親切なお隣さん30

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 それでもどうにか、核心に触れてしまわないように言葉を選びつつ口を開く。なんでもないですで押し切れる気がしなかったというか、あれだけぶち上げていたテンションが、この土壇場でガクッと落ちてしまったことを気にするなとも言えないからだ。
「あの、俺、自分で弄ってた、って、言ったじゃないすか」
「そうだね」
「しかも壁向こうのアンタにバレるくらい、喘いでたわけじゃないすか」
「うん、まぁ、君の話を聞く限りではそうなるよね」
「で、ずっとアンタに抱いて貰う想像で気持ちよくなってたのが、今、現実になろうとしてて、しかも今のアンタは俺の恋人で、でもそこまでは想像したことなくて、あー、その、ずっと都合がいい妄想ばっかしてて、アンタが実際にどんな反応するのかわかんないのは怖いっつうか、がっつく気満々だったのに引かれたらやだなとか、そもそもホントに俺を抱けんのかな、とか、なんか色々考えすぎて、その、お尻使うセックスに抵抗とか、は、ない……ってことでいいんすか?」
 黙って聞いてくれたので、何言ってんだろと思いながらも思いつく限りのことをダラダラとぶちまけてしまえば、相手はまず、大丈夫だよと口にした。ただし、続いた言葉はその大丈夫を全く保証していなかったけど。
「正直なところ、経験のあるなしで言えばアナルセックスはしたことがないんだけど」
「ちょ、っと!」
 思わず、それでよく大丈夫とか言い切るよな、という気持ちが溢れてしまった。
「気持ちはわかるけど、取り敢えず最後まで聞いてよ」
 自身のとりとめのない吐露を黙って聞いてもらったあとなので、そう言われてしまったら黙って最後まで聞くしかない。そう思ったのに。
「君が口へのキスを許してくれたあと、いつかはって思いながら男同士でのアレコレをおれもかなり調べたし、一応自分の体で試してみたりもしたわけ」
「は? えっ? 試した?」
 初っ端から聞き捨てならない単語が飛び出てきて、口を挟まず聞き続けるのは無理だった。
「そう。試してみたの。だって君が抱く側ならって言い出す可能性だってあったわけでしょ。おれとしては、君が結婚というかおれとのパートナーシップに応じてくれるなら、そこは譲ってもいい。って言えたほうがいいよなって思って」
「言えたほうがいいと思って?」
 なんか変な言い回しだと思いながら繰り返してしまえば、いくら好きになっちゃったからって年下の男の子に抱かれたいって感情が素直に湧いてはこないよと、苦笑とともに告げてくる。
「つまりね、君に抱かれる想像で弄って気持ちよくなるのは無理だったし、君に抱かれたいなと思ったこともないんだけど、君にどうしても抱く側がいいってお願いされたら頷けるかな、くらいにはなってるんだよね。って言ったらやっぱドン引き?」
「ドン引きっていうか、えぇぇ……」
 引くというより戸惑いが凄い。相手が抱かれる側になる可能性を考えたことは欠片もなかったせいだ。
「俺が抱く側とか考えたことなかった、す」
「できればそのままそんなこと考えずに、抱かれる側で満足してもらえるといいなと思ってるよ。というかおれとしては、おれが君を抱けないとしたら、君がやっぱり無理だとか痛いとか言いだす場合だけだと思ってる」
 経験はないけど抵抗なんてないし、むしろ期待ばっかり膨らんでると言って、やっぱり相手は苦笑している。
「めちゃくちゃデカいとかじゃなければダイジョブ、す」
 こんくらいなら、と思わず所持しているディルドのサイズを手で示してしまって、やっちまったと思うが後の祭りだ。
「あ、や、その……」
「もしかして、随分具体的だねって突っ込むべきとこなの?」
 慌てすぎてて怪しいよと言いながらも、笑ってくれているだけマシだろうか。
「アンタのちんぽ、勝手に想像して買ったんすよ。ディルド」
 がっくりと肩を落として、仕方なく正直に告げる。隠しても仕方がないと言うか、隠して経験済みと思われたくはなかった。
