どう意識を切り替えたのか、何かのスイッチを入れたみたいに、おいでと呼ぶ声は一転して随分と優しい。内心、これはなかなかに胡散臭いと思ってしまったけれど、優しくしろというこちらの訴えを受け入れてくれたのは明らかで、これ以上あれこれ言って機嫌を損ねられるのは大いに困る。先程までの態度を考えれば全然マシだし、むしろ充分すぎるほどの譲歩を引き出したと満足しておくべき所だろう。
黙って呼ばれるままに寄っていけば、途中から相手の腕が伸びてきて肩を抱き、そっと抱き寄せる力に身を任せていれば相手の顔が寄ってくる。キスされる、という状況にいささか戸惑って、でもそんなこちらの戸惑いを見透かすみたいな目にじっと見つめられて、唇が触れ合う直前にギュッと目を瞑った。
だって目を閉じなければ、キスして貰えない気がした。正確には、唇が触れる直前に相手が動きを止めたから、慌てて目を閉じたのだ。目を閉じて、更には軽く唇を突き出す真似までして、ようやく唇が塞がれた。
その対応で良かったのかはわからない。ただ、一度触れてしまった後は、相手も躊躇いは捨てたらしい。
角度を変えて何度も繰り返される口づけは、間違いなく優しい触れ合いだった。唇で唇を柔く食まれ、離れる時にはちゅっと吸われて、唇の上で小さな快感がいくつも弾けていく。だんだんともどかしくなって、薄く口を開いて待てば、その隙間を悪戯に舌先がくすぐってますますもどかしさが増してしまう。
相手の舌先を捉えようと、こちらからも開いた隙間から舌を差し出せば、くすっと笑われる気配がして、なんだか酷く恥ずかしくなる。けれど慌てて引っ込めようとしたら、それより早く相手の舌に絡め取られてしまう。
ようやく深く触れ合った舌にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は舌の上や相手の舌が入り込んだ口の中で、ゾワゾワとする快感が生まれだす。
もちろん未知の感覚というわけではないのだけれど、そういった感覚をひたすら与えられる側というのはあまりに経験がなくて、今度は戸惑いが増していく。どうしたらいいのかわからなくて、相手の着ている部屋着を縋るように握りしめてしまえば、ようやくキスが中断した。
安堵の息を大きく吐き出せば、更に引き寄せる力が働いて、ゆるっと抱きしめられる。キスをしている間にも互いの距離はグッと近づいていたから、実際は殆ど場所の移動はなかった。ほぼ隣り合って向かい合う形で座っていて、上半身を軽くひねって抱き合う形だ。キスも、ほぼこの体勢でしていた。
これは相手に身を預けていいってことなのかと、若干の躊躇いを引きずりながらも、そっと体の力を抜いて相手の胸により掛かる。こちらからも相手に抱きつき背に腕を回せば、それでいいと言いたげに背中が撫でられた。その手が、ゆっくりと腰に降りてきて、更には尻の谷間にそっと指先が滑り込んでくる。
ゾワッと走った刺激にフルリと体を震わせてしまえば、何度もさわさわと繰り返しその谷間の入口を指先で擦られてたまらない。
「も、ゃっ、だ」
「気持ちよさそうだけど」
あっさり音を上げてしまえば、少し笑いを含んだ声がそう指摘してきて、事実なだけにどう説明していいかわからない。あのゾワゾワとした感覚が快感であることはわかっているが、到底続けて欲しい気持ちよさではなかった。
「そ、だけど、だから、」
「うん。それより、腰、上げられる?」
「腰?」
「さっきの続き。さすがにもうちょっと慣らした方がいいでしょ?」
このまま抱きついてていいから腰だけ上げてという指示にしたがって、少しだけ腰を浮かせてみる。
「もうちょっと。あと、足も、もう少し開いて」
こちらはまだ相手に抱きついたままだけれど、相手の手は背中を離れて、なにやらゴソゴソと動いている。なにやらというか、ローションを手に出しているのだろうけれど。
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