抱きついてていい、というのは、きっと顔を見せなくてもいいって事なんだろう。もしくは、顔を見せるなって意味。
多分後者だと思うと、自分でそうしていいと促したくせに、やっぱり胸のどこかが痛い。
もちろんこの状況で顔を見せられるわけがないし、相手の顔を見る勇気もないので、多少不格好であろうとも、相手の言葉に甘えて抱きつく腕は解かなかった。相手だって、足を開けだの、腰を上げろだの、身を寄せろだの、細々とした指示を出して慣らしやすい体勢を取らせながらも、抱きつく腕を解いて姿勢を正せというような事は一度も言わなかった。
自分が抱く側だったらと考えたら、あんな風にずっと縋られていたら、相当やりにくかっただろうと思うのに。そのやりにくさを受け入れてでも、顔を見たくないと思われているんだろう。
時折掛けてくれる、痛くないか辛くないかとこちらを気遣う声音の優しさも。慣れない行為を受け入れて、時折ビクつき震えてしまう体を宥めるように擦ってくれる手の平の優しさも。自分に向けられているものではないのだと、何度も頭の中で繰り返した。だってそうしていないと、誤解しそうになる。これが自分に向けられた優しさだと、思いたくなる。
それらを意識すればじわりと涙が滲んでしまうが、勘違いに浮かれるよりは多分ずっとマシだった。
「そろそろ入れそうかな。どう? いい?」
お腹の中を揺らすようにぬるぬると何度も擦っていた指が止まって、耳の横で甘やかな声が伺いを立ててくる。しかし聞かれたところで、初めての身にどうかなんてわかりようがない。そろそろ入れそうだと思った相手を信じて頷く以外に道がない。
「いい」
とても短な、音を2つ重ねただけの肯定だったけれど、それでも相手の指がゆるっと体の外へ抜け出ていく。散々弄られたその場所は、指が抜けきってもすぐには閉じきることなく、クパクパとヒクついているらしく恥ずかしい。早く相手のモノで貫かれたいと待っているみたいで居た堪れないが、だからこそさっさと繋がってしまいたい。
「あまり慣れてなさそうだから聞くけど、どう抱かれるのが楽?」
「どう、って……」
聞かれても困ると口ごもりながら、相手の勘違いを指摘するべきなのかも迷っていた。とはいえ、あまり慣れてなさそうどころではなく初めてなのだと告げたところで、より優しく気遣って抱いてくれる可能性よりも、ドン引きされて中断という可能性のほうが高そうだと思う。
「初心者は後ろからのが入れやすいって話は聞くけど、自分で入れるほうが色々調整出来て楽だってなら、そっちでもいいよ。それとも正常位、いける?」
選択肢を並べられたところで、これなら楽だと言えるような経験はもちろんないが、相手の言葉や声音から相手の希望を嗅ぎ取ることは可能だった。
「せい、じょーい……」
「本当に? 大丈夫?」
大丈夫というよりは、大丈夫じゃなくても構わないという気持ちで頷いたけれど、そんなこちらの覚悟は伝わらなかったのか、相手はゆるくこちらを抱きしめたまま動かない。
「おいっ」
しないのかよという気持ちを込めて急かすように声を上げても、相手は何かを悩むように、うーんと唸っている。
「あのさ、本当の本気で、俺に、正常位で抱かれていいと、思ってる?」
「おも、ってる」
「じゃあこの腕緩めて。顔、見せて?」
顔を見せろの言葉にぎくりと体がこわばってしまったのは、当然相手にも筒抜けだ。
「ねぇ、正常位で抱くって、つまりは、あんたの顔見ながら抱くよって意味、なんだけど」
わかってなかったでしょと言われればその通りなんだけれど、じゃあなんで、そんな選択肢を混ぜたんだと問いたい。しかも、正常位で抱きたいのだと思っているような様子まで見せて。
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