そっくりさん探し9

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 本当だよと言葉を重ねてから、一度大きく息を吐きだす。
「ほらね、やっぱり悪いのは俺だった」
「えっ?」
「あんなに泣かせたのも、別れたいって言われるのも、俺が、悪い」
「な、なんで? っていうかどこが?」
「君が恋愛初心者で、君が頷いてくれたら俺が初めての恋人になるんだって、ちゃんとわかってたのに、お試しなんてやっちゃったことからして、多分、俺が悪かったよ。少なくとも俺の君への興味と好奇心が、ちゃんと恋愛感情になってから、付き合ってって言うべきだった」
 あのままもう少しだけ友達を続けておけばよかった。恋愛感情かはわからないけど意識するのを止められないと言った相手に、ちょっとだけ手を出すのを我慢して、先に自分の気持ちを育ててしまうべきだった。
 試してみてもいいかなと思った時点で、余程のことがなければ、この子に恋ができると思っていたはずなのだから。
「好きになったから付き合ってって、そうお願いして始めればよかった」
「い、いつから?」
「好奇心が恋愛感情になった時期?」
「そ、です」
「割とすぐだったよ。少なくとも、好きだって思ったから、キスした」
「えぇっ!?」
 その驚きは間違いなく、そんな初期から? って意味だろう。
 そう。そんな初期からちゃんと自分の中に湧いた感情を認識していたのに、それを伝え忘れたまま、どんどん関係を進めてしまった。
 デートが楽しくて、相手が可愛くて、愛しくて。浮かれすぎだったのは間違いない。
「ついでに言うと、君の気持ちもちゃんと恋になったんだと、勝手に判断してキスしたよ」
 同じ想いが相手の中にあると確信していたから、手を繋ぐだけだったところから軽く触れあうキスへと踏み込んだのに、それを口に出して確かめることをしなかった。互いの認識を擦り合わせておく、なんてことを考えもしなかった。
 ガチ恋愛初心者という部分を、こうなるまで、わかっているようでわかっていなかったんだろう。自分自身が初心者だったのは既にかなり昔だし、過去に付き合った彼女たちに、ここまでガチな初心者はいなかった。
 もしかしたら、友達の少なさも関係しているのかも知れない。若いうちから妹のためにと社会に出て、働くことに必死で恋愛なんて縁のないもの扱いだった彼には、友達と恋バナで盛り上がった経験もないはずだ。すなわち、友人経由での恋愛疑似体験すら、ないんだろう。
「えええっ!!??」
「ごめん。暗黙の了解的な駆け引きを恋愛初心者相手にやらかしてた、という自覚が全く無かった。というか今、振り返ってやっと気づいた」
「暗黙の了解、ですか……?」
「うん。手を繋ぐ以上のことしていいって伝わってきてたっていうか、キスを待たれてると思ったから、君もちゃんと俺に恋してくれてるんだって判断した、とか。キスした後の顔に嫌悪感がないかとか、そういうの当たり前にちゃんと確認してる。今日、触れるだけから一歩進んで少し深いキスをしたけど、それだって、君の反応を見たうえで踏み込んだよ」
 もし自分自身が恋愛初心者だったなら、キスしていいか、嫌じゃなかったか、全部、相手に確認を取っていたかも知れない。嫌じゃないという言質を取るための確認ではなく、気持ちの擦り合わせを目的とした言葉を、惜しまなかったかも知れない。キスの感想を詳細に告げて、相手からの詳細も聞きたがったかも知れない。
 それに恋愛初心者じゃなくたって、互いに恋をし合っていることは、言葉にして共有しておくべきだった。両想いからスタートしたお付き合いじゃないどころか、お試しで開始したお付き合いなんだから、そこは本当に、申し訳ないことをしてしまったと思う。
「俺が一方的に、やりたいことやりまくって楽しい〜、ってお付き合いをしてたつもりはないんだけど、言葉にして君自身に確認して来なかったのは、やっぱ俺の落ち度かな。ちゃんと言葉にして、お互いに意識を擦り合わせてたら、君に別れたいって思わせることも、さっさと一人で抱かれる準備させちゃうことも、きっとなかったよね」
 初心者が相手なのだからと思ってゆっくり一歩ずつ進んでいるつもりが、いきなり抱いたり抱かれたりのセックスに飛んだのも、間違いなくそれが原因だ。
「君のことが好きだよ。恋愛的な意味で。ちゃんと、好きになってる。別れてって言われて、いいよって言えないくらい、本気で君が好きだよ」
 全然足りないけれど、好き好き繰り返し告げてしまう。そういえば、楽しいとか可愛いとかはかなり頻繁に繰り返した記憶があるが、好きだと口にしたことはあまりなかったかも知れない。
 いやもしかして。あまりどころか、まさか言ったことがなかった……?
 という事実にちょっと血の気が失せる中。
「俺も、好きです。好きって言われてこんなにも嬉しくなるくらい、あなたに本気で恋してます」
 今更と呆れられることはなく、相手はふにゃっと嬉しそうに笑いながら、そんな言葉をくれた。
「うん。俺も、凄く、嬉しい」
 抱きしめていい? と聞けば、いいですよと柔らかな声が返ってくる。体ごと相手に向き直ってそっと抱きしめれば、すぐに相手からも柔らかく抱き返された。
「あとね、もう一個、言い訳というかお願い聞いてほしいんだけど」
「言い訳? と、お願い、ですか?」
「そう。ちゃんと好きって言ったことなかったのも、本当に反省してる。ただ、これからも好きより先に可愛いって言っちゃいそうだから。可愛いってのは君が好きって意味とほとんど同じだって、知っててくれると嬉しいかも。可愛くて愛しい、の愛しい部分を省略してたのは、ホント、ごめん」
「可愛くて、愛しい」
 その言葉を噛みしめるようなしみじみとした口調に、再度。
「君のことが、可愛くて愛しいよ。たまらなく」
 大好きって意味だよと付け加えれば、腕の中で相手が楽しげに肩を揺すった。

