聞きたいことは色々23

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 時間が必要と思われたのか、相手は口を閉じて待っている。
 過去の経験人数が多そうという想像はしていたし、出会い系やらに抵抗がないこともわかっていたし、その日その場限りの関係が有りだったとしても不思議はないんだけど。積極的に複数人でのプレイやらを好んでいたらしいのは、正直ちょっと信じられない。
 それくらいには、普通に一対一での恋人関係をそこそこ良好に続けてきた。はずだ。
「事実、なんですよね?」
「そうだね」
「なんで俺、そういうの連れて行かれなかったんでしょう?」
 そんな素振りやら気配やらがあったらどうしていただろう。流されて渋々受け入れてしまうよりも、さすがに大慌てで逃げ出しそうではあるから、それがわかってて諦めたんだろうか。
「考えてみたらゲイバーですら、一緒に行ったこと、ないですよ。てか社内に複数いるらしいゲイやバイの人たちも、名前すら聞いたことないかも」
「あいつなりに大事にしたかったから、とか?」
 その可能性あると思う? と聞かれても、わかるわけがない。わからないのに、なさそうって思ってしまったし、なさそうって答えてしまったけど。
 相手は苦笑だけ返してきたけれど、やっぱり同じように思っているんだろうか。
「本当に行為見せたり他人巻き込んだりのプレイが好きなんですか?」
「どうかなぁ。少なくとも抵抗はなさそうだったし楽しんでたとも思うけど、自分から進んでしたいわけではなかった可能性はあるね」
 どっちかって言ったらオフィスでとか公衆トイレでとか、誰かに見られたり知られたりしたらヤバそうってシチュに興奮するタイプっぽいかも? と言われて、それは知ってますと返した。
「つまり、した?」
「してないです。嫌がられない程度に自制する気はあるって言ってましたから、外でキス掻っ攫う以上のことは俺がはっきり嫌がるってわかってるんじゃないですか」
 交際開始の段階で、社内でとかは絶対なしだし慣れとか関係ないんでって釘を刺してる話をしたら、それを律儀に守ってるのが結構信じられないんだよねと返されてしまった。
「嫌だってホント、あいつ口うまいしあの顔利用しまくるし、けっこう自分のやりたいこと押し通すタイプだったから」
 って言っても色々あったのも事実なんだよねぇと困ったように笑う顔は、なんだか泣きそうにも見える。
 多分その色々の大半が、叔父の急な事故死絡みなんだろう。そう思ったら、気軽に何があったんですかとは聞きづらい。
「やっぱこれも本人に聞くしかないかなぁ」
 後で問い詰めようと笑う顔は一転して楽しげだ。
「なんて言ってたか、俺にも教えてもらえますか?」
「もちろんいいよ。てか一緒に問い詰める?」
「あー……それはあんまり。というか、俺が傷つきそうな酷いこと言ってたら、こうオブラートに包んで教えて欲しい的な」
「おけおけ」
 じゃあ連絡先交換しよってスマホを出されたけれど、こちらのスマホが手元になかった。
「カバンの中で充電中ですね」
 正確には昨夜寝室に移動する前にカバンに放り込んだので充電は終わっているはずだが、この人の突然の登場でスマホどころじゃなかった。
「じゃあ後で忘れずに交換しよう。で、けっこう変な話聞かせたと思うんだけど、過去は水に流すというか、好きな気持ちは特に変わらなくて、今後も妙なとこ連れ込んだり無茶な要求されない限りは付き合い続ける、ってことで良さそう?」
「あー……なんか実感湧かなくて」
「ちなみに、この先、そういうことしたいって言われたらどうする?」
 もう一人交ぜようとか、別のカップルと相手交換したプレイしようとか言われたら、と聞かれて、即座に無理ですと返す。
「知らない人とするのなんか怖すぎますって」
「知らない人じゃなかったら?」
 どれくらい親しくなったら俺も交ぜてくれる? と聞かれて、驚くと同時に、そういやこの人も抵抗なくプレイできるんだったと思い出す。しかも既に彼とは経験済みだとも言っていた。
 この人も彼に抱かれたことがあって、しかも話しぶりからして、自分が経験してないような抱かれ方をしてる。という理解が、やっと実感を伴ってやってきた。
 ただ、理解はしても疑問は残る。だって彼にまた抱かれたいと思ってるようには、とても思えない話しぶりだった。
「あの、交ざりたいの意味が……だってまた彼に抱かれたい、みたいな話しぶりではなかった、ですよね?」
「今のは、俺も君を抱いてみたい、っていうお誘いだったんだけど」
 アイツと別れる気があるとか浮気してくれる気があるなら二人で楽しむのでも全然いいよと続いた言葉に、やっぱりかなり驚いて、口からは間抜けな音だけが漏れていく。
「へっ?」
「俺が抱かれるのは旦那と、旦那が抱かれろって連れてきた相手だけだよ」
 嫁って単語で誤解させたのはごめんねという謝罪とともに、頭をサラリと撫でた手がそのまま頬に添えらて、ゆっくりと相手の顔が近づいてくる。

