聞きたいことは色々20

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「どんな、って……」
 会ったことあるんですよねと聞いてみたが、相手は困った様子で口を閉ざし考え込んでしまう。
「やっぱ俺とはカスリもしない感じなんですね」
「あー……いやぁ、確かにちょっと系統違うっていうか、珍しいタイプを恋人にしたとは思うけど」
「そ、なんですね」
「けど! あっちから別れる気とかなさそうだし、現状に満足してるとか言ってたのも多分嘘じゃないし、いい意味で代わろうとしてる可能性もあるから! 好きって言ってっておねだりが恋人たちの甘いやり取りとは限らないから! というか基本そういうのじゃないから!」
 泣きかけたりはしてないはずだが、一体どんな顔を見せてしまったのか。またしても慌てた様子でなにやら慰めの言葉をくれたけれど、後半は全然意味がわからなかった。
 好きって言ってっておねだりが、恋人との甘いやり取りじゃないってどういうこと?
「あの、エッチ中のおねだりが甘いやり取りにならない場面、まったく想像できないんですけど……」
「だーよーねぇ〜」
 感性まともすぎてなんかもう俺が申し訳なくなってくるよと嘆いたかと思うと、相手が勢いよく立ち上がるから驚く。
「え、ちょ、あの……?」
「ちょっと問い詰めてくるから。てかどこまで喋っていいのか確認してくるから!」
 連れ込んどいて一人にして悪いけどここで待っててと言い置いて、相手は部屋を出ていってしまった。
 一人取り残された寝室で、追いかけるべきかをかなり迷う。何を問い詰めに言ったのか知らないけれど、直接聞きたいって気持ちは当然ある。でも同じくらい、直接聞きたくない気持ちもあった。
 どこまで喋っていいか確認するとも言っていたし、多分きっと隠しておきたい何かしらの過去があるんだろう。隠すくらいだから、知ったら不快になる内容の可能性も高そうだ。
 お兄さんが戻ってくるのを大人しく待って、お兄さんの口から聞いたほうが、直接聞くより多少はマシかもしれない。だって恋人本人よりよっぽど優しいというか、わかりやすく好意的というか、なにやら心配されているのがわかるから。落ち込むと慰めてくれるから。もし聞き出した内容でつらくなりそうなら、なるべく傷つかないように言葉を選んでくれそうだから。
 そんな甘えた気持ちで結局大人しく戻ってくるのを待ってしまえば、やがて寝室の扉が軽くノックされた後で開かれる。
「待たせてごめんね」
 そう言って部屋に入ってきた男は困った様子の苦笑顔をしていた。
「おかえりなさい。そんなに困るようなこと、言われたんですか?」
「うんまあそれなりに。てか自分で直接話すっていうのを諦めさせるのが大変だった」
 恋人本人から聞くのは色々ショック大きすぎると思うんだよねと続いた言葉に、よほどの話をされるのだと覚悟を決める。
「あのね、恋愛対象が同性ってだけで、ごくごく普通のありふれた恋愛がしたいって思ってただろう子には、結構刺激強い話になると思うんだけど。でも俺が話さなくても、もうアイツが自分で話すと思うから、俺の話から先に聞いて欲しい」
 なるべく言葉は選ぶけど気分悪くなったら我慢しないで教えてねと念を押されるくらい、やばい話をされるっぽい。覚悟、足りるだろうか。だとしても、わかりましたと返すしかないんだけど。
「まず、アイツが過去に紹介してきた恋人たちの話ね。アイツの性癖っていうか好みっていうかなんだけど、ノンケとかバリタチとかが多くて、元から抱かれたい側の子をわざわざ恋人にして側に置くってのは多分初めてだと思う」
 初っ端からなかなかの衝撃内容だった。これってつまり、全く欠片も好みのタイプではないって意味なのでは?