続きます

 
 
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そっくりさん探し8

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 ひとしきり泣ききったらしい相手が最初に口に出した言葉は「終わりにしたい」だった。
 もちろんそれは構わない。結果的にこうして泣かせてしまったけれど、当初の目的は達成しているとも言えるし、そもそも相手を抱くことにそう強い拘りがあるわけじゃない。急いでいないし、次でもその次でも、いっそもっと先でも、相手の気持ちと体の準備がしっかり整うまで待てばいい。
 そんなことより、わけもわからないまま泣かせてしまった方がよほど重大だ。
 たしかに嫌だとは何度も言われたが、あの場面でのああいった反応を、本気の拒絶だなんて思えるわけがなかった。という部分くらいしか、思い当たることがない。
 もし宥めすかして触れ続けたことそのものが泣くほどの原因だったとして、そもそも何がそんなに嫌だったのかもわからない。
 とりあえず落ち着いて話を聞くつもりで、少し迷った末に、二人並んでベッドの端に腰掛けた。正面から向き合って顔を見つつ話したい気持ちはあったが、相手は顔が見えないほうが話しやすいかも知れないと思ったからだ。
「終わりにするのはもちろん構わないけど、同じ失敗はしたくないから、泣いた理由は教えて欲しいな」
「あなたは何も、悪くないので」
「いやいやいや。俺が何も悪くなくて、あんなに泣かれるの、もっと意味がわからないよ?」
「いえ本当に。俺の方の問題だから。泣いて、すみませんでした」
「謝られたいわけじゃないっていうか謝るのは俺の方でしょっていうか。あー……じゃあ聞き方変えよう。俺とキスするのは嫌じゃなかったよね? 触られるのは? どこからが嫌だった?」
「どこから、って」
 これはもう細かに聞いて確認していくしかないか、という気持ちになって問いかけてみたが、相手からは戸惑いばかりが伝わってくる。
「それなら、おちんちん触っちゃダメだったのはなんで?」
「それは、触られたら、感じちゃう、から」
「感じたらダメなの? 俺はいっぱい、君が気持ちよくなるところを見たいよって、言ったと思うんだけど」
「で、でも、お、俺ばっかり気持ちぃのは、違う、と思って。それに……ぁ、いや」
「それに? 続きも聞きたい」
「や、ほんと、なんでもないです。ていうか終わりにするなら、俺のことはもう、いいじゃないですか」
「良くないでしょ。次に君がこういうことしてもいいって思ってくれた時に、また泣かせたりしたくないよ?」
「次、ってなんですか? 終わりなのに?」
「え? って、いやいやいや。そんな、え、いやいや、まさか」
 二人の間で終わりの意味が違っている、というのは感じたが、相手が言う終わりの意味を理解したくなくて、思わず否定の言葉だけを重ねてしまった。
「どうしました?」
 心配する気配とともに相手が窺うようにこちらを向いたのがわかったので、こちらも相手を振り向いてその顔を確認する。本気でこちらの不審な言動を心配しているだけらしく、別れを切り出されたらしいと知って受けたこちらの衝撃には、一切気づいていないようだった。
