親切なお隣さん26

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「でも俺、アンタとお付き合いできないって、言いましたよね?」
「いやでもだって……」
 気まずさを振り払うようにそう口にすれば、相手は何かを反論しようとして、でも途中で言葉を切ってしまった。そして代わりに、大きなため息が吐き出されてくる。
「あの……」
「うん、ごめん。勘違い、した。というか確かに付き合えないって言われた気がする」
 少なくとも言葉による了承は貰ってないねと続いたから、どうやら互いの記憶に齟齬はないのだけれど。
「ただ、結婚なんて単語使ったから、そこまでは考えられないみたいな意味に思ってたと言うか。その、問題はそっちの家庭事情とかだったから、好きって言ってくれたし、口のキスをねだってくれたし、問題先延ばしにして取り敢えずキープ的な? そういう立ち位置になったのかと」
「キープって……」
 思わず絶句すれば、慌てたように言葉が悪かったと謝られて、でも、取り敢えず恋人って形に収まった認識だったんだよと続いた。
「というか帰り際にキスして、結構頻繁に好きって言い合ってたあれ、恋人じゃなかったならなんだったの?」
 そう尋ねられてしまうと、こちらも返答に困る。恋人って関係になったからしてた、って言われたら納得でしかないんだけど、じゃあなんで恋人って認識じゃないまま応じてたんだって話になると説明が難しい。というよりは、ちょっと言いにくい。
「なんかそういう習慣が出来た、みたいな?」
「習慣!?」
「お互い好きなのわかってるなら、付き合ってなくても、キスしたり好きって言うくらいはしても普通なのかと」
「多分普通ではないね」
「あー、まぁ、ですよね」
 あっさり否定されて、こちらも思わず肯定を返してしまった。
 いやだって本当は、普通ではないよなと思っていたしわかってもいた。嫌じゃなかったし止めたくもなかったから、これくらい普通って思い込んで流してただけで。
「でも恋人って思ってたなら、デート誘ったりキス以上を求めてくれたって良かったんじゃ。てか俺とそういうことしたい気持ち、やっぱそんな無いですか?」
 まぁ恋人って認識がないままでも誘われれば喜んで応じていただろうから、あとになって今以上に揉めそうではあるけれど。
「あるからこそ、言い訳させて欲しいっていうか」
「ああ、はい。ぜひ」
 はっきりとなにか理由があるならぜひ知りたい。
「その前に確認だけど、おれとしたいって思ってくれてた? よね?」
「まぁ、それなりに」
「ごめんね。はっきり求められなかったから、それに甘えて先延ばしにしてた。って、あれ?」
「あれ?」
 相手が疑問符を残して言葉を止めてしまったので、こちらも語尾を繰り返して先を促してしまう。
「もしかしなくても、恋人の認識はないのに、俺がキス以上を求めたら応じる気だった?」
「だって!」
 責められる雰囲気というか説教モードに入りそうな気配に、逆らう気概で声を上げた。
「両想いってわかってんだから、そりゃしてみたいに決まってんじゃないすか。お付き合い断ったし結婚なんてできっこないけど、だからこそ、貰える思い出は貰っときたいみたいな」
「一応言っとくけど、おれはまだ、ぜんぜん、君との結婚諦めてないからね」
 まだ、ってところと、ぜんぜん、をかなり強めに主張されていささか呆気にとられながら相手を見つめ返せば、本気だよとダメ押しを食らってしまった。
「いやさすがにそれは」
「君の家庭の問題を解決できればいいんだろ。少なくとも、君より弟くんを選ぶなんてことはないって言い切れるし、今日、弟くんと会ったっていう実績が出来たんだから、今度は君もそれを信じられるんじゃない?」
 確かにそれを、信じられないからと突っぱねることはもう出来ないけれど。そしてこの場合の沈黙は肯定だ。
 少なくとも相手はそれを肯定と受け取って、再度口を開いた。
「で、デートもセックスも誘わなかったのは、その諦める気がないってのとも少し関係してるんだけど」
「婚姻届っていうか、パートナーシップ宣誓? っての出すまではしない、みたいな?」