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聞きたいことは色々19

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「やっぱもう終わりなんですかね」
「は? 何の話?」
「俺がもうけっこう好きになってるの、さっきのでバレたと思うんで。それに半年も付き合うのが珍しいみたいだし、本気で惚れたら満足してポイなら、もういいって言われるのかなって」
 ヤダなって思ったらやっぱり後半は涙声になってしまって、横から伸びてきた腕がまた、今度はそっと抱きしめてくれる。優しく背中を撫でてくれる。
「大丈夫。って言っていいかわからないんだけど、少なくともまだ別れる気は全然なさそうだったよ?」
「でもそれ、俺が好きなのバレてなかったからで」
「いやぁ……さすがに気づいてるでしょ。多分」
「え?」
 驚いて相手の顔をまじまじと見てしまえば、腕が解かれて間近にあった苦笑顔が離れていく。
「だって今日初めて会った俺があっさり気づくんだから、気づいてないとは思えないよ?」
「え……でも、えっ……えぇ……」
 戸惑いしか漏れなかったけれど、嘘だとも思えなかった。必要なのは付き合っているという事実で、定期的にデートしてセックス出来る関係が維持できるならこっちの好きは必要なさそうって思わされることは確かにあったから、気づいても無視していただけって言われたら納得してしまう。
 納得はするけど、でもやっぱり寂しいなと思う。せっかく恋人になったのに、求められてるのが体だけだなんて。それとも、本気で好きなのがバレてもポイされないくらい魅力的な体を持ってる、とでも思って誇ればいいんだろうか。
 カラダが良くて付き合ってる。なんてのを突きつけられるようなセックスはされてないし、そこまでスゴイカラダを持ってるなんてとても思えないんだけど。そもそも誰でも良さそうと言うか、たまたまタイミングよくフリーの時に、同じくフリーの色々未経験なちょろいネコが目の前をうろついたから、とりあえず捕まえたっぽいみたいな。
「気づかれてない想定だったか。てかアイツ、気づいてない振りしてたわけだよな? え、なんで?」
「って俺に聞かれても」
「だよねぇ」
 あとで問い詰めてやると意気込んでいるが、あとでっていうのはいつだろう。その場に自分も同席してていいのか、それとも自分が居ないところでって話だろうか。
 聞いてみたい気もするし、聞きたくないような気もする。だって余計に落ち込む可能性のが絶対高い。
「っていうか、好きとか言われるの、煩わしいからじゃないんですか?」
「どういうこと?」
「本気で惚れたら満足してポイなら、好き好き言われるのが根本的に嫌いなんじゃないかなって」
 もちろん、好きって言うのも。
「いやぁ……それはナイ、かなぁ」
「そ、ですか」
 あっさり否定されて気持ちが沈む。そうだねって肯定されたら、自分だけじゃないって諦めもついたのに。過去の恋人たちとはちゃんと好きって言いあったりしてたんだ、って考えてしまうから。
「てかエッチしてるとき、好きって言わされたりしないの? って、言わされてないっぽいよね」
「は? 言わされる? 好きって、ですか?」
「アイツ口うまいしあの顔だし、好きって言ってとかのおねだり、得意なはずなんだけど」
「ええぇ……」
 そんな経験、もちろんしたことがない。
 好きって言ってなんておねだりされたらきっと喜んで好きって言ってたけど、それで後から苦しくなったりしてそうだけど、でもそんな素振り欠片もなかった。むしろこっちからの好きなんて要らないって態度だった。
 それが気楽だって思ってたことすらあるのに。それでも恋人でいいんだって、そういう恋人もありなんだって、思ってたのに。
 でも過去の恋人相手にはそういう態度を見せてたってこと?
 家族に紹介したり、家族の前で好きって言ってと甘えて見せるような、ベタ甘の恋人が居たことがあるってこと?
 もしかして凄く特別な恋人が過去に居て、でもその人とは何かしらで上手く行かなくて、だからもう誰だっていいみたいな感じになってる?
 もう特別は作らないって思ってる?
「あの、あの人がそんなおねだりするような恋人って、どんな人でした?」
 そんなことを聞いたところで、その特別だった相手の代わりになれるわけがないんだけど。