「一応の確認なんだけど、終わりにしたいって、俺達のお付き合いの話?」
「そうですけど」
「だよねぇ。じゃあ撤回で」
「えっ?」
「お付き合いは終わりにしません。俺が終わりでいいよって言ったのは、今日はこれ以上エッチなことしなくていいよ、って意味だから」
「えっ?」
「というかますます深刻な話になったんだけど、ほんと、俺の何がダメだった? 別れたいほど酷いことした自覚、マジで何もなくて困る」
「や、だから、あなたは本当に何も悪くないので」
「いやいやいや。お付き合いしてて別れを突きつけられてる側が、悪くないなんてあるはずないでしょ。というか別れてって言われる理由がわかってない、ってだけでも、充分俺にも非があるよね?」
「あなたに非なんてないですよ。だって最初っから、ちゃんと教えてくれてたし。そもそもこれって、お試しのお付き合い、ですよね?」
「そうだけど、何の問題もなくお付き合い出来てる気でいたから、本当に、別れたいって言われる意味がわからなくて。ていうか俺に抱かれるつもりで準備までしてくれた子に、エッチの最中に泣かれまくって、挙げ句に別れたいって言われるって、ほんと、何したの俺」
「ほんとは最後までちゃんと抱かれてみたかったけど、抱いて貰っても、多分、わかれてって言ったと思うので。あなたのエッチが下手だったとかそういうのじゃないですし、あなたは悪くないです」
 またしても衝撃の事実が告げられて驚く。
「え、じゃあ、もしかしてもっと前から、別れを考えてたってこと?」
「まぁ、そうですね」
 なるほど。と思ってしまったところはある。それに全く気づかずに、自分だけはしゃいでデートを楽しんでしまったから嫌気が差した、って話なのかも知れない。
「ごめん。一緒に楽しんで貰えてるとばかり、思ってた」
「楽しかったのもありますよ。俺のこと構って楽しそうにしてるあなたを見るのは、俺がその顔をさせてるんだって思うとなんだか不思議で、嬉しかったです。ただ、同じようにただただ楽しめない自分に気づいて、それが苦しくて。つまり同じようには楽しめない俺が、悪いんですよ」
 今日のエッチも同じです、と相手の言葉が続いていく。
「あなたは凄く楽しそうだったのに、同じように楽しめないどころか、どんどん苦しくなって泣いて困らせて、最後まで抱いて貰うことすら出来なかったんだから。だからもう、終わったほうがいいです」
「どうして苦しくなるの? 原因それなら、一緒に楽しめる方法を探せばいいんじゃないの?」
 言えば心底困った様子で笑う。
「なんでそこだけ鈍いんですかね。あなたが最初に言ったんですよ。もし俺が、ものすごく真剣にあなたに恋をしているなら、その気持ちに応えるのは躊躇う、って」
「えっ?」
「あなたと試しにお付き合いしたら、俺の気持ちはどんどんあなたに向かって膨らんで、ちゃんと恋になったんですよ。だから、終わりにさせてください。俺ばっかり本気で好きになっちゃって、ごめんなさい」
「ちょっ、待って待って待って」
 そんな理由で振られるとか、絶対に許せない。受け入れられない。第一、彼は大きく誤解している。
「俺だって君を、ちゃんと本気で好きになってるんだけど!?」
 言えば相手の目が驚きで見開かれるのがわかった。

続きました→

 
 