「さすがにそこまで待つ気はなかったけど、君の問題をもう少し片付けてから、とは思ってた。というか今の君は自分のことで基本手一杯でしょ。これ以上、おれとのことに時間割いて欲しくなかったんだよ」
 相手は、諦めないってのは時間はたっぷりあるってのと同義だからねと続ける。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん25

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 ぐちゃぐちゃな気持ちは、背中を撫でられ大好きだと繰り返されているうちに落ち着いていく。
「も、ダイジョブ、です」
 自分から止めなければいつまでも続けてくれそうな気配に、甘え続けるのが居た堪れなくなったところでストップを掛けて顔を上げた。
「落ち着いた?」
「はい」
「ん、良かった」
 泣いたばかりの顔を見られるのは恥ずかしくて、そっと視線を外してしまえば、赤くなっているだろう目元に相手の唇がふわりと触れて離れていく。
 触れられた目元だけでなく、なんとなく胸の中までこそばゆい。ふふっと笑うみたいな息を吐けば、相手も釣られたみたいに笑ってくれる。
 笑いあって、視線が合って、相手の顔が近づいてきて。でも唇が触れる直前に、慌てて相手の胸を押しつつ、自身は仰け反り逃げてしまった。
「すみません。顔、洗ってきます」
 えっ、という驚きの顔に向かってそう告げた後、急いで立ち上がって部屋を飛び出る。そして台所の流し台でザブザブと顔を洗った。このオンボロアパートには洗面所なんてないからだ。
 弟に噛みつかれた口元を特に念入りに洗って、ようやく少し気が晴れたけれど、今度は部屋に残してきたお隣さんが気にかかる。キスをねだったことはあっても拒否したことなんてなかったから、最後に見た驚きの顔が目の前にチラついて憂鬱だった。
 憂鬱なのは、突然拒否した理由を話さないわけにはいかないとわかっているからで、話したら弟にキスされた事実も知られてしまう。既に襲われかけたって話はしてるけど、細かな詳細はあまり知られたくなかったのに。
 弟とのことは、お隣さんと体の関係がないなら抱いてやるから自分に尽くせと言われた、程度に濁すつもりだった。
 弟との間に何があったか、なんてことよりも、両想いなはずなのにお隣さんとの関係が進展する気配がない、ってことの方が自分にとっては重要だからだ。
 恋人になるまでとか、パートナシップ宣誓後じゃなきゃセックスしないとか考えてるならそれでもいいから、ちゃんと知っておきたいし、せめてその気があるんだと安心したい。こちらがお付き合いは無理って言ったせいで、その気があるのに我慢させていると言うなら、いっそ責められたい。
 万が一、キス以上のことはする気がない、プラトニック寄りな関係を求められたらどうしよう。本当は今すぐにでも抱かれたいって言ったらどういう反応をするんだろう。
 聞きたくて聞けずにいいたそんな色々を、この機会に聞いてしまうつもりだった。
 だからこそ、こんなところでいつまでも躊躇っている場合じゃない。お隣さんが様子を見に来てしまう前に、ちゃんと自分で戻らなければ。
 覚悟を決めて、小さな溜め息を一つ残して部屋に戻れば、お隣さんは今度こそ神妙な顔つきで待っていた。もう、こちらを向いて笑ってはくれない。
「すみませんっした」
「いや……っていうか、襲われかけてたって言ってたけど」
「キスだけ、す」
 どこまでされたか聞かれる前に自分で申告した。
「まぁ、キスしたってより、口に噛みつかれたって感覚すけど。ついでに言うなら、もうちょっとで口開けさせられそうってとこで来てくれたから、口ん中も無事っすね」
 でも口の周りはベロベロされまくったからアンタとキスする前にどうしても洗いたくて、と先ほどお隣さんのキスを拒否った言い訳も一応しておく。
「そ、っか。えと、弟くん的には、自分を好きになって欲しいから押し倒してキスした? って認識でいいの?」
 でも抵抗して嫌がったんだよね? と続ける顔は、全然納得してないと言うか、意味がわからないと言いたげだった。
