気をつけないと、とは思ったけど」
「学校では?」
「お前が俺を意識しすぎてグダグダになってるとこなんて、学校の奴らに見せたくないよなぁって話。俺が好きってダダ漏れだしさぁ」
 可愛いけど、可愛いから見せたくない。と続いた言葉が嬉しくて、恥ずかしい。
「もしかして、それで恋人になったのに、恋人っぽいことなにもしなかった?」
「それだけで、ってわけじゃないけど。恋人になったはずのお前が、前とぜんぜん変わらないから、どうしようかとは思ってた」
「え、それは俺のセリフなんですけど!?」
「もしかして、待ってた?」
「そりゃあ」
「ちなみに、恋人になった俺と、どんな事したいと思ってた?」
「え、っと、手、繋いだ、っり」
 言った瞬間には手を取られて、ためらいなく指を絡めて握られたから、言ったらしてくれるってことかと思って声が詰まってしまう。
「他は?」
 キスしたり、って言ったらキスされるのかも? と思ったら、言えそうになかった。だから。
「好きって、言って、貰ったり」
 キスよりはハードルが低いだろうと思ったのに、予想と違って、相手から好きだよの言葉は返ってこない。ただ、ショックを受けるには相手の表情が優しすぎて、頭の中が混乱する。
「あの……?」
「お前は?」
「え?」
「好きって言って貰いたいだけで、お前からは言う気無し?」
「あれ?」
 言われて何かが引っかかる。多分、すごく、大事なこと。
「どうした?」
「あ、あの、もしかして俺、お前に好きって、言って、ない?」
「ないな」
「え、えっ、ごめん、好き。好きです」
 慌てて言い募ったら、フッと小さな笑いが漏れて、繋がれた手を引かれたかと思うと同時に相手に抱きしめられていた。
「ごめん。ちょっと意地はってた。俺も、お前が好きだよ」
「よ、かったぁ。お前優しいから、俺に同情して恋人になってくれただけかも、とか、思って」
 最近ちょっと落ち込んでたと言ったら、なんか変なこと考えてんだろうとは思ってたと返される。
「お前って、恋愛方面、かなり奥手だったんだな。意外、っつうか、ちょっと想定外で、それで不安にさせたなら悪かったよ」
「意外?」
「付き合ったら、お前の方からもっとグイグイ来るのかと」
「いけるわけない」
「なんで?」
「そんなの、だって、ドキドキしちゃうから」
 今だってこんなに近くて、凄いドキドキしてる。
「うん、だから、そういうとこ。知らなかったな、って」
 でも家誘われたらセックス想像したりはするし、自分からはグイグイ来れなくても、抱きしめられたら大人しく腕の中に収まってんだよな、って笑うみたいに言われてしまう。
「だって、ドキドキはするけど、やっと恋人っぽいこと出来ててめちゃくちゃ嬉しいし」
 一旦言葉を区切って、繋がれてない側の腕を相手の背に回し、こちらからもギュッと抱きついてやる。
「それに、いきなりはハードル高いけど、お前が俺をちゃんと好きなら、恋人となら、いつかはセックスだってしてみたいよ?」
「それ、一応の確認だけど、俺がお前を抱く側、って思ってていいわけ?」
 ちなみに昨日のどっちがどっちって、セックスの時の役割の話な。と言われて、そんなの考えたことなかったなと思う。
「そこまで具体的に、考えたことなかった」
「だと思った」
「で、でも、お前が抱く側って思ってるなら、それでいいよ」
 相手のが背だって高いし、自分が押し倒すイメージよりも、自分が押し倒される方がイメージしやすいというのもある。相手に押し倒される想像をしてみても、全く違和感はわかなかった。むしろ、押し倒すイメージのが……
「どうした?」
 いっきに加速した鼓動は、相手にも伝わってしまったのかもしれない。
「お前押し倒すの想像したら、めちゃくちゃドキドキしちゃって」
「えっ」
「絶対無理ぃ」
「あ、ああ、そういうことかよ」
 脅かすなよと苦笑された後、まぁどのみちそういうのは当分先だよなぁと言われながら、くっついていた体が離れていく。そして相手の部屋に向かうためだろう。こちらに背を向けて歩き出そうとする相手の服の、裾を掴んで引いて引き止めて。
 キスは早めにしたいと訴えてみたら、せめて部屋入るまで待ってくれと言われて、どうやらこの後すぐ、相手の部屋に着いたらキスをされるらしい。

CPお題ガチャポンのお題「今日の有坂レイのお題は【君の口から「好き」って聞きたい】です。」でした。

 
 