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そっくりさん探し7

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 自身が抱かれる側になる想定で、事前の準備を一人で出来ると言った相手は、当然というかやはりというか、アナルの自己拡張にも踏み込んでいた。むしろその拡張がある程度のレベルに達していたから、ラブホという提案にも頷いたらしい。
 ただまぁこちらとしては、突っ込んで気持ちよくなって終わり、なんてセックスは全く考えていなかったし、そもそも繋がるような行為までは要求しない予定でラブホに連れ込んでいる。
 一番の目的は服の下に隠された場所に直接触れることで、その結果として、相手が気持ちよく果てることが出来れば尚いい。くらいの話で、それは相手にも伝え済みだったはずだ。無理をする気はないし、気持ちよくなって欲しいし、だから安心して任せてくれとも言ったはずだ。
 抱かれたい気持ちがあることも、そのために準備をしてくれたことも、本当に嬉しい。でもまずはゆっくりじっくりその体に触れさせて欲しい、というのが正直な気持ちだった。
 なのに。
「も、やだぁ、ぁ、あっ、はや、く、はやく、してっ」
 大丈夫だから入れてと懇願しながらも、潤んだ瞳が非難するように見つめてくるから心が痛い。
 抱かれる覚悟は決めていても、押し倒されてその体を撫でられ性感帯を探られ、他者の手で快感を引きずり出される、という事へ覚悟はなかったらしい。覚悟以前に、抱かれる側として突っ込まれる以外のことを、あまり想像出来ていなかった可能性も高そうだった。
 準備なんて単語が出て飛びついてしまったけれど、最初は手を握っただけであんなに体をビクつかせていたような相手に、やはり急ぎすぎたのかもしれない。
 簡単に反応する自身の体に戸惑う様子を見せていた相手は、優しい愛撫にすらあっさりいっぱいいっぱいになって、早く突っ込んで欲しいと口に出すまでがかなり早かった。
 それを宥めすかして、まずは相手にちゃんと気持ちよくなって欲しいこちらの気持ちを、惜しむことなく言葉に変えながら触れ続けている。
 あまりに急かすから早々にアナルにも触れてはいるが、そちらに触れたからこそわかってしまったこともあった。
 慣らして広げる真似は確かにしたんだろう。けれどそこで感じられるわけではなさそうだし、嫌悪感なのか不快感なのか恐怖なのかは定かでないが、否定的な感情を間違いなく持っている。
「もうちょっと。ね、やっぱおちんちんも一緒に触らせてよ」
「やっ、です。ぜったい、だめ」
 やっぱり潤んだ目が、何度もダメだと言ってると言いたげに、睨みつけてくる。
 なぜかずっと、ペニスを直接触って一番わかりやすい快楽を引き出すことを、拒まれていた。
 形を変えたそれを握って数度扱いたところで派手に拒まれ、手を離したらその後は隠すみたいにずっと相手の両手がそこを覆っている。覆っていると言うよりも、感じるのを拒むみたいに、押さえつけているようでさえある。
 正直意味がわからない。意味がわからないものの、譲る気がない強い意志が見えてしまって、無理やり触れることはもちろん、強引に理由を問うこともしていなかった。
 仕方がないと小さく息を吐いて顔を寄せる。キスは拒まれていないからだ。
 深いキスは今日が初めてだったのに、何度も繰り返したおかげで、口の中の弱い場所は把握出来ている。少しでもその快感をアナルの快感に繋げようと、同時にゆるゆると尻の中の指を動かした。
「んんんっっ」
 ビクッと大きく体を跳ねて藻掻かれて、咄嗟に肩を押さえてしまえば、強く胸を押されて顔を離す。
「ここが、キモチイイ?」
 盛大に反応した、前立腺と思われる場所を狙って指先で押し込んでやれば、やはりピクリと体を振るわせ、ぶわりとその目に涙を溜めた。
「やぁっ」
「でも気持ち良さそうだよ?」
 チラリと視線を移動させた先は、こちらの胸を押すために手が外された相手の股間だ。胸に触れた手が濡れているのは感じていたが、大量の先走りに濡れ光るペニスは大きく膨らみ、中を弄る指先に合わせてピクピクと震えて、今にも射精しそうだった。
「おちんちん弾けそう。ねぇ」
「ゃぁぁぁあっっ」
 触っていいよね。と続けるはずだった言葉は、控えめな悲鳴とともににおとがいを跳ね上げ背を反らし、括約筋をギュウギュウに締め付けながらペニスの先端から白濁をボタボタと垂れ流した相手によって、音になって溢れることはなかった。
 驚きに目を見張りながら、ついつい相手の股間を凝視してしまう。ついさっきまでは中で感じている様子なんてなかったのに、いくら前立腺への刺激で反応があったからといって、まさか触れずに吐精するとは思っていなかった。
「や、やだって、言った」
「えっ」
 明らかな泣き声に慌てて視線を相手の顔へと戻せば、目元を片腕で隠した相手が震える唇を噛み締めている。多分間違いなく、その腕の下で涙を流しているんだろう。
「ご、ごめん。ほんと、ごめん」
 慌てて謝罪を繰り返しながら、埋めていた指をゆっくりと引き抜いていく。さすがにこの状態で続けられるわけがないからだ。なのに。
「や、やっと?」
 腕を外した相手が、ぐしょぐしょに濡れた赤い目で見つめてくるから、意味がわからないのに胸だけがやたら苦しい。
 意味がわからないのに、どういう意味か聞くのすら躊躇われてただただ見つめてしまえば、またその目にぶわっと涙が溜まって流れ落ちていく。
「ど、して」
 引きつるみたいな苦しげな声と、ぎゅっと瞑ってしまった目蓋の隙間から、次々と零れ落ちてくる涙と。それを隠すみたいにまた腕が上がっていくのを思わず掴んで止めてから、目元に向かって唇を落とす。
 なぜ泣かせてしまったのかすらわからないが、それを聞ける状況じゃないのも明白だ。だからごめんごめんと短い謝罪を繰り返しながら、何度も濡れた目元や頬に触れるだけのキスを落として、相手が落ち着くのをひたすら待った。

