そっくりさん探し2

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 奢りますという連絡が来て向かった先では、随分と顔つきの変わった男が待っていた。晴れ晴れとして、といえるほどの陽気さはないが、それでも大分穏やかな顔つきになっている。
 初めて会ったときは思い詰めてると思ったし、一年ぶりに会ったあの日は、初めて会ったときよりかなりやつれてるなと思っていた。なので、他人事だけどなんだか安心してしまう。
 ゆっくり話せるようにと半個室の居酒屋を予約してくれていたので、そこへ移動したあとは、酒を交えながらようやく相手の事情を聞いた。
 早くに両親を亡くしたこと。実質妹を育てていたのは彼なこと。自身が学歴で苦労した分、妹の大学進学に反対はしなかったこと。なのに進学後は勉学よりも遊びに夢中で無断外泊も増え、交友関係や男との交際にかなり口を出しまくってしまったこと。いつの間にか帰ってこなくなったこと。慌てて探したが住民票なども移されていた上に閲覧制限が掛けられていて、自力では探せなかったこと。有り金はたいて頼んだ興信所がイマイチ頼りにならなかったこと。そもそも妹の交友関係を全く把握できていなかったこと。それでも諦めきれずに金が溜まったらもう一度調査を依頼しようと思っていたこと。などだ。
 なかなか苦労の多い人生だったようで大変面白く聞かせてもらったが、一通り話し終えたあとで一息ついた相手は、ようやく長々と語りすぎたことを自覚したらしい。
「す、すみません。ずっと相槌打ちつつ話聞いてくれてたから、俺ばっかりこんなに話しちゃって」
 こんな苦労話聞かされても困りますよねと肩を落としてしまうから、いや全然、と否定を返しておく。
「普通に楽しく聞いてた。苦労はしたんだろうけど、今日は穏やかな顔してるせいかな。苦労話が深刻なほど、妹さん見つけられてホントよかったって思うし、それ手伝えた俺凄い! みたいな気持ちにだってなるだろ?」
 知り合いにそっくりさん知らない? って聞いて回っただけで、そう大したことはしてないのだけれど。まぁ、たまたま顔が似てたってだけだけど、それでも自分の手柄には違いないので。
「というか前提はわかったけど、妹さんとは和解できたと思っていいんだよな?」
「あ、はい。一応は」
 いきなり消えたから凄く心配したってことは理解してもらえて、ちゃんと謝っても貰えたらしい。
「赤ん坊抱いてたけど、相手の男とはちゃんと結婚してんだよな? そっちも大丈夫そうだった?」
 聞いてないはずはないと思って話を振れば、思ったよりもまともそうな相手でした、と苦笑とともに返ってきた。
「大学生に手ぇ出して妊娠させて大学辞めさせた男、って思うとやっぱり許せない気持ちはあるんですけど。ただあの頃妊娠したなんて聞いたら、絶対堕ろせって言ってたと思うし、相手の男刺しに行くくらいしてたかもだし、そう言われて否定しきれなかった俺より、俺から逃がす手伝いしてしっかり結婚してお腹の子を妹ごと守った男の方を選んだだけって言われると、俺が言えることなんてないっていうか」
 その時の会話を思い出しているのか、ははっと乾いた笑いをこぼす相手は悲哀に満ちている。
「ちゃんと幸せだって言ってましたし、相手の両親が良くしてくれるとも言ってたんで、あいつのことはもう、大丈夫、です」
 新しい連絡先は聞いたけれどこんな自分じゃ困ったら頼れとも言いづらくて、今後は甥っ子のお祝いごとに贈り物をする程度の付き合いができればいい、らしい。多分それくらいはさせてくれると思う、と続いた声はどこか頼りない。
「寂しい?」
「え?」
「妹さん見つかって幸せそうで安心はしたけど、完全に自分からは手が離れちゃって寂しいのかな、と」
 実質君が育てたようなものなんでしょと言って、娘を結婚に出す男親の気持ちじゃないのと指摘してみる。
「ああ……そっか、そうなのかも」
「あ、自覚はなかった?」
「です、ね。なんか気が抜けたっていうか、今後どうしようっていう漠然とした不安? みたいな方が印象が強くて。そっか、これ、寂しいのか」
 妹さんを探すという目的がなくなって、次の目標とかがない状態か。
「寂しいなら俺と遊ぶ?」
「え?」
「いやまぁ俺じゃなくてもいんだけど。ずっと妹さんのために仕事優先して頑張ってきたんだろ? だったらこれからは自分のために時間使えばいいし、手っ取り早く、友達と遊びに行くのはって思っただけ」
 趣味を見つけるのでも彼女作るのでもいいと思うよと言ってから、勝手に判断は良くないなと思って、なにか趣味有る? 恋人いる? と聞いてみる。
 相手はやっと少しおかしそうに笑った。
「無趣味だし恋人もいないです。ついでに言うと友達もいないんですけど、あなたは俺を友達って思ってるんですか?」
「今日で終わりにならなくて、また飲みに行ったりどっか出かけたりする機会があるなら、友達ってことでいいんじゃない? って思ってるけど」
「じゃあ俺と、友だちになってください」
 いいよと即答したら、相手はやっぱりおかしそうに笑う。
「こんな風に友達できるとか、考えたことなかった、です。てか友人づきあいもかなり疎かにしてきてて、友達と何するかとかも正直あんまりわからないとこあるんで、かなり頼り切りになる予感がするんですけど」
 大丈夫ですか? 今ならまだ撤回してもいいですよ、と続く声がからかい混じりで、でも不安に揺れているようにも感じたので、問題ないよと返す声が柔らかに響けばいいと思った。