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君の口から「好き」って聞きたい1

秘密の手紙」の逆視点話です。

 高校入学後に知り合って、なんとなく気が合ってツルムようになって、今現在、間違いなく一番仲が良いと言える友人と、先日恋人になった。
 ふとした瞬間に見せる優しい顔に、何故かドキドキするようになったのはもう結構前で、自身の中に湧いた恋情を認めてしまえば、次に胸の中に湧いたのは期待だ。優しい顔は一種類じゃなくて、愛しげという表現が似合いそうな柔らかな時もあれば、どこか憂いを含んで寂しげな時もある。
 もしかして、相手もこちらに対して恋情と呼べるような想いを抱いているんじゃないのか。
 そう考えて当然の態度に思うこともあれば、相手への想いがそう思わせているのではと疑うこともあった。
 相手の気持ちが知りたくて、でも、せっかく築いた友情を壊すのも怖い。そしてそんな葛藤はお構いなしに自身の恋情は膨らんでいくから、だんだん友人で居続けることがキツくなって、追い詰められていたんだと思う。
 だから賭けをするような気持ちで、相手の下駄箱にメモを入れた。
 最初に入れたメモは「お前の想い人を知っている」だ。そのメモそのものは怪文書として捨てられて終わりでも、友人の立場でそのメモの話が聞けるかも知れない。そうしたら、想い人誰だよって、聞けるかも知れない。
 居ないなら居ないでいいし、そこで別の誰かの名前を聞かされたら諦められるかも知れないし、ワンチャン、その流れから告白してもらえるかも知れない。なんていうアホな計画でしか無かったけれど、相手はなんと封筒を自身の下駄箱に置くという方法で返信してきた。
 どうやら脅迫されているとでも思ったらしい。要求は何だ、と書かれた短なメモを前に、想い人が居るのは確定かなと思う。あと、言いふらされたらマズいような相手である可能性も高そうだ。
 これってやっぱり相手は自分なんじゃないの。なんて思って浮かれた結果、「告白すればいいのに」というメモを返したら、その日は朝からずっと何やら思い悩むような顔を見せていた。
 試しに軽く指摘して何があったか聞いたけれど、そのメモの話は教えてくれなかったから、やっぱり想い人って自分じゃないの、という気持ちが強くなる。だって無関係なら、こんなことがあって、って相談してくれるはずだから。
 だから、その想い人とは両想いだよ、とか、告白待ってるんだけど、とか、男同士ってとこで迷ってるなら、今どきそこまでダメって感じでもなくない? とか書き綴って、相手の下駄箱に置いた。その時に、告白すればいいのにの返事を受け取ったけれど、中のメモには「無理」の二文字しかなくて、もし無理な理由が、好きな相手が友人だからとか同性だからとかなら気にせず早く告白してよね、なんて思ってちょっと浮かれてすら居たのに。
 そんな浮かれた気持ちが吹き飛んだのは放課後の、大半の生徒が帰った後の閑散とした昇降口だった。
 用事があるから早く帰るなんて言っておきながら待ち伏せしていた相手が、「やっぱりお前だったんだな」って出てきた時の、呆れと憤りが混ざったような顔に、血の気が引く思いをした。
 相談してくれなかったのは、想い人が自分だったからじゃなくて、このメモが自分の仕業だってわかってたから。という可能性に、その時まで全く思い至っていなかったせいだ。
 きっと両想いだと浮かれて、早く告白してくれないかとワクワクしていた気持ちが一気に萎れて、泣きそうだった。まぁ、泣くことにはならなかったんだけど。
 つまりは予想通り自分たちは両想いで、無事にお付き合いが開始した。のだけれど。
 結局自分たちの関係は恋人である前に友人なのかも知れない。だって恋人になったからって何かが劇的に変わるなんてことはなかった。
 恋人らしいやり取りも、恋人っぽい触れ合いも、ほとんど無い気がする。どころか、もしかしなくても「好き」すら言って貰ってないのでは?
 両想いだと認めていたし、ぜひお付き合いしたいと言ったのは向こうだし、からかってないとも、笑ったのは可愛かっただけだとかも言ってたけど。でもこっちの気持ちを知った相手が、泣きそうになりながら「ふられるの?」なんて聞いたこちらに、同情した可能性はある気がする。
 優しいから、同情して付き合うことにしたなんて言わずに、恋人ごっこをしてくれているだけかも知れない。だから、キスどころか手を繋ぐこともないし、好きとすら明言はしてくれないのかも知れない。

続きました→

 
 
