親切なお隣さん7

1話戻る→   目次へ→

 お隣さんに食事を作るようになっておよそ2年が経過した大学3年次の夏、学費だけなら出せるからと大学進学を勧めてくれた祖父が他界した。もうすぐ定年退職を控えた59歳で、お正月に会ったときには、再雇用して貰えるし、まだまだ働けるから何の心配もいらないと胸を張ってくれていたくらい元気だったのに。
 突然の訃報に面食らいながらも参加した葬儀は散々だった。祖父が大学の学費を出すことを、実両親が忌々しく思っていたのはもちろん知っていたが、まさか葬儀の席で、顔を合わせたほぼ直後に遺産の話をされるなんて思ってなかった。
 勝ち誇ったような顔をした父に、お前に遺産を受け取る権利はないぞと言い切られ、大学なんかさっさと辞めて、実家に戻って就職しろとかなり強気な態度と言葉で命じられた。もちろん、実家に金を入れろという意味だ。
 実際問題、3年次後期と4年次丸々の学費分の当てなんて欠片もない。お隣さんのお陰もあってそれなりに貯金は溜まっていたから、3年次後期分くらいはなんとかなりそうだけど。でも4年次分が圧倒的に足りなかった。
 もちろん、言われたとおりに大学をやめて実家に戻る気なんて更々ない。諦めたくないし、諦めない方法を探すつもりだった。だって諦めてしまったら、ここまで学費を出してくれた祖父にだって申し訳無さ過ぎる。
 といっても現状かなりみっちりとバイトを入れていて、これ以上バイト時間を増やすのは色々と難しいかも知れない。無理して体を壊して医療費かかってバイトも休んで、なんて目にはあいたくないし、食事面は大丈夫にしても、ある程度の睡眠時間だってしっかり確保しておきたい。
 手っ取り早く短時間で高時給の単発バイトを副業で、的なことを考えたときに、どうしても思い浮かべてしまうのは、いわゆるパパ活的なアレだ。なぜなら、過去にそれでお小遣いを得たことがあるからだ。
 もちろんその時も必要にかられてだったし、もっというなら年齢もかなり偽っていた。そもそもバイトできる年齢だったら、そんなものに手を出してなかっただろう。あのときだけは、成長期が早めに来てて本当に良かったって思っていた。
 最初の約束よりかなり多めに払ってくれたから、多分相手は気づいてたけど。でもそこはお互い様というかなんというかで、はっきりと年齢を確認されることはなかった上で、かなり気を遣ってくれていたような気もする。
 多めに払ってくれたおかげで、そんな真似をするのは1度きりで済んだのもかなり有り難かったし、少なくとも、想像してたよりは酷い時間じゃなかった。
 だからこうして、今また再チャレンジするかを迷っているわけだけど。でもあれが相当幸運だったレアケース、という認識もちゃんとある。多めに支払ってくれたのだって、今の認識だと、口止め料的なものだった気がしている。アレがバレたらヤバいのは、どう考えても圧倒的に相手側だろう。
 問題は、実家周辺に比べたら供給も多そうだから、たいして稼げない可能性の高さだろうか。あと、お隣さんの存在が微妙にネックでもあった。
 バイトの時間を減らす気はないから、長期休暇中か日曜の夜に副業になるんだろうけれど、お隣さんといっしょに夕飯を食べていたらそれなりに遅い時間になってしまう。かといって、今日は夕飯作れません、と言ったら理由は絶対聞かれるだろう。これは経験的にも絶対だ。
 1度くらいなら誤魔化せても、繰り返し誤魔化し続けられる自信がない。
 いっそお隣さんが買ってくれたら良いのに。なんてことをチラリと思ったりもするが、そんな提案をしようものなら、盛大な説教が始まってしまいそうだ。というか、相手にそんな気が全く無いのも、実は既に知っている。
 お弁当を作るようになって暫くして、彼女が出来たって誤解されてるみたいだと報告されたときに、そんな話がチラリと出たのだ。もちろんその誤解は解いていて、隣に住む大学生の男の子が食費全額負担で作ってくれてると話したら相当驚かれたとかなんとか。まぁ、でしょうね、という当然とも言える話だったのだけど。
「女の子だったら絶対手放すな嫁にしろって言うのに男じゃなぁ、とか言っててさ。男の子じゃなきゃこんなお願いそもそも出来ないのにね。というかエアコン壊れたならうち泊まる? とか誘えないでしょ」
「女の子相手でも言いそうっすけどね。で俺が女だったとしても、そう言われてホイホイ泊まってるかも知れないですけどね」
「ダメでしょそれは」
「女の子だったら襲ってました?」
「だからそもそも泊まりなって言わないってば」
 じゃあどうしてたんだと聞いたら、随分悩んだあとで大家さんに連絡すると返ってきた。大家さんは既婚者で奥さんがいるから、女の子も任せられるはずとかなんとか言ってたけど、だとしても、相変わらず大家さんへの信頼が厚い。
「なら男で良かったす。けど、そのままお隣さんとこんな関係になるとか、あの時は全く思ってませんでしたけどね」
「ほんとにね。てかこの関係ってなんなんだろ、って思うことはあるよね」
 友達とは言い難いし、やっぱ雇用関係に近いのかな。と言われて、思わず。
「パパ活とかじゃないんすか」
「は? え?」
「パパ活、っす。援助されてデート、的な」
「デート……」
「お金貰って一緒に食事したりするみたいっすよ」
「いやいやいや。お金払ってないし。ただの食費だし。てかこれがパパ活じゃ全然割に合ってなくない?」
「食費だけって言うけど、それでも結構援助されてんですけどね。それにもし食費以外にも払ってくれる気があるなら、エロいサービスとかも、まぁ、出来そうな範囲でなら」
 まぁ当然お断りされたわけで、というかパパ活なんかしちゃダメだよと、そういや釘を差されたんだった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