続きました→

 
 
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HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

そっくりさん探し1

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「あのっ、すみません」
 電車を降りたところで声を掛けられ、ついでに逃さないとでも言うように服の裾を掴まれてしまったので、無視できなくて振り向いた。
 そこにはなんだか思い詰めた表情の青年が立っていて、一人の男の名前を告げる。
「御本人、もしくはご家族の方、ですか?」
「いや全く知らない」
 本当に聞いたこともない名前だったのに。
「本当ですか?」
「本当に」
 そう肯定してもまだ疑り深く見つめてくるし、服も掴まれたままだ。
「その男が俺に似てるとして、なんで探してるのか聞いてもいい?」
 単純な好奇心だった。あとまぁ暇だった、というのもある。むしろ後者の方が比率はでかい。
「その、本当に探してるのは妹で」
 多分消えた原因がその男、ということらしい。見せられた写真に写っていた男は、確かに自分に似ている。かもしれない。
 いや正直そこまで似てるともいい難いような……?
 まぁいいか。
「本気で探したいなら興信所とかは?」
「使った結果知ったのが、この写真と男の名前。あと前に住んでたって住所くらいで」
 追加で調べてもらうには金が足りなかったらしい。本当に知りたいのは妹の居場所で、本当に繋がってるのかもわからない男の情報に大金を掛けられない、という面もあるのかも知れない。
「で、俺に声かけたのは、たまたま見かけたとかそんな理由?」
「そ、です」
「じゃ、一応連絡先交換するか」
「えっ!?」
 人違いだったのになんで、という顔をされた。もちろんただの好奇心とは言わない。
「友人知人に俺のそっくりさん知らないかって聞いてみようと思って。もし何かわかった時に、あんたの連絡先が必要だろ」
「いいんですか!?」
「いいけど、そんな期待されるのは困るな」
 思い詰めた暗い表情をしていたのに、一転してキラキラの目で見つめられてさすがに焦る。
「わかってます。大丈夫です。よろしくお願いします」
 本当にわかってんのか? と言いたくなる勢いで連絡先交換を済ませたあと、相手は引き止めたお詫びと協力の御礼にと言って、自販機で飲み物を1本買ってくれてから帰っていった。
 5分にも満たない邂逅だったその男とは、多分きっとそれっきり。そう、思っていたのに。
 ちょっとそのそっくりさんに自分自身が会ってみたい気もして、幅広く友人知人にそっくりさん知らない? と声を掛けまくっていたら、とうとう知ってるという相手と出会ってしまった。
 どうやらそいつも、似てるなとは思ってたらしい。名前を確認すればドンピシャだった。
 その男と直接会えないか、場を設けて貰えないかとお願いしつつ、あの出会いからおよそ1年ぶりに初めてのメッセージを送る。
 こちらの都合で日程を組むので一緒に行くのは無理かもしれないが、だったら妹さんの名前を聞いておきたい。
 そんな内容に、絶対予定を空けると返ってきたので、そっくりさんの知り合いだという相手には、参加者が一人増える旨を伝えてその日を待った。
 当日、初めて会ったそっくりさんとは、並ぶと結構違うけど確かに似てる気もすると言い合って笑った。そしてその後、なんでそっくりさんを探すことになったかという経緯を軽く説明して、最後に、本当に君を探してたのはこの人だと言って、そわそわとこの時を待っていた男のことを紹介した。
 そっくりさんはすぐに事情を理解した様子で、呼びますと言って電話をかけ始める。電話はすぐに繋がって、どうやら目的の妹さんが今からこの場へ来てくれるらしい。
 展開が早い。
 30分足らずで現れた女性の腕には赤ん坊が抱かれていて、まぁ予想通りという気はした。男が原因で姿を消したなら、まず最初に疑うのが結婚を反対されての駆け落ちだ。
 この先は多分込み入った話になるのだろうと思って、一旦お開きと言うか、紹介者と共にその場から離脱する。
 落ち着いたらでいいから奢ってと言っておいたから、そのうち連絡が貰えるだろう。その時に、じっくり話を聞けばいい。