 嫌がる相手に襲いかかっておいて、自分を好きになれなんて無茶苦茶だ、って気持ちは当然だと思う。だって、お隣さんが来てくれなくてもそう簡単にヤられてたとは思わないが、もし仮にあのまま弟に抱かれたとして、それで実家に戻って弟のサポートをする気になるかって言われたら、絶対ないだろう。
 ただ、脅されて屈する未来はゼロじゃなかったかも知れない。
 弟に抱かれて善がりまくった、なんて事実がもし出来てしまったら、お隣さんの前から逃げ出したくなるかも。とは思うし、弟の狙いはそっち、という気もする。
「もしかして、育ってきた環境的に、キスされて本気で嫌がる相手なんか居ない、みたいな絶対的な自信を持ってるとか、そういう……?」
「絶対ないとは言い切れないすけど、今回のはそういうんじゃなくて。俺が、アンタを好きだって知られたせいっす」
「えっ?」
「さっき帰り際に、俺からキスねだったじゃないすか。それと他にもまぁちょっと色々あって、俺ばっかり一方的に好きみたいに思われたっていうか、抱いてやるから抱いてもくれない男好きでいるより俺に尽くせ、が弟の言い分っぽかったすね。てか俺とアンタとの仲をぶち壊すのが一番の目的じゃないっすかね」
「仲をぶち壊す……」
「こっちで就職するつもりだとか、実家帰ってアイツのサポートするよりアンタに尽くすほうが断然マシ、みたいな話をしてたんで。後まぁ、キスしてるし好きとは言われてるけど、デートもセックスもしてない、とかも知られたんで、じゃあ俺が抱いてやるよ、みたいな」
 後半少し、相手を責めるような気持ちがあったことは認める。もちろんこのあと、ちゃんと自分の口で聞くつもりで居た。
「あの、ちょっとそれ、言い訳していい?」
「え?」
「好きって言ってキスしてるのに、デートもセックスもない言い訳」
「え、恋人じゃないから、じゃなくて?」
「え、待って。おれたちって恋人じゃないの?」
 互いに驚いた状態で顔を見合わせてしまえば、なんだか気まずい空気が部屋の中を満たしていく。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん24

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 お茶を淹れて部屋に戻れば、神妙な顔をしてコタツで待っていたお隣さんが、ぱっと顔を上げてありがとうと笑った。
「こっちこそ、さっきはホント、ありがとうございました」
「うん。というか、俺の行動は間違ってなかった……んだよね?」
 兄弟での話し合いに思いっきり割り込んだ形になったともうんだけど、と心配されて、間違ってなかったですよと肯定する。
「もう話し合いとか言える状況じゃなかったすから」
「一応聞くけど、殴り合いみたいなことにはなってないよね?」
 普通に動けてるみたいだけど見えないところにも怪我してないよね? と確かめられて、大丈夫だと返す。
「ならいい。安心した」
 今度こそ本気で安心したのか、お隣さんから緊張が抜けていく。そこまで心配させていたのかと、なんだか少し申し訳ない。
「ちょっと派手に音鳴ってたし、その直前に怒鳴り合ってるみたいな雰囲気もあったから」
 弟の下から逃れようと、バタバタと足を振り回して藻掻いていたせいだろうか。
「何が起きてるのか心配してたんだけど、その、聞いてもいいんだよね?」
 そう促されて、こちらも覚悟を決めつつ口を開く。
「あー……その、ちょっと言いにくいんすけど、弟に襲われかけてて」
「は? えっ!? 襲っ? えっ!?」
 多分お隣さんが欠片も想定してなかった話だろう。
「な、なんでそんなことに? え、やっぱ弟くんって……」
 最後言葉を濁されたけど、聞きたいことはわかった。
「俺を好きでってのは多分ないっす」
「え? ええっ」
「けど、自分を好きでいろ、みたいな気持ちはあったのかも?」
「自分を好きでいろ……?」
 お隣さんの混乱が伝わってきて、こんなときなのになんだか少し笑えてくる。
「俺がアンタを好きで、アンタのためにって色々尽くしてるのが気に入らない。って言ったらわかります?」