親切なお隣さん6

1話戻る→   目次へ→

 お隣さんの夕飯を作る日々は楽しかったし、こちらとしてもかなり有り難かったけれど、そんな生活が出来るのは長期休暇中だけだってことをすっかり失念していた。つまり講義が再開するのに合わせて、夕飯作りが難しくなってしまった。
 暑い日中はなるべく家に居たくなくて、夏の間は昼間にバイトを入れまくっていたけれど、講義がある平日は夕方からのシフトになるのと、賄い付きなので夕飯はバイト先で食べられるからだ。
「というわけで、朝と日曜は変わらず作れますけど、平日の夕飯は無理そうです」
「ああそっか。残念だけどそれは仕方ないね」
「代わりに朝飯、もうちょっと豪華にしたりも出来ますけど。ああ、あとは作り置きとか?」
 レンチンして食べれるようなものを冷蔵庫に用意しましょうかと提案してみたが、少し迷ったあと、魅力的だけどやっぱり一緒に食べれないのは寂しいからとお断りされてしまった。
 それで一旦話は終わったと思ったのだけど、いざ講義が再開して今日から夕飯は作れませんよというその日の朝、昼用にと作っていた握り飯を目ざとく見つけた相手に、自分の分はと聞かれて驚く。
「えと、考えてませんでした。てか昼って弁当持ってくの有りなんですか?」
「別に問題ないけど」
「一緒には食べれないすけど、それは?」
「この部屋で一人で作り置き食べるのは寂しいなって思ったけど、お弁当は別な気がする。というか多分、お昼楽しみってなる気がする」
 お弁当作ってって言ったら作ってくれるの? と聞かれて、そりゃ作れってなら喜んで作るに決まってると思う。さすがに喜んでとまでは言わなかったけど。
「いっすよ。お米ももうアンタの出す食費から買ってるんで、今日のこれも、自分の分だけ握ってんのちょっと後ろめたいとこあったんで。てか作る前に聞けばよかったのか」
 聞けば最初から自分の分もと言われたかも知れないし、最初から、だったらお弁当作ってって言われたかも知れない。
「今日は今から米炊くのむりっすけど、じゃあ、1個持っていきます?」
「や、明日からでいいよ。君の分の昼ご飯減っちゃうでしょ。てかお昼っておにぎりだけなの? それとも学食でおかず買ったりする感じ?」
 ご飯だけでも持参したら食費浮くもんねと言われて、そっすねと同意はしたけれど、夏休み前にそんな贅沢をする余裕は正直なかった。無料で提供されているお茶があるから、学食そのものは利用していたけれど。
 お隣さんのお陰でちょっとは余裕が出来たから、今日の昼は、言われたみたいにおかずやら味噌汁やらを購入してみてもいいかもしれない。
「えと、おかず学食で買うのが楽なら、弁当作り面倒じゃない?」
「朝飯作るついでに作るんでダイジョブす。当然俺の分も作っていい、って思ったら、そっちのが有り難いんで」
 バイト先で賄いが出るとはいえ、そこまで健康面に気を遣ったような食事が出るわけもなく、夏の間は朝と夜とお隣さんのご飯を作るという名目で野菜も肉もモリモリと食べてしまっていたから、朝と日曜だけになってしまうのを惜しむ気持ちはこちらもかなり大きかった。
 ホッとした様子で、なら良かったと言った相手が、既に明日の弁当に思いを馳せながら楽しみだと笑う。
「あの、一つ問題があって」
「え、なに?」
「握り飯持ってく、みたいなのは前からやってましたけど、まともに弁当ってのを作ったことがないんすよね」
「そうなんだ。それはますます楽しみかも」
「え、なんで?」
「だってお弁当に君の試行錯誤が反映されてくってことでしょ? じゃあ、開けた時どんなだったか写真撮って、感想添えて送ってもいい?」
「マジ、すか?」
 うん、と力強く肯定した相手が、ほんと楽しみだよと言って笑った。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