続きました→

 
 
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そっくりさん探し6

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 目に入った最初のラブホにそのまま進んで、完全に二人だけの空間をあっさり入手する。
 もし緊張しきっていたら、シャワーは飛ばしてベッドに押し倒しちゃってもいいかなと思っていたのだけれど。それなりに緊張はしているものの、キョロキョロと部屋の中を見回すくらいには余裕があるようなので、先にシャワーを使うかどうかを問いかける。
「使います」
「ん、じゃあ行こうか」
「えっ?」
「そこ驚くようなこと?」
 いきなり風呂場エッチとかは考えてないから一緒に行こうよと誘えば、相手は慌てた様子で首を何度も横に振って嫌がった。
「既に一緒に温泉入った仲だよ?」
 まぁそれは恋人になる前の話だけど。
「俺に裸見られるの、恥ずかしい?」
 一緒にシャワーを避けたところで、どのみち見るんだけど。
「ち、ちがっ、そのっ」
 一向に落ち着く気配がない相手が、あわあわと言葉を探している。
「うん。ちゃんと聞くからまずは落ち着こうか」
 深呼吸する? と促してみたら素直に深い呼吸を繰り返すので、やっぱりこのままベッドに押し倒してしまおうか、なんて気持ちがウズウズと湧いてしまう。早く触れたい。
「あ、あのっ」
「うん」
「じゅ、準備は一人で、できる、ので」
「ん?」
「だからその、一人で、させて欲しいっていうか」
「待って待って待って。準備?」
「だ、だって必要、ですよね?」
「それは俺に抱かれるための、体の準備?」
「そ、です」
「調べた?」
「そりゃあ……」
「調べて、自分一人で出来るように、練習した?」
 どんどん顔を赤らめていた相手が、ちょっと怒ったみたいに睨みつけてくる。デリカシーがないのは認める。でもやっぱり直接聞きたいなと思ってしまう。
「したんだ?」
「しました。だからっ」
「凄い。嬉しい」
 衝動に任せて眼の前の体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「もうそこまで考えてくれてるとは思ってなかった」
「え?」
「キスだけじゃ足りなくてこんなとこ連れ込んだけど、君を抱く気はなかったんだよね」
「えっ?」
「だって男同士だよ? どっちが抱く側やったっていいんだよ?」
「あ……って、まさか俺が抱く側、でした?」
「違う違う。そういう話し合いを何もしてないのに、俺の一存で突っ込むわけ無いだろ、って話」
「じゃあ、こんなとこきて、一体何するつもりだったんですか?」
「何って、突っ込んだり突っ込まれたりしなくても、一緒に気持ちよくなれるよね? むしろ突っ込んだり突っ込まれたりしない方が、純粋にキモチイイだけで終われるはずっていうか」
 体撫で回して気持ちぃって喘がせてイク時の顔とか見れたら最高って思ってたし、触って貰えたらどんなに拙くても絶対楽しいし嬉しいだろうって思ってた。
 という正直な気持ちを伝えれば、相手は身体を捩って腕の中から抜け出すと、赤くなった顔を片手で隠すみたいに覆ってしまう。
「早とちり、すみません。ってか、ほんと、恥ずかしい……」
「なんでそこで謝るのかな。凄く嬉しい、って言ったのに」
 俺が抱く側でいいの? と聞けば、逆になんで抱かれる側になる可能性なんか思いつくんですかと聞かれてしまった。いやだってそんなの。
「いきなり処女奪われるより、やっぱ童貞捨てたいかなって。あとはまぁ、いつも通りの好奇心? 真剣に抱きたいって言われたら、童貞捨てさせてって頼まれたら、試してみてもいいかな、くらいの気持ちだけどね」
「言わないです。てか俺が抱かれる側やったほうが、絶対マシだと思うんで」
「マシって」
 凄い言い様だなと笑ってしまう。
「まぁ確かに。そう酷いことにはならないだろう自信はあるけどね」
 ちゃんと調べたし、無理する気ないし、気持ちよくなって欲しいって思ってるし。だから安心して任せてくれていいよと言えば、顔を覆っていた手を外した相手が、チラリと視線を寄越した後で頷いて見せる。未だ羞恥が引かないらしく、横を向くと耳まで赤くなっているのがわかって、それはそれでなんだか可愛い。
 再度引き寄せて、パクっとその熱そうな耳朶を食んでしまいたい衝動を、焦る必要はないんだからと押さえつける。
「じゃあ、先にシャワー浴びてくるから。そっちも準備、始めてくれる?」
 やはりコクンと頷く相手に、ゆっくりで大丈夫だからと告げてから、一人バスルームへ向かった。

