本当だよと言葉を重ねてから、一度大きく息を吐きだす。
「ほらね、やっぱり悪いのは俺だった」
「えっ?」
「あんなに泣かせたのも、別れたいって言われるのも、俺が、悪い」
「な、なんで? っていうかどこが?」
「君が恋愛初心者で、君が頷いてくれたら俺が初めての恋人になるんだって、ちゃんとわかってたのに、お試しなんてやっちゃったことからして、多分、俺が悪かったよ。少なくとも俺の君への興味と好奇心が、ちゃんと恋愛感情になってから、付き合ってって言うべきだった」
あのままもう少しだけ友達を続けておけばよかった。恋愛感情かはわからないけど意識するのを止められないと言った相手に、ちょっとだけ手を出すのを我慢して、先に自分の気持ちを育ててしまうべきだった。
試してみてもいいかなと思った時点で、余程のことがなければ、この子に恋ができると思っていたはずなのだから。
「好きになったから付き合ってって、そうお願いして始めればよかった」
「い、いつから?」
「好奇心が恋愛感情になった時期?」
「そ、です」
「割とすぐだったよ。少なくとも、好きだって思ったから、キスした」
「えぇっ!?」
その驚きは間違いなく、そんな初期から? って意味だろう。
そう。そんな初期からちゃんと自分の中に湧いた感情を認識していたのに、それを伝え忘れたまま、どんどん関係を進めてしまった。
デートが楽しくて、相手が可愛くて、愛しくて。浮かれすぎだったのは間違いない。
「ついでに言うと、君の気持ちもちゃんと恋になったんだと、勝手に判断してキスしたよ」
同じ想いが相手の中にあると確信していたから、手を繋ぐだけだったところから軽く触れあうキスへと踏み込んだのに、それを口に出して確かめることをしなかった。互いの認識を擦り合わせておく、なんてことを考えもしなかった。
ガチ恋愛初心者という部分を、こうなるまで、わかっているようでわかっていなかったんだろう。自分自身が初心者だったのは既にかなり昔だし、過去に付き合った彼女たちに、ここまでガチな初心者はいなかった。
もしかしたら、友達の少なさも関係しているのかも知れない。若いうちから妹のためにと社会に出て、働くことに必死で恋愛なんて縁のないもの扱いだった彼には、友達と恋バナで盛り上がった経験もないはずだ。すなわち、友人経由での恋愛疑似体験すら、ないんだろう。
「えええっ!!??」
「ごめん。暗黙の了解的な駆け引きを恋愛初心者相手にやらかしてた、という自覚が全く無かった。というか今、振り返ってやっと気づいた」
「暗黙の了解、ですか……?」
「うん。手を繋ぐ以上のことしていいって伝わってきてたっていうか、キスを待たれてると思ったから、君もちゃんと俺に恋してくれてるんだって判断した、とか。キスした後の顔に嫌悪感がないかとか、そういうの当たり前にちゃんと確認してる。今日、触れるだけから一歩進んで少し深いキスをしたけど、それだって、君の反応を見たうえで踏み込んだよ」
もし自分自身が恋愛初心者だったなら、キスしていいか、嫌じゃなかったか、全部、相手に確認を取っていたかも知れない。嫌じゃないという言質を取るための確認ではなく、気持ちの擦り合わせを目的とした言葉を、惜しまなかったかも知れない。キスの感想を詳細に告げて、相手からの詳細も聞きたがったかも知れない。
それに恋愛初心者じゃなくたって、互いに恋をし合っていることは、言葉にして共有しておくべきだった。両想いからスタートしたお付き合いじゃないどころか、お試しで開始したお付き合いなんだから、そこは本当に、申し訳ないことをしてしまったと思う。
「俺が一方的に、やりたいことやりまくって楽しい〜、ってお付き合いをしてたつもりはないんだけど、言葉にして君自身に確認して来なかったのは、やっぱ俺の落ち度かな。ちゃんと言葉にして、お互いに意識を擦り合わせてたら、君に別れたいって思わせることも、さっさと一人で抱かれる準備させちゃうことも、きっとなかったよね」
初心者が相手なのだからと思ってゆっくり一歩ずつ進んでいるつもりが、いきなり抱いたり抱かれたりのセックスに飛んだのも、間違いなくそれが原因だ。
「君のことが好きだよ。恋愛的な意味で。ちゃんと、好きになってる。別れてって言われて、いいよって言えないくらい、本気で君が好きだよ」
全然足りないけれど、好き好き繰り返し告げてしまう。そういえば、楽しいとか可愛いとかはかなり頻繁に繰り返した記憶があるが、好きだと口にしたことはあまりなかったかも知れない。
いやもしかして。あまりどころか、まさか言ったことがなかった……?
という事実にちょっと血の気が失せる中。
「俺も、好きです。好きって言われてこんなにも嬉しくなるくらい、あなたに本気で恋してます」
今更と呆れられることはなく、相手はふにゃっと嬉しそうに笑いながら、そんな言葉をくれた。
「うん。俺も、凄く、嬉しい」
抱きしめていい? と聞けば、いいですよと柔らかな声が返ってくる。体ごと相手に向き直ってそっと抱きしめれば、すぐに相手からも柔らかく抱き返された。
「あとね、もう一個、言い訳というかお願い聞いてほしいんだけど」
「言い訳? と、お願い、ですか?」
「そう。ちゃんと好きって言ったことなかったのも、本当に反省してる。ただ、これからも好きより先に可愛いって言っちゃいそうだから。可愛いってのは君が好きって意味とほとんど同じだって、知っててくれると嬉しいかも。可愛くて愛しい、の愛しい部分を省略してたのは、ホント、ごめん」
「可愛くて、愛しい」
その言葉を噛みしめるようなしみじみとした口調に、再度。
「君のことが、可愛くて愛しいよ。たまらなく」
大好きって意味だよと付け加えれば、腕の中で相手が楽しげに肩を揺すった。
続きます
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