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秘密の手紙

 朝学校へ行ったら、下駄箱の中の上履きの上に一通の手紙が置かれていた。
 超簡素な茶封筒という不穏な気配しか無いそれの中には、ペラっと一枚のメモが入っていて、そこには「お前の想い人を知っている」と短な一文が印刷されていた。
 ザッと血の気が引く思いをしたのは、脅迫されているのだと察したせいだ。
 いつか誰かに気づかれるかも知れない不安は、自身の中に湧いた恋情を認めた瞬間から常に付きまとっていたが、それが現実になったのだと思った。
 この手紙の差出人は誰だ。相手の要求は何だ。
 そんなことばかりを考えながらなんとかその日の授業を終え、大半の生徒が下校した後に、自身の下駄箱に封筒を置いた。朝受け取った茶封筒からメモを抜き、お前は誰だ、要求は何だ、という短なメモを書き綴ったノートの切れ端を入れている。
 蓋のない下駄箱なので、こんな場所でメモのやり取りをしたいとは到底思えないのだが、相手が誰かもわからない状況ではこうするしかない。
 果たして、翌日の朝にはその封筒は消えていた。
 さらにその翌日、また上履きの上に茶封筒が乗っている。中には、「告白すればいいのに」というメモが入っていて首を傾げる。
 誰だ、という問いに答えがないのは想定内だったが、要求は何だという問いへの答えがこれ、というのが良くわからない。
「何かあった? 一昨日もずっと変な顔してたけど、今日もなんか悩んでるよね?」
 休み時間にそう声をかけてきたのはまさに想い人その人で、さすがに詳細を話せるわけがない。
「あー、まぁ、ちょっと」
 色々あってと濁してみたが、相手はそう簡単に引き下がってはくれなかった。
「俺にも話せないようなこと? それとも教室じゃ無理って話?」
「両方」
 正直に答えてしまったのは多分失敗だった。
「え、マジに俺には話せない何か抱えてんの?」
 余計気になると言われても、話せないものは話せない。追求をどうにか誤魔化して、帰りがけには「無理」の二文字だけ書いたメモを入れた封筒を自身の下駄箱に置いた。
 返信は翌々日ではなく翌朝には届いていて、しかも今回の中身は短な一文ではなく、しっかり手紙と呼べるような長い文章が綴られている。まぁ、コピー用紙への印字に茶封筒、というところは変わらないんだけど。
 いわく、二人は両思いだから早く告白してくっつくべきだとか、相手はこちらの告白を待っているだとか、今どき男同士での恋愛はそこまで禁忌ではないだとか。
 なんだか随分と熱心に、告白するよう促されている。
 なんだこれ。と思うと同時に、さすがに差出人の正体を知りたくなってきた。だって随分と相手の心情に対して断定的だ。
「何? 俺の顔に何かついてる?」
 昼休みに一緒に昼飯を食べながら、想い人の顔をマジマジと見つめまくったら、さすがに居心地が悪そうに聞いてくる。
「昨日、お前には話せないって言った悩みについてちょっと考えてて」
「お、やっぱ俺に相談しようかなって思った?」
「そうだな。近日中には、話せるかもな」
「なにそれ?」
「今すぐは話せないってこと」
「は? 勿体ぶってないでさっさと話せよぉ」
 放課後残ろうかと言うので、今日は早く帰るからと断って、その言葉通りに大半の生徒が下校するのを待ったりせず、けれど返信の茶封筒は上履きの上にしっかり乗せて学校を出た。といっても、そのまま学校をくるっと半周して、裏門からこっそり現場へ戻ったのだけれど。
 自身の下駄箱が見える位置に身を潜めて、封筒を手に取る「誰か」を待つ。今日中に現れなかったら、明日は早朝から張り込みだと意気込んでいたけれど、下駄箱周辺の人気がなくなった途端にその「誰か」はあっさり現れた。
 やっぱりと思いながらも、しっかり封筒を手に取るのを待ってから声をかける。
「やっぱお前だったんだ」
「えっ……なん、で」
「なんでもなにも、お前以外にお前の気持ちそこまで断定できるやつに心当たりがなかった」
 これは、少なくとも共通の友人の中には、という意味でしかなく、こちらの知らない友人に相談していたという可能性はある。頼まれて取りに来ただけと言い逃れることだって可能だろう。でも彼からの反論はなく、どうやらあっさり認めてしまうらしい。
 そっか、と力なく返した相手の手の中で、クシャッと茶封筒が握り込まれている。ちなみに、差出人を捕獲する気満々だったのでその封筒に中身はない。
「両想いだってわかってんなら、こんな回りくどいことしてないで、お前から告白するんでも良かったんじゃねぇの?」
「できるわけ、ないだろ」
「なんで?」
「そんなの、お前が俺を本当にそういう意味で好きなのか、なんて、わかんないし」
「はぁ?」
「だって、お前の言動にもしかして? って思うの、俺がそうだったらいいのにって思うせいかも知れないじゃん」
 最後の方は声が震えていて、なんだか虐めてでも居るみたいだ。というか目には涙も滲んでいて、こんな場面なのになんだかドキドキしてしまう。
「で、どうなの?」
「どうなの、って?」
「俺、……ふられる?」
 視線が合ったのは声をかけた最初だけで、ずっと僅かにそらされていたのだけれど、とうとう逃げるように俯かれてしまった。良い返答が貰える自信がないと言わんばかりだ。
「ぜひお付き合いしたいけど」
「マジで!?」
 バッと勢いよく頭を上げた相手の顔は信じられないと言いたげで、でも、泣きそうだった目だけは希望に満ちてキラキラと輝いている。
 その様子の愛らしさに、思わずプッと吹き出してしまったら、からかわれていると思われたようだ。酷くショックを受けた顔をされ、また俯くように頭を下げかける相手に、慌てて謝罪の言葉を投げた。
「ごめん。からかってない。まじで、付き合いたいって思ってる」
 下げかけた頭をグッと上げた相手は、さすがに疑惑の眼差しだ。
「ほんと。本気。さっき笑ったのは、嬉しそうなお前が可愛かっただけ」
 言い募れば、可愛いに反応してか少し照れくさそうにしながらも、信じるぞと脅すみたいな言い方で告げてくるから、やっぱりまた笑いそうだった。