「バイブじゃなくて?」
「え、気にするのそこ、すか?」
「いやだって君がアンアンしまくってたのがバイブの性能のおかげとかだったら、おれに勝ち目ないかもって思って」
「勝ち目……」
「だからけっこう期待しちゃってるんだって。そんな経験あるわけじゃないし、アナルセックス初めてだし、君を満足させられる自信なんか全然ないんだけど。でもそれはそれとして、君が気持ちぃって喘いでくれる姿が見たいと思うのは当然じゃない?」
 結構力説されてしまったが、そんな力説されても困る。というか、当然じゃない? なんて聞かれても答えに困る。
「俺がアンアンしまくっても引かないんすか?」
「なんで引くと思うの?」
「全然初めてっぽくないから? つかディルド突っ込んだ時点で処女じゃないとか言われたら、まぁ、そうなんすけど。でも、」
「誰かに抱かれた経験があるわけじゃないなら初めてでいいと思うよ」
「そ、すか」
 本物ちんぽは突っ込まれたことないですと申告する前に、相手がこちらの言いたいことを汲んでくれて、しかも肯定してくれたから、一気に気が抜けたと言うか、気が楽になったのは間違いない。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん29

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 体格にあまり差がなくて良かったと言われながら、服どころか靴まで一式借りて、ひとけのない暗い寒空の下を手を繋いで歩く。といってものんびり散歩ってわけではないし、移動距離だって長くない。
 そこそこ早足で向かっている先は、お隣さんが契約しているアパート近くの駐車場だった。
 抱かれたくてアナニーまでしてる。しかもそこそこの頻度で。と知られたおかげで、とうとうお隣さんがその気になってくれた結果だ。
 つまり、今からお隣さんにラブホへ連れて行って貰えることになった。
 言い出したのはお隣さんだけど、ぜひ行きたいと前のめりに承諾したのはこちらだ。
 ただでさえ触れたらどこまで抑えが効くかわからなくて躊躇うのに、いつか抱かれるつもりで準備までしてるって知ったうえで触れたら、欲が出て最後まで抱きたくなっちゃう可能性が高いから。というのが一番の理由らしいんだけど。その理由だけでも嬉しくてテンションがぶち上がった。
 お隣さん的には、デートとかの手順をすっ飛ばしてホテル、という部分を気にしてるみたいだったけど、残念ながらこちらはそんなの全く気にならない。散々一緒に食事を繰り返していたあれはお家デートだし、昨日の買い出しも、今朝の初詣も、今手を繋いで歩いているこれも、全部デートってことでいい。
 まぁ双方ともに付き合ってる認識になって、紛れもなく恋人と呼べる関係になったのは、ついさっきのことだけど。でも好きって気持ちも、行為への期待も、お互い充分すぎるほどに重ねてきたのは事実で、だから恋人になった直後にセックスだって何の問題もないと思う。
 そもそも恋人じゃなくたって、求められたら応じる気満々だったどころか、抱かれてみたくて仕方なかったんだから。好きな人に抱いて貰う幸せとか快感とかを想像してアナニーしてたけど、その想定を超えて、大好きな恋人に抱いて貰えるなんて楽しみで仕方がない。
 それに全く初めてではないというか、他人の指やら大人のオモチャやらを知ってしまっている穴だけど、厳密に言えば未経験と言っていいはずなので。処女なので。
 ちゃんと好きな人に初めてを貰ってもらえる、というのは、かなり低確率な当たりを引いた気分でもあった。
 自分の人生を振り返ったとき、あの日エアコンが壊れる不幸がなければ、初めてなんてもっと簡単に捨てていた気がする。というか間違いなく、こっちでもパパ活チャレンジをしていたと思う。
 だからホントに、「今からラブホ」を提案されてから先は、やたらテンションが上っていたんだけど。嬉しすぎたし、期待しまくってるんだけど。でもどうやらそれなりに緊張もしているようだった。