続きました→

 
 
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今日の更新お休みします(雑記)

最近更新遅くなるときのお知らせはX(旧Twitter)で済ませちゃってますが、今日は更新できそうにないので雑記でお知らせです。
暑くなってきて早々に夏バテっぽい感じで、どうにもやる気が起きません。
夕方からの仕事休むほど深刻ではないんですけど、職場がまた相当暑くて夏バテ加速する環境なのと、明日はキャンセル難しい予定が入っているのとで、体力温存しときたい気持ちです。
日曜はゆっくり出来る予定なので、月曜からはまたちゃんと更新できるように頑張ります〜

 
 
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聞きたいことは色々22

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 恋愛感情で、とは言えなくても、手放したくはないって思ってるみたいよ。と続いた言葉に、やっぱり首を傾げるしかない。
「だってデート中変なことされたり、デート先がヤバい場所だったりはしてないんでしょ?」
「人目を盗んで掠め取るキスのが興奮するとか言って周りに人が居るような場所でキスされたり、なんかちょっと変なラブホに連れてかれたりはしてますよ?」
 部屋からガラス張りの浴室が丸見えだったり、壁やら天井やらに大きな鏡が貼られてたり、拘束するための道具だったり装置だったりが置かれてたり、なんでそんな特殊な部屋選ぶかな、みたいなのを繰り返した結果、最近はもうラブホ利用は基本NGにしてしまったけれど。
 ラブホなんて、致す場所が確保できないわけでもないのにわざわざお金をかけて行くような場所じゃないと思う。だって気が散る要素満載でエッチに集中できない。
「うん、だから、そういう軽いのじゃなくて」
「軽い……?」
「出会い系も怖がって独り身貫いてきた子で、恋人にはなるけど惚れさせないでとか言っちゃうような子を、どう扱うかはかなり迷ったぽいよね。初めての恋人として都合がいいはずとか言っちゃったもんだから、あんまり無茶は出来なかったって感じなのかな」
 好きってバレたら捨てられちゃう、って考えて黙ってたのは大正解だね。と言いながら、伸びてきた手がワシャワシャっと髪をかき混ぜていく。
「好きになったって正直に言っちゃってたら、恋人としてのアイツに色々求めてたら、調子に乗ってどこまで許すか試されてたかもね」
「試すんですか? 振られるんじゃなくて?」
「好かれるのが重くて嫌とか、そういう感覚多分ないよね」
「えっ?」
「本気で惚れられたら飽きてポイ、の言葉の中には、君が想像してない色々があるわけだよ。好きになりましたって言われたら、即もういいやとかなるようなもんじゃないの」
 まぁなんでもさせるなって思われたらそこで終わりなのは事実だけど、そこまでアイツに惚れ込んでから捨てられたって子は多分居ない。らしい。
「え、居ないんですか?」
「アイツが好きだから、アイツが求めることはなんでもする。なんて気持ちが育つような関係、アイツに作るのは無理だよ。だって相手のこと、たいして見てないんだから」
 エッチの傾向がたまたま合致してただけとか、気持ちよければいいって割り切っちゃった子とかは居たよ。と続いた言葉が耳を通り抜けていく。
 相手のことなんてたいして見てない、という言葉が胸に響いて痛かった。そうなんだろう実感は嫌ってほどあったし、すんなり信じてしまえるのに。その事実がやっぱり悲しい。
「振られたり浮気されたりで終わった関係も多かったはずだし、君のことも、慣れたらさっさと次の人に行くだろうって思ってたみたいなとこあるね」
「出会い系やらないって言ってるのに、ですか?」
「それはね、出会える場所に連れて行く気があったっぽいよ」
「出会える場所……」
 ちょっとショックが強いかも知れない話になるけどいい、と前置いてから、さっき言ったデート場所だけどと話が続いていく。
「いわゆる発展場やらハプバーやらに連れ込まれたり、行為見せたり他人巻き込んだプレイしたりとかってのはなかったでしょ?」
「……は?」
「そういうのもありな付き合いが圧倒的に多かったんだよね。というか、いくら家族だからって、アレコレ詳しすぎると思わなかった?」
「え……?」
 まさか、と思うと同時に、旦那が健在だった時には当然俺らも一緒にしてた、という言葉が耳に届いた。
 隣に座る男の顔をマジマジと見つめてしまえば、気まずそうに苦笑を深くしながら、気持ち悪くなってないかと確かめられてしまう。
「気持ち悪く……すみません、頭、追いつかなくて」
 気持ち悪くないのかどうかもわからないくらい、呆然としていた。