相手側の話を読む→

ChatGTPに出してもらったお題  ”秘密の手紙” – 1人の主人公がもう1人の主人公に秘密の手紙を送ることから始まる物語。を使用しました。

更新再開します。結局小ネタ期間になりましたので、更新期間は1ヶ月ほどになりますがまたよろしくお願いします。

 
 
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Mさんへ(メルフォお返事)

お祝いと感想のメッセージ、どうもありがとうございました。
今回は連載途中でコロナ罹患とのことで、お体はもう大丈夫でしょうか?
私も人のことは言えないような状況ではありますが、お体お大事にしてください。
そして、普段は更新ごとに読むだけでなく、完結後に通し読みしてくださってたそうで、ありがとうございます。
一つの作品を繰り返して読んでもらえるの、本当に嬉しいです。

今回はpixivの方で纏め読みしてくださったそうで、実は、目次作成時とpixiv投稿時に一応校正作業をするので、pixiv投稿後が一番完成度が高かったりします。
気力が足りずに流し見で作業しちゃってることもなくはないんですが、「可愛いが好きで何が悪い」は文字量多かった割に結構しっかり読み直しが出来てるので、誤字脱字が多分少なめなはず。
あと視点の主は「尻」攻めは「お尻」使用とかの、細かな拘り部分が修正されてたりです。連載中は勢いで書いてて、その辺混ざっちゃってたので。

今回の「可愛いが好きで何が悪い」も楽しんで貰えたようで嬉しいです。
多分、視点の主が攻めやってもそれなりにハッピーエンド行けたと思うんですよね。と思うくらいに、視点の主攻めも見てみたい欲求が私の中にあって、それがきっと漏れ出て、どっちが攻めなの? みたいな内容が混ざったんだろうなと。
もし一番最初に、今回の作品は女装攻め予定と宣言済みじゃなかったら、きっと途中でどっちを攻めにするかめちゃくちゃ迷ったと思います。笑。
他作品でもちょいちょい重い背景持ちの子が出ちゃうんですけど、そのくせ、サラッと楽しく読んで欲しい気持ちが強くて、どうにも重い背景をずっしり描写する気にはなれないんですよね。なので、今回は本人の自覚が薄いうちに視点の主がなんとかしましたよ、という簡単な描写で流してしまいました。
あと、受けの気持ちが育っていく過程が見えたようでのお言葉、すごく嬉しかったです。ありがとうございます。
全く恋愛対象ではなかったはずが恋愛対象になって、大事にしたいとか愛しいとかの気持ちが湧くようになる過程を、違和感なく書けていたのかなと思うと、ちょっとガッツポーズ決めたいような気持ちになりますね。

8周年のお祝いのお言葉もありがとうございました。
こちらこそ、長いこと通ってくださって本当にありがとうございます。
メッセージを頂く度に、Mさんに見つけて頂けて良かったな〜って思ってます。
私も無理のない範囲で続けていきますので、Mさんも無理のない範囲で、今後もどうぞお付き合いよろしくお願いします。

 
 
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