バレたら終わりと思ってた(目次)

キャラ名ありません。
彼女が出来たつもりでいた(攻め視点)4話+バレたら終わりと思ってた(受け視点)13話の計17話。
社会人×女装大学生。

「彼女が出来たつもりでいた」は電車通勤で一目惚れしたと言ってきた女性と交際してたら、実は以前痴漢から助けたことがある男子大学生だった。という事実に驚きつつも、別れようとは全く思わなかった社会人男性の話。
続編の「バレたら終わりと思ってた」は受け視点で男とバレたあとの初デートがメインの話です。
一応18禁かなとは思うんですが、描写はかなり控えめ。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的描写がある話のタイトル横に(R-18)と記載してあります。

彼女が出来たつもりでいた
1話 久々の彼女
2話 女装だった
3話 あのときの男の子
4話 新しく始めよう
バレたら終わりと思ってた
1話 救世主
2話 男バレ
3話 やっぱり女装で
4話 このあとの予定
5話 普通のホテル
6話 女装のままのが(R-18)
7話 やり方を学ぶ
8話 どこに惚れてるか
9話 男の自分に自身がない
10話 無理はしないで欲しい
11話 崩れたメイク(R-18)
12話 狸寝入りの理由
13話 どうか、覚えていて

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

バレたら終わりと思ってた13(終)