続きました→

 
 
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ずっとセフレでも良かったけど恋人になれるならもっといい

 好きな人には好きな人がいて、たまたま知ってしまったその片恋相手が男だったから、実は自分が好きな相手も男だと告げて、代わりでいいから抱いて欲しいと頼んだ。
 同様に叶う見込みのない恋だということ、抱かれるセックスに興味があること、でも出会い系やらを使って相手を探すのは怖いこと、などを訴えためらう相手を頷かせることに成功し、そこから始まったセフレみたいな関係はもう何年も続いている。
 正直、けっこうな泥沼だと思う。
 好きな相手の代わりだから、それこそ愛情を感じてしまうくらい丁寧に優しく抱いてくれることも有るし、本当に好きな相手ではないから、好奇心を満たすみたいなプレイじみたこともする。
 愛されていると錯覚するようなセックスは期待しそうになるから正直苦手で、セフレだからこそ知れる一面だと思えば、好奇心と快感とを追求するみたいなセックスのほうが好きだった。
 おかげで、すっかり淫乱扱いなのがちょっと悲しい。
 最初っから、セックスに興味があって安全に抱いてくれそうな男を探してる、なんて誘い方をしているし、初回からそこそこ感じたと言うか既に自慰である程度開発済みだったのもあって、多分、セックス大好きって思われてる。
 まぁ実際嫌いじゃないんだけど。だって彼に抱かれて果てた後のあの時間は、片恋相手に片恋のまま抱かれる虚しさとか切なさとかを引き換えにしたって充分お釣りがくるくらい、多幸感に満ちている。
 泥沼だなぁとは思っているが、積極的に抜け出す気はさらさらないし、このまま何も変わらずに続いてくれるならそれで良かった。
 恋は叶わなくてもとりあえず体は満たされているから、それで充分だったのに。
 でも相手の好奇心は、現状維持を望まなかったらしい。
 ある日抱かれに行ったら、知らない男を紹介されて、3人でしようと提案された。
 信頼の置ける男だから、とか、危ないことは絶対しない、とか、二人がかりで責められたらいつも以上に気持ちよくなれるよ、とか。
 絶対嫌だと思ったのに、絶対嫌だとは言えなかった。でも絶対嫌だと断って逃げ帰るのが正解だった。
 初めてから全部、気持ちぃセックスしか経験がなくて、好きな人にしか抱かれたことがなくて、すっかり淫乱な体に開発れたんだって自分自身思ってて、だから、知らなかった。
 緊張してるから、というので誤魔化せないくらいの嫌悪感に襲われて、途中で泣きじゃくって初見の男を拒否した挙げ句、抱かれたいのは彼だけなのだと、とうとう口走ってしまった。
 片恋相手が誰かはずっとはぐらかして教えなかったのに、こんな場面でと思うとますます泣けてくる。
 楽しく氣持ちくセックス、が目的の場で、ぐすぐすと泣き続けていたらどう考えたって興ざめだろう。
 あっさりお開きになったし、少し落ち着けと、寝室に一人取り残されてしまった。
 ちょっと送ってくると言って男と一緒に寝室をでていった彼は、どうやらそのまま相手の男と一緒に家を出たらしく、しばらく待っても帰ってこない。
 どっかで、せっかく呼んだのにこんな結果になったことを詫びているのかも知れないし、こんな結果になったことを愚痴っているのかも知れない。青天の霹靂的な告白をしたはずだから、今後の相談、という可能性もあるだろうか。
 ノロノロと着替えて部屋を出る。合鍵は持っているのでそれを使って施錠し、そのあとそれは集合ポストの彼の部屋番号のところに突っ込んだ。もう、使うことはないだろう。
 それは別れの意思表示でもあった。さすがにセフレなんて続けられない。
 そう、思ったのに。
 夜になって部屋を訪れた相手は、随分と慌てた様子で深々と頭を下げた。
「試すみたいな真似して本当に悪かった」
「試す? 何を?」
「セックス、気持ちよくしてくれる男相手なら、誰にでもああなのかと思って……」
 そうだったなら良かったのに。
 残念、お前にだけだよ。
 そう言いたくて、でも、開いた口から音が漏れることはなかった。代わりに、ひゅっと小さく喉がなる。
 さっき散々泣いたのに、また、泣いてしまいそうだ。
「俺だけになら、すごく、嬉しい。お前の本命が俺で、本当に、良かった」
 いつのまにか好きになってた、とか。お前の片恋相手がわからなくてヤキモキした、とか。セフレじゃなくて恋人になって欲しい、とか。付き合って欲しい、とか。好きだ、とか。
 そんな言葉を彼の腕の中で聞きながら、結局またけっこう派手に泣いたけれど、これは嬉し泣きだからあまり慌てないで欲しい。