 その緊張に気づいたのは、ラブホに到着して、一通りの準備をしている最中だった。お腹の中を洗ったりで、冷静になってしまったともいう。
 好きな人に抱いてもらう都合の良い妄想しかしてこなかったし、それっぽい経験は過去に一度だけで相手ははっきりとゲイだった。お隣さんは男の大家さんを大好きだけど、女性の恋人を欲しがる様子は見たことがないけど、ゲイやバイなのか確かめたことはないし、男を抱いたことがあるのかどうかも知らない。
 間違いなく知識は持ってるんだろうし、さっきキスで反応してるのも確かめたし、したい気持ちがあるってのも本当なんだろうけど。
 部屋に戻り、ベッドに腰掛け待っていた相手と目があった瞬間に、苦笑されてしまった。
「どうしたの? って聞くまでもないかな」
 さすがに緊張してきた? と問われて、少し、と返す。
「俺もそう経験あるわけじゃないし、大丈夫だから全部任せて、とかは言ってあげられないんだけど」
「そ、なんすね」
 やっぱりあまり経験はないらしい。全く無いとは言われなかっただけマシと思うべきかもだけど、きっとその経験って女性相手だよなと思ってしまって、申し訳ないけど不安が増した。
「触れたら抑えが効かなくなるかもみたいな気持ちはあるんだけど、無理させるつもりもないから安心して、ってのも変かな。いやでも、ほんと、無理させるつもりないし、嫌になったら我慢はしないでいいから」
「あ、いや、そういうんじゃ……てか抑えが効かなくなった、とかならむしろ全然ウェルカムと言うか」
「えっ?」
「あーその、えー……」
 男と経験ありますか? と聞いたら、君はどうなの? とか聞き返されそう。というのが一番避けたい展開で、どうしても言葉を濁してしまう。
 パパ活って単語を会話にだしたことはあるけど、過去に実際経験した話なんて当然してないし、知られたくもない。なんせ中学時代に手を出してるので、そんなのを知られたらどう思われるのか、わからなすぎて怖かった。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん28

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 帰る間際に触れるだけのキスしかしてこなかったから、部屋の中でするのも、キスで一旦お別れにならないのも初めてだし、確かめるみたいに何度も繰り返し触れてくるキスも初めてだった。
 ただ、口をゆるく解いて待っても舌が伸びてくることはなかったから、焦れてこちらから舌を差し出す。弟相手には必死で拒んだけれど、この人とならもっと深くで触れ合いたい。
 舌で相手の唇に触れれば、最初は戸惑う気配があったけれど、でもキスは終わりにならなかったし、伸ばした舌は相手の口内に迎え入れられた。
 チュッと吸われるのも、甘く噛まれるのも。腰の辺りがゾワッとするくらいに気持ちがいい。でもそうやって舌を差し出し続けると、息をするのが少し難しい。
「んっ、んっ」
 甘く鼻が鳴ってしまって、相手が笑う気配がしたかと思うと、今度はこちらの舌に沿って相手の舌が口の中に入ってくる。舌先ではなく舌の根元や歯列やら上顎やらを相手の舌で撫でられるのは、さっき以上に腰が痺れた。
「んぁっ、ぁ、ん、んっ」
 気持ちが良くて、興奮して、その先を期待したくなる。ねだるみたいに鼻を鳴らしてしまう。
 やっぱり抱かれてみたいし、無理ならせめて、手で触れてくれないだろうか。そんな気持ちで、相手の股間に手を伸ばした。
 当然、相手も同じように興奮しているのか確かめたかったのもある。相手だって既にかなりラフな部屋着だから、触れた先の熱はわかりやすかった。
 触れることで刺激されて、相手もその先を望んでくれないだろうか。という下心ももちろんあったから、確かめるみたいにその形をなぞってみた。
 なのに、結果は自分が望むものとは真逆になった。つまりは、キスが終わってしまった。
