「一応聞きますけど、ランチしかしてないのは浮気扱いじゃないですよね?」
「お前をセックスに誘うような相手と飯食いに行くのを気にせず見逃せって?」
それであっさり俺に食われたくせにと言われて、ついでに懲りないなとも言われたけれど、そんな警戒が必要な相手じゃないだろう。
「俺にあなたと別れる気がなくて、浮気する気もないの、知ってる相手ですよ。抱かせてって言われたのなんてあの日だけだし、一緒にご飯行ったってそんな素振り全然ないですし、基本、ノロケ混じりの昔話聞いたり、あなたと上手く付き合う方法を教えて貰ってるだけですけど」
「あいつは俺と別れさせようとしてるんじゃないのか?」
「熱心に別れを勧められたりはしてないですね」
振られたらたっぷり慰めてくれる気でいるようだし、頼まなくても次の恋人探しを手伝ってくれる気満々な気配があるけど、基本的にはこの交際を応援してくれていると思う。既に好きって気持ちが湧いている事実を当然って感じに肯定してくれるし、血の繋がりのない戸籍上の弟のこともそれなりに案じている気がする。
「じゃあなんで、せいぜい振られないように、なんて言ってくるんだ」
「別れる気はないですけど、今まで通りに続けていける自信もない。って思ってるのを知ってるから、ですかね」
今日だってさっそくデートキャンセルされてるわけですし、とつい口に出してしまえば、相手もバツが悪そうだ。
「なら、キャンセルをキャンセルで、今から仕切り直して出かけるか」
「や、今日はもう」
「そういう気になれない?」
「あー、まぁ、はい」
困った。と思いながら、相手の視線から逃げるように俯いてしまう。
勝手に別れ話だと早とちりして、泣きつく気満々でお兄さんにメッセージを送ってしまった事実が後ろめたい。
椅子を立つ音と、相手が近づいてくる気配。
「どうしても?」
スッと横にしゃがみ込まれて、下から覗き込むように問われて息を呑む。
お兄さんと話すまであまり意識してなかったけれど、こういうのも顔の良さをわかってて自分の要求を飲ませる手法の一つなんだと、今はもう理解していた。
まぁ特に無茶な要求をされてたわけでもなかったから、呑気にトキメイて、仕方ないなぁって受け入れてしまってたけど。相手の要求を飲めば満足げに笑ってくれるのも知っているし、相手の満足度が高いときに甘やかな雰囲気を纏うことが多いのだってわかっている。
「ど、しても」
相手もわかっててやってるんだろうけれど、絶対無理ってお断りするようなことでこの手法を使われたことがないので、実のところ、受け入れずに突っぱねるのは初めてだった。
「デートキャンセルがそんなにダメだった? それとも浮気を疑ったこと? 別れる気なんだって早とちりしたこと?」
どれに怒ってるのと尋ねる声は優しくて、そのどれにも怒ってないから答えに困る。
「怒ってない、です」
「じゃあデートの仕切り直しさせてよ」
「それは、別の日で」
「なんで?」
もともとお泊りデートの予定で出てきてるんだから、この後に予定なんかないだろうって、そう思うのも当然だ。
「だって、別れ話されるんだと思ってて……」
ランチしてたのを咎められたばかりなのに、会いたいってメセ送ったなんて、言い辛くて仕方がない。
「うん。それで」
「その、」
正直に言うべきかどうか迷いまくってたら、ポケットの中のスマホが鳴った。
反射的にポケットから取り出して確認した相手はお兄さんで、通話に出るかどうかを迷えば誰からの電話か気づいたらしく「出ていいよ」と促される。
「もしもし」
『メセ見たけど今どこ居るの?』
「彼の家、です」
『振られちゃった?』
「いえ。俺の勘違い、でした」
『うん。俺が煽ったのが裏目に出たんだよね。ごめんね。大丈夫?』
「はい」
『今から会う?』
「いえ。デート仕切り直したいって」
『そっか。じゃあせっかくのデート、楽しんでおいで』
ダメダメだったらまた連絡してきていいからねの言葉を最後に通話は切れた。
「あの……」
通話中じっとこちらを見ていた相手に向き直り、でも何を言えばいいかがわからない。デート仕切り直しオッケーです、と言っても、それを相手が快く受け入れてくれる想像が出来ないせいだ。
「あいつ、なんだって?」
「デート楽しんでおいで、って」
「へぇ。あいつにそう言われたら、俺とデートしてくれるんだ?」
さっきまで拒否ってたのにと言われればその通りでしかないんだけど、一気に不機嫌になってしまった相手を前にどうしていいかわからなかった。
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