今回の更新期間もお付き合いありがとうございました。
1ヶ月ほどお休みして、3/3(月)から更新再開予定です。

 
 
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筋金入りの恋心

 筋金入り、という自覚は有る。なんせ小学校低学年の初恋から先ずっと、成人を迎えても飲酒可能年齢を越えても、未だ一人の人を想い続けているので。
 相手は小学1年の時に集団登校の登校班の班長をしていた近所のお兄さんで、面倒見が良くて優しい人だ。
 年は離れているけどご近所さんで親同士も顔見知りで、おばさんは優しいと言うより色々と豪快な人で、彼を慕って出入りするの近所のガキンチョを追い返すことなく、むしろ遊びに行くと歓迎してくれて、彼と遊べるように取り計らってくれたり彼のいろんな情報を率先して話してくれたから、子供の頃はもうほんと、踏みとどまることなくがっつり想いを育ててしまった。
 おばさんのおかげでこの恋心がここまで大きく育ったといっても過言ではないので、一時期、おばさんと彼との間でちょっと揉めたらしいけれど、豪快なおばさんと優しい彼との揉め事がどうなるかなんて明白だ。
 つまりは、好きになっちゃったならしょうがないじゃない。その気がないなら応じなけりゃいいのよ。というおばさんの意見が通ったわけだ。
 ついでに言うと、この恋心についてはおじさんや自分の両親も知っているが、あまりにしつこく好きで居続けている上にあまり相手にされても居ないので、みんな基本ノータッチを貫いている。生ぬるい目で見守られているとも言う。
 そして肝心の本人はと言うと、優しいから執着がキモいとか重いとか言いながらも結局強くは拒否できなくて、優しいから変な女に同情して付け込まれたりもする。
 好きだとか付き合ってだとか口で言うことはしても実力行使にでたことはなかったし、相手に特定の恋人が居た期間は好きだとかも言わずに大人しくしてたから、多分、結婚したら穏便にこちらを避けられて、しかも可哀想な女の子のことも助けてあげられるって、本気で思っていたんだろう。
 もしその結婚が本当に上手く行っていたら、さすがにこの恋は終わっていただろうか?
 多分そんなことではこの長い事抱え続けている想いは消えてくれそうにないけど、それを確かめる事はどうやら出来そうにない。だって全然上手く行ってなかったから。
 優しい人でちょっとお人好し過ぎるきらいもなくはないけど、思考停止で何もかも受け入れるタイプの優しさではないし、ちゃんと相手のことも自分自身のことも考えられる人だから、きっちり証拠を突きつければ諦めたように大きなため息をついて、離婚に向けて動いてくれた。
 やっぱり大きなため息と一緒に「薄々わかってはいたんだけど」と告げられたのは全部が終わってからで、結局全然うまく行かなかったと随分落ち込みながら「お前が居てくれて良かった」とも言ってくれた。
 自分で証拠を集めて離婚に向けて動く労力を考えたら、もっと切羽詰まるまで動かなかったと思うし、無駄に時間を費やして無駄に疲弊する未来が待っていたはずだから、外側から動いてくれる人が居てくれて本当に助かった、という事らしい。
 そんなことを言われたら、さすがに調子に乗りそうだ。いい加減、俺のものになればいいのにとか言ってしまいそうだ。というか言った。
 ついでに、ここぞとばかりにどれだけ心配したか、いかに大切に思っているかを伝えて、結婚するならせめて幸せ振りまくような生活を送って欲しいと訴える。
 結婚はこりごりかなと困ったように苦笑したあと、お礼に驕るよと連れ出されたけれど、最初の方の、俺のものになってだとか相手をどれだけ想っているかについては完全にスルーされてしまった。まぁここ数年はこんな感じで流されているので、今更なんだけど。
 優しい人だから、こんな完全スルーを覚えるまでとそれに慣れるまでに結構時間を掛けていて、だからまぁ、この塩対応は応えないどころかちょっと嬉しいまである。というのはどこまで知られているんだろう?
 ニヤニヤしててキモいぞって言われたから、嬉しいのは筒抜けなんだろうけど、でもお礼に連れ出されたことを喜んでると思ってるかも知れない。
 こちらの想いを完全スルーされたのが嬉しい、とか言ったら、ますますキモがられそう。と思ったらクフフと小さな笑いが漏れてしまった。
「俺の離婚、そんなに嬉しいのか?」
「え、あー、まぁ、そりゃあ……」
 あ、そっちだったか。という驚きがバレないように曖昧に同意しておく。確かにそれも嬉しいけど、離婚確定はもっと前に確信してたから、その喜びはとっくに消化済みだった。
 よっしゃーと思いながら一人で祝杯を上げたのはいつだったっけ。
「そろそろ三十路のおっさん相手に、しかもお前の気持ち知りながら他の女選んで結婚して、まんまと失敗してるような男に、お前はなんで好きって言い続けるんだろうな」
 はぁあと大きな溜息が聞こえてきた。
「なんでって、そんなの今更でしかないかな」
「妙な刷り込みで好きって思い続けてるだけじゃないのか。もしくは意地で今更好きを止められないとか」
「なくはないかもだけど、そんなの確かめようがなくない?」
 言ったらじっと見つめられて、わけがわからないのに妙にドキドキする。
「いっそ一度お前のものになったら、あっさり満足して、俺を好きでいるの止めたりすんのかもな」
「え?」
「なってやろうか、お前のものに」
 なんだか自棄っぱちというか投げやりな感じで吐き出されてきた言葉に、驚くより心配になった。
「もしかして離婚、そんなショックだった?」
「離婚そのものは正解だったよ。ただ……」
 そこで言葉を切った相手は、続きを言うか迷っているらしい。
「ただ、なに?」
 促すように聞けば、やっぱりまた大きめの溜息が吐き出されてくる。
「いや、今日はいいわ」
 お礼って言ったんだし離婚祝で楽しく飲もうとはぐらかされて、結局その後は何を聞いても教えてもらえなかったけれど、別れ際、今度ゆっくりお前との今後について話そうなと言われてしまった。
 今までこんなことを言われたことはもちろんなく、いったい何を言われるのかと、今から不安で仕方がない。

 
 
