バレたら終わりと思ってた2

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 仮初でまがい物でも、とりあえずのお試しでも、遠くから見てるだけだった想い人との「恋人」という関係が嬉しくないはずがない。でも同時に、後ろめたさやら罪悪感やらを盛大に抱える羽目にもなった。
 どうせすぐにバレて終わるから、少しくらいは報われてもいいだろう。なんて、とことん自分に甘くて考えが浅い真似をしたせいで、デートを重ねるたびに少しずつ苦しくなっていく。
 だって見ず知らずの男の子を痴漢から救ってくれるような人だ。そこに惹かれて好きになっているのだ。
 会話をするようになって、相手のことを知るようになって、相手の優しさや思いやりに触れて、想いはあっという間に膨れ上がっていく。
 女装バレを避けたくてけっこう不自然な避け方をしてしまうこともあるのに、不機嫌になることもなく、相手から率先して二人きりを避けてもくれる。おかげで、あっさりバレて終わるはずだった関係は、思いの外続いてしまっている。
 いつか終わるとわかっているから、会える時間を出来るだけ大切に。なるべく楽しい思い出を作ろう。
 そんな努力のかいあって、表向きは多分間違いなくかなり良好だ。
 相手の好意だってちゃんと伝わってくるし、関係を進展させたい欲も間違いなくあるようなのに、でもそれ以上に恋人として大事にされていると感じる。
 実情を知らない、全く気づく気配のない相手は、どうやらすっかり長期戦の構えで、ゆっくりと関係を深めていけばいいと思っているようだった。
 嬉しくて、ありがたくて、でも同時に、あまりにもいたたまれない。申し訳ない気持ちが膨らんでしまう。
 相手の好みに合わせて作った外見なんだから、相手の中に好意や男としての欲が湧くのは当然だと思う気持ちの中に、虚しさやいたたまれなさや申し訳無さを感じるのは、もしもこの体が男ではなく女なら、今すぐにでもその求めに応じたいと思っているせいもあるんだろう。
 でもどんなに申し訳なさを感じても、膨らむ想いが苦しくても、自らバラして関係を終えようとは考えなかった。むしろ少しでも長く続いて欲しいと願っていた。
 いつかバレる日を恐れながら、いつか終わってしまうその後に、自らを慰めるための思い出を貪欲に欲している。
 そんな日々の中、転機はあっさり訪れた。
 デート帰りの電車が途中駅で運悪く酷く混雑したせいで、ずっと密着を避けていた相手と正面から抱き合う形で過ごす羽目になり、結果、男であることがバレてしまった。
 いつかはバレるとわかっていたが、想定よりだいぶ酷い状況に絶望しかない。だって、満員電車の中で相手に抱きしめられたまま、股間を刺激されてはしたなく射精してしまったのだ。
 バレた時には今までのことを説明して、謝罪して、少しの間だけでも恋人として過ごせたことを感謝して……なんて考えていたことは全て吹っ飛んで、すぐにでもその場から立ち去りたい気持ちばかりが頭の中を占めて、その衝動のまま逃げ帰ろうとした。けれどそれを引き止められ、別れる気はないという驚きの言葉を告げられて、交際継続が決まってしまった。
 正直意味がわからない。というかこんな展開、全くついていけない。
 だって驚きの連続だった。
 男とバレたなら二人きりを避ける必要もないので、駅のホームなんかで話す内容じゃないからもっと落ち着いた場所に移動したいという相手を自宅に招いて、女装をすべて解いて男の姿で相手の前に座ったら、なんと相手は自分のことを覚えていた。痴漢されてた男の子でしょと言い当てられたときの衝撃は忘れられない。
 次にあった時には間違いなくスルーされたし、というか何度も男のまま同じ電車に乗っていたけれど、相手にこちらを認識してる様子はなかったのに。でも相手が言うには、不躾にならないように注意しながら気にしていた、らしい。
 つまりはこちらを気遣った結果の無反応で、意図的な無視に近いけれど、こちらの想像とは全然違う理由だった。
 男に痴漢されるような子とこれ以上関わりたくないとか、礼も言わずに逃げ出した相手には関わりたくないとか、そんなタイプじゃなさそうなのはお付き合いで相手を知ればわかることだったけれど、だからこそ、相手の記憶に自分が残っているなんて考えていなかった。
 女装までしてのストーカー行為に関しても、相手はあまり深刻には捉えなかった。こちらの執着というか執念と言うか、女装までして相手に近づきたかった想いに、ドン引くどころかなんだか感心した様子で、そんなに好きなのと聞かれて正直に好きですと返せば、あっさり、男のままの君と新しく恋人関係を始めようなどと言い出した。
 嬉しくて、でも当然すぐには信じられなくて、男の姿の自分にキスをねだった相手に、本当に男でいいのか気持ち悪くないのかと問う。ずっと騙してたのに怒った様子が全然ないのだって、不思議で仕方がなかった。
 だってもう好きだって思っちゃった後だから、なんて言われて、更には、異性愛者の相手に女装という形で近づくのはいい手だったと思う、なんて懐が深いにもほどがあるようなことまで言われたら、信じて頷く以外の道はない。
 堪えきれずにほろりと溢れた涙に、優しい笑顔と力強い腕が伸びてきて、近づく顔に慌てて腰を浮かせばそっと唇が塞がれる。
 バレたら終わりと思っていた女装は、こうして相手の驚き満載な返答の数々により、バレても終わらずに済んでしまった。
 でも、相手が好きになったのは女装した自分であって、素のままの、男の自分とは違う。仮の姿だからと大胆になれていた部分ははっきり自覚していたし、相手の前での振る舞いは、幸せで楽しい思い出づくりのために、必死に頑張っていた部分もかなりある。男の自分がどこまで同じように頑張れるのかは、いまいち自信がなかった。
 素の部分がバレてしまったら、きっと今度こそ終わりになるんだろう。
 でも延期された別れの日まで、もうしばらくは頑張ろうと思った。

続きました→

 
 
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