明日どうする? という声が掛かったのは、セックスをした夜から2週間後の昼休憩時だった。ちょっと昼飯付き合ってと言われたところからして、いったい何を言われるんだろうとかなり緊張していたので、拍子抜けって気もするし、意味がわからなくて怖い気もする。
「どうするも何も、約束とかしてないですよね?」
そもそもあれ以降、まともに会話するのが初めてだ。同じ部署なんだから業務絡みの会話はあるけれど、そこに親しみ込めたやり取りなんかは発生してないし、多少の雑談も他愛のないものばかりだった。
特別気まずくなったわけでもないけど、ヤッたからって相手との距離が縮んだわけでもない。
あんなドロドロに疲れ果てるセックスをしたのが嘘みたいに、翌朝顔を合わせた時からもう、けっこう素っ気ない対応をされている。
まぁ素っ気ないなりに体の調子は気遣ってくれたし、遅い朝食というか早い昼食というかは出してくれたんだけど。初エッチの感想を求められたり、逆にこちらの振る舞いやら体やらを評価されたりするのかと思ってたから、そんなの全然なくてホッとしてたんだけど。
抱いて興味が満たされたんだろうと思ったし、エッチの最中ですら殆ど甘やかしてくれなかった男に期待なんかするだけ無駄だと思ったし、自分自身、なんだかなぁって微妙な気分でいっぱいだったから、素っ気ない相手の態度に言及したりはしなかった。
初エッチに対して思い描いていたアレコレが叶わなかったのと同様に、初エッチ後の朝に思い描いていたアレコレも叶わなかったけど、色々夢見過ぎだったよね、ってことで納得済みと言うか諦めがついているから、もうそっとしておいて欲しい。くらいの気持ちだったんだけど。
なんで2週間も経過してから、昼食に誘ってきたりしたんだろう。しかも明日どうするってどういうことだ。
「まぁそうだけど。でも2週間経ったし」
「2週間経ったから?」
「そろそろ次のデートを誘っておいたほうがいいかなと」
「は?」
「デートに誘ってる」
「え?」
「俺達、付き合ってるんだよな?」
驚きでまともな言葉が返せずにいたら、とうとう相手が不機嫌そうにというか、意味がわからないと言いたげに眉を寄せる。意味がわからないのはこっちの方なんだけど。
「え、ちょ、いやいやいや」
「なんでそんな驚くかな。別れ話された記憶、ないんだけど?」
確かに別れ話をした記憶はないが、あれはあの夜限定の恋人って話だと思っていた。というか、付き合いが続いてるなんて到底思えるわけがない2週間だったんだけど!?
え、俺等付き合ってるよねって、この人本気で言ってんの?
「嘘でしょ」
「何が嘘だって?」
「だってあの夜限定の話だとばかり」
「ああ、なるほど。こっちはそんなつもりじゃなかったよ。てわけで、明日どうする?」
合点がいったと頷くものの、じゃあデートの話は撤回で、とはならないらしい。
「いやいやいや待ってくださいよ」
「どのみち話し合う時間が必要だろ?」
特に予定ないならまた家でいいか、と続いた言葉に、慌てて予定を捻出する。いやだってそれ、相手の家に行ったら結局またなんだかんだでセックスする流れだよね?
互いの認識に大きな隔たりを感じているのは事実だし、話し合いは必要かもしれないが、でもできれば相手の家は避けたい。もちろん自宅も無しだ。でも安心して話が出来る場所に心当たりなんてない。
「あ、え、その、買い物を。欲しいものがあって」
とりあえず問題は先送りにして、話し合いやらをどうするかは後でじっくり考えよう。そう、思ったのに。
「わかった。欲しいものって何? 場所は? 車出すか?」
相手の中で買い物デートが決定してしまって、どうやら逃げられそうにない。
「あーえと、詳細はまた後で、で」
「もうそんな時間か。じゃあ後で、」
メッセージを送れとでも言いたかったんだろう相手が、そこで一度口を閉じた。
「まずプライベートの連絡先を交換するか」
「ですね」
これで俺等付き合ってるんだって。と思ってしまうのは仕方がないと思う。零れそうになるため息をどうにか飲み込んで、連絡先を交換するためにポケットからスマホを取り出した。
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