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聞きたいことは色々18

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 部屋の中には大きなベッドが鎮座していて、寝室と言っていたのは聞き間違いじゃないらしい。物置って聞いてたのに。いやでも空きスペースに未開封のトイレットペーパーだの洗濯洗剤だの箱買いしてるらしいドリンクの箱だのが並んでいるので、物置と言えないこともないのか?
「あんにゃろ」
 それらを見て顔を顰めてるから、まだ暫くは帰ってこない想定で、どうやら勝手に部屋を侵食してたっぽい。
「大きなベッドですね」
「クイーンサイズだからね。てかこの部屋使ってたわけじゃないんだ?」
 あいつのベッドじゃ小さくない? と聞かれたけれど、こっちに大きなベッドがあるなんて知らなかったんだから、ベッドなんてそこにあるものを使うしかない。
 まぁセミダブルだし、事後にそのままそこで二人で眠っても特に問題は起きなかったし、どうしたってどこかしら触れ合ってしまう狭さを受け入れるのが恋人っぽいかな、なんてことも思ってたんだけど。
「初めて入りました。てかさすがに夫婦の寝室に入り込んでヤッたりは」
「でも俺の存在知らなかったでしょ?」
「そりゃ俺は、最初っからこの部屋通されてたら、これが彼のベッドなんだって信じてたかもですけど」
 まぁ初回にこのサイズのベッドを見せられてたら、色々余計なことを勘ぐってそうではあるけども。だって叔父夫婦の寝室なんて正解には絶対にたどり着けないから、元カレと使ってただろうことを想像したはずだ。
「俺じゃなくて」
「そんなの気にするヤツじゃないというか、あー……ホントに何も聞かされてないわけか」
 とりあえず座ってと促されて、ベッドに並んで腰掛ける。
「ねぇ、あいつが初めての恋人でセックスもアイツしか知らない、ってのは事実なんでしょう?」
「そうですね」
「身近なところで恋人が欲しくて、出会い系とか試すのは怖くて、ネコだと思って相談したのに実際は狼でその場でペロッと食べられて、そのまま捕まって逃げられなくなってる。のかと思ってたけど、本当に現状に満足してるの?」
 今日初めて存在を知らされたこっちと違って、こちらの情報はまるっと全部筒抜けらしい。
「あー……まぁ、はい」
「他を知らないから満足してる気がしてるだけじゃなくて?」
「いやでも実際、特に文句出るような部分てないですよ?」
 ものすごく卒なく恋人してくれてると思いますって言ったら、「卒なく恋人」って言い回しが可笑しかったらしく、けっこう派手に笑われてしまった。
「でも満たされてないでしょ?」
 恋人と一緒にいるって状態なのにちっとも幸せそうな顔してなかったと指摘されてしまうと、反論はしにくい。
「恋人だしやることやってるけど、恋愛してるわけじゃないから。ですかね」
「それ! 口説かれたくないって言ったって? 恋人になるのはOKで、なのに好きにさせないでってのはどうしてなの?」
「そういうゲームをしたいって言われたから、ですね」
「は?」
 恋人になるのを拒否するなら口説き落とすゲームを始めるって言われた話をしたら、相手は大きなため息を吐き出して頭を抱えてしまう。
「しかもその結果俺が本気で惚れたら満足してポイする可能性が高いみたいだったんで、そんな目に合うくらいなら恋人になった方がマシに思えて」
「あー、それで恋人になったのね。でも恋人としてデートしてセックスまでしてたら、好きになってくものじゃない? てかもうけっこう好きになっちゃってない?」
 片思いしてる本命が別にいるとかではないんだよねと確認されて苦笑するしかない。さっき別れてって言われたら別れるって言いながら泣いてしまったので、多分もうバレバレなんだろう。

