先に寝落ちしたからか、目覚めるのも先だった。
結局同じベッドで眠っていたようだけれど、さすがに寝落ちる直前のように抱きしめられたままではなかったので、相手を起こしてしまわないようにそっとベッドを降りる。けれどトイレを済ませるついでに顔を洗ってバスルームを出たら、相手もベッドの上に身を起こしていた。
「おはよう」
「お、はよう、ございます」
「どうしたの?」
「え?」
朝の挨拶を交わしただけなのに、いったい何を聞かれているのかわからない。
「いやなんか、ぎこちないっていうか、なんだろ、なにか後ろめたいことでもあるような?」
「そ、んなに……?」
ちょっとギクッとしてしまうのは、相手が寝てる間に着替えもメイクも済ませてしまいたいと思っていたせいだ。
「あー、俺が気にし過ぎて疑心暗鬼になってる部分もあるかも。というか、なにか気になること抱えてるなら、一緒に解決したい。って気持ちが強すぎるのかも?」
何も無いならいいんだよ。疑り深くてごめんね。なんて謝られてしまったら、自覚があるだけになんだか申し訳ない。
「あ、や、その」
「やっぱ何か抱えてる?」
「えー……と、その、あなたが寝てる間に、支度を済ませちゃいたかったな、って思ってただけ、です」
「支度……ってメイク?」
「そうです。あと着替えも」
そっか、と言って黙ってしまった相手は、何かを考え込んでいる。
「え、えと、バスルームでメイクしてくるので、ダイジョブ、です」
ちょっと狭いけど出来ないことはないだろう。ただ普段以上に時間がかかるかもしれない点と、3点ユニットバスなのでトイレを占拠してしまう点が問題かもしれない。
「なのでトイレ使うなら先にどうぞ」
「興味あるな、それ」
「えっ?」
「俺が見てたらダメな感じ?」
「な、なんで!?」
会話が噛み合わない返答に疑問符を投げれば、もっと意味がわからない応えが返って困惑する。
「君が俺好みの女の子に変身するところを見ておきたい。っていう単純な興味かな。あと、男の子の君とのデートに慣れたら女装は必要なくなるはずだから、今のうちに堪能しておきたいなっていう気持ち」
「女装デート、やっぱ減らしたほうが嬉しいですか?」
「女の子の君とのデートももちろん楽しいけど、男同士のカップルより男女のカップルっぽく見えたほうが世間的には都合がいい場面が多いこともわかってるけど、女の子の格好で出歩くのが心底楽しいってわけじゃないなら必要ないって思ってる。女装に掛かるお金と時間を、もっと別のことに使ってほしいよ。学業とバイトと俺とのデートだけ、みたいな生活じゃなくて、残りの学生生活をもっと楽しんで欲しいというかさ」
友達とも遊びに行ってほしいけど週末デートは譲りたくないエゴもある、なんて苦笑されて、ちょっとウルッと泣きかけた。
この人がいなかったら、あの時助けて貰えなかったら、どのみち大学には通えなくなっていた可能性が高いのに。でも助けてもらえて、好きになって、大学をやめて実家に戻るなんて考えられなくなって、必死に日々を送っていたら少しずつ友だちって言えるような関係が増えて、今は大学に通うのも結構楽しくなっている。
この人が優先順位不動の1位だから、恋人って立場を維持するために、他の何を犠牲にしたって辛いことなんて何も無いって思ってたけど。でも、学生生活をもっと楽しんで欲しいって言われて泣きそうになるほど嬉しいのは、友人の誘いをバイトやデートで断ってしまうのを惜しむ気持ちが少なからずあるせいなんだろう。
「じゃ、じゃあ、あなたのために目一杯可愛くなるので、見てて欲しい、です」
どうか、覚えていて欲しい。
「うん。しっかり見とく。心に刻むよ」
その言葉通り、ずっと後ろに立って鏡に映るメイク過程を真剣な目で見続けてくれた。鏡越しにチラチラと目があって、そのたびにほんのり微笑んでくれるのが、ちょっと恥ずかしくて、嬉しい。
「どう、ですか」
手にした道具を置いて、鏡の中の相手に問いかける。
「うん。凄く、可愛い」
こっち向いての言葉に振り向けば、優しいキスが降ってきた。
<終>
リクエストは「男バレ後の初デートに女装で来ちゃう受け」「女装するところを見たがる攻め」「男の子のままデートとイチャイチャエッチ」でした。
男の子のままデートの描写は入れられなかったのですが、次週は攻めが買ってくれた服を着てお家デートが確定しているので、彼らのイチャイチャお家デートをぜひ色々と想像してあげてください。
1ヶ月ほどお休みして、7月29日から「酔った勢いで兄に乗ってしまった話」の乗られちゃってる時の兄視点を書く予定です。これは多分1話かせいぜい数話で終わるはずなので、そこから先は短い話を幾つか書けたらいいなと思ってます。
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とっても楽しく読ませて頂きました!