「っはぁ、ここまでに、しようか」
 相手がこぼす息だって、充分に熱を帯びているのに。
「やだ」
「さっき君だって、ここじゃやれないって言ったのに?」
「抱いてくれるまではしなくて、いい」
「うーん……」
 それくらいなら応じてくれるかと思ったのに、相手はやはり乗り気ではなかった。
「それもダメ?」
「だって君、あー……いや」
「なんすか。気になる」
 言って良いのかを躊躇う気配に先を促せば、相手は小さな溜め息を一つ吐いてから口を開く。
「その、君、ひとりエッチの時、そこそこ声でちゃうタイプでしょ」
「……えっ?」
「こっちも寝るつもりで静かにしてるとさ、わかっちゃうこと、あるんだよね」
 そっちの壁押入れとかないから余計に聞こえちゃうんだろう、とか。でもさっきは揉めてるのがわかりやすくて助かった、とか。
 なんか言い訳っぽい言葉が続いていたけど。
「え……?」
 相手の顔をまじまじと見つめてしまえば、気まずそうに視線を逸らされてしまった。
「まじ、で?」
「うん、まぁ、マジで」
 視線は逸らしたままだけど、すぐにはっきり肯定されてしまう。
 マジなんだ、と思ったら、いっきに顔が熱くなる気がした。
「う……あ……ど、どこまで……?」
「いやさすがに気配でわかるってだけだけど。それ聞くってことは、おれの名前でも呼んでくれてた?」
 完全にやぶ蛇だった。
「うああ……」
「嬉しいから大丈夫。それに」
 声を潜めて耳元で。
「君がオナニーしてるの想像して、おれも興奮したことがあるよ」
 だからそんなに恥ずかしがらなくていいし困らないでって言われたけど、恥ずかしすぎるとか知られててどうしようとかの他に、気になっていることが一つある。というか確信していることが一つある。
 言うかどうか迷って、でもさっき、男同士の知識がどこまであってどこまで想定してるかわからないからダメって言われたのを思い出して、思い切って口を開いた。
「あの、聞こえてた頻度って、どれくらい、すか?」
「え、頻度?」
「週に何回くらい、みたいな」
「いやそこまで頻繁には。初めて気づいた頃からは増えてるけど、でもほら、おれが慣れて察知しやすくなっただけって可能性もあるし」
「それ多分、聞こえてたっての、アナニーしてた時っす」
「え?」
「手で抜くだけのオナニーならもっと頻繁に、というか1週間も禁欲とか無理なんで」
「え、えっ?」
「なんで、抱かれるまでしなければ、エロいことしてるってバレるほど声、ださないと思います」
「待って待って待って」
「あんたに抱いて欲しくて、自分でお尻、弄ってんすよ。アイツにはそれを知られたから、抱いてやるって話になった。って言ったら、信じます?」
「待ってって言ってるのに〜」
 ビックリしすぎて処理しきれないよと嘆かれたので、そこで一度口を閉じた。

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親切なお隣さん27

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「まぁ時間はある、って思うことで、自制が出来てたってだけの話でもあるけどね。でもこれ以上君の負担になりたくない気持ちが強いのもホント」
「飯作るの、別に負担になんかなってないんすけど。というかこっちのメリットがデカいから続けてるんすけど」
「それは知ってるし、メリットあるからって手間賃取ってくれないとこも、結局は巡り巡って君の魅力になってるんだけどさ。でも自分の分だけなら手を抜けるとこ、抜けなくなるでしょ。疲れてる時や忙しい時でも、御飯作ってくれようとしてたでしょ」
 今日は無理ですって殆ど言われた記憶ないって言うけど、作れなかった時もそれなりにあったはずだ。
「いやそれ、忙しくなるのわかってたら事前に申告するからじゃ? テスト期間とかレポート提出重なってるとかで作らなかったこと、ありますよね?」