「それは、まぁ。でもそれは結局、君のことが好きだからそうなるわけじゃなく?」
「いや、なんていうか、家族は自分に尽くすのが当たり前、みたいな生活してる奴なんで。というかちょっと特殊な環境で育ってると言うか」
「ああ、うん。なるほど」
 そこだけ随分あっさり納得するんだな、と思ったそばから、弟のやってる競技の名前が相手の口から漏れてきて盛大に驚く。ついでに、かなり小さな頃から大会とかで成績残してるらしいね、と経歴まで指摘されて更に驚いた。
「え、ええっ、なんで知って? てかアイツが自分で言いました?」
「ごめん。名前は聞いたから検索かけた。本名でやってるSNSとか何か引っかかるかなって思ったけど、想定外の情報が引っかかっちゃった」
 本名でやってるSNSもあったよと言われて、知ってますと返しながら、そういう知られ方もあるのかとぼんやり思う。ほんのりと胸が痛いのは、知られた結果、相手の弟への評価がどう変わるのかを考えてしまうからだろう。
「もしかして知られたくなかった?」
「あ、いや……あー……」
「ごめん。家族の話避けてるのわかってるのに、勝手に探るようなことしちゃって。ホント、ごめん」
「いやいやいや。謝らないでください。俺としては、今日見せてたアレが弟の本性っていうか、もし万が一、アンタ相手に愛想振りまきだしても、それは俺との仲を壊したいからだって知ってて貰えれば。てかその、俺よりアイツがいいとか言わないでくれれば。というか知っててそれでも俺を助けに来てくれたってだけでもう充分っていうか」
「待って待って待って」
 落ち着いて。一度口を閉じて。と促されて口を閉じれば、出口をなくした何かが胸の底からせり上がってきて、じわりと視界が霞んでいく。
 そんな滲んだ視界の中、お隣さんが慌てた様子で立ち上がるのが見える。そんなに慌てなくても、と笑ってやりたいのに、開いた口からは掠れた息しか漏れなかった。
「ゴメン。大丈夫。おれが好きになったのは君で、弟くんはなんの関係もないよ。だから大丈夫。君の凄いところも素敵なところも可愛いところもちゃんと知ってる。俺が結婚なんて単語を使ってまでずっと一緒に居たいと思った相手は君だけだし、それは今も変わってない」
 君のことが大好きだよ、と囁いてくれる腕の中は暖かくて、しがみつくみたいに抱き返してその胸に顔を押し付けた。

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親切なお隣さん23

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「う、わっ」
 鍵を開けた途端に外側からドアを引かれて、半ば引きずり出される形で廊下に出れば、お隣さんと目があった瞬間にぎゅっと抱きしめられてしまう。
 良かった、と呟くお隣さんの声は、先程までの厳しい口調とは打って変わって弱々しい。
 こちらからも一度ギュッと抱き返したけれど、でもそのまま抱きついてはいられない。だって階段を上がってくる足音が聞こえている。
「ダイジョブなんで放してください」
 トントンと背中を叩いて促せば渋々とだが開放されて、でも庇うみたいに背中側に追いやられてしまう。だけでなく、お隣さんがサッと階段へ向かっていく。
「お騒がせしてすみません。もう大丈夫なので」
 階段の下方へ向かって少し大きめの声でそう告げるのは、先程の騒ぎを聞いていたご近所さん向けでもあるんだろう。応じる声はやはり斜め下に住む老人の声だったが、弟の来訪を知らないからか、どうやら自分たちが喧嘩したと思われているらしい。
 お隣さんはそれを曖昧ながらも肯定してしまったので、珍しいなと驚かれたり、仲良くしろよと諭されたりしているのを苦笑しつつ聞いていたが、さすがにそろそろ寒さが辛い。なんせ風呂上がりで後はもう寝るだけって状態から部屋を飛び出ている。ついでに言えば、足元は裸足で靴すら履いていない。
「あの!」
 自身の身体を抱きしめるみたいにして腕を擦っていたので、振り向いたお隣さんはすぐに察してくれたようだ。
「ごめん。寒いね」