はぁーー…受けの子、またすこし安心できたかなぁ大丈夫って思えたかなぁとほっとしています。攻めの彼を優先順位不動の1位って言い切るところ、ほんっとに彼のこと大好きだね!って思いつつ。大学生活や友だちとの付き合いも楽しんで欲しいという攻めの優しさや気遣いに触れて、自分にも今までそれを惜しんでいた気持ちもあったかもと気付けて。女装のスキルだけじゃなく、なんかこう、切羽詰まってるかんじだったのが少しずついろんなこと振り返る気持ちの余裕が出てきて、ちょびっとだけステップアップできたのかなあと。攻めも大人の余裕ぽいかんじや細かな気配りがあってとても頼もしいですが、ちょこっと垣間見える独占欲がまたすてきです。なんだかんだで大学の男友だちに警戒する日もくるのでは…☆
最後の方、「あなたのために目一杯可愛いくなるので見てて欲しい」には、こちらまでぐわぁっっときました!なにそれ!なにそのかわいさ!!それに対する攻めの返事も、鏡越しに真剣に見てるのも、目があって微笑むのも、一連のシーンがもう、もう!きゅんきゅんさせて頂きました(☆▽☆)優しい攻めでほんっとに良かった…。
今後のおうちデート、攻めの買ってきた服を恥ずかしそうに着て見せてあげるんだろうなぁとか、ごはん一緒に作ったり映画見ながら好きなジャンル話し合ったり、いちゃいちゃいちゃいちゃ仲良く過ごしてくんだろうなぁと想像してます。
とってもかわいくてすてきなお話をありがとうございました!!
次の「酔った勢いで兄に乗ってしまった話」の兄視点。弟視点を読み直して、兄は自分より大きいガチムチな弟をどうおもってたかなぁ、弟のおしりが回復したらさっそくてろでろに甘やかすかしら…と想像しながら楽しみにお待ちしております✧◝(⁰▿⁰)◜✧
コメントありがとうございます。
最後まで楽しんでもらえたようで嬉しいです☺️
視点が受けの子に移ったので、男ってわかった後の攻めの心情には触れられてないんですけど、社会人女性と思ってたら男子大学生でバイト代を自分の気を引くための女装に注ぎ込んでるって知っちゃったら、やっぱりその部分を放っておけないだろうなと思うんですよね。
痴漢から助けたってことが大学やめずに済んだほどの大事になってる自覚はないと思うので、受けの子の学業以外の時間が全部自分のために使われてる事実に気づいて内心ちょっとビビってる可能性もあります。笑。
少なくとも愛されてて嬉しいで済ませられる範囲を超えてるだろうなと。
でもその執着というか自分に向かう気持ちを手放す気はないだろうから、あとはもう年上の経験値で受けの子の不安やらを取り除きつつうまいこと誘導して貰うしかないな。みたいな気持ちになって書きました。
男友達に警戒はしそうな気がしますね。でも友達と楽しく遊んでる話に安心もあると思いますし、下手に嫉妬とか心配したら平気で友達と遊ぶのやめちゃいそうだから、デート時間だけはしっかり確保してあとは見守っててくれるんじゃないですかね。
女装するところを見たがる攻め、のリクエスト(これはMさんのリクエストですよね)部分を楽しんでもらえて良かったです〜
お家デートの素敵想像もありがとうございます。
今までは避けてた人の居ない二人きりの時間を、いちゃいちゃ堪能しまくればいいと思います!
予告した次回作への期待もありがとうございます。
まだぼんやりとしか考えてないですが、また楽しんで貰えるといいなと思います。
がんばりますね〜