「なくはなかったけど、でも忙しくなる前にって下準備してなんだかんだ作ってくれてたことも多かったよね。そりゃ忙しさなんて傍から見てるだけじゃ判断しきれないとこもあるけど、うちでレポートとかテスト勉強しながら合間に料理してるとかもあったでしょ」
「いやだってこっちの部屋のが快適なんすもん」
「だから御飯作らないときでも好きに部屋使っていいよって言ってたよね?」
 確かに言われてはいたけど、ただただ勉強が捗るからって理由だけでお隣さんの部屋を使わせて貰うってのには抵抗があった。
「いやだってそれは……」
「うん、だからそれも君の魅力ってことでいいし、勉強合間の食事作りが息抜きになるとか負担じゃないとかの主張を疑ったりもしないけど。でも、君がそういう子だってことを知ってるから、デート誘ったりキス以上を求めたりは君の負担になるって確信してるって話だね」
 せっかく入った大学だから学業を疎かにしたくはない、とか。学費の目処はたったけど結局のところは借金と思ってるから少しでも稼げる時に稼いでおきたい、とか。いくら時間やお金に余裕がなくたって最低限の友人つきあいは必要だと思ってる、とか。
 言い当てられて、相手はかなりしっかりこちらの生活を見てくれているようだと思う。そりゃ食事中の雑談で学校やバイトでのことはそれなりに話すし、似たようなことを自分で言ったような気もするけど。でもそれを覚えててくれるくらいには、こちらの生活を知られている。
 だから、今の生活に恋人と過ごす恋人らしい時間をねじ込む余裕はないはずだとか、どっかで無理させるという相手の言葉は多分正しい。
 とは思う。思うんだけど。
 今の生活にパパ活を取り入れられないかって結構真剣に考えたときも、どこからその時間を捻出するのかって部分で難しいなと思った記憶がある。でもそれはお隣さんの目を盗んで行おうとしたからであって、お隣さんがパパ活してくれればいいのにって考えたくらいには、お隣さんが相手なら可能なんじゃって気持ちが、間違いなく自分の中にあった。
 まぁ相手が恋人らしい時間と言ったのに対して、お隣さんとのパパ活を考えたことが思い出される辺り、やっぱちょっとお隣さんとは求める先がズレてるんだろう自覚もあるんだけど。
「アンタが、恋人になったと思いながらも、デートもセックスも誘ってこなかった理由はわかりました。わかった上で聞きますけど、今すぐ俺を抱いて欲しい、って言ったらどうします?」
「どうするって、え、今の話をわかった上で? それを聞くの?」
「だってアンタが気にしてんの、俺に無理させるとか負担になるとかなんすよね? じゃあアンタが気遣ってくれてる俺自身が、ちょっとくらい無理してでもアンタに抱かれたいんすけどって言ったら、どうすんのかなって」
 したい気持ちはそれなりにあるってさっき言いましたよねと言えば、相手は観念したように言ったねと返してくる。
「はっきり求められなかったから先延ばしにしてたって言ってましたよね。じゃあはっきり求めたら、どうするんすか?」
「わかった。じゃあ用意してた答えから言うけど、今すぐは無理だしここではダメ、って言ってたよ」
「なんで?」
「君が男同士の行為に対して、どこまで知識があってどこまで想定してるかとか全然わからないからってのと、このアパートの壁の薄さわかってる? ってのが理由」
 細かい会話内容まではわからなくても君たちが揉めてるのが分かる程度には伝わってくるんだから、ほぼ間違いなく、階下におれたちがエロいことしてるってバレると思うんだよね。と言われて、思わず天井を見上げてしまった。
 さっきもわざわざ様子を見に階段を登ってこようとした斜め下に住む高齢男性は、この部屋の真下に住んでいる。
 お隣さんの部屋に出入りするようになってからも、自分は基本挨拶くらいしかしないけれど、お隣さんとはそれなりに交流があるのも知ってる。というかお隣さん経由で、昔どんな風にお世話になったかとか、なぜここに住んでるかとかを簡単には聞いてしまっているし、多分間違いなく自分の情報も相手に流れている。