 すぐに会話を切り上げ戻ってくると、抱き寄せるように肩に腕を回し、部屋に戻ろうと促される。その先はもちろんお隣さん宅だ。
 弟とのアレコレで受けた衝撃とその後の寒さとで、やはり随分と緊張していたらしい。玄関に入ったところで、部屋の暖かさと安心感にへたり込みそうになった。
「おおっと」
 すんでのところでお隣さんに支えられてどうにか立っているけれど、でもこのままじゃ部屋には上がれない。
「ありがとうございます。もダイジョブなんで」
 お隣さんの腕から逃れて手近な壁に寄りかかりながら、それよりも足を拭くものが欲しいと訴える。早く部屋に上がりたいとも付け加えれば、わかったと急ぎ足で風呂場方向へ消えていく。
 暫くして戻ってきたときには、温かなタオルが握られていた。
「じゃあこれで足拭いて。服は? どっか汚してない?」
「服は平気、す」
「そっか。部屋、もうちょっと温めてこようか」
「いや良いっす。充分温かいんで。てか今日ってここ泊まっていいっすよね?」
「もちろん。というか何があったか聞いてもいい? それとも聞いて欲しくない感じ?」
 揉めてる気配ははっきり伝わってきたけど内容まではさすがにわからなかったから、知られたくないなら聞かなくてもいいよと、こんな時までちゃんと気を遣ってくれるから、逆に知って欲しくなる。というよりも、いい加減、自分自身も知りたいのだ。
 だってお隣さんと付き合ってるとか恋人だとか、はっきり言い切れる関係だったら。デートやセックスを経験済みだったら。
 自分でお付き合いは無理だと断ったくせにそう考えるのを止められなくて、キス以上を求めてもらえないのが切なくて、自分で自分を慰める夜が虚しくて、まんまと弟にその隙を突かれた形になってしまった。
 お隣さんを自分の家族の問題に巻き込みたくはなかったけど、弟にはかなり余計なことまで知られてしまったから、もうすでに巻き込んでしまったと認定して、今後のことを相談したいって気持ちもある。
 弟はお隣さんを貧乏人って思ってるし、嫌われたと言わせるくらいお隣さんには愛想の欠片も見せてないし、お隣さんよりも兄である自分を落とすほうが手っ取り早いみたいに考えたようだけど、今後どうするつもりかはわからない。想像がつかない。
「巻き込んですみません。けど、聞いて欲しい、す」
「こっちは出来れば聞きたいって思ってるんだから、謝らないでよ」
 話してくれるならお茶でも淹れようか、と言って玄関横に設置されている流しに移動するお隣さんを追って、自分がやりますとその作業を奪った。ついでに、部屋で待っててとお願いする。
 お湯くらい沸かせるのにと不満そうな顔をされたけれど、話すことまとめたいんで時間くだいさいとお願いすれば、仕方がないねとしぶしぶ了承して部屋に向かった。かと思ったら、すぐに戻ってきて上着を渡される。
 玄関近くの台所だろうと、お隣さんがヒートマットやらを用意してくれているのでそんなに寒くはないんだけど。でも見てるこっちが寒くなってくると言われるくらいには、布団に入る直前の薄着だったので、ありがたく借りて袖を通す。
 お隣さんはそれを見届けてから、今度こそ部屋へと引っ込んだ。

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親切なお隣さん22

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「煩っっ。つかんなデカい声で叫ばなくたっていいだろ」
 嫌そうに眉を寄せられたが、大げさなのはこちらの反応ではなく、わざわざ耳をふさぐ仕草までしている弟の方だと思う。
「いや叫ぶだろ。何言い出してんだお前」
「何って、兄貴が男に抱かれたいなら俺が抱いてやるから俺でいいだろって」
「いやいやいや。お前が言ってること、1ミリもわかんねぇから」
「あーもー面倒くせぇな。いいから俺のものになっとけよ」
 なるわけないと口を開くが、それより先に、あんなオモチャより良い思いさせてやるから、と続いた言葉に、出かけていた言葉が喉に詰まった。
「なっ、わっ、お、おまっ、えっ、おもっ??」