1話戻る→   目次へ→

 先に寝落ちしたからか、目覚めるのも先だった。
 結局同じベッドで眠っていたようだけれど、さすがに寝落ちる直前のように抱きしめられたままではなかったので、相手を起こしてしまわないようにそっとベッドを降りる。けれどトイレを済ませるついでに顔を洗ってバスルームを出たら、相手もベッドの上に身を起こしていた。
「おはよう」
「お、はよう、ございます」
「どうしたの?」
「え?」
 朝の挨拶を交わしただけなのに、いったい何を聞かれているのかわからない。
「いやなんか、ぎこちないっていうか、なんだろ、なにか後ろめたいことでもあるような?」
「そ、んなに……?」
 ちょっとギクッとしてしまうのは、相手が寝てる間に着替えもメイクも済ませてしまいたいと思っていたせいだ。
「あー、俺が気にし過ぎて疑心暗鬼になってる部分もあるかも。というか、なにか気になること抱えてるなら、一緒に解決したい。って気持ちが強すぎるのかも?」
 何も無いならいいんだよ。疑り深くてごめんね。なんて謝られてしまったら、自覚があるだけになんだか申し訳ない。
「あ、や、その」
「やっぱ何か抱えてる?」
「えー……と、その、あなたが寝てる間に、支度を済ませちゃいたかったな、って思ってただけ、です」
「支度……ってメイク?」
「そうです。あと着替えも」
 そっか、と言って黙ってしまった相手は、何かを考え込んでいる。
「え、えと、バスルームでメイクしてくるので、ダイジョブ、です」
 ちょっと狭いけど出来ないことはないだろう。ただ普段以上に時間がかかるかもしれない点と、3点ユニットバスなのでトイレを占拠してしまう点が問題かもしれない。
「なのでトイレ使うなら先にどうぞ」
「興味あるな、それ」
「えっ?」
「俺が見てたらダメな感じ?」
「な、なんで!?」
 会話が噛み合わない返答に疑問符を投げれば、もっと意味がわからない応えが返って困惑する。
「君が俺好みの女の子に変身するところを見ておきたい。っていう単純な興味かな。あと、男の子の君とのデートに慣れたら女装は必要なくなるはずだから、今のうちに堪能しておきたいなっていう気持ち」
「女装デート、やっぱ減らしたほうが嬉しいですか?」
「女の子の君とのデートももちろん楽しいけど、男同士のカップルより男女のカップルっぽく見えたほうが世間的には都合がいい場面が多いこともわかってるけど、女の子の格好で出歩くのが心底楽しいってわけじゃないなら必要ないって思ってる。女装に掛かるお金と時間を、もっと別のことに使ってほしいよ。学業とバイトと俺とのデートだけ、みたいな生活じゃなくて、残りの学生生活をもっと楽しんで欲しいというかさ」
 友達とも遊びに行ってほしいけど週末デートは譲りたくないエゴもある、なんて苦笑されて、ちょっとウルッと泣きかけた。
 この人がいなかったら、あの時助けて貰えなかったら、どのみち大学には通えなくなっていた可能性が高いのに。でも助けてもらえて、好きになって、大学をやめて実家に戻るなんて考えられなくなって、必死に日々を送っていたら少しずつ友だちって言えるような関係が増えて、今は大学に通うのも結構楽しくなっている。
 この人が優先順位不動の1位だから、恋人って立場を維持するために、他の何を犠牲にしたって辛いことなんて何も無いって思ってたけど。でも、学生生活をもっと楽しんで欲しいって言われて泣きそうになるほど嬉しいのは、友人の誘いをバイトやデートで断ってしまうのを惜しむ気持ちが少なからずあるせいなんだろう。
「じゃ、じゃあ、あなたのために目一杯可愛くなるので、見てて欲しい、です」
 どうか、覚えていて欲しい。
「うん。しっかり見とく。心に刻むよ」
 その言葉通り、ずっと後ろに立って鏡に映るメイク過程を真剣な目で見続けてくれた。鏡越しにチラチラと目があって、そのたびにほんのり微笑んでくれるのが、ちょっと恥ずかしくて、嬉しい。
「どう、ですか」
 手にした道具を置いて、鏡の中の相手に問いかける。
「うん。凄く、可愛い」
 こっち向いての言葉に振り向けば、優しいキスが降ってきた。

<終>

リクエストは「男バレ後の初デートに女装で来ちゃう受け」「女装するところを見たがる攻め」「男の子のままデートとイチャイチャエッチ」でした。
男の子のままデートの描写は入れられなかったのですが、次週は攻めが買ってくれた服を着てお家デートが確定しているので、彼らのイチャイチャお家デートをぜひ色々と想像してあげてください。

1ヶ月ほどお休みして、7月29日から「酔った勢いで兄に乗ってしまった話」の乗られちゃってる時の兄視点を書く予定です。これは多分1話かせいぜい数話で終わるはずなので、そこから先は短い話を幾つか書けたらいいなと思ってます。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