「君と付き合ってる、みたいな話はしちゃってるから、聞かれたところで仲良いなくらいの反応かもなんだけど。でもほらなんていうか、ちょっとさすがにおれも恥ずかしいというか。それに他の部屋だって、人が居ないわけではないし」
 他の住人とはあんまり交流ないけど顔は知ってるし会えば挨拶くらいはするしね、というお隣さんは気まずそうな苦笑顔だ。
「俺だってやですよ。そんなの聞いて、ここでやれないっすよ。つかやっぱ言ってんのかよ」
「やっぱって何? あ、実は付き合ってなかったって訂正したほうがいい?」
「挨拶ついでにアンタをよろしくされることが増えたから、アンタが俺を好きって知ってんだろなとは思ってた。ってだけなんすけど。あと訂正はしなくていいっす。つかもう俺ら恋人ってことでいいっすよね?」
「え、いいの?」
「もしもこの先、アイツがアンタに媚びてきても、アイツじゃなくて俺を選んでくれるっぽいんで」
 すぐに、もちろんと肯定されて、君が好きだよと返ってくる。
「キスしていい?」
 もう逃げないよね? と聞かれて、そういやさっきキスしそうな雰囲気をぶち壊して顔を洗いに行ったんだったと思い出す。戻ってすぐじゃあ続きなんてなるはずもなく、結構色々話し込んでしまったけれど、でも多分、これは必要な脱線だったんだろう。

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親切なお隣さん26

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「でも俺、アンタとお付き合いできないって、言いましたよね?」
「いやでもだって……」
 気まずさを振り払うようにそう口にすれば、相手は何かを反論しようとして、でも途中で言葉を切ってしまった。そして代わりに、大きなため息が吐き出されてくる。
「あの……」
「うん、ごめん。勘違い、した。というか確かに付き合えないって言われた気がする」
 少なくとも言葉による了承は貰ってないねと続いたから、どうやら互いの記憶に齟齬はないのだけれど。
「ただ、結婚なんて単語使ったから、そこまでは考えられないみたいな意味に思ってたと言うか。その、問題はそっちの家庭事情とかだったから、好きって言ってくれたし、口のキスをねだってくれたし、問題先延ばしにして取り敢えずキープ的な? そういう立ち位置になったのかと」
「キープって……」
 思わず絶句すれば、慌てたように言葉が悪かったと謝られて、でも、取り敢えず恋人って形に収まった認識だったんだよと続いた。
「というか帰り際にキスして、結構頻繁に好きって言い合ってたあれ、恋人じゃなかったならなんだったの?」
 そう尋ねられてしまうと、こちらも返答に困る。恋人って関係になったからしてた、って言われたら納得でしかないんだけど、じゃあなんで恋人って認識じゃないまま応じてたんだって話になると説明が難しい。というよりは、ちょっと言いにくい。
「なんかそういう習慣が出来た、みたいな?」
「習慣!?」
「お互い好きなのわかってるなら、付き合ってなくても、キスしたり好きって言うくらいはしても普通なのかと」
「多分普通ではないね」
「あー、まぁ、ですよね」
 あっさり否定されて、こちらも思わず肯定を返してしまった。
 いやだって本当は、普通ではないよなと思っていたしわかってもいた。嫌じゃなかったし止めたくもなかったから、これくらい普通って思い込んで流してただけで。
「でも恋人って思ってたなら、デート誘ったりキス以上を求めてくれたって良かったんじゃ。てか俺とそういうことしたい気持ち、やっぱそんな無いですか?」
 まぁ恋人って認識がないままでも誘われれば喜んで応じていただろうから、あとになって今以上に揉めそうではあるけれど。
「あるからこそ、言い訳させて欲しいっていうか」
「ああ、はい。ぜひ」
 はっきりとなにか理由があるならぜひ知りたい。