 混乱も相まって、何を言えば良いのかもわからない。
「何そんな驚いてんの。彼女居るとも思えないし、あれってやっぱ兄貴が自分に使う用、だろ?」
 語尾に疑問符は付いているようだが、言い方が紛れもなく断定だった。弟はもう、そう確信している。
 あれ、と言いながら弟の視線が向いた先は押し入れで、そこにはアナニーに使うアレコレが仕舞ってあった。中には、無駄遣いと思いながらも、誘惑に抗えず買ってしまったディルドもある。
 だから弟の言うところの「あれ」が何を指すかはわかったが、わかったところで混乱と動揺が治まるはずもない。というか知られたという事実に動揺は間違いなく増した。
「おま、おまっ、なんでっ」
「マジで布団これっきゃないのか確かめた」
「う、うそつけっ」
 無造作に剥き出しで置いていたとかならまだしも、ちゃんとモロモロ一式箱に入れてあるのに。わざわざそれを開けて中身を確かめなければ、あの発言は出てこない。
「なに? 知られたくなかった?」
「当たり前、だっ」
「顔真っ赤なの、恥ずかしいから? それとも惨めなの?」
 泣きそうという指摘と、弟のからかうみたいなニヤけた顔に、鼻の奥がツンと痛んだ。じわっと視界が滲んでいく。
「抱いて貰えなくて一人寂しくオモチャ嵌めてたんだもんなぁ」
 恥ずかしいし惨めだよなぁとしみじみ言われて、胸が苦しい。
 一時的にスッキリはするけど、抱いて貰えないからこんな真似をしているという事実は惨めで、オナニーにアナルを使うのが普通じゃないこともわかっている。だからそんなこと、しみじみと指摘しないで欲しかった。
「いう、なっ」
「だから俺にしなって。ちゃんと優しくしてやるし、気持ちよくもしてやるから」
 そっと目元を拭っていく指先は確かに優しかったけど。
「ぜってぇ無理。ヤダ。お断り、だっ」
 その手を振り払って身を捩る。どうにか弟の下から抜け出せないかと藻掻く。しかしあっさり両手首を掴まれて、仰向けに押さえつけられてしまった。
 覆いかぶさるように見下ろしてくる弟は、呆れと苛立ちを混ぜたような顔をしている。
「はぁ、もう、ホント面倒くせぇな」
 優しくしてやるっつったのに断ったの兄貴だからな、なんて宣言と共に、ガブリと口に噛みつかれた。勢いほど衝撃も痛みもなかったけれど、少なくとも心情的には、紛れもなく噛みつかれている。
「んーっ、んんっ、んうっ」
 唇をしっかり引き結んで弟の舌の侵入を拒みながら、押さえられた腕ごと身をゆすり、バタバタと足を動かし抗う。
「ちっ、もったいぶってないで口開けろって」
 小さな舌打ちと共に促されても従うはずがない。しかし、更にしっかり口を閉じて強気で睨み返すくらいしか出来なかった。
「ちっ」
 弟は再度舌打ちしたあと、掴んでいた両手首を頭の上で一纏めにし、空いた片手で顎を掴んでくる。
 強引に口を開けさせる気だとわかって、必死に首を捩って逃れようとしたその時。
 ドンドンドンと激しく玄関ドアを叩かれて、弟の手から力が緩んだ。
「おいっ、開けろっ! 開けないと警察呼ぶことになるぞ」
 外から聞こえてくるのは間違いなくお隣さんの声で、でもいつになく口調が厳しいと言うか、こんなに声を荒げているのは初めてかも知れない。
 思わず二人して玄関を見つめてしまったが、激しくドアを叩き続ける合間に、開けろ開けろとお隣さんが訴え続けている。
「おい、退け。このままだとマジに警察来るぞ。つか早く止めないとご近所さんが集まってくるぞ」
 まぁ本当にここまで来るのは階下の老人くらいだろうけれど、お隣さんが呼ぶ前に、ご近所経由で警察が呼ばれてしまう可能性だってある。
 弟もさすがに諦めたらしい。溜め息一つ落としたあと、やっと腰の上から退いてくれたので、急いで玄関に駆けつけて鍵を開けた。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん21

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「俺の弟ってことで、警戒心ゼロで受け入れたんだろな、ってのは想像がつく」