続きました→

 
 
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そっくりさん探し5

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 お付き合いを始めたからと言って連絡頻度が上がるだとか、やりとりするメッセージに愛の言葉が混ざるだとかの変化は起こらなかったが、出かける先は大きく変わった。
 今までは定番人気観光スポットがメインだったけれど、穴場と呼ばれるような自然あふれる静かな場所がメインになったわけだが、理由はもちろん、人目を気にせずいちゃつきたいからだ。
 旅の恥はかき捨てとも言うし、人気観光スポットだろうが男同士手を繋いで歩くくらいはどうってことないんだけど、それは自分の基準であって相手が同じとは限らない。
 ちょっと手を繋いだだけでも大きな反応が返ってきたから、それで人目を引いてしまう可能性もあるし、男同士でという部分に引っかかっていた彼に、周りからの好奇の視線が向くのはなるべく避けたい。
 とまぁ最初は恋愛初心者な相手への気遣いによる変更だったわけだけれど、高頻度で人目が全くないという状況が訪れるため、どんどん大胆になっている自覚はあった。
 交際申し込みをした最初に、隣に意識してくれる子が居たら手を出したくなる、という話をしていたせいか、相手に手を出される覚悟っぽいものがあるのもいけない。観光先の変更理由も、もしかしたら人気のない場所で気軽に手を出したいからと誤解されている可能性すらある。
 いやまぁそれは今となっては誤解とも言い切れない気がするけれど。人目がない場所へない場所へと誘導している自覚も有るし、そうして得たチャンスは逃すことなく、恋人的な接触をあれこれと試みてもいる。
 手を繋いで歩くのも、ふと視線が絡んだ後に軽く唇を触れ合わすのも。頻繁に繰り返したおかげで、どうやらすっかり慣れたらしい。
 手を握るたび、握った最初に伝わってきていた緊張が無くなって、唇を離したあとに見せる顔からこわばりが消えて、どこかうっとりとしてさえ見える。そんな顔をされたら更に一歩踏み込んでみたくなるのは当然で、再度顔を寄せて与えたキスはすぐに離れてしまう軽いものではなかった。
 といってもそこまで深いものでもなかったし、長々貪ったわけでもないのだけれど。それでもそれは結局のところ自分基準でしか無くて、どうやら相当相手の性感を煽ったらしい。
「おっとぉ」
「す、すみません」
 崩れそうになる体を慌てて支えてやれば、か細い声が謝罪を告げる。戸惑いと羞恥は滲んでいるが、それだけだ。
「謝らないでよ。俺は嬉しいばっかりなんだから」
 嫌じゃなかったならまたしてもいい? と聞いたら、少し待たされた後で、嫌じゃないけど歩けなくなりそうで困る、なんて、本気で困った様子で返ってきたから、愛しさが込み上げて笑ってしまう。
「じゃあ歩きながらするのは止めておくよ」
 車に戻ったらもっかいしようねと宣言したせいで、その後それを思い出してか、度々ぎこちなくなる相手をこっそりと堪能しながらゆっくり景色を楽しんで、それからようやく駐車場へと戻って来る。ちらほらと車が停まっているものの、やはり人の気配は皆無だった。
 穴場スポット巡りになってからは、車を出す頻度も上がっている。
 相手は免許を所持してないため、運転がこちらだけに偏ってしまうのを気にされて、なるべく公共交通機関を使ってたんだけど。穴場スポットとなるとやはり車があったほうが便利で、そういう観光地に行きたいのはこちらなのだからと押し切っていた。
 うん、まぁ、そういうところでも下心が丸出しなのは認める。
「さっき言ったこと、していい?」
 助手席に座った相手に向かってそう問いながら、既に体ごと相手へ向かって寄せている。
「ど、どうぞ」
 言ってキュッと目を閉ざしてしまうのがまたなんとも可愛くて、やっぱり愛しさが込み上げてくる。クフフと小さな笑いが相手の唇をかすめたせいで、その唇が震える様まで愛おしい。
 嫌じゃなかったと言質を取ったことと、ここなら腰が抜けたところで問題ないという気持ちから、先程より深く長く触れてしまったけれど、もちろん、嫌がる素振りは皆無だった。
「っ……はぁ……」
 顔を離せば蕩けるみたいな吐息がその口から漏れてくる。目蓋はまだ落ちたままで、赤くなった目元の上でまつ毛が微かに震えていた。
 可愛い、と素直な感想を口から零しながら、再度唇を塞ぐ。といっても今度は深くはせずに、チュッチュと軽く何度も啄んだ。
 そうしながら、確かめるように下肢に手を伸ばす。
「あっっ」
 その膨らみに触れた途端、慌てた様子で肩を強く押されてしまったので、諦めて顔も手も相手から離した。
「嫌?」
「いや、っていうか」
 こんなところで? という戸惑いの声に、誰も居ないけどと思いながらも、ここじゃなければいいの? と問い返す。
「そ、れは……えと、……」
 相手が答えを出すのを黙って待てば、やがて覚悟が決まったらしい。
「ちゃんと二人きりに、なれるところなら」
「ラブホとか連れ込んでもいいよって意味に取るけど、いい?」
 いいです、の言葉を貰ったあとは、上機嫌で車のエンジンを掛けた。