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ただのクラスメイトと恋人扱いになってしまった

 どこにでもいる中身も外見もごくごく普通の男として生きてきて、だから誰かから執着に近い好意を寄せられるなんて経験は初めてだった。といっても、正直言えばそんな好意は怖い以外の何物でもない。
 だって相手は気の弱そうなというか間違いなく気が弱いおっさんで、同級生数人に絡まれていたところをちょっと助けただけだった。しかも助けたって言うほど明確にそのおっさんを助けた記憶もない。
 だって顔見知り程度のクラスメイトが一人混ざっていたから、あんまりアホなことしてると進学に響くぞって、ちょっと声を掛けただけだ。それだって、教師に呼び出されてなにか言われたらしく、しばらく大人しくするとかなんとか言っていたのを、少し前にたまたま聞いていたからでしかない。
 言われて思い出したんだろう。そのおっさんはあっさりと開放されたわけだけど、まさかそれだけのことで、好きになったと言われたり、君のことをもっと知りたいと付きまとわれたり、なんて事態に発展するとは全く思ってなかった。こんな経験初めてで、どう対応していいかもわからない。
 間違いなく気が弱いはずなのに、多分、そのおっさんよりも背が低くて体格も細めなので、舐められているんだと思う。先日とうとう迷惑だってはっきり言ったのに、ちょろちょろと周りをうろつくのを止めてくれない。
 ほんと、あの時、声なんか掛けなきゃよかった。
「はぁあああ」
 校舎から出たところで、大きなため息が溢れてしまう。
 これから帰宅しなきゃいけないのに、どうせどこかでまた待ち伏せされている。というかあのおっさんは仕事とかしてないんだろうか。
「疲れた顔してんなぁ」
 後ろからぽんと肩を叩いてきたのは、あの時おっさんに絡んでいた同級生の一人だ。というか声を掛けたクラスメイトだ。
「誰のせいだと」
「つかもっと早く相談しろよ」
「は?」
「あの時のおっさんに付きまとわれてるって聞いたぞ」
 助けてくれたのが嬉しくて惚れられたんだって? と告げる相手は、あからさまに楽しそうだ。
「なにがそんな楽しいんだよ。いい迷惑だよ」
「まぁ、初のモテがおっさんじゃなぁ」
「わかってんならどうにかしてくれ。ただし穏便な方法で」
 しばらく大人しくしなきゃなんだろと言えば、わかってるよと返ってくる。
「まぁどこまで穏便かはともかく、一応、助けるつもりで声かけた」
「えっ!?」
 元はと言えばおれらがあんなの相手に絡んだのが原因だしなと言われて、多少は責任を感じてくれているらしい。
「で、今日もどっかで待ち伏せされてんだろ? とりあえずそれ見つけんぞ」
「力で解決とかは絶対ヤメロよ」
「ないない。ダイジョブ」
 力じゃなくどう助けてくれるつもりなのか全然わからないが、とりあえずあのおっさんと一人で対峙しなくて済むってだけでめちゃくちゃ気持ちが楽になった。もしかしたら本当に、言葉で説得とかしてくれて、というかそれは多分脅しなんだけど、だとしてもおっさんの付きまといがそれで終わってくれるかも知れない。という期待ももちろんある。