 ちょっと難ありの弟がいる、という話はチラッとした事があるけれど、どんな弟で何を懸念してるかを詳しく語ってはいない。弟にお隣さん取られるのは嫌だ的なことも言ったけど、どこまで本気にしてたかは謎だし、当たり前だけどそんなことは起こらないと否定的だった。
 家族とのゴタゴタに巻き込みたくないって理由でお隣さんとのお付き合いを拒否ったのだから、お隣さん的には、ここで弟相手に上手く立ち回れるところを見せたかった。なんて思惑もあっただろうか。
 いやでもやっぱりただただ純粋に、寒いからうちで待てばいいよ、という親切心だけって気もする。状況的に、助けてあげたい困ってる子ども認定された可能性は高い。
「俺のこと、弟としか知らない感じなのに、馴れ馴れしすぎて意味わかんねぇっつうか、こっちは警戒心マックスだったつうの。つうか兄貴とやれんなら、警戒してて大正解だったってことじゃねぇの?」
 そこで一度言葉を区切った弟は、何かを思案し始めたかと思うと、やがてボソリと不穏でしかない言葉を漏らす。
「いやでもいっそ何かあったら兄貴との仲壊せてたのか?」
「まず、ナチュラルに仲壊そうって考えるのをやめろ。あとやってないし、そもそも無節操に手ぇだすような人でもないから」
「は? じゃあなんで……」
「なんで?」
「や、なんでもない」
 そう言ってまた何か考え込んでいる。
「で? マジに俺の顔見に来たってのがお前の目的?」
 明日おとなしく帰んならもうそれでいいけど、と言えば、今度はこちらをジッと見つめてくる。でもまだ何かを考え続けているようで、その口が開くことはなかった。
「なんだよ。てかこれ以上話すことないなら寝るぞ」
「なぁ、兄貴って結局アイツとどういう関係?」
「どうって……」
「付き合ってんの?」
 実は片思い? と聞かれて、キスしてんのに? と言い返したものの、付き合ってるわけじゃないのもまた事実だ。
「どうみても兄貴がねだってして貰ってたキスじゃん」
 まぁそれも事実だけど。好きとは言われたけど、結婚なんて話まで出たけど。でも口へのキスを最初にねだったのは自分で、それが習慣化しただけで、相手からキス以上のことを求められたことはない。
「ほら言い返せない」
「うるせぇ。ちゃんと、好きだとは言われてるよ」
「好きっていうだけ? あ、キスもか。で、それだけ?」
 デートしたりセックスしたりは? という追求に、してると返せないのが悔しくて、ついでになんだか少し悲しい。
 キュッと唇を噛み締めながら弟を睨みつければ、やっぱないんじゃんという呆れたような声を出しつつ、どこか嬉しげな顔を近づけてくる。悔しがる顔を間近に見たいんだろうと思って、顔を反らしながら仰け反ったのは失敗だった。
 顔近すぎって押しのけるのが正解だったんだろうけれど、弟相手に手なんか出せない生活が身に染み付いている。
「ちょっ、おいっ、いい加減に、痛っ」
 ぐいぐい寄ってくる弟を避けるためにどんどんと重心が後ろに傾いて、とうとう仰向けに倒れてしまった。倒れた先に布団はなく、畳の上に頭を打ってしまって痛い。
「兄貴さ、やっぱ帰っておいでよ。卒業したらでいいから」
 あと1年くらいなら待ってやるよと、こっちで就職するつもりだと言ったばかりだと言うのに、弟はどこまでも尊大だ。
「なんだいきなり。帰らないって言ってんだろ」
「隣の貧乏人に尽くしたところで何になんの? あんな男に尽くすくらいなら、俺に尽くしてくれてもいいじゃん」
「絶対ヤダ。実家戻ってお前のサポートするくらいなら、お隣さんに尽くす方が何倍もマシだっつうの。つかいい加減そこ退けよ」
 何を考えているのかわからないが、ひっくり返ったその隙に弟に腰を跨がれてしまった。なので現状、身が起こせずにいる。というか強引に抜け出ようとしたときに、弟がどういう行動に出るのかさっぱりわからなくて動けない。
「ヤダ。俺にしろよ。兄貴のこと、俺が抱いてやるからさ」
「はぁあああ????」
 そんな爆弾発言を投下されたら、叫ばずにはいられなかった。

続きました→

 
 
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