「その前に確認だけど、おれとしたいって思ってくれてた? よね?」
「まぁ、それなりに」
「ごめんね。はっきり求められなかったから、それに甘えて先延ばしにしてた。って、あれ?」
「あれ?」
 相手が疑問符を残して言葉を止めてしまったので、こちらも語尾を繰り返して先を促してしまう。
「もしかしなくても、恋人の認識はないのに、俺がキス以上を求めたら応じる気だった?」
「だって!」
 責められる雰囲気というか説教モードに入りそうな気配に、逆らう気概で声を上げた。
「両想いってわかってんだから、そりゃしてみたいに決まってんじゃないすか。お付き合い断ったし結婚なんてできっこないけど、だからこそ、貰える思い出は貰っときたいみたいな」
「一応言っとくけど、おれはまだ、ぜんぜん、君との結婚諦めてないからね」
 まだ、ってところと、ぜんぜん、をかなり強めに主張されていささか呆気にとられながら相手を見つめ返せば、本気だよとダメ押しを食らってしまった。
「いやさすがにそれは」
「君の家庭の問題を解決できればいいんだろ。少なくとも、君より弟くんを選ぶなんてことはないって言い切れるし、今日、弟くんと会ったっていう実績が出来たんだから、今度は君もそれを信じられるんじゃない?」
 確かにそれを、信じられないからと突っぱねることはもう出来ないけれど。そしてこの場合の沈黙は肯定だ。
 少なくとも相手はそれを肯定と受け取って、再度口を開いた。
「で、デートもセックスも誘わなかったのは、その諦める気がないってのとも少し関係してるんだけど」
「婚姻届っていうか、パートナーシップ宣誓? っての出すまではしない、みたいな?」
「さすがにそこまで待つ気はなかったけど、君の問題をもう少し片付けてから、とは思ってた。というか今の君は自分のことで基本手一杯でしょ。これ以上、おれとのことに時間割いて欲しくなかったんだよ」
 相手は、諦めないってのは時間はたっぷりあるってのと同義だからねと続ける。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん25

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 ぐちゃぐちゃな気持ちは、背中を撫でられ大好きだと繰り返されているうちに落ち着いていく。
「も、ダイジョブ、です」
 自分から止めなければいつまでも続けてくれそうな気配に、甘え続けるのが居た堪れなくなったところでストップを掛けて顔を上げた。
「落ち着いた?」
「はい」
「ん、良かった」
 泣いたばかりの顔を見られるのは恥ずかしくて、そっと視線を外してしまえば、赤くなっているだろう目元に相手の唇がふわりと触れて離れていく。
 触れられた目元だけでなく、なんとなく胸の中までこそばゆい。ふふっと笑うみたいな息を吐けば、相手も釣られたみたいに笑ってくれる。
 笑いあって、視線が合って、相手の顔が近づいてきて。でも唇が触れる直前に、慌てて相手の胸を押しつつ、自身は仰け反り逃げてしまった。
「すみません。顔、洗ってきます」
 えっ、という驚きの顔に向かってそう告げた後、急いで立ち上がって部屋を飛び出る。そして台所の流し台でザブザブと顔を洗った。このオンボロアパートには洗面所なんてないからだ。
 弟に噛みつかれた口元を特に念入りに洗って、ようやく少し気が晴れたけれど、今度は部屋に残してきたお隣さんが気にかかる。キスをねだったことはあっても拒否したことなんてなかったから、最後に見た驚きの顔が目の前にチラついて憂鬱だった。
 憂鬱なのは、突然拒否した理由を話さないわけにはいかないとわかっているからで、話したら弟にキスされた事実も知られてしまう。既に襲われかけたって話はしてるけど、細かな詳細はあまり知られたくなかったのに。
 弟とのことは、お隣さんと体の関係がないなら抱いてやるから自分に尽くせと言われた、程度に濁すつもりだった。