バレたら終わりと思ってた12

1話戻る→   目次へ→

 バスルームから出てきた相手の、もう寝ちゃった? という問いかけを無視したら、相手がベッドの中に潜り込んできて背後からゆるっと抱きしめられる。消えてなくなりたいような気持ちを持て余して、ベッドの壁側に身を寄せるように縮こまっていたのがあだとなった。
「狸寝入りかな。もし本当に寝ちゃってるんだとしても起きてもらうつもりなんだけど、起きてるなら返事して?」
 ビックリして硬直してたし、起きてるのは絶対相手にも伝わったと思っていたけど、やはりそのまま寝かせてはくれないらしい。
「おきて、ます」
「うん。バスルームで何があったのか聞かせてくれる?」
「何があった、って……」
「立って動いたら痛いとこが出てきたとか、気持ち悪くなったとか、そういう体調不良、隠してないよな?」
「だ、ダイジョブ、です」
 様子がおかしいと感じて、まっさきに心配してくれるのはこちらの体調だっていうのは、なんとも彼らしいんだけど。果たして、メイクがドロドロだったから落ち込んでる、なんて言って、相手にこの遣る瀬無さが伝わるんだろうか。
 説明してって言われても、上手く相手に伝えられるとは全く思えなかった。
 そもそも相手はずっと可愛いって言い続けてくれたんだから、メイクだのウィッグだのの崩れを気にしているのは自分だけという可能性も高い。
 ただ、優しい人だから、どこまで本心から可愛いって言ってたのかわからないなと思ってしまうだけで。優しい人だから、ドロドロな顔を笑ったりせに、可愛いって言葉で濁してくれただけかもしれない。
 そんな事を考えて黙り込んでいたら、背後で相手が、ため息になり損ねたみたいな息を小さく吐いた。
「なら、俺に抱かれたの、後悔してる?」
「は? えぇっ、なんで!?」
 驚きすぎて素っ頓狂な声を上げてしまえば、相手が笑う気配のあと、抱きしめる腕にキュッと力がこもる。小さな声が、良かった、って言ったような気がした。
「じゃあなんで寝たふりしてたの?」
「なんで、って……」
「俺としては、シャワーしてさっぱりした後、もう無理眠いってなるまでベッドでゴロゴロイチャイチャして過ごしたかったんだけど」
 シャワー行かせずあのままイチャイチャするべきだったかな、と言った後、でも寝る前はさすがにメイク落としたいだろうしなぁ、などと続けて、どうやら口に出しながら自問自答しているらしい。
「あ、メイク?」
 メイクを落としたいだろう、という部分に体が反応した自覚はあった。でもやっぱりメイクが崩れて落ち込んでる、なんてのは想定外なんだろう。
「まさか、男の子に戻ったから俺に顔見せたくない、とか言わないよね?」
「そういのじゃなくて、多分、もの凄く下らないことで落ち込んでるだけです」
「下らないことなの?」
「その、俺のこと、本当に可愛いって、思ってました?」
「もちろん思ってたよ」
「最後の最後まで?」
「むしろ最後の最後が最高に可愛かったけど」
 即答されて、その言葉に嘘はなさそうだった。
「でも、いっぱい泣いたからメイクなんてドロドロだったし、ウィッグだってズレてたのに?」
 嘘は言われてないって思うのに、でもどうしても信じきれずに聞いてしまう。