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そっくりさん探し4

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 メインの通りを避けて人が少ない方へ少ない方へと歩いていけば、やがて閑散としてきたので、もう歩きながらでいいかと思う。
「人居なくなったし、さっきの話の続き、してもいい?」
「あ、はい」
 他愛ない話をしていたところからいきなりの蒸し返しだったせいか、相手の声に緊張が走る。
「そんな緊張……いやまぁ仕方ないか。で、俺が君の気持ちを知って、何を悩んだかなんだけど、君との交際が有りか無しかで言ったら俺の中では有りなんだよね」
「えっ???」
 驚くだろうとは思ったけど想像以上に驚かれてしまったので、一旦足を止めて相手の顔を覗き見る。こちらの視線に気づいて、すぐに逃げるように顔を反対側に逸らされてしまったけれど。
「ただ、君のことを恋愛的に好きかって言われるとそこはあまり自信がないと言うか、正直好奇心、という自覚がしっかりある」
「あ、あー……なるほど」
 とりあえず先をと思って告げてみたら、顔は背けたまま、あっさり納得されてしまった。
「君の方は? 恋愛って意味で意識されてると思ってるけど、なんで俺を好きって思ったのか、理由とかきっかけとかってあるの?」
「きっかけ……は、妹の旦那、というか、その、甥っ子に会いに行った時の妹夫婦見てたら……」
 しばらく待ってみたが続きがない。
 妹の旦那というのは例のそっくりさんなわけで、そんなところで言葉を止められてしまうと、色んな可能性が見えてしまって困る。
「えと、続きを聞いても?」
 余計なことをあれこれ考えてしまう前に、ちゃんと相手の答えを聞こう。そう思って話の先を促せば、めちゃくちゃ言いにくそうに、兄妹で好みが似てる可能性に気づいてしまって、と返ってきて一瞬頭の中が混乱した。というよりは、ちらっと頭を過ったアレコレの可能性の中に、それはなかった。
「あの、彼らにはあなたとの出会いとか、今も結構な頻度で遊んでる話とか、したんですけど。いい人と出会ったんだねって言われて、普通に嬉しかったんですけど。その、妹に、兄妹だから男の好みも似るのかなって言われて、最初意味がわからなかったんですけど、後から気づいて、そうかもって思っちゃったと言うか。それでちょっと意識し始めたら、止まらなくなっちゃって。正直これが本当に恋愛感情なのか、俺にはわからないんですけど。でも意識する前に戻れないっていうか、戻り方がわからないっていうか、その、すみません……」
 こちらが混乱して黙ってしまったせいで、慌てて色々教えてくれたのだろうことはわかる。ただ、最後の方はかなり情けない声になっていて、なんだか泣きそうだ。それに気づいて、途端に罪悪感が膨らんだ。
「いや謝らないでよ。ずっと恋愛とは無縁な生活してた話は聞いてたし、納得はした」
 教えてくれてありがとうと言えば、相手があからさまに体の緊張を解くのがわかってしまった。それを見て、想像以上に緊張させていたことに今更気づく。
「で、話を聞いて、俺としては君と付き合ってみたいなって思ったんだけど、俺とお付き合い、する?」
「え゛っっ!!??」