「お、見つけた。つか逃げんな!」
 おっさんも、あの時絡んでいた一人だと認識したんだろう。慌てて逃げようとするおっさんの腕をガシッと掴んで引き止めた相手に、やっぱ力技でわからせるんじゃとハラハラする。
 いやもうこの際、多少は痛い目見てもらっても仕方ないんじゃないだろうか。でもこのおっさんは学校にチクってきそうだし。とすると、やっぱり手が出る前には止めないと。でも止めたらまた助けてくれてありがとうってなって……
 嫌な想像が頭の中をぐるぐると回ってしまって、どうしていいかわからないまま二人をただ見つめてしまえば、それに気づいた相手が「お前もこっちこいよ」と声を掛けてくる。
「え……」
「ダイジョブだから。こいつには何もさせないから。なっ!」
 すでに顔色がだいぶ悪くなってるおっさんが、同意を求められて必死に頷いている。相当強く腕を掴まれているのか、多少もがいたところで全然抜け出せないようだ。
 何をするつもりなのかという不安は有るが、まさか自分だけこの場から逃げ出すわけにもいかないし、しかたなく呼ばれるまま相手までの距離を詰めた。
 とりあえずで隣に立てば、相手の空いた側の腕がひょいと肩に乗って軽く引き寄せられる。
「え、何?」
「おいおっさん。こいつ、俺のだから。気安く好きとか言わないでくれる? もちろん追いかけ回すのももう無しな」
 こちらの疑問や動揺を一切無視して、相手がそう言いきった。
 おっさんは青い顔のまま、また何度も首を縦に振っている。
「もしまた次あんたのこと見かけたら、さすがにもう容赦しねぇから。それだけは忘れんなよ」
 じゃあバイバイと軽い口調で告げながら、やっとおっさんを開放したらしい。
 慌てた様子で逃げ出す後ろ姿を見つめながら、こんなあっけないのかと呆然としてしまった。
 いやもうホント、どう考えてもただただ舐められていた。
「え、終わり?」
「まぁ、多分。つかまだ続くなら、今度は俺にすぐ言えよ」
 ストーカーとかで訴えようぜと続いた言葉に、一応、力で解決は除外されているらしいと思う。
「そうする。てかありがとう助かった」
「そんだけ?」
「え? まさかお金取ったりすんの?」
「取るかバカ。つか気にならなかったならまぁいいわ」
 全く気にならなかったわけじゃないけど、男相手にだけモテ期来てるわと茶化していいのかもよくわからないから、軽く首を傾げてなんのことかわかりませんというフリをしておく。
 でもどうやらこの判断は良くなかった。だっておっさんに付きまとわれてるのが彼の耳に入るくらい、あのおっさんと自分のことは同じ学校の生徒らに見られていたってことだ。
 つまり、おっさん撃退のやりとりも、バッチリ見られていたらしい。
 翌日から、友人ともいい難いクラスメイトでしかなかった相手と、完全に恋人扱いになってしまった。
 しかも相手が否定しない。というか絶対面白がっている。
 でも実際おっさんより全然マシだし。擬似的だろうと相手が男だろうと、初めて恋人がいるって状態にちょっと浮かれる気持ちもあるし。
 というわけで、自分自身、周りと相手が飽きるまでこのままでもいいかと思ってしまっているんだけど、この選択で大丈夫だろうか?