「ああ、気にしてたのってそれ?」
「そ、です」
「そんなのちっとも気にならなかった。ってわけじゃないけど、それも含めて可愛かったし、嬉しいなとも思ってたよ」
 気にならなかったわけじゃない、って言われてやっぱりって思ったのに、でも引っかかったのは最後の言葉だった。
「え? 嬉しい?」
「メイク崩れるとかウィッグずれるとか、気にしてられないくらい、俺とのセックスに夢中になってくれてると思ってたからかな」
 初めて貰えるのめちゃくちゃ嬉しいと思ってる、って言ったのを覚えているか聞かれて、もちろん覚えていると返す。
「終わった後のメイクの崩れ見てショック受けるくらい、こういう経験してきてないってことじゃないの。って思えるのは嬉しいよ」
 今この瞬間も、嬉しいって思ってるし、可愛いなとも愛しいなとも思ってる。って言われた後、耳の後ろでチュッと小さなリップ音が弾けた。
「あ、あの、そっち向いても……?」
 相手の顔が見たくなってお願いすれば、もちろんと弾んだ声が返って、抱きしめる腕の力が弱くなる。その腕の中でくるりと身を返せば、優しい笑顔が嬉しそうに迎えてくれた。
「素顔もやっぱり可愛いな。目元まだちょっと赤いけど、痛くない? 冷やさなくて平気?」
「へいき、です」
「なら良かった」
 キスしても? に頷いてそっと目を伏せれば、すすっと顔が寄ってチュッと唇を吸っていく。
「明日、君の服買いに行くのが楽しみだよ。来週、今度は俺のベッドの上で、素のままの君を抱かせてくれる?」
 そんなの、こちらだってもちろんそのつもりでいる。
「俺も、楽しみ、です」
「男の子の姿でも女の子の姿でも、メイクがあってもなくても、そんなの君が好きって気持ちにはあまり関係ないって、きっとわかって貰えるんじゃないかな。少なくとも、そういうセックスが出来たらいいなって、思ってるよ」
 そんなの頑張ってくれなくてもいいんだけどな。と思ってしまうのは、もうわかってるから、という理由が一番ではあるけれど。
「もうメイクしたまましたいとか言わないですから、素のままの俺でも抱いて貰えるってわかれば充分ですよ」
「そうなの?」
「だって次はもう、メイク崩れてないかとか気にしちゃいそうですもん」
「確かにそうか。残念だけどそれは仕方ないよね」
 そこ気にして気持ちいいのに集中して貰えないのは俺も嫌だなと言われて、残念とか言っちゃうくらい、ドロドロに崩れたメイクもズレたウィッグも、この人には有りなんだって思うとなんだかおかしくなって笑ってしまう。
 どうやら本当に、かなり下らないことで落ち込んでいたらしい。可愛いって言ってくれた相手の言葉だけ、信じておけばいいだけだった。
「あなたを好きになって、本当に、良かった」
 言えば、それは俺のセリフだよと返される。
「俺を好きになってくれて、本当に、良かった。性別なんて関係ないなって思えるくらい君を好きになって、君を引き止められて、本当に、良かった」
 何度も繰り返される優しいキスを、目を閉じてうっとりと受け入れているうちに、ゆるやかな眠りに落ちていった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