 弟との間に何があったか、なんてことよりも、両想いなはずなのにお隣さんとの関係が進展する気配がない、ってことの方が自分にとっては重要だからだ。
 恋人になるまでとか、パートナシップ宣誓後じゃなきゃセックスしないとか考えてるならそれでもいいから、ちゃんと知っておきたいし、せめてその気があるんだと安心したい。こちらがお付き合いは無理って言ったせいで、その気があるのに我慢させていると言うなら、いっそ責められたい。
 万が一、キス以上のことはする気がない、プラトニック寄りな関係を求められたらどうしよう。本当は今すぐにでも抱かれたいって言ったらどういう反応をするんだろう。
 聞きたくて聞けずにいいたそんな色々を、この機会に聞いてしまうつもりだった。
 だからこそ、こんなところでいつまでも躊躇っている場合じゃない。お隣さんが様子を見に来てしまう前に、ちゃんと自分で戻らなければ。
 覚悟を決めて、小さな溜め息を一つ残して部屋に戻れば、お隣さんは今度こそ神妙な顔つきで待っていた。もう、こちらを向いて笑ってはくれない。
「すみませんっした」
「いや……っていうか、襲われかけてたって言ってたけど」
「キスだけ、す」
 どこまでされたか聞かれる前に自分で申告した。
「まぁ、キスしたってより、口に噛みつかれたって感覚すけど。ついでに言うなら、もうちょっとで口開けさせられそうってとこで来てくれたから、口ん中も無事っすね」
 でも口の周りはベロベロされまくったからアンタとキスする前にどうしても洗いたくて、と先ほどお隣さんのキスを拒否った言い訳も一応しておく。
「そ、っか。えと、弟くん的には、自分を好きになって欲しいから押し倒してキスした? って認識でいいの?」
 でも抵抗して嫌がったんだよね? と続ける顔は、全然納得してないと言うか、意味がわからないと言いたげだった。
 嫌がる相手に襲いかかっておいて、自分を好きになれなんて無茶苦茶だ、って気持ちは当然だと思う。だって、お隣さんが来てくれなくてもそう簡単にヤられてたとは思わないが、もし仮にあのまま弟に抱かれたとして、それで実家に戻って弟のサポートをする気になるかって言われたら、絶対ないだろう。
 ただ、脅されて屈する未来はゼロじゃなかったかも知れない。
 弟に抱かれて善がりまくった、なんて事実がもし出来てしまったら、お隣さんの前から逃げ出したくなるかも。とは思うし、弟の狙いはそっち、という気もする。
「もしかして、育ってきた環境的に、キスされて本気で嫌がる相手なんか居ない、みたいな絶対的な自信を持ってるとか、そういう……?」
「絶対ないとは言い切れないすけど、今回のはそういうんじゃなくて。俺が、アンタを好きだって知られたせいっす」
「えっ?」
「さっき帰り際に、俺からキスねだったじゃないすか。それと他にもまぁちょっと色々あって、俺ばっかり一方的に好きみたいに思われたっていうか、抱いてやるから抱いてもくれない男好きでいるより俺に尽くせ、が弟の言い分っぽかったすね。てか俺とアンタとの仲をぶち壊すのが一番の目的じゃないっすかね」
「仲をぶち壊す……」
「こっちで就職するつもりだとか、実家帰ってアイツのサポートするよりアンタに尽くすほうが断然マシ、みたいな話をしてたんで。後まぁ、キスしてるし好きとは言われてるけど、デートもセックスもしてない、とかも知られたんで、じゃあ俺が抱いてやるよ、みたいな」
 後半少し、相手を責めるような気持ちがあったことは認める。もちろんこのあと、ちゃんと自分の口で聞くつもりで居た。
「あの、ちょっとそれ、言い訳していい?」
「え?」
「好きって言ってキスしてるのに、デートもセックスもない言い訳」
「え、恋人じゃないから、じゃなくて?」
「え、待って。おれたちって恋人じゃないの?」
 互いに驚いた状態で顔を見合わせてしまえば、なんだか気まずい空気が部屋の中を満たしていく。

続きました→

 
 
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