続きました→

 
 
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聞きたいことは色々21

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 そりゃ好きとか言われるわけ無いし好きを求められることも無いわと納得すると同時に、なんで恋人として引き止めたのかますますわからなくなったなと思う。欠片くらいは何かしら惹かれるものがあったから、今こんな関係になってるんだと思ってたのに。
 いやまぁ、カラダがって話なのかもだけど。でもカラダに執着されてる実感は全くと言っていいほどないから、多分違う気がする。
「あの人、なんで俺を恋人にしたんですかね。いやまぁ、俺が恋人でもない相手に抱かれないだろうって思ったから、とりあえず恋人ってことにして抱いた。てのはわかってるんですけど、俺はあの晩限りの恋人だって思ってたし、恋人続ける気なんか全然なかったのに」
「あーそれはねぇ」
 自覚ないと思うけどと苦笑しながら、めちゃくちゃ貴重なネコちゃんだからだよと教えてくれたけれど、さっぱり意味がわからない。
「なんすかそれ」
「自覚して抱かれたい側のゲイで誰とも未経験のままな男が、あいつの手が届く範囲でうろついたことが多分ないんだよね。タチって知ってて寄ってくるネコちゃんは大概色々経験済みで、そういう子にはあまり惹かれないみたい」
 ノンケだのタチだのに積極的に手を出すのは、男に抱かれた経験がないって部分が大事なんだと思う。と続けた相手は、つまりは処女厨なんだよアイツと言って、更に苦笑を深くした。
「処女厨……」
「人の手垢がついてない子がいいみたい。まぁ、それは君を手元に置き続けて自覚したっぽいんだけどね」
 昔は、抱く気で寄ってきた男を抱いたときの達成感がたまらない、なんてことを言ってたらしい。
「多分ずっとそういう、寄ってきた男を落として抱くゲームしかしてなかったし、好きって言ってっておねだりも、それを言わせるゲームを楽しんでただけなんだよね。そんなゲーム仕掛けられてる方はたまったもんじゃないけど」
「過去の恋人のことも、好きって言ったりはしてなかったってことですか? 言わせるだけで?」
「それは言ってたかな。だって抱くつもりで寄ってきた男に足開かせるんだよ? 甘えるのも、甘やかすのも、得意だったと思うよ」
 口説かないでって言わなかったら多分君にも当たり前に言ってたよ、と続いた言葉に、驚きで声が詰まった。
「えっっ!?」
「好きって繰り返してデロデロに甘やかしたり、好きって言ってっておねだりしたり、それって結局、相手を自分に惚れさせるための手段だからね。少なくとも、アイツにとっては」
 恋人とただイチャイチャしたくて好き好き言い合う感覚とか知らないと思うよと言ったあと、もったいないよねぇと同意を求められたから、この人は旦那だったという彼の叔父と、ちゃんとそういう好きのやり取りが出来る恋人だったんだなと思う。
 そういや、最初に抱かれる前のやりとりで、本気で口説いてもいいけど後々恨まれそうって言われたような記憶がある。抱かれずに帰るならお前を本気で落とすゲームを始めるって言われて、恋人になって寝室にって流れだった。
 好きって言い合う行為を相手を惚れさせるための手段としか認識してないから、口説かないで惚れさせないで落とすゲームを始めないでっていうこちらの主張に合わせて、そういう言葉のやり取りがないセックスをしたってことなんだろうか。
「でもデートするのは好きって言ってたし、デートするから恋人でデートしないでセックスだけするのはセフレだって言ってあちこち連れ回されて、その、ちゃんと恋人として扱われてるって感じるし、恋人とのイチャイチャがわからないって感じでもないような?」
「それそれ。アイツが卒なく恋人やってるっての、笑うよね」
 言いながら、本当にまた楽しそうに笑っている。