今回の更新はただただ書き終わらなかっただけですが、次回(1/29)の更新は日中予定が入っていてまた夜になる可能性が高いです。

 
 
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セフレは幼馴染で節操なしのクソ男

 幼馴染といわゆるセフレになって数年。最初は好奇心からだった抱かれるセックスも慣れきって、ついでに言えば相手もあちこちで経験を積みまくっているおかげで、やってる最中の満足感だけはかなりいい。
 問題はやり終わったあとなんだよなと、どんよりベッドに沈む相手を見下ろしながら、呆れを隠さない溜息を一つ。
 まぁこうなるのがわかってて抱かれたのも事実ではある。ついでに言うと、この落ち込みまくった幼馴染を慰めるつもりで訪れていたりもする。
 素直に抱かれたせいで余計に落ち込ませる結果になったのもわかっているが、そこはまぁ、慰め料の前払いというやつだ。
 ただ、慰めるにしたってもう少し落ち着く時間が必要だろう。
「シャワー使いたいんだけど。ついでに喉も乾いてんだけど」
「ふたりとも出張中だし好きにしろ」
「りょ」
 短く了承を告げて、落ち込む幼馴染を部屋に残し、勝手知ったると風呂場へ向かった。
 軽くシャワーを浴びて当然タオルも勝手に使い、冷蔵庫の中から未開封の500ミリペットボトルを2本取り出し、1本はその場で半分ほど飲んで一息ついたあとで相手の部屋へと戻る。
「なんだ。まだ回復してねぇの」
 相手は部屋を出たときとほぼ同じ状態で、ベッドにうつ伏せていた。
「うっせ」
「スポドリ持ってきたけど」
「いる」
 いい加減起き上がれ、という気持ちが強かったのか、ベッドの上に投げた未開封ペットボトルは相手の腕にしっかりぶつかってしまう。ちょっと鈍い音がした。
「痛っ」
「こっち見もしないお前が悪い。つか何もかもお前が悪い」
 本気でこいつが悪いと思っているので、謝罪なんて絶対に口にしない。
 相手は陰鬱な溜息を一つ吐いてから、ようやく体を起こしてベッドに腰掛ける。
 隣に座る気にはなれなかったから、勝手に椅子を拝借してそっちに座り、相手がペットボトルに口をつけるのを眺めて待った。
 口を離して、今度は大きな溜息が一つ。
 それもジッと眺めていれば、さすがに視線が気になったらしい。
「怒ってんの?」
「まぁ、それなりに?」
 怒ってるとはちょっと違う気もするが、人の忠告をさんざん無視しやがった結果だぞ、という憤りはある。
「気持ちよかったくせに」
「否定はしないけど。でも今日のお前はいつにも増して最低だったなって思ってる」
 なんせ他の女を抱いた直後の呼び出しだった。しかも別れ話でもしたのかと思ったらそんなことはなく、今現在もその女とは交際継続中らしい。
「それはそう」
「わかってんならヤメロ。せめて女抱いた直後に同じベッドで俺を抱くなよ」
 節操なしのクソ男。と口に出さなかった自分を褒めたい。今これを言ったら、相手にかなりのダメージを与えられるとわかっているのに、踏みとどまれた。
「へぇ。お前でも、少しは嫉妬とかすんの?」
