聞きたいことは色々33

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 正直に言えば帰りたいけど、帰りますと言って立ち上がる勇気もない。固まったまま動けずにいれば、やがて返答を諦めたらしい相手のため息が聞こえてくる。
「この後の予定は?」
「特には」
 今の電話でこの後の予定は空いてしまった。
「ならシャワー浴びてくる?」
「それ、って……」
「するかわかんないから、別にそのままでもいいけど」
「ええっ??」
 デートはしなくてもセックスだけはしようって話かと思ったら、そういうわけでもないらしい?
 意味がわからなくて頭の中に疑問符が回った。
「どっか出かけて楽しめる感じしないし、とりあえずお家デートでも目指すかと思って」
「お家デート……」
「どうしても今日はその気にならないってなら帰っていいから、もう数時間だけ付き合ってよ」
 仕切り直しオッケーですを言い損ねたせいで、今日はもう気が乗らないから無理って思われてるのかも知れない。
「その気がない、わけじゃ……」
「ならシャワーしておいで」
 洗ってないの気にしながらしたり、気持ち盛り上がってから中断するよりいいでしょ。と言われてバスルームに追いやられてしまったけれど、つまりお家デートって何するの? というところで思考が突っかかって止まってしまった。
 だからといって呆然と突っ立っているわけにも行かず、一通りの準備を済ませてからリビングへと戻る。
「お帰り。じゃあ行くか」
「ってどこへ」
「寝室」
 やっぱり頭の中では「お家デートとは」という疑問がグルグルしてたけれど、わかりましたと答えて相手の背を追ったその先。
「ここ、って」
「ここが寝室。で、あっちは俺の部屋」
 あっち、というのは普段セックスしてそのままお泊りしている部屋だ。あの部屋を寝室だと認識していたのは自分だけで、言われてみれば、彼自信が寝室と呼んだことはなかったかも知れない。
「それは、ってか勝手に入って良いんですか!?」
「もう知られた後だし別に問題ない。説明が面倒で使ってなかっただけだから」
 確かに、初回でこの部屋に通されたら色々戸惑ったり勘ぐったりしそうな部屋ではあるけども。
「ほらこっち」
 さっさとベッドの上に上がった相手が、ぽんぽんと隣のスペースを叩いて呼んでいる。
「あの、それで一体なにを……」
「なにかレンタルして見るとか、音楽かけてまったりダラダラするとか。あとは、オセロとチェスとトランプならあるかな」
 言われて気づいたけれど、リビングにも彼の部屋にもなかったテレビがこの部屋にはあった。しかもけっこう大きい。
 前回この部屋にお邪魔した時は、そんなところにまで気が回っていなかった。
「それがお家デート、ですか」
「そう。で、なにか希望ある?」
「特には」
「見たかったけど見損ねた映画とかは? ある?」
「すぐに思いつきません」
「じゃあとりあえず話題作とかから適当に選ぼうか」
 テレビのスイッチを入れた相手が何やら操作するのを黙って待てば、やがて動画のレンタルが出来るページが表示される。当たり前なんだろうけれど随分と手慣れている。
 大きなベッドの存在感がすごすぎるのと、恋人交換だの3人でだのって話を聞かされたのとで、ヤるための部屋ってイメージが強いけれど、本来は叔父夫婦の寝室なわけで、イチャイチャしながら映画を見たり音楽を聞いたりってのも当たり前にしていた部屋なんだろうと思う。
 そこに彼や彼の恋人だったりが同席してたのかまではわからないけど、この手慣れた感じからすると、皆でワイワイ過ごしていた可能性もあるんだろうか。
「この部屋で、みんなで映画とか、みてたんですか?」
「みんなって?」
「えと、叔父さんとお兄さんと、あと元彼、とか」
「さすがにそのメンバーで映画はないな。気分盛り上げるためのAV流してたりとか、カメラ繋いで映したりとかならあった」
「ひえっ」
 ちょっと想定外の返答が来て小さな悲鳴を上げてしまった。相手は可笑しそうに笑いながら、カメラもすぐ出せるけど、などと言う。
「ムリムリムリムリ」
「知ってる。自分がハメ撮りされてるとこ見せられて興奮する。みたいな性癖、あるわけないよなぁ」
「それが普通ですって。多分」
「意外とハマる可能性もあるんだけど、強引に試した結果、俺が振られる可能性のが高いのも知ってるよ」
「本気でそう、思ってます?」
 ほろりと零れ出てしまった言葉に、しまった、と思うものの、当然後の祭りだった。

続きます

 
 
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