バレたら終わりと思ってた11

1話戻る→   目次へ→

 結論から言えば、女装はやっぱり解いておくべきだった。
 女の子の姿の方が手を出しやすいかもとか、顔だけ女の子のがむしろ萎えるかもとか、相手がどう思うかって部分とは全く別にして、メイクなんかしてない方が多分色々マシだった。
 だって汗とか涙で顔はドロドロぐちゃぐちゃになったし、結構しっかり固定出来てたはずのウィッグは、外れはしなかったけどちょっとズレたしボサボサだ。
 だって女の子相手のセックス経験もない童貞だから、セックスがこんなに大変だって知らなかった。
 始める前に、彼が参考にしたというアナルセックスのやり方サイトを一通り読んでおいて本当に良かった。あれを読んでなかったら、途中もっと焦ったと思うし、もっと落ち込んでいたとも思う。
 出すのと挿れるのじゃ大違いで、お尻の穴を慣らして広げるのにあんなに手間と時間がかかるなんて思ってなかったせいだ。これは相手が、痛い思いをさせたくないからって、かなりしつこかったせいも大きい気がするけど。
 足を開いて相手の前に全部晒すってだけでも結構恥ずかしいのに、たっぷりのローションでヌルヌルにされた穴にクチュクチュと音を鳴らしながら何度も相手の指が出入りするのを、真剣な顔で観察される恥ずかしさと言ったらない。
 部屋の明かりはかなり落としてくれたけど、でも見られてるのはわかってたし、気配だけでなく真剣な表情そのものが、時折こちらからも見えていた。
 それが相手の思いやりで、優しさだってわかってても。必要な準備だってわかってても。このあとへの期待よりも、今を耐えるしんどさの方が勝ってしまって、ちょっとくらい痛くてもいいから、さっさと次に進んでほしかった。早く相手と繋がりたかった。
 なのに、もうヤダ早く挿れてって頼んでも聞いてくれなくて、結果、女の子の体だったら良かったのにと悲しくなってしまった。女の子の体なら、もっと簡単に相手を迎え入れられたはずで、こんなに恥ずかしい苦労をしなくて済んだはずだと思わずに居られなかった。
 結構派手に泣いてしまって相手を焦らせたけど、もし女の子の体だって初めてってわかってたらいっぱい時間かけて慣らすから一緒って言われて、初めてを貰えるのが嬉しいって喜んでもくれた。恥ずかしいの耐えて頑張ってくれてるのはわかってるし、愛しくて仕方がないし、むしろ下手でゴメンと謝られたりもした。
 相手もアナルセックスは初めてで、だから上手にリード出来てないし、時間も掛かっちゃうし、辛いの耐えさせて結局無理させてるよね。なんて言われたら、もうちょっとなら耐えられそうって思えてしまう。というよりも、相手も初めてって部分が、自分もちょっと嬉しかったんだと思う。
 だからちゃんと体を繋げられた時にも、今度は良かったって安堵でまた泣いた。
 痛いとか苦しいとかで泣いてるわけじゃないと伝わってたからだろう。相手は焦ったり困ったりした様子は見せず、約束守れて良かったって、嬉しさが滲むような優しい笑顔をくれた。
 そんな笑顔を向けられながら、そういや簡単に諦めない約束をしてたなって思い出したら、更に泣けてしまうのも仕方がないと思う。
 諦めずに続けてくれたから、もうちょっとなら耐えられそうって思わせてくれたから、今、体の中に相手を感じられてるって思ったら、嬉しさとか感謝とか好きだって気持ちが胸の中に溢れて絡み合って、胸の中に収まりきらないそれらが涙になって流れていくみたいだった。
 相手はちゃんとこの体を抱いてイッてくれたし、お尻の中を突かれながらおちんちんを扱かれて、気づけば自分もあっさり吐き出していた。というか最後の方はちょっとわけがわかんないくらい気持ちよくなっちゃって、頭の中が白く爆ぜるみたいだったのを覚えている。
 ちゃんと準備すればお尻で気持ちよくなれる、というのは嘘じゃなかった。
 しかし正直、やってる最中は必死過ぎて、自分がどんな状態なのか考えるような余裕はなかった。メイクした状態で泣くような経験が初めてだったから、イメージしにくかったのもあるかもしれない。更に言うなら、相手からは可愛いって繰り返されていたから、その言葉を信じて安心しきってた。
 大惨事に気づいたのは、疲れてるだろうけど体動くならシャワーをしておいでとバスルームに送り出された直後のことだ。つまり、明かりを絞った部屋から明るいバスルームに移動して、そこにあった鏡と対面した時だ。
 メイクはドロドロだし、ウィッグはズレてボサボサだし、可愛さの欠片もない姿を前にしばらく呆然と立ち尽くした。いつまで経ってもシャワーの水温が聞こえないことに気づいた相手が、心配してドアを叩いてくるまで立ち尽くしたあと、ようやくノロノロとメイクを落としていく。
 ウィッグも外して素の自分に戻ったけれど、散々泣いた目元は赤いままだし、気持ちよくセックスできた喜びの余韻なんか当然吹っ飛んでいて、気落ちした暗い表情はとても相手に見せられる顔じゃないと思った。
 シャワーを浴びれば少しは気持ちが落ち着いたり上向いたりするかなと思ったけれど、全然そんなことはなくて、むしろどんどん気持ちが落ちていく気がする。だから、バスルームを出たあとは無理やり笑顔を作って、交代だと相手をバスルームに押し込んだあと、自分はさっさとベッドに潜り込んでギュッと目を閉じる。
 できれば相手が出てくる前に眠ってしまいたかったし、もし眠れなくても、疲れて眠ってしまったと思わせたかった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