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聞きたいことは色々20

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「どんな、って……」
 会ったことあるんですよねと聞いてみたが、相手は困った様子で口を閉ざし考え込んでしまう。
「やっぱ俺とはカスリもしない感じなんですね」
「あー……いやぁ、確かにちょっと系統違うっていうか、珍しいタイプを恋人にしたとは思うけど」
「そ、なんですね」
「けど! あっちから別れる気とかなさそうだし、現状に満足してるとか言ってたのも多分嘘じゃないし、いい意味で代わろうとしてる可能性もあるから! 好きって言ってっておねだりが恋人たちの甘いやり取りとは限らないから! というか基本そういうのじゃないから!」
 泣きかけたりはしてないはずだが、一体どんな顔を見せてしまったのか。またしても慌てた様子でなにやら慰めの言葉をくれたけれど、後半は全然意味がわからなかった。
 好きって言ってっておねだりが、恋人との甘いやり取りじゃないってどういうこと?
「あの、エッチ中のおねだりが甘いやり取りにならない場面、まったく想像できないんですけど……」
「だーよーねぇ〜」
 感性まともすぎてなんかもう俺が申し訳なくなってくるよと嘆いたかと思うと、相手が勢いよく立ち上がるから驚く。
「え、ちょ、あの……?」
「ちょっと問い詰めてくるから。てかどこまで喋っていいのか確認してくるから!」
 連れ込んどいて一人にして悪いけどここで待っててと言い置いて、相手は部屋を出ていってしまった。
 一人取り残された寝室で、追いかけるべきかをかなり迷う。何を問い詰めに言ったのか知らないけれど、直接聞きたいって気持ちは当然ある。でも同じくらい、直接聞きたくない気持ちもあった。
 どこまで喋っていいか確認するとも言っていたし、多分きっと隠しておきたい何かしらの過去があるんだろう。隠すくらいだから、知ったら不快になる内容の可能性も高そうだ。
 お兄さんが戻ってくるのを大人しく待って、お兄さんの口から聞いたほうが、直接聞くより多少はマシかもしれない。だって恋人本人よりよっぽど優しいというか、わかりやすく好意的というか、なにやら心配されているのがわかるから。落ち込むと慰めてくれるから。もし聞き出した内容でつらくなりそうなら、なるべく傷つかないように言葉を選んでくれそうだから。
 そんな甘えた気持ちで結局大人しく戻ってくるのを待ってしまえば、やがて寝室の扉が軽くノックされた後で開かれる。
「待たせてごめんね」
 そう言って部屋に入ってきた男は困った様子の苦笑顔をしていた。
「おかえりなさい。そんなに困るようなこと、言われたんですか?」
「うんまあそれなりに。てか自分で直接話すっていうのを諦めさせるのが大変だった」
 恋人本人から聞くのは色々ショック大きすぎると思うんだよねと続いた言葉に、よほどの話をされるのだと覚悟を決める。
「あのね、恋愛対象が同性ってだけで、ごくごく普通のありふれた恋愛がしたいって思ってただろう子には、結構刺激強い話になると思うんだけど。でも俺が話さなくても、もうアイツが自分で話すと思うから、俺の話から先に聞いて欲しい」
 なるべく言葉は選ぶけど気分悪くなったら我慢しないで教えてねと念を押されるくらい、やばい話をされるっぽい。覚悟、足りるだろうか。だとしても、わかりましたと返すしかないんだけど。
「まず、アイツが過去に紹介してきた恋人たちの話ね。アイツの性癖っていうか好みっていうかなんだけど、ノンケとかバリタチとかが多くて、元から抱かれたい側の子をわざわざ恋人にして側に置くってのは多分初めてだと思う」
 初っ端からなかなかの衝撃内容だった。これってつまり、全く欠片も好みのタイプではないって意味なのでは?