「いや別に。罪悪感と後ろめたさでお前が張り切って俺をイカせようとすんのは、まぁ、そんな悪くなかった」
「なんじゃそりゃ。んじゃ何が不満なんだよ」
「今この状態がひたすら鬱陶しいな、と」
 落ち込むんだからヤメロと言ってやるのは、幼馴染としての優しさだと思う。
「いやもう落ちれるドン底まで落ちたい気分ってやつで」
「今更?」
「うっせぇ」
「俺は、お前の気持ちに気づいた一番最初に、素直に告白しろって助言はしてるからな」
 こいつの本命はもう一人の幼馴染で、そいつは何も知らない。こいつの気持ちも、幼馴染二人がセフレ関係だってことも。
 あの時素直に告白して、多少引かれても真剣に伝え続けてたら、充分に脈はあったと思っているから、本当にこいつはバカだと思う。それこそ今更の話なんだけど。
「それが出来てたら今こんなになってねぇよ」
「素直に告白できないにしても、本命の前で女とイチャついて見せる必要なんてあったか?」
「ちょっとは俺の魅力に気づくかと」
「お前のモテアピール、どう見たって逆効果にしかなってないのわかってただろ。間違いなく、自業自得だぞ」
 盛大に呆れられた最初の1回で止めておけば良かったものを。アホな真似を繰り返したせいで、とうとうブチ切れられて、節操なしのクソ男は金輪際関わってくるな、という絶縁宣言を食らったのが今日の昼だ。
 それで反省したり自分の行動を省みたりする性格だったら、そもそもここまで拗れたりしなかったわけで。親が居ない自宅に彼女を呼んで抱いたあと、セフレを呼んで抱いて、ひたすら落ち込んで今に至る。というわけだ。
「いやマジでアホだな」
「うるせぇ」
「つかさすがに今回のは割と絶望的だと思うんだけど」
「わかってんよ」
 いい加減諦める、という自信のなさそうな呟きが聞こえてきた。
「本気で?」
「あー……出来れば。そうなったらいいな、みたいな」
「はいはい。無理無理」
 否定してやれば不満げに口を尖らせているけれど、無理じゃないと言ってこないのだから、本人も自覚はあるんだろう。
「つか本気で諦めたいなら告白するのがいいと思うよ。これ、何回か言ってるけど」
「ぜってーやだ。今までのあれこれ全部、お前が好きだからやってました。なんて知られたら俺もう多分生きていけない」
「いっそ一度死んだらいいと思うよ。てか今日すでに絶縁宣言食らっただろ」
「あああああ思い出させんなよクソがぁ」
「クソなのはどう考えてもお前だから。自業自得だから」
「なぁ、あれって本気だと思うか?」
 さすがにあれを撤回させるのは難しいだろうなと思う。なんせ節操なしのクソ男と言われたその直後に、思いっきり節操とは無縁の行動を取るような男なので。
「期待はすんなよ。さすがにもう無理だろって気もするし。つかお前はいい加減本気で諦めることを考えろ」
「わかってる。努力はする。けど、それはそれとして、よろしくお願いします」
 ベッドの上に正座したかと思うと深々と頭を下げられて、小さな溜息を一つ。
 さて、どうやって絶縁宣言を撤回させようか。

 
 
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