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聞きたいことは色々17

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「俺だって現状に満足してる」
 少なくとも俺の方は、なんて言ったからか、隣から聞こえてきたのは少し不機嫌そうな声だった。
「強引に口説いたとは思ってないし、別に脅したつもりもなかった。俺と付き合うのはきっと都合がいいだろうと提案しただけだし、事実だったからこうして関係が続いてるんじゃないのか」
「いやだからそれ、そんなのに納得して良好な関係が続いてるとかちょっと信じられないじゃん?」
 どう考えたってけっこう難アリ物件のお前相手に、という言葉に内心首を傾げる。けっこうな問題のある恋人、だなんて感じたことがないからだ。
 でもまだ知らないってだけなんだろう。そう思ってしまうくらいには、出会ったばかりのこの男の言葉を信じられてしまう。
 過去の恋人の話なんてわざわざ聞かないけど、結構な人数と付き合ったり別れたりを繰り返してきたんだろう気はしている。つまりそれは、恋人関係を長く続けられないとも言える。
 そう思うと、そんな男相手にこのままダラダラと恋人を続けていられると考えていたこと自体が、間違っていたのかも知れない。
 相手を落とすゲームだの言ってたのを覚えているから、中には落とすまでを楽しんで付き合ったあとはあっさり熱が冷めた恋人とかも居たんだろうとは思うけど。でも自分含めて、そうじゃない恋人だって居たはずだ。
 自分としては、まだたった半年って思うんだけど。でも半年っていうのは、血縁関係はなくても一緒に暮らしていたことがある家族同然の男に、「良好な関係が続いてるのが信じられない」と言われるほどの長さらしい。
 そんな事実、知りたくなかった。いったいどんな理由で別れを切り出されるんだろう。
「実際、現状に満足してるらしいぞ」
「らしいね。まぁなんの不満もなく付き合ってるって感じでもなさそうだけど」
 突然知らない男が家に上がり込んでて随分不安そうだよと言う指摘に、彼は嫌そうな声で、誰のせいだと思ってると返している。それはそう。でもこの不安の一番の原因は、突然知らない男がリビングに居たことじゃない。
 このあと突然突きつけられるかも知れない別れに、すっかり怯えてしまっている。
「俺の存在隠してるとか思わないじゃん」
「居ないのにわざわざ説明する必要もないだろ。こんなあっさり戻って来るとか思わなかったし」
「嘘ばっか。こんな子恋人にしたら、俺が戻るのわかってたでしょ」
「え?」
「君、俺をここに引っ張り戻すために利用されたかもよ? って言ったら、こいつ見限って別れちゃう?」
「別れてって、言われたら」
 それが事実で、もうお前は必要ないからとか言われて別れを切り出されるなら、多分きっと受け入れるだろう。だって別れたくないと縋る理由がない。
 不安になって怯えるのは、別れてって言われたら終わるのが確定しているせいで、でも別れたいなんてちっとも思ってなくて、続けられるなら続けていたいと思っているらしい。
 しんどいって思うことがなかったからあまり実感してなかっただけで、結局、自分ばかりが好きな片想いは始まっていたってことなんだろう。気づかないままでいたかったけど。こんな場面で気づきたくなかったけど。
「ちょっ、ごめん。うそうそ。利用なんかしてないし別れてとか言わないから」
 眼の前に座っていた男がガバっと立ち上がったかと思うと、小走りで机を回り込んできて、いきなりぎゅっと抱きしめられてしまった。
 さっきからずっと堪えていた涙がとうとう溢れてしまって、どうやら相当慌てさせてしまったらしい。なんで慌てて慰めてくれるのがこの人の方なんだと思うと少し笑ってしまう。
 まぁ彼は隣りに座っているから、こちらの涙に気づかなかっただけなんだろうけれど。ってことにしておこう。でも気づいたからって、こんなふうに慌てて慰めに来てはくれないだろうなとも思うけど。
「ねぇ、寝室って」
「たまに掃除はしてる」
「じゃあちょっとこの子借りてくね」
 ちょっと二人だけで話をしようと言われて連れて行かれたのは、開けたことのないドアの先だった。