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聞きたいことは色々19

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「やっぱもう終わりなんですかね」
「は? 何の話?」
「俺がもうけっこう好きになってるの、さっきのでバレたと思うんで。それに半年も付き合うのが珍しいみたいだし、本気で惚れたら満足してポイなら、もういいって言われるのかなって」
 ヤダなって思ったらやっぱり後半は涙声になってしまって、横から伸びてきた腕がまた、今度はそっと抱きしめてくれる。優しく背中を撫でてくれる。
「大丈夫。って言っていいかわからないんだけど、少なくともまだ別れる気は全然なさそうだったよ?」
「でもそれ、俺が好きなのバレてなかったからで」
「いやぁ……さすがに気づいてるでしょ。多分」
「え?」
 驚いて相手の顔をまじまじと見てしまえば、腕が解かれて間近にあった苦笑顔が離れていく。
「だって今日初めて会った俺があっさり気づくんだから、気づいてないとは思えないよ?」
「え……でも、えっ……えぇ……」
 戸惑いしか漏れなかったけれど、嘘だとも思えなかった。必要なのは付き合っているという事実で、定期的にデートしてセックス出来る関係が維持できるならこっちの好きは必要なさそうって思わされることは確かにあったから、気づいても無視していただけって言われたら納得してしまう。
 納得はするけど、でもやっぱり寂しいなと思う。せっかく恋人になったのに、求められてるのが体だけだなんて。それとも、本気で好きなのがバレてもポイされないくらい魅力的な体を持ってる、とでも思って誇ればいいんだろうか。
 カラダが良くて付き合ってる。なんてのを突きつけられるようなセックスはされてないし、そこまでスゴイカラダを持ってるなんてとても思えないんだけど。そもそも誰でも良さそうと言うか、たまたまタイミングよくフリーの時に、同じくフリーの色々未経験なちょろいネコが目の前をうろついたから、とりあえず捕まえたっぽいみたいな。
「気づかれてない想定だったか。てかアイツ、気づいてない振りしてたわけだよな? え、なんで?」
「って俺に聞かれても」
「だよねぇ」
 あとで問い詰めてやると意気込んでいるが、あとでっていうのはいつだろう。その場に自分も同席してていいのか、それとも自分が居ないところでって話だろうか。
 聞いてみたい気もするし、聞きたくないような気もする。だって余計に落ち込む可能性のが絶対高い。
「っていうか、好きとか言われるの、煩わしいからじゃないんですか?」
「どういうこと?」
「本気で惚れたら満足してポイなら、好き好き言われるのが根本的に嫌いなんじゃないかなって」
 もちろん、好きって言うのも。
「いやぁ……それはナイ、かなぁ」
「そ、ですか」
 あっさり否定されて気持ちが沈む。そうだねって肯定されたら、自分だけじゃないって諦めもついたのに。過去の恋人たちとはちゃんと好きって言いあったりしてたんだ、って考えてしまうから。
「てかエッチしてるとき、好きって言わされたりしないの? って、言わされてないっぽいよね」
「は? 言わされる? 好きって、ですか?」
「アイツ口うまいしあの顔だし、好きって言ってとかのおねだり、得意なはずなんだけど」
「ええぇ……」
 そんな経験、もちろんしたことがない。
 好きって言ってなんておねだりされたらきっと喜んで好きって言ってたけど、それで後から苦しくなったりしてそうだけど、でもそんな素振り欠片もなかった。むしろこっちからの好きなんて要らないって態度だった。
 それが気楽だって思ってたことすらあるのに。それでも恋人でいいんだって、そういう恋人もありなんだって、思ってたのに。
 でも過去の恋人相手にはそういう態度を見せてたってこと?
 家族に紹介したり、家族の前で好きって言ってと甘えて見せるような、ベタ甘の恋人が居たことがあるってこと?
 もしかして凄く特別な恋人が過去に居て、でもその人とは何かしらで上手く行かなくて、だからもう誰だっていいみたいな感じになってる?
 もう特別は作らないって思ってる?
「あの、あの人がそんなおねだりするような恋人って、どんな人でした?」
 そんなことを聞いたところで、その特別だった相手の代わりになれるわけがないんだけど。

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