 相当びっくりしたようで、逸らしていた顔がやっとこちらを向いた。大きく目を見開いて、本気か冗談かを確かめるみたいにこちらを凝視してくる。
「そんな驚かなくても。さっき俺の方は好奇心の自覚があるって言っただろ。ものすごく真剣に俺に恋してくれてるなら、そんな気持ちで応じるのはどうなんだって思ってただけで、君自身が恋かどうかもわからない状態なら、お互い試してみてもいいんじゃないかって思ったんだけど」
「その、男同士、ですけど」
「いまどきそこあんまり気にしなくても良くない? 少なくとも俺の方は問題ない。そっちだって、妹さんの発言からして妹さんは大丈夫そうだし、職場関係に男と交際はじめましたなんてバカ正直に言う必要だってないだろ?」
 別に今すぐ返事くれなくてもいいから考えてみてと告げてから、行こうかと促し歩き出す。
 結局自分の方から交際申し込みをしてしまったと思ったらなんだか笑えてきて、その気持はそのまま笑いとなって零れ落ちる。
「楽しそうですね」
「そうだね」
 誰かに付き合ってくださいなんて言うの超久々だったと言いながら、溢れてくる楽しさを笑いにしてさらに零した。
「今までの恋人に男性、居ました?」
「いやいない。だから余計に興味がある、という自覚もあるよ」
「元カノさんたちとは今はもう全然関わりないんですか?」
「全く無いわけじゃない子もいるけど、疎遠になった子もいるね。俺の元カノ、気になっちゃう?」
「いえ。付き合ってみて、別れた後、どうなるのかなって思って」
「あー、そういう……」
 友人が恋人を兼ねたら一石二鳥ってよりは、友人を恋人にしたら別れた後で友人まで失う可能性がある、って考えるタイプらしい。まぁ現状、彼にとっては自分が唯一の友人、という可能性を考えると、それはかなり重大な問題なのかも知れない。
「別に無理してお付き合いする必要はないし、今のままでも構わないって思ってるよ」
「あなたを意識しちゃうのに?」
「まぁ、そこは俺が我慢すればいいだけの話だから」
「え、我慢? 何を?」
「何をって、手ぇ出すのを?」
「え? は? えっ?」
「いやほら、すぐ傍に俺を意識してくれてる子が居たら、こう、ちょっとちょっかい出したくなる的な」
 言いながら相手の手を握って、反応を確かめるようにその顔を覗き込んでみる。
「ひえっ」
 慌てて顔を逸らす相手に苦笑を零しながら、握った手もすぐに離してやった。
「困らせるつもりはないし、友達でって言われたらちゃんと友達の距離で付き合うから大丈夫。意識されてるのわかっても、気づかないふりしてあげるよ」
「そういう事言うから、好きって思っちゃうの止められないんですけど。付き合ってみたいかもって、思っちゃうんですけど!?」
 くるっと振り向いてギャンっと吠えてくるその顔は結構赤くて、なんだか可愛い。可愛いなと思ってしまったことに、また少し笑いが溢れてしまう。楽しい。
「もぉ〜、また笑うしっ」
「いやだって可愛いなって思って」
「ちょっ!?」
「ねぇ、そう思うなら、やっぱ俺達付き合おうよ」
 甘く響くようにと思いながら、君と付き合いたいよ、と真っ直ぐ見つめて真剣に告げれば、相手は顔を赤くしたまま観念したように頷いてみせた。

続きました→

 
 
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