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聞きたいことは色々16

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「そいつは戸籍上の兄で家主だよ。急に戻って来るから俺もびっくりした」
 寝室に姿がなかったからリビングに居るのだろうと思っていたが、どうやらキッチンにいたらしい。ちょうど朝食が出来たようで、キッチンから出てきた彼は両手に皿を持っている。
「戸籍上の? 兄で、家主?」
 不満と不信感があからさまにならないよう気をつけつつ、どれも初耳なんですけどと続ければ、相手は軽く肩をすくめてみせる。少し面倒そうな顔をしてるから、あまり会わせたくないと思っていたのかも知れない、とは思ったのだけど。
「暫く帰らないと思ってたし、紹介する必要が出る前には別れてるかと思って」
「そ、っすか」
 どうにかそう返したものの、内心けっこう動揺していた。順調にお付き合いを続けていると思っていたのは自分だけで、相手にはこの関係を長く続ける気がなかったらしい。
 好きだと言ったことはないし、しんどい片思いを抱えている自覚もないが、別れを想像して胸が痛むくらいにはちゃんと情が湧いている。
 別れる気でいたなんて知らなかった。そういうのは始める時に教えておいて欲しかった。せめてこんな形でじゃなく、知りたかった。
 なんで今なの、と文句の一つくらいは言ってやりたいのに、でも口から出たのは全然違う言葉だった。
「でももう会っちゃったし、ちゃんと紹介、してくれるんですよね?」
 言えば食べながら説明すると言われて、席に着くよう促される。
 それから改めて、初めましてと自己紹介を始めた男の名字は、確かに彼と一緒だった。けれど二人に血の繋がりは一切ないらしい。二人ともとある男の養子になっていて、だから戸籍上の兄弟なんだそうだ。
「戸籍上の父親は母方の叔父だから、俺とは血縁関係あるけど。あと養子って言ってもこの人は実質叔父の嫁な」
「えっ」
「だからってこの子の義理のお母さんになったつもりは欠片もないんだけどね」
「当たり前だ。つかこの子言うなよ」
「わざとに決まってるよね。いやぁあの頃は可愛かったなぁ」
「嘘つけ。顔だけ詐欺だの、中身が可愛くないだの、言われまくった記憶しかないわ」
 自分相手にはもちろん、職場の誰とだって、彼がこんなに気安く話しているのを見たことがない。嫉妬したって仕方がないのに、わかってたって胸はチリチリとして痛かった。
「仲、いいんですね」
 その指摘に彼は少し気まずそうにしながら、色々あったから、と言い訳みたいなことを告げる。
「ほんと色々あったんだよねぇ」
 しみじみと同意する声は、直前の楽しげなやり取りと打って変わって、なんだかさみしげだった。
「で、その叔父さんは……?」
「いない」
「いない?」
「事故って死んだ」
「は……」
 随分あっさり告げられたが、そうなんですねと軽く流せるわけがない。とはいえ、そんなことを聞かされてとっさにどう返すのが正解なのかもわからなくて、結局言葉に詰まって何も言えなかった。
 ただ、しみじみとさみしげな声の理由がわかってしまって、なんだかこちらまで切なくなってしまう。
「そんな顔しなくていいよ。乗り越えたと言えるかは微妙だけど、こうして君の顔見に戻ってこれるくらいには消化できてる」
「つか戻る理由がそれって」
「いやだって恋人できたとか聞いたらそりゃ気になるでしょ。しかもなんか面白そうな子っぽいし」
 一体何を聞かされているんだろう。面白そうな子、ってなんだそれ。
「面白いとか言われた記憶、あまりないんですけど。あなた俺のこと、面白い奴って思ってたんですか?」
「俺が勝手に、面白そうな子って思って見に来ただけだよ」
「ちなみにどのへんが? というかこの人、あなたに俺のことなんて言ってるんですか」
「気になる?」
「そりゃあ」
「その前に確かめておきたいんだけど、こいつのこと好きじゃないってホント? 脅されて恋人やってんの?」
 微妙に肯定しづらい質問だが、否定するのもオカシイと言うか、事実そういう流れだったという認識はある。
「なんとも答えにくい質問ですね」
「そうなんだ?」
「かなり強引に口説かれたのは事実ですね。でも嫌々付き合ってるわけじゃないし、現状に満足はしてましたよ。少なくとも、俺の方は」
 随分含みを感じると笑われたが、だって別れる気があるなんてさっきまで知らなかった、とは言えなかった。思い出したらまたキュッと胸が痛くて、それを口に出したら、一緒に涙まで溢れてしまいそうだったから。

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聞きたいことは色々15

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 夢見ていたと言うか想定していた恋愛とは全然違った始まりだったものの、お付き合いはそれなりに順調だった。
 月に1〜2回程度デート名目でどこかしら出かけて、セックスするだけの仲だけど。プライベートでやりとりするメッセージに甘い言葉が並ぶことはないけど。
 でも特別不満を感じてはいないし、何かを改善してほしいと強く思ってもいないし、実はそこそこ満足してもいる。相手が言っていた通り、初めて付き合う相手として、たしかに悪くはない相手なのかも知れない。
 相変わらず好きだと言われることはないものの、デート中はまぁまぁ甘やかされているような気もすると言うか、それなりに気に入ってくれてるのは伝わってくるし、一応あれこれ気遣われてもいるようだ。
 当然こちらも好きだなんて言わないけれど、こちらの好意がどれくらい相手に筒抜けなのかはわからない。そういや、それに対する言及はされたことがない。
 男同士でのデートに躊躇いがない相手にヒヤヒヤさせられることは多々あるけれど、こちらが本気で嫌がるラインを踏み越えての無茶振りはしてこないし、ヒヤヒヤとドキドキは近しいものがあって、人目を盗んで掠め取られていくキスに興奮まではしなくてもうっかりトキメク瞬間はある。
 だってしてやったりって顔で楽しそうに笑うから。あと稀に、こっちの反応を愛しげに見つめてくることがあるから。そんな目で見られたら、うっかりドキドキするし逆にこっちが見とれてしまうこともあるけど、それを指摘されて揶揄われたことはない。
 恋人って関係さえ続けられれば、こっちの気持ちはどうだっていいのかも知れない。と思うと少しだけ虚しいような寂しいような気持ちになるけど、好きはあげないけど好きを頂戴とか言われるよりは断然マシだろう。
 セックスだって、毎回初回みたいに抱き潰されたりはしないというか、むしろあんなの初回だけで基本相手が1回イッたら終わりになるけど、毎回充分すぎるくらい気持ちよくされてるから不満なんか出ようがない。
 基本相手任せで、恋人がいるという状態の経験値だけガンガン詰んでいるような日々だった。
 恋愛経験値が上がってる気はしないけど。恋愛してるって実感はないけど。まぁこの人相手に恋愛したいわけでもする必要があるわけでもないのだから、今はこれでいいかと、この状況を受け入れきっていた。
 自分ばっかり好きになってしんどい片想いが始まりそうだ、という当初の不安が外れたのも、この状況を受け入れられている理由の一つかもしれない。
 ドキドキはするしトキメクしそれなりに好意が育っている実感もあるのだけれど、相手のこちらの好意を欲しがってなさそうな素振りだとか、こちらの気持ちを気にする様子のなさに、けっこう萎えさせられている。
 好きって気持ちがなくても付き合ってていい。この状態を続けてていい。と思えるのは気楽でもあった。
 けれど、このままダラダラとこの関係が続いていくのも別に悪くないなんて思っていられたのは、変わらないまま続けることが可能だと思い込んでいられたのは、そう長くはなかった。
 交際開始から半年と少々経った、相手宅にお泊りをした翌朝。リビングに行ったら知らない男がテーブルについていて、なのに相手はこちらを知った様子で、明るい笑顔でおはようと声を掛けてきたせいだ。
 年齢はそこそこ上っぽいけど、親ほど離れた感じはしない。兄弟かとも思ったけれど、兄がいるなんて聞いたことはあっただろうか。少なくとも、一目で兄だとわかるような要素はない。
「え、誰!?」
「そうそう。初めましてだったよね」
 よく話に聞いてたから初めましての気がしなくて、と言われたけれど、こちらは相手の話なんか一切聞いてない。何者なのか欠片も検討がついてない。
「いや俺は一切話聞いてないですけど」
「あれ、そうなの?」
 事情聞いてないのと言われて何もと返せば、相手はそこで考え込んでしまう。本人が告げてないことを話してしまっていいのか迷っているのかも知れない。

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