抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ1

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 古い友人の結婚式帰り、同じく参加していた一人の男に声をかけて、予め取っていたとあるホテルの一室に連れ込んだ。特に何も言わずに付いてきた時点で、相手だってとっくにこちらの目的は察していただろうけれど、二人きりとなった部屋の中で改めて、抱かれる側でいいから慰めて欲しいと頼む。
 相手はこれみよがしに大きなため息を吐いてから、それでもわかったと頷いてくれたから、ひとまずはホッとして、それから互いにシャワーを浴びて準備をした。
 ベッドの上に仰向けに転がり足を開くように言われ、素直に応じながらも、内心は当然羞恥が募っていたし、不安や恐怖も当然あった。どうしたって相手の挙動が気になって、手の平の上にたっぷりのローションを垂らし、それを両手で捏ねる仕草をじっと見守ってしまう。
 躊躇いのなさが慣れているように見えて、見えるだけでなく、事実慣れているんだろうと思う。
 お互いそれなりにいい年齢で、まさか童貞なはずもない。結婚してしまった彼と、いま目の前にいるこの男だけが特別な自分でさえ、試しに男を抱いてみたことがあるくらいなのだ。相手にとっても結婚してしまった彼だけが特別で、それ以外の性対象が女性なのかまでは知らないけれど、相手だって男を知っているだろうとは思っていた。この様子なら、きっとそれ以外の性対象には、確実に男性も含まれているんだろう。
 相手の慣れた様子に安堵するべき場面で、実際はバカみたいに胸を痛めている。自分にとっては、決死の覚悟でこの身を差し出す特別な夜なのに、相手にとっては、頼まれて仕方なく慰めてやるだけの夜だ。相手にとって、この身にはなんの魅力もないのだと、改めて突きつけられているようで苦しかった。
 自分たちの繋がりなんて、同じ男を好きになってしまったことと、その想いを隠す選択をしたことくらいしかない。想いを周りに知られるだけでも色々と面倒が起こりそうだったから、ほぼ同じ条件の相手の傍らは、少しばかり居心地が良かったと言うだけ。だった、はずだった。
 この男にだけは、想いも、それによって生じる心の揺れも、知られてもいい。その安心感は、じわりとこの男へ向かう想いまでも育てていたが、相手にとってはそうじゃなかった。
 相手のせいで心揺れてしまうことまで増えて、かなりしんどくなっていた頃に、衝動でこの男の唇を奪ったら、蔑むような視線と声とで、どうしても慰めが必要なら抱かれるのはお前の方だと宣言された。相手の中には、自分への想いなんて、欠片だって育っていなかった。
 まぁそれも当然だ。この男の想い人と自分は、性格にしろ見た目にしろ、重なる部分がほぼ皆無と言っていいほど似ていないのだから。
 それでも相手の優しい部分につけ込んでは、キスもハグもそれなりの回数奪ってはきたが、さすがに抱かれるまでの決心はずっとつかなかった。今回、彼の結婚が決まるまでは。
「そんな顔して、よく、抱いてくれなんて言う気になったよね」
 ジッと見つめるこちらに気づいたようで、手元から顔を上げた相手に見つめ返された後で、そんな事を言われた。全く乗り気ではない、嫌そうな顔と声だった。
「どんな顔だよ」
「悲愴感たっぷりな顔」
「それは、しょーがないだろ。てかそんくらい色々ショック受けてるから、慰めてくれ、って話だろ」
「ショック、ねぇ」
「お前にとっては、もう、諦めの付いた想いなのかも知れないけど」
「むしろ、未だに気持ちの整理がついてないなんて、正直驚きだけどね」
 やっと結婚かと言われるくらい彼らの交際は長く順調に続いていたから、そう言われるのも当然だし、実際のところ、自分だってちゃんと気持ちの整理はできている。今この男に晒している悲愴感は全くの別物だけど、彼の結婚は関係がないのだと、正直に伝えるわけにいかないというだけで。